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光の黒魔剣士は異世界で冒険します!  作者: 水定ユウ
第2章 王都の黒羽
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黒カラスの噂


その人は、建物の上から僕らを見下ろす。

黒いマントを翻し、白い鴉のような形状のドミノマスクを着用する。真っ黒なフードも被っていて、顔は完全にわからないし、表情も当然読めない。


「お前は誰だ!」

「誰?人に名前を聞く前に、まずは自分から名乗るのが人としてのあり方なんじゃあ、ないのかい?」


気さくだけれども、どこかまだ抵抗が残るような、何というか、よくわからない。しかしまあ、()である事は、至って完全に

僕はその人の方をじっと、疑問に思いながらも楽しく見ていた。そして、自然と対抗する手をやめていた。


「君達、一人に対して三人で取り囲むとは、はなはだしい。もう少し、礼儀を持って接するべきではないのかな?」

「うるせえ!とにかく、降りてこい!」

「やれやれだ。話しても、分かり得ないこともあるか。いいだろう」


そしてその人は、まるで飛ぶように。いや、影を暗闇(・・)を透過するように、スッとこちらへと近づいて来た。そして、僕の前に立つ。


「あなたは」

「なーに、敵じゃあないさ。それよりも、私は争いはあまり好きではない。それに、この性格(・・)この時間では、そこまでもたない。私もそろそろ帰らねばならないのでね、君もしよかったら、この場で撤退するという案はどうだろうか?」

「いいですけど?!」

「それはよかった。君は、物分りが良くて助かる」


そう言って、僕をマントの中に隠し、そしてニヤッと笑って影の中へと消えていく。そして僕はその中で起きた出来事を鮮明に覚えていた。建物の影を伝って、男達の下の地面をすり抜け、そして周りの建物に沿って、次々と加速しながら移動した。

その行動は、まさに忍もの。ユウタが言っていた、忍者とかいうものに似ていた。うちで言う所の、隠密部隊の様なものだ。

そしてその人は、そのまま影を伝い、時にはちょっとした暗闇をも抜けて、この国にある高台に辿り着いた。そこで、そのよくわからないスキルを解除し、僕に向けて表情の一切が読めない顔を向ける。


「あの……」

「うん。楽しかった」

「えっ?!」

「いや、何でもない。それより、何だい少年?」

「いや、ありがとうございました。あのままでは僕は本気でやりやっていたかもしれません」

「何、いいさ。それに、私が助けなくとも君はあんな奴らには負けなかっただろう?」

「えっ?!」

「君の動きは観察していた。ずっとね。今朝起きて、何か面白いものがないか探していた時から。それよりも、君。何で、あんな場所にいた。あそこは、この国でもはみ出しもの達が集まる根城だぞ。それなのにどうして、あんな所に来たんだい?」

「えっとその、完全に道を間違えてしまって。僕はこの国に来るの、実は初めてなので……」


そう言うと、その人は呆れた様だ。

しかしまあ、理解はしてくれたらしい。


「そうか。なら仕方がない。いいか、この国にはああ言った場所がいくつかある。国もそのことを知っているから、少しずつではあるが変わっている。しかし、逆にそこを自分たちの領土。すなわちは、闇ギルドの連中が仕切っているところもある。だから、そう言った場所にはもう近づかないでほしいな」

「分かりました。努力はします」

「よろしい!それでは、私は帰るのでな。あの時は、一度退却したが、君はギルドまで行きたかったんでしょ?だったら、送ろう」

「えっ?!いいんですか」

「問題はない」


そう言って、僕を再びマントの中に隠し、影を伝う。今回は、高台にそびえる一本の大樹は影から、移動した。そして、先ほどとは違うルートを使って通り、僕にこの国の道を教えてくれた。幸いにも、僕は覚えはいい方なので、佐賀にその道も覚えられた。 その上、裏道もだ。


「さてと、ここまでくればもういいかな。では、あとは一人で行ってくれ」

「あの、その前にあなたの名前は?」

「名前?」

「はい。僕はフェイ。フェイ・ダルクリオンと言います。あなたは?」

「私か?私の名前は、ミス……いや、名乗るなはない。強いて挙げれば、黒鴉とでも名乗っておこうか。君は礼儀正しい。この仮面の性格(・・・・・)も喜んでくれるだろう」

「はい?!」


そう言い残して、再び影の中に沈みゆく。その最中、「では、また会える日を」と言葉を残した。そして、まるで水の中に消えていくかの様に、ポタンと姿を消した。


◇◇◇


「あの人、一体何だったんだろう?」


僕はそんな風に疑問視しながら、ギルドまでの道のりを歩いた。そして目の前には、目指すギルドが見える。とても大きい。【アルカリウム】とは桁外れに大きい。また、しっかりとした建物である事は確かで、凄く良かった。しかし入る前に、僕の後ろを誰かが通る。その人は前にいる僕に対して、「すまない。通っても構わないか?」と一言いってから、僕は「はい」と返事を返した。その人は、若葉色の綺麗な黄緑色のフードを被り、顔は見えない。しかし、声からして女性である事は間違いがない。だが、少し違和感に思ったのが、背中には物騒な巨大な大剣を背負っていた。それだけは、一瞬の閃きの中で強く根付く印象があった。


「何なんだろうか、あの人?やっぱり、王都は面白い」


そう呟く。そして背後から、聞こえてきた噂話。微かにしか聞こえなかったが、僕の耳にはそれは鮮明にはっきりと伝わってきた。


「ねえねえ、聞いた?黒鴉の噂」

「えっ?何それ」

「何でもさ、人々を助ける稀代の大怪盗様なんだって、何だか怖くない?」

「ああ、そうかな?私はそうは思はないけど」

「でもさ、前に一度だけその怪盗が盗まなかったものがあるんだって。それにそのあと、そのあるものがなくなったんだって」

「へえー、どんなの?」

「わかんないよ」

「なーんだ」


そんなたわいもない様な会話だった。

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