城壁の先には王都
僕達の乗る馬車と、その横を同じように歩く馬車はゆったりと進んでいる。
向かう先は、この先。王都、【エルメキア】だ。
先ほどの戦いの影響で、一時的ではあるが足止めをくらい、馬車を引く馬には多大なるダメージがあったが、フレアの作った薬と魔法の力によって何とかではあるが、無事両馬は立ち上がった。
僕達の乗る馬車の隣を悠々と歩くクルスさん達の馬車。どちらの馬も元気そうで、先ほどまでの痛みも全てなかったかのようだ。
「凄いよ、フレア」
「何がです?」
「さっきの魔法、完璧だった。あんな、完璧な回復系の魔法は見た事はそうはないよ。本当に久しぶりだ」
「ああ、アレのことですか?私はただ回復効果を促進させるために、少しだけ強化系の魔法を使っただけですよ?」
「えっ?!じゃあ、あの回復力って、もしかして」
「ええ、あの薬です。私特製の滋養強壮に効く特製のポーションです!自信作ですよ」
「何だか妙に嬉しそうだね、フレア」
「はい!私、薬を作るのが好きなんです!あの、変ですか?」
「いや、いいと思うよ。それがフレアのやりたい事だったら、僕は応援するよ。むしろ手伝う」
「あ、ありがとうございます。初めて、です。私のこの夢を認めてくれた人……両親以外で」
「そうなの?でも、おかしな事じゃないでしょ?僕だって、自分のやりたいことをやるために、毎日頑張ってるんだからさ」
「だったら、私もフェイさんのやりたいことを応援します。是非、助力ではありますが、お力添えを」
「えっ?!何の話?私も混ぜて!」
そんな風に、僕達の馬車は賑やかだった。そして、荷馬車はトコトコと進む。ゆっくり、ゆったりと。
◇◇◇
さてさて、僕達の向かう先はとりあえずではあるが王都だ。そこへと向けて、荷馬車を引く僕達の馬は、トコトコとゆったりと進んでいる。
先に起きた突然の戦闘、強襲。それを何とか迎え撃ち、倒すと僕達は、再び荷馬車に乗り込み今進んでいる。野を越え山を越え谷を越えて、そして今を進む。そんなわけではないのだが、どこまでも続く若葉色の草原をトコトコと進んで行くのだ。
「そう言えば、クルスさん。さっきの技って」
「さっきの?ああ、あれかい?なかなか見事なものだろう」
「ええ。ですが、あの剣技は何と言いましょう?どこか相手を倒すという、仲間を守るというのか、相当な覚悟によって練られた、結晶のような?具体的には、相手を確実にこの世から葬り去るかのような気迫が感じられて……その、クルスさんらしくもない技だなと」
「そうか……」
そこでクルスさんは口を閉じた。いや、つぐんだ。何か触れてはいけない領域に触れてしまったような気がして、こちらとしても恐縮だった。
それに対して、クルスさんは何かを迷っているのかそれとも躊躇っているのか分からないが、とにかく今は話したくないようだ。だから僕は何も言わない。ただ、前を向く。クルスさんを見ていた顔を前へと向けるのだ。それだけだった。
◇◇◇
その日の夜。僕達は、とりあえず外敵のこなさそうなところを狙って、取り敢えず薪を焚いた。そこは、草原の片隅にある森である。その入り口の少し広く、丸くて平らなそこに荷馬車を引き、馬を留め、丸太を利用して可愛的なベンチを作った。
空はもうすっかり暗い。爛々と輝く星達の煌めきに心奪われながら、僕達は遅めの夕食に取り掛かっていた。
「さて、もう明日には王都【エルメキア】が見えてくるだろう」
「このまま行けば、明日の夕方ぐらいには着くかな」
「ええ、そうね」
クルスさん達の話を小耳に聞き、僕は熱々のシチューを食べる。綺麗なホワイト。クリームシチューをスプーンを使って口へと運び、頬張る。
とても美味しい。
「そうですか。それじゃあ、もうすぐお別れですね」
「そんな事ないよ。すぐにまた会えるよ」
「ええ?!どういう事ですか?」
「いずれ分かるよ」
何だか、意味深なことを言うなと思う。
僕はそれを鵜呑みにすることはないが、少し考えてみた。ここ最近、僕は少々気を張れていない気がする。
そんな心の余裕とも取れることに少しだけ、疑問を抱きながらも、僕はこれでもかと食事を楽しんだ。
夜中。僕は野営の真っ最中だ。しかし端的に述べればそれはただの、見張りでしかない。しかし僕はその間にも、常に《魔眼》を発動し続け、そして魔力を集めていた。
腰には常に剣を、外套を深く羽織り、僕は全神経を集中させ、あたりを監視する。他には誰もいない。張り巡らせた視線の嵐は、この森中に拡散し、添付させる。
「さてと、あとは何かが引っかかるのを待つだけと」
僕はじっと気配を殺し、そして待つ。何事もなければそれはそれで幸いなのだが、ここ数日の夜間は、結局魔物の襲撃があった。それをみんなに知られないように、対処していたのだ。これで、本当に強くなれているのか正直言って実感はわかないが、それでも今はまだこれくらいのことしかできないのだ。
「さあ、どこからでもかかってこい!」
僕は剣を抜き、素振りをする。
毎朝、そして毎夜やっていることだ。つまりは日課なのだ。体がそのことに対して染み付いてしまっている。これも師匠の受けおりだ。
「魔獣無双流ー『煉獄牙衝虎』!」
虎をイメージしたこの技。
最近ではすっかり使わなくなってしまった。奥義ではないが、これは魔法の併用によってその威力を大きく跳ね上がる。僕の場合は、闇の魔法が適正、つまりは得意なので自然と黒炎をイメージするのが一番だ。しかし、その際に光属性の反比例する魔法の力も混ぜ合わせることにより、その炎の色味は極炎の赤へと変貌する。
立ち込める炎の柱。それが森の中枢に突如として出現し、爆砕する。
激しい爆風を呼び起こし、そして森中にいた悪しき魔物。こちらへと敵意を向けるもの達を一掃した。
「やれやれ、こんなものかな」
僕は剣を納め、そしてまた来たところへと戻る。
しかしそこには、人がいた。フレア達だった。
「フェイさん!今の音と揺れは何ですか!」
「何かあったのかい、フェイ君?」
「いやクルス、何かあったのかではなく何かあったのだろう。大丈夫だったか、フェイよ?流石に今の揺れはおかしい」
「何かあったの?フェイ」
「いやその、別に何もないよ」
「そんなことはないはずです。確かに強力な魔力反応を感知しました。私をなめないでください。魔力や魔法に関しては、絶対的な自信があります」
「そう、か」
「何か隠しているんだね、フェイ君。隠しても無駄だよ」
「わかりました。正直に言います」
僕は正直に言った。敵がいたので、一掃した。さっきの魔法を使ったのは、僕だと。
すると、驚いたような反応を見せた。僕は聞き返す。
「どうしたんですか、皆さん?」
「只者ではないと思ってはいたけれど、まさかここまでとは。驚いたよ」
「あれをやったのが、フェイか。これは、クルスよこれは凄いことだぞ」
「ええ、やはり甘くみてはいけない相手でしたね。それに、あれが全力だとも思えない。君は、いったいどれだけ強いんだ」
「こんな力があるのに、私が知らないなんて。フェイさん、あなたは一体何者なんですか?」
「僕かい?僕はただの冒険者だよ。それよりも、早く寝よ。僕もう疲れちゃったよ」
そう言って僕はテントの中に入った。
その後の会話の内容は、うっすらとしか聞こえなかったが、それでも確かにわかったことはこの二文だけだ。
「彼は強い、ますます頼もしいよ」
「ですね。やっぱり、フェイさんは凄い人ですよ。奇妙なほどにですが」
そんなとても優しくて、温かみのある言葉の羅列だった。
◇◇◇
その次の日、朝。
僕達とクルスさん達の乗る馬車は何事もなく進み、そして夕方。道の先に大きな城壁が見えた。それは石レンガで積まれている。歴史が感じられる。
「あれが、王都ですか?」
「そうだよ。よくわかったね」
「いえ、雰囲気で」
「私、王都何て行くの初めてだよ!ワクワクする」
「気にいると思うぞ、この国の平和の象徴だ!」
そして悠々と進む馬車は、城門に辿り着いた。そして、他の人たちが並んでいるところにはいかない。こんな時間までいるのは、よく分からない。
「あの人達は?」
「ああ、商業をする人たちさ。連日並んでいるんだよ」
「でも、こんな時間まで?」
「あれは、そうだな。出る人達じゃないかい?」
「何故?」
「ギリギリまでこの国にいたいんだよ。この先、大きな町や村はそうないからな」
「そうですか」
僕達の乗る馬車もそこにつこうとしたが、クルスさん達に止められた。訳を聞くと、
「君たちも、こっちに来た方がいい。なに、大丈夫。説明はしておくからさ」
「そうですか?」
リアが先導に任せて、進む。そして、クルスさん達は空いているところ、というか誰もいないところに並んだ。そこには暇そうにしていた兵士の人が二人だ。その人達は、クルスさん達と何か話し、そしてひどくとても驚いている。それと同時に緊張と、ホッとしたような表情も見せる。そして僕達は何事もなかったかのように、手招きされ、無事王都の中に入ったのだった。
その際、少しだけ聞こえてきた兵士達の会話。その内容は、簡単に言ってこうだった。
「あのお方ってもしかして」
「ああ、間違いない。それにあの方達もおられた」
「では、あの子供達は?」
「分からない。しかし、とても心を許していた。きっと、大丈夫な人達だろう。それに、あの魔術師の少女も、どこかで見覚えが」
そんなとても意味深な内容だった。とても濃厚で濃かった。そして、疑問も新しく生まれたのだった。
新しく煉獄牙シリーズの技が出ました。
これからもどんどん増えていきますよ。きっとね。多分。頑張ります。




