竜との対峙
久々な気がしますね。
『竜』ーそれは、最悪を招くもの。力の象徴として、その名前は轟かれている。僕の知る竜には、知識を有し、人のために尽くすものたちも多々いるが、やはり世間的な捉え方は凶暴性の高いものとして伝わるものが多い。
しかし、それは一部であって全体ではない。この世界にあるのかは知らないが、竜騎士がその一つであり、また竜との共存は互いを支え合うものとして有効である。
しかし今は違う。目の前にいる竜からはそんな優しいものは一切感じられない。凶暴で残忍な怒りに狂ったもののように思える。それがこの世界の常識だとしたら、この状況はきっと相当なものであろう。現に、この場にいる全ての生物が動きをやめ、凝視している。
「グゥオオ……グゥォォォォォ!!」
突然の咆哮。つんざくように空を割く。瞬時に耳を抑えて、鼓膜を守る。周りを見ると、同じことをしている。僕はその間も、竜から目を離さない。目の前にいる竜は、緑色をしている。『緑竜』と言われる種類だ。
「みんな、一旦下がって!」
クルスさんが叫ぶ。その右手には、すでに鞘から抜刀された剣が握られていた。聡明な瞳には、すでに敵意をむき出しにした圧倒的脅威に対して牙をむく。まるで、獣のようだ。僕はそれを確認すると、フレアとリアに声をかけた。それは命令口調で叫んでいた。
「二人とも、今すぐここから離れろ!」
「「えっ⁈」」
「いいから、早く!」
僕の怒るような言葉に反応したのか、我を取り戻し、後退した。ジャンプして荷馬車の後ろに隠れる。僕もその場から一度身を引いた。
「まずい……どうすればいい。僕には、何ができる」
「フェイさん」
「リア、フレアとりあえず一度クルスさんと話して、作戦を立てないといけない」
「わかったわ」
「わかりました」
僕の言葉で、僕たちは一旦クルシュさんたちのいる方まで全速力で走った。
◇◇◇
クルスさん達も、身を低くして竜の攻撃を対処していた。
しかし慣れた手つきではなく、異常事態であることには現時刻を持って変わらない。僕は、クルスさんとロックさんに語りかけた。
「お二人とも、どうするんですか?」
「どうするって言ってもよ……相手は竜だぞ!たった五人で勝てるわけがねえだろ」
「でも、やるしかない。ここで僕たちがやらないと、きっともっと大勢の人が命を落とす」
「僕もそう思います」
「だから、ここであの竜を狩る」
「ですが、作戦はどうするのですか?」
「そうだよね、だっていつも冷静なフェイでも焦るぐらいだものね」
「そうなのかい?」
「確かに焦ってはいますよ。でも、やらないといけないことに変わりはない。だったら、僕は全力をふるいます。誰も失わないためにもね」
固い信念で、そう念じた。
クルスさんも同様に、腰の剣の柄を強く握った。そして聡明な眼差しに、信念と怒りを込めて言った。
「僕もやるよ。あの竜……緑竜を倒すためにもね」
「では、私は後方から援護をします」
「二人は私が守るよー」
右手にに拳を作り、胸を叩くリア。
帽子の広いつばを深く被り、杖をしっかりと握り直すフレア。
「それじゃあ行くよ。僕に力を《ブースト》!」
力強く蹴り、駆け出していったクルスさんを後ろから眺め、僕も駆け出した。
最初から全力で、複数の《シャドウナイフ》を展開していた。
「行け!」
僕はそれらを全て放った。
逆立った鋭い鱗の前に、次々と消滅していく。
(これはマズイな。硬すぎる)
魔法で作り出したいくつもの刃が、ことごとく打ち破れていき、僕は絶望はしない。こんなことザラで、通らないことが多い。僕は剣を抜いた。手入れされた銀の刀身が、太陽により降り注がれる光を浴びて、生き生きと輝く。まるで、生命の息吹に触れたかのようだ。
僕は、その剣を強く握り、竜の足元にたどり着くと、とりあえず斬ってみた。すると、まだ刀身が肉を抉るのがわかった。僕はその事を知ると、相手の大きな体を利用して、跳んだ。休む暇もなく跳ぶには、流石に《ブースト』の併用が必須で、飛ぶよりも疲れる。しかし飛ぶよりも、小回りのきくこの動きのほうがいいのだ。それを理解して、僕は再び剣を鞘へとしまい込むと
「『燕』」
一気に引き抜いた。斬り裂かれた跡が浮かぶ。
その間にも、クルスさんとロックさんは手首のスナップを効かせながら鱗を剥ぎ取り、フレアは巨大な炎の球を発射する。その行動はまさしく芸術である。しかし、竜も黙ってはいない。巨大な体を動かし、翼を広げ突風を起こす。落とされないように、死角を利用して隙間に滑り込む。
僕はその間も、少しでも斬り裂いていきクルシュさんも同じように鱗を剥がして、肉をむき出しにしていく。その様子はあまりに滑稽で、独り舞台とはまさにこのことだ。そんな風に痛感される。
「フェイ君。あの時みたいに、翼を広げられないかい」
「出来ますけど、今は無理です。この風の中では逆効果になります」
向かい風になってしまうため、逆に見つかってしまう。そんなバカみたいな真似はできない。僕は考える。今、この状況で何をすべきかを。そう言えば、師匠が言っていた。「どんな状況でも、観察することを忘れてはいけない」と。
『観察』することで、状況を読み取り打開策を練る。僕は教えてもらった技を信じる。
(今僕のいるのは、竜の首。ここから一体どこを攻撃する。最適な場所……それは、ここだ)
閃いた。閃いたが、今のままではダメだ。僕は剣を肩の辺りで水平に両手で持つ。それから、喉仏を狙って、まずは《シャドウブレード》を使う。
この魔法は剣の長さを延ばす。しかしあくまでも延ばすだけなので、威力は上がらないむしろ下がる。しかし、今はそれでいい。何故なら
「『刺突ー一角』!」
そのまま突き刺した。貫通したかに見えた。しかし、それはただの思い過ごしだった。バランスを崩した僕は地面めがけて転落していた。
「フェイ君!」
クルスさんが竜から飛び、僕を抱きかかえる。
何が起きた。いや、答えは簡単だ。信じたくないが、このままでは、本当にマズイ。
僕は翼を収納し、一旦地面に足をつけた。そして、失態を後悔する。
「大丈夫かい、フェイ君?」
「はい。しかし、これでマズイことになりました」
「どういう事だい?」
「僕は触れてしまった。明かしてはいけない、竜の禁忌に……」
その時、竜の咆哮が飛んだ。
つんざくように耳を貫くそれは、怒りをさらに増幅させ鬼神と思わせる。翼をはためかせ、突風を超えて暴風を引き起こし、瞳は真っ赤に迫って我を完全に忘れている。
「ねえ、フレア。この風は何」
「わかりません。しかし、これは……もしかしたらフェイさん達」
「何かあるの?」
「龍は普段は普段はとして知られる。しかし、ある一点。その体にある無数の鱗のうち、たった一枚だけ逆向きに逆立った鱗に触れられた時、それは鬼となる。それこそが」
「それこそが?」
「『逆鱗』」
私は心配になった。
竜の逆鱗に触れたものが、生きて帰ることができるのかを。絶望がないことを信じて。




