久々に空を飛びます
二話目です
僕が急ぐように言ってから、リアは馬のスピードを速めた。しかし、あくまでも荷馬車だ。荷物が乗っていると、遅くなるし、しかも馬は一頭しかいない。どれほど急いでも、時間がかかるのは承知だ。だけれども……
(このままじゃ、間に合わない。何とかしないと……)
僕は慌てて思考を巡らす。
しかし、表情には出さない。だけれども、強く奥歯を噛んでいるのは伝わるらしい。
フレアが心配した様子で見ている。しかし、その表情は冷たい人形のように見える。
「大丈夫ですか、フェイさん?落ち着いてください。いつものフェイさんらしくありませんよ」
「そうだね。少し頭を冷やすよ」
僕は一度呼吸を置いた。
脳に酸素を送り、思考を巡らす。落ち着いて考えれば、わかることだ。今何をすべきかを。そして一つの回答にたどり着いた。いつも、僕の友人がやっていること。
「リア、僕は先に行くよ。ここにいるだけじゃダメだから」
「行くって、どうやってよ?まさか、走って行くつもり?」
「そんな事はしないよ」
「では、何をするんですか?もしかして……魔法ですか?」
「そうだよ。この世界にあるのかは知らないけど……やるしかない」
「この世界にある?どう言う意味ですか?」
「後で話すよ。それと、フレア。後で、魔法について教えて」
「えっと……はい!是非」
「ありがとう。リア、最高速度で追いついてきてね、《闇翼》!」
僕はそう言った。
体を駆け巡る魔力が、肩甲骨の辺りへと集中する。すると、ものの数秒で、黒き翼を作り出す。まるで悪魔のそれだ。僕はそのまま荷馬車を駆け下り、翼を使って、優雅に舞う。そして、すぐにでも最高速度へと移行する。
「あれって、もしかして……フェイ?空を、飛んでる!すごーい」
「空を、飛んでいる……フェイさん。あなたは、一体」
◇◇◇
僕は最高速度で飛んだため、僅かな時間で目的の地までたどり着いた。そこには、先ほど見たリザードマンがいる。
リザードマンとは、僕の知る限り二足歩行のトカゲ。知能を持ち、集団戦を得意としている。僕の目の前にいる、それは布切れをまとった、まさしくそそれだ。手には、剣や槍、棍棒を持っている。そして、黒装束をまとった恐らくは男が一人だ。深くフードを被っていて、顔は見えない。
背後には、壊れた荷馬車が一台。車輪を破壊され動けない状態だ。そこに、腕を抑えている年配の男性。その脇には、一人の若い女性とその前に二人をかばうようにして剣を構える若い男性が一人だ。その人は、聡明な眼差しで、目の前の状況から目を離さない。しかし、だ。二人をかばうようにしているから、むやみに動けないみたいに見える。僕はこの時、この人は確実に強いと、直感でわかった。
「貴様、何者だ!」
「名乗るほどの者でもないさ。貴方みたいな奴にはね」
「ならば、貴様も死ね。やれ、リザードマン達よ!」
「シュルル」
その瞬間二匹のリザードマンが飛び出してきた。
剣を振りかざし、切り掛かってくる。僕はそれを、抜刀した剣ではじき返し、すかさず胴体を切った。何事もなかったかのように、二匹のリザードマンは他に倒れ、やがて消滅した。まるで、影のように。召喚魔法と呼ばれる部類か。
「速い!」
「いや、それだけではないですよ。今の技術……確実に相手を無力化させるための技だ。あんな鮮烈された動き、久々に見た。師匠を思い出す……」
そんな声が耳にした。しかし、今はそんなことに構ってはいられない。僕は目の前の男に、さっきを飛ばした。鋭い眼差しで見つめる。すると、怯んだのか、一歩たじろく。
僕はそれを確認すると、思いきり地を蹴った。
飛びかかるようにして、剣を構え、リザードマンをなぎ払ってゆく。そのリザードマン達は、なすすべもなく地に倒れ、一匹ずつ消滅して行った。
「次は貴方の番だ。覚悟は出来ているよね?」
「ひいぃ!」
「魔獣無双流ー『鹿威し』」
僕は高く振りかざした剣を、男の目の前で止めた。
その際発生した恐怖と勢いで、相手を怯ませ動きを奪うのだ。言葉通り、男は完全に意識を失っている。
僕はそれを確認すると、剣を鞘に納めていた。
そして後ろを振り返る。二人は驚き口をポカンと開け、一人は、分かっていたかのようにしっかりと僕に目を向ける。驚いてはいるが、警戒はしていない様子で、剣を納めていた。
「あの、大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとう。君は……」
「僕はフェイと言います。フェイ・ダルクリオン。貴方方は?」
「僕はクルス・アシェン。この人達とは前から王都で知り合って、ここから少し離れた町で、王都に戻るというから乗せてもらったんだ。助けてくれて、本当にありがとう。君がいなかったら、僕たちは死んでいたかもしれない」
「そうですか……怪我をなされているようですが、大丈夫ですか?」
「ああ、一応はな」
「そうですか」
僕はそこで一旦の沈黙に耐えた。
そして、遠くの方から声が聞こえた。それと同時に馬の蹄の音もだ。
「フェイ!大丈夫ー」
「怪我はされていませんか」
そんな明るい声だった。
僕はそれを聞いて、ホッとした。
◇◇◇
「あれ、もう終わっちゃったのかしら?」
「うん。二人が来る少し前にね」
「なーんだ。私たちが急ぐ意味なかったんじゃん」
「結果としては……ね。あっ、そうだ。フレア、この人怪我をしているから、治してあげてくれないかな?」
「わかりました。すみません、少し腕を見せてもらってもいいですか?」
「ああ、構わない」
それを見たフレアは、手をかざした。
どうやら、薬では治せないもののようだ。
右手から流れ出る光の粒子。暖かそうなそれは、怪我を少しずつ緩和し、あっという間に直してしまった。ただ、その時……
(魔石を使っていない。詠唱もない……)
まあ、触れないでおこうと思った。
「これで大丈夫です。他に、痛むところはありませんか?」
「ない。いや、すまなかったな。それにしても、嬢ちゃんのその魔法。回復魔法って呼ばれやつか。いや、初めて見た。それに、今詠唱しなかったろ……いや、凄えな」
「それほどでも。お二人は?」
「私は、なんともないです。安心してください」
「僕もだよ」
それを聞いてホッとしたのか、一旦呼吸を置いて、僕達の方に戻ってきた。そして、怪我が治った男性は僕らに頭を下げた。それは、深くにだ。
「助かった、礼を言う。俺は、王都ではまあ、こう見えてそれなりの腕っ節って言われてる、ロック・レイグンだ。こっちは妻の、フロスだ」
「フロスト言います。助けて、いただき本当にありがとうございました」
「いえ、お気になさらずに」
僕達はこうして知り合ったのだ。




