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俺は異世界に行かない〜トラック運転手の剣と魔法の現代生活〜  作者: 萩原萩助
Chapter1 選ばれし勇者の旅路、土より
15/17

1-a 人捜しと音楽家?



【SIDE:咲波春馬】



 ドシン!!


 体に強い衝撃が走る。


「ぬぐ……うぐぐぐ、ぐ」


 俺は舌打ちを飲みこんでゆっくりと目を開いた。


 ああ……もう朝かあ。


「フィーユー、起きろ、起きろー」

「ふぁ。んん、朝ですか。……最近、目覚めがが良い気がするんですよ」


 体を伸ばしながらフィーユが言った。


「ああ、そりゃ良かった。頼むから寝相も何とかしてくれ」

「わわ、また落っこちてた……」


 ごめんなさい、と言いながらフィーユは体を起こす。毎朝の事なのでもう慣れた。


 そして朝食は毎朝パンだ。楽な割にはコスパがいい。景気がいいとジャムが塗られる事もある。


「しっかし、相変わらず凄い寝癖だな」


 俺は腰を下ろしながら言った。


「どうしても治らないんですよ。ちょっと恥ずかしいです」

「今日のは特に芸術的だな。何て言うか……バッハみたいだ」

「ばっは……?」

「んー、偉人だよ。もう超がつく程有名な音楽家さ」

「偉人さんですか?! 凄い!!」


 フィーユが目を輝かせた。褒めたつもりは一切なかったが、褒めたように聞こえたらしい。

 何故顔も知らない偉人の髪型の事をそこまで信用できるのだろうか。

 そして、この頭のせいでフィーユはしばらく地獄を見ることなど、この時には知る由もなかった。


「今日はこれで行きます! 私のいた世界ではちょっとアレな髪型ですけど、こっちでは偉人ですからね」

「えっ」


 そう言うとフィーユは皿を片付け始めた。鼻歌なんか歌っている。「君バッハみたいな髪型だね」と言われて喜ぶ様は中々面白いので黙っておく事にした。


「はぁー……」


 しばらくした後、さっきの機嫌の良さも消えてフィーユがちゃぶ台の上に顔を載せたままため息をついた。この髪型で哀愁を漂わせているとシュールだ。作曲でもするのだろうか、と俺はくすりと笑った。


「珍しいな。なんか悩んでるのか」

「はい、まあちょっとだけ」

「例の調べ物の事で?」

「なんで分かったんですか!」

「フィーユは悩みとは無縁なイメージだからな。思い当たる節がそれくらいしかないってだけ」


 そんな事はないと言いたげにフィーユは頬を膨らませた。


 フィーユの調べもの……。こちらに来てから度々ふらっと外に出掛けて行く事がある。どうやらなにか探しているらしくナスタッドと協力して日々探しているようだ。

 ただ、異世界に探すものがあるというのは変な話だ。因みに俺はフィーユが何を探しているのかは知らない。


「今日も行くのなら俺もついて行っていいか? 暇なんだよ」


 平日なのに。


「んー、いいんですけど……関係ない事にお手伝いしてもらうのはちょっと気が引けると言うか……」

「無理にとは言わないけど、やっぱり暇なんだよ」


 平日なのに。


「てか、そもそも何を調べてるんだ?」

「それは……人捜しですよ」

「他の世界で捜すような人がいるのか」

「まぁ、もし会えたらその時お話ししますよ」


 フィーユが遠くを見つめているような目で言った。どこか悲しそうな顔をしていた。

 進んで話そうとしている感じではなかったのでふうん、と相槌を打った。

 

 そろそろ、ナスタッドが訪ねてくる頃合いだ。昼を過ぎる。

 そして丁度チャイムが鳴る。ナスタッドが顔を覗かせる。


「ん、フィーユ、その髪型……」


 ナスタッドか訝しげな表情でフィーユの頭を見た。


「どうですか、偉人さんスタイルです!」

「……ああ、芸術的だな。素晴らしい」


思わず前につんのめってしまった。本気で感心しているようだ。一体どんなセンスをしているのだろうか。


「春馬殿、もう慣れたかもしれないが、恒例の調査があるのでフィーユを誘いに来た」

「ああ。今日は俺も同行するぞ」

「おお、そうであったか。ならば……フィーユと春馬殿、私に分かれて調査をしよう。私はまた別に調査をするからフィーユは前に決めた様にやってくれ」

「なるほど、分かりました」

「では、私は早速失礼して出かけよう。ではまた後にな」

「はい、また」


 ナスタッドはそう言ってここを去った。


「それじゃ、私達も早速行きましょう!」

「……お前、帽子は?」


 前に買った服でなくいつもの際どい格好なのも多少気になるがあの大きなトンガリ帽子を置いたままにしている。いつもならあの帽子もしっかりと被っているのだが。


「だって、今日の私は偉人ですからね。帽子で隠したら勿体無いじゃないですか」


 なるほど、大して持て囃されたわけでもないのに大分調子に乗ってきてしまったようだ。

 何と言うか相変わらず小学生並の影響の受け易さだ。きっとジャングルのドキュメンタリー番組を観たら次の日にはゴリラになって朝一番にドラミングでもかますのだろう。


「ほーら、行きましょうよ」

「あ、ああ」


 そしてフィーユについていく。道中、やけにフィーユがキョロキョロと辺りを見回していた。やっぱり、誰か捜しているのだろう。


 ついて行った先で俺は少々拍子抜けしてしまった。なんてことはない、近所の公園だった。今のご時世にしては広い公園で大きな遊具もあって毎日子どもたちが集まって元気に遊んでいる。人々の憩いの場でもある。


「じゃあ、そこのベンチに座りましょうか」

「……いや、捜さずに座っちゃうのか?」

「はい、今日はここで見張りです」

「見張りって、その人はこの公園にくるのか」

「いや、分かんないです。でも、ナスタッドさんとこうやって一つの場所でみてようって決めたんです。闇雲に捜すよりは気持ち程度にはマシになるだろうって」


 俺はそうか、と返事をするとフィーユの隣に腰掛けて前の方に目をやった。

 だが、至って平和だ。離れた所では遊具で数人の子どもたちが楽しそうに遊んでいた。


 ……。


「フィーユ、喉乾かないか? 何か買ってくるよ」

「それじゃあお言葉に甘えて」

「おう」


 俺はゆっくりと立ち上がって時間を稼ぐようにまたゆっくりと自動販売機に向かった。


「ママー、見て! あの人変なお洋服で変な髪型!」

「……あら、ホントね。まるで偉人さんみたいな頭ね。ぷぷぷ」


 戻る途中、フィーユが若い親とその子どもに笑われていた。


 ――いや、見ちゃダメよとか他に何かあるだろう。


 心の中でつっこみながら戻りフィーユに缶を投げ渡した。


「わっ、と。ありがとうございます。……しかし、あの()()()()()()()()っていうのは便利ですねぇ」

「……自動販売機」

「じどーはんばいき」

 

 そんな他愛もない話をしていた。確かに俺達からしてみれば当たり前にある自動販売機もよく考えるととても便利な機械だ。

 俺はただぼけーっと公園を見ているだけであったが、フィーユは案外真面目腐った目で公園内を見回していた。


「……最近、ちょっと冷えますよねえ」

「確かに。ただ、フィーユはその格好のせいでもあると思う」

「由緒正しきものですからね、魔法使いの制服です」


 タイミングよく冷たい風がひゅうと吹いた。風が多いせいで余計に肌寒く感じる。

 フィーユのくるくるになったバッハヘアーも風に揺れている。思えば、さっきから全く崩れていない。余程強固な寝癖なのだろう。


 ……。


 …………。


「それで終わりかよっ!」

「ま、まあそうですねぇ。いやあ、面白い話とかないですかね。ちなみに私はないです」

「……俺も特にないけどな」

「あっ、さっき道行く親子さんに偉人さんみたいだって褒められましたよ」

「俺も見てたし別に褒められてない」


 ……また、ひゅうと冷たい風が吹いた。


 結局、その捜し人が現れる事はなかった。しばらくぼーっとした後、家に帰ったのだった。いつもこんな調子だったのだろうか。


 丁度、ナスタッドも調査を終えたらしくアパートの前で会った。


「それで、フィーユはどうだった。見つかったか」

「いや、サッパリでした。でも今日は春馬さんがいたのでそこまで暇じゃありませんでしたよ」

「暇といえば暇だったけどな」


 フィーユがナスタッドに愛想笑いを向ける。


「では私はそろそろお暇させていただこう。また何か問題が起きた時には呼んでくれ」

「またな」

「お気をつけて!」


 ナスタッドはそして去っていった。ナスタッドは何故か去り際にやたらカッコよく見える。背中を向けてチラリとこちらを見る姿が妙なほど様になっている……。


「にしてもフィーユもしょっちゅうあんな事してると思うとある意味、結構大変なんだな」

「ホント、まあまあ大変なんです。今回は……まあ、座ってるだけでしたけど似ている人が居たら追いかけてみたり忙しい時もあるんです」


 フィーユは小さく笑いながら言った。


「それでも大抵は暇を持て余すだけで辛いんですよね……あ、でも……今日のは悪くありませんでしたよ。その、えと、ああいう空気って言うんですか。できればまた……ああして……」


 そう言いながらフィーユは咄嗟にあのトンガリ帽子を深く被った。表情が伺えない。


「俺は……ちょっと恥ずかしかったかなあ。なんせその髪型だし、つい人目を気にしちゃうよ」

「え、髪型?」


 しまった、と思った。酷い髪型だとは言ってないのだった。きっとこの世界ではオシャレな髪型だと勘違いしていたのだろうがついにバレたか。


「いや、俺は黙ってたのは謝るけど、その髪型はこの世界でも普通に恥ずかしいぞ……」


 この際、正直に言うしかない。


 見上げるとフィーユは顔をリンゴのようにして目には涙を浮かばせ俺を見ていた。


「その、なんだ、……ごめん」

「最初に変だって言って欲しかったです! 私、偉人偉人って言いながら赤っ恥かいてたって事じゃないですか!?」

「あ、あはは……」

「うう……春馬さんのバカ!!」

「お、おい?」


 謎のうめき声を上げながら家を出ていってしまった。まあ、確かに面白そうだからといって変なものは変と言ってやるべきだった。

 ついに家出か。


 ……と、二十秒もすると申し訳無さそうな顔をしてそそくさと戻ってきた。

 早いな。


「いや……バカはちょっと言い過ぎました。あと、髪直してなかったし、行く当てないのも忘れてました」

「お、おう。なんだ、俺も面白がってないで言った方がよかったわ、うん」


 …………。


 緊張感がないのに静かな、例えるなら渾身のギャグが盛大に白けた時のような、なんとも言えないシュールな空気がしばらく漂った。


「えと、肩でも叩きましょうか?」

「いや、別に凝ってないしなあ」


 何とも言えない空気はしばらくして勝手に和らいでいく。


「そろそろ、寝るか」

「ええ、そうですね」


 よく見ると結構いい時間だ。


「あ、先に頭を、髪をなんとかしてこよっと」


 フィーユは洗面所に飛んで行った。

 そして待っていると突然、俺を呼ぶ声が部屋に響いた。

 

「は、春馬さぁーん! この頭、全然直んないです!!」

「えぇ?!」

「水使っても、全然、直んない!!」

「……」


 イヤな予感がしつつも俺は洗面所に向かった、そこには必死に頭を直そうとしているフィーユの姿があった。


「助けて……」

「流石にどうやっても直んない事はないだろう」


 それから数分……ああ、万策尽きた。水浸しにしても、いくら櫛を使っても、無理だった。

 朝から放置してたから定着でもしたのだろうか? いやそもそも寝癖ってそういうものだったっけ?


「うう、どうすれば……」


 そして結局この後の三日間戻ることはなく、フィーユはしばらく常に涙目で帽子を取ることはなかった。これが地獄というのも、正直盛りすぎだろうか。

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