虫籠
憂鬱だ。憂鬱だ。憂鬱だ。
僕が見ている外の世界には、色鮮やかな花も咲かない。美しく華麗にひらりと、羽を動かす蝶々もいない。
この腐りきった、水晶体には何が、美しく映るのだろう。何が、僕の感情を掻き立ててくれるのだろう。
僕の世界に戻ろう。
くたびれた扉を開いてみよう。
この、水晶体が映したものは、鉄の間から世界を見つめる君だ。眩しい。白い布が、黒く長い艶やかな髪がよく似合う。
珍しい。今日は晴れている。
君は、
「お腹が空いた」
そう、耳元で囁いた。
調理をしよう。キッチンに立とう。君の為の料理を作ろう。
憂鬱と嫉妬を混ぜよう。愚痴も少しスパイスにして。
この時間は、僕だけの世界。僕だけの。
君の口の中はきっと、僕の感情で溢れている。
歪んだ顔さえ、愛おしくて堪らない。
ぼくの腐りきった水晶体が、いっそのことカメラにでもなってしまえばいいとさえ思う。
でも、調理が終われば、せっかく作った料理は、冷め始めてしまう。
君は、調理を見ただけだ。料理に手はつけてくれない。仕方がない。
冷めてしまった料理は、食べられない。ここには温め直す便利なものがない。
仕方がない。今日の料理は不味かったみたいだ。
僕は、憂鬱だ。この世界の美しい花や蝶々は、虫籠の中に閉じ込めたままじゃ、生きていけないみたいだ。