第96話 顔がだめなら金と実力で
軽く観光がてら散策しているとシエスタが「ひゅーひゅー」言ってくる。目の前で恥ずかしい台詞を言うんじゃなかったと後悔しつつも、スズネの嬉しそうな顔が見れて満足という気持ちもあってなんだか複雑だ。
この街には学生が多いからなのかいちゃつくカップルが多い。そしてそれを睨み付ける独り身の嫉妬の視線が痛い。もちろん睨み付ける以外にも行動を起こすかもしれないが、こんな街中で絡むやつなんていないだろう。
そんな時期も僕にはあったとだけは言っておこう。
「ちょっとそこのかわいこちゃん。そんなつまらなそうな男と遊ばないで僕と遊ばないっか!」
「嫌」
ちょっと顔が僕よりも良さげな男がスズネに絡んできた。しかしスズネはそんな男にお気に召すはずもない。そう願いたい自分がいるのは確かだ。
「…ぼ、僕はこれでもCランクの実力を持つ冒険者だよっ!お金だってあるんだ!一緒に遊ばないっか!」
Cランクってわりといっぱいいるのに自慢になるのか?お金?お金っていくら持ってたかな。
「嫌っ!ソウタはSランクよ」
1度断られたはずなのに今度は実力と金で物を言わせてきた。しかしそれは僕には勝てないものだ。ざまぁ!
「!?」
先程までの威勢はどうしたよ、イケメンくん。そんなアホ面してたら、イケメンが台無しだよ。むしろその顔で入れくれ。
「そんなの嘘だ!Sランク冒険者がそんな男な訳がない!どうせ親のコネでも使ったんだろ!」
Sランクに親のコネでなれるなら、今頃Sランクだらけだわ。
「嘘ではないんだよ、残念ながら」
おや?イケメンくんの様子が…
「ぼ、僕と決闘しろ!どうせ嘘に決まってる!」
イケメンくんは震えながらソウタに指を差す。なんだろう、なんでこう…王都に向かうにつれて決闘やら弟子やら、申し込むのが流行ってるのかな?
「嫌だけど?」
「なっ!?」
「当たり前でしょ、僕に何のメリットがあるの?」
「に、逃げるのか!怖じ気づいたか!やっぱりSランクなんて嘘だったんだ!ふんっだ!」
「はぁ…めんどくさ…」
「き、貴様!なんだその態度は!Cランクの僕に勝てないからって生意気なんだよ!」
「戦ってすらないのに勝った気になってる君の器の小ささに呆れてくるよ」
「ぼ、僕を愚弄する気だな!許さないぞ!喰らえ!インフェルノボルケーノ!」
そう言ってイケメンくんは火魔法を撃ってきた。なんて厨二病を擽る魔法名なんでしょうか。それでも普通のファイアボールよりちょっと大きい程度だった。なので風壁で難なく防ぐことができた。
「ふっ!僕に逆らうからこうなるんだ!さぁ!かわい、こ、ちゃん!?」
「どうしたの?今のが本気か?」
「ば、馬鹿な!僕のインフェルノボルケーノは誰にも防がれたことがないのにぃ!こ、これならどうだ!アルティメットトルネード!」
今度はちょっと強めの風が吹いてきた。コントロールが効かないのか後ろの屋台に直撃していた。僕はそれを横目に見ながらイケメンくんを観察する。
これが一般の魔法使いなのだろうか。キリカ街にはこのイケメンくん以上の魔法の威力しか見たことないからなぁ。
「てめぇ!またか!また俺の屋台を壊しやがって!いい加減にしろよ!」
おや?後ろから声が…
先程壊された屋台からマフィアのボスみたいな人が現れた。
「い、いや…あの、その…」
「今日という今日は許さねぇぞ!こっちに来い!冒険者ギルドに直談判してやる!そこのとぼけてる野郎も来やがれ!」
マフィアのボスはアホ面くんを抱えると、僕もなぜか抱えられた。そのままの状態でギルドへと運ばれていったのだが、スズネに関しては丁寧に扱われていた。
あの、僕も被害者なんですけど。解せぬ。