第95話 親子
次の日。朝御飯を食べようと宿の食堂に行くとなぜかメルサがいた。なので別の場所で食べようということで露店に向かった。後ろからメルサの叫び声みたいなのが聞こえたがきっと気のせいだろう。
朝からやってる露店も数多く並んでるのだが、彼らは一体いつ学院に行っているのだろうか。というかメルサが僕に付きっきりなのもおかしい。仕事しろよ。そして僕に構うな。
「いらっしゃい、今日は何を買いますか?」
「この鳥の串焼きとそっちのサラダください」
「わかりました。ちょっと待ってくださいね」
メルサもこれくらいのんびりしてたら話くらい聞くんだけどなぁ。お、きたきた。シエスタとアッシュにはオークの肉をあげて、スズネは他のところのを買いに行った。
「これ美味しいですね」
「でしょ!これは自信作だったんですよ」
「そうだったんですか」
などとほんわかと話をする程度だ。今日はこの街を出たいのだが、挨拶なしに出るのもどうかと思う。正直寄ったら出す程度でいいともいっていた。なので今も寄って出したから任務は達成してるはずだ。でも観光はしたい。
「この街って何が有名ですか?建物とか食べ物とか」
「そうですね…建物でいえば魔法学院とあそこの時計台ですかね」
「時計台?」
「あそこの時計台はかの有名なメルサ学院長が造ったものなんですよ!なんといってもあの細部までこだわった装飾と1秒たりともずれない時間の正確さには心が躍ってしまいますよ!…あぁ~っ!いい!」
「そ、そうですか」
だめだ、この人もだめなやつだ。メルサを慕ってる時点でちょっとあれな人だわ。確かにそれはすごいが変な声だしてまで感動する時点でどうかしてるよ。
「ここにおったかいな!さっ!話聞いてくれるか?」
「師匠!探しましたよ!ぜひ私を弟子にしてください!!」
おかしいなぁ。そのせいで幻聴も聞こえるぞ。置いていったはずのメルサといつぞやのショー子の声がする。
「はぁ…弟子はとってないのでしませんし、僕はもう話はお腹一杯です」
「がーん…」
ショー子は目に見えて落ち込んだ。なんだか申し訳ないが弟子を取るような芸当もしてないからなぁ。
「はっはっは、ソウタ殿は私とお話をするからのぉ。弟子をとる暇はないんじゃよ!」
「いえ、話もしませんよ。もうこちらはお腹一杯なので」
「な、な、なんじゃと!?」
「そもそも僕は相槌をするだけで一方的に話すことを会話とは言いません。それに正直なところ僕もスズネもうんざりしてます」
「が、がーん…」
二人ともorzみたいな姿で落ち込んだ。この二人は親子なのではないかと思えるほど似ている。
この光景を見ても僕はなんとも思わなかったのだが、露店のお姉さんが食いついてきた。
「メルサ様の話を聞ける上にマルサ様をお弟子に!?それをうんざりしてるから断るですって!?」
おっと?これは面倒な展開になってきたかな?
「メルサ様とマルサ様に失礼ですよ!なんてうらやま…ひどいのでしょうか!」
「じゃあ代わりますか?毎日メルサから話を聞けるし、毎日マルサ?と会えますよ。よかったですね、代わりが見つかりましたよ。それでは僕はこれで」
足早と僕達はその場から立ち去った。
「それで弟子はとったの?」
「いいや、面倒だしとらなかったよ」
スズネは安堵したかのように深い息を吐いた。
「そもそも僕の魔法はスキル補正があるから出来ているようなものだし、弟子をとっても教えることなんてできないよ」
「それもそうね」
「僕の技術を頼るよりも自分で磨いた方が確実だと思うんだ。それに…」
「それに?」
「僕にはスズネがいるから女の子を引き連れるなんてことはしないよ」
「っ!?」
スズネは顔を真っ赤にし、耳をピクピクさせ尻尾を揺らしながら照れた。その表情は嬉しそうだった。
夜にじゅうたん干したんだけど、雨降ってびちゃびちゃになった。