第94話 テンション高め
メルサはお茶をすすりながら話を続ける。僕は見慣れない道具やら置物に目がいっていたが、見学をしに来たわけではないので、大人しく話を聞くことにした。
「キリカのギルドから連絡は届いておる。お主が今回魔物の素材を持ってくると言うことはすでに聞いておる」
「そうでしたか。では、どこに持っていきましょうか」
「んむ?お主は荷物を持っていないように見えるが?」
「あぁ、アイテムボックスが使えるので」
「アイテムボックスじゃと!?」
先程までつまらなそうに話をしていたのに、いきなりテンションが振り切れたかのように声が裏返る。
「あ、はい」
「く、空間魔法が使えるのか!?」
「ええ」
「ぜひ、みせてくれ!」
テンションが大幅にレベルアップしたメルサと共にギルドの倉庫に連れていかれた。ここは魔法学院の中でもあるためか、素材を吟味する生徒もいた。生徒の見分け方は学生服が統一されているところだ。色違いもあることから、学年によって色を変えてるのだろう。
「ここでいいんですか?」
「おぅ!そこでよい!ささ!みせてくれ!」
テンションが上がりすぎて落ち着きが一切見られない。その件について周りにいた生徒も驚いていた。僕には関係ないのでさっさとアイテムボックスから素材を出していく。ついでにハチミツも渡す。終始「うおおおおーっ!!」と叫ぶメルサにはついていけない。
「これは大切に食べさせてもらうわぃ!」
「あ、はい。これでこの街での用も終わったので明日には王都に向かいますね」
「いんや!明日はうちの学院にぜひ遊びに来てくれ!」
「お、王都に…」
「それには期限はないじゃろ!なんなら私が宿も見繕ってやろう!」
「あ、まだ決めていませんでしたね」
「よし、最高級の宿に泊まってもらおう!」
「質素なので全然構いませんが」
「いいや!空間魔法の使い手にそのようなところに泊まらせるわけにはいかん!こちらで用意しよう!」
「は、はぁ…」
無理矢理高級宿に案内された。それにはスズネやシエスタ、アッシュも一緒だったのだが、シエスタとアッシュを見る目がアイテムボックス使ってたときと同じように目が血走っていた。
その日はメルサの勢いに押されてあれやこれや話をされ、僕とスズネはぽかーんとしたまま話を流し聞きしたが、この人は相当魔法が好きなことがわかった。しかし本当に帰らないなこの人。
「あの、そろそろ夜なので話を終えてくれませんか?」
「まだまだ話したいことがあるんじゃよ!」
「明日もいますので、その時にしてください。スズネも眠そうにしてますし」
「ええー、まだするんじゃぁっ!」
「帰ってください」
エアロックで動きを封じた後、窓からメルサを追い出した。ドアには鍵を閉めているので入れないだろう。ここは2階だが風で威力を殺しているので怪我をすることはないが、すごい駄々をこねられた。
「はぁ…」
「ガゥっ(うるさい人だったね)」
「そうだな。あれはついていけないよ」
「ガゥっ(明日もあれを聞くの?)」
「いや、明日は早くこの街から出よう」
「ガゥっ?(それは大丈夫なの?)」
「なんとか言い逃れるさ。というか、元々ここもすぐ抜ける予定だったからなぁ…」
「ガゥっ(そうだったね…)」
久しぶりにシエスタを枕に寝た。シエスタはスライムなので冷たくもなるし暖かくもなる。非常に便利である。心地よい眠りをする中でベッドで寝ていたスズネがなぜか抱きついていた。スズネをベッドに寝させて僕はシエスタと床で寝ていたのだが、良すぎるベッドよりもこちらの方が寝やすいのかもしれない。