第91話 再び
カシワ?またカシワなんですか?えぇ?
「カ、カシワ様はお元気かしら?」
「そうですね。元気にしてますよ」
「カシワ様は……」
さっきからカヨコがひたすらカシワについて質問をして来る。それを機械のように返事をしていく僕がいるのだが、そのことに一切ツッコまず、淡々と質問を繰り返してくる。
別にそのことを僕は気にしない。それは久しぶりに知った昔の友人の話を聞く行為ともいえるのだから、知りたいことはいっぱいあるだろう。それはいいんだ。でもさ?なんでこのおっさんは顔を真っ赤にさせてまるで恋人の好みを聞くような感じで聞いてくるの?
「カシワ様は最近なにをしてるのかしら?」
「最近のことは知りませんが、カシワ村で魔物を狩ってるんじゃないですか?」
「カシワ様は……」
あの?もうやめてもらえませんか?なんでおっさんからおっさんについて聞かれなきゃいけないの?まだ女の子から友人について語るならいいんだよ?恋する乙女に言い掛かりを突きつけるのはよくない。だけどさ、おっさんからおっさんの事を聞かれるんだよ?苦痛でしかないんだけど?
「カヨコさん。スズネが眠そうなので、そろそろいいですか?」
「え?あ?ええ、そうね。もう夜も遅いものね。また明日聞かせてもらっていいかしら?」
「いいですよ」
それから一つの部屋に案内され、そこで寝るように言われた。カヨコは独り暮らしなので、部屋が空いているそうなので、遠慮なく使わせてもらった。
スズネは僕に身を預けるように眠っているので起こさないように布団に寝かせた。なかなかいい布団だったのでお昼寝マスターの僕にも気持ちのいい眠りを与えてくれた。
次の日は朝からカヨコに質問責めされるかと思ったが、今度は僕ではなく、客観的に見たカシワについてスズネが質問をされていた。確かにおっさんの評価は女性からみるとだいぶ違ってくる。
スズネからはあまりそういうことは聞いたことがなかったが、カシワとスズネにはある共通点があるので、わりといい話が聞けたのだろう。満足してすぐに質問をやめていた。
カシワとスズネの共通点とは、二人とも人気があるということだ。カシワはオネェの男達やムキムキの男からモテて、スズネは獣人好きの男女やロリコンにモテていた。そのことからも人気者同士差別のない方向からの意見はカヨコを満足させるものだったのだろう。
ここで僕はあることに気がついた。これだけカシワを好いている人の目の前の僕はそのカシワにしつこくカシワから告白をされているわけだが、面倒なことに発展しそうなので黙っておこう。
「そういえばソウタはカシワに好かれてたよね?」
スズネ……なんてことを……さっそくフラグをたてていくなよ。
「あら?それはどういうことかしら?」
「あぁ、それはカシワ村の魔物をいくらか狩ってたから好意的に思われてるだけだと思いますよ」
「え?でも確か街を出る際に一番悲しまれてなかった?」
スズネ……その口をいますぐ閉じるんだ。
「あなた……カシワ様から好意的に思われてるですって!なんて羨ましい……それなのにスズネを選ぶなんて!」
「僕はノーマルなのでスズネの方が好きですよ」
スズネよ、照れてないでこの状況をどうにかしてくれないか?
「カシワ様を選ぶ方が普通の判断よ!」
それはノーマルじゃなくてアブノーマルだろ!
「カシワにはレイシアがいるじゃないですか」
「れ、レイシア様もいらっしゃるの!なら、しょうがないかしら」
「そうなんですよ。だから僕はスズネを選んだんです」
「でもカシワ様をほっておくなんて許せないわ!決闘よ!」
そんな急展開いらないんですけど?
返事も聞かれることなく村の広場に連れてこられた。ここに来るときと同じように担がれて。村人はなんだなんだ?と集まってきた。村長は率先して掛けを促している。
おい、そこは止めるべきだろ村長!
「言い分はあるかしら?」
「手加減はできませんよ」
「カシワ様に土下座して謝ればいいわ!」
カヨコは僕に近づいて殴りかかってきた。すかさずエアロックで止めたが、力業で逃げられた。さすがオネェだ。力強い。
「その程度で私が止まると思う?」
仕方ない。ここは正攻法でいくべきだな。ほら、悪臭の導きだ。
カヨコの周りに悪臭を纏わせる。近付きたくないので距離を置き、エアロックで悪臭が漏れないようにする。
「な、なにこの臭いは!?くさっうえっおろろろろろ……」
「どうしたんですか?いきなり吐いて?体調が悪いならやめましょうか?」
「あなた……なんでへい……きなの……」
「なにも臭いなんてしませんけど?」
カヨコは風魔法で臭いを飛ばそうとしてきたので、一瞬離した後、魔法が切れた段階で再び纏わせる。
「あなたの、し、わざ……ね……」
「僕はなにもしてませんよ」
カヨコはそのまま白目を剥いて気絶した。さすが悪臭の導きだ。どんな屈強な相手でも倒すことができる。スズネにはジト目で見られたが、魔法はなしなんて一言も言われてないので、これは卑怯ではない。
悪臭とゲロを気化させて、村の外に運ぶ。その一連の作業が終わった後にカヨコを水魔法で洗って乾燥させた後、家に運び入れた。幾分かしてカヨコは目を覚ました。
「完敗よ……まさかあんな卑怯な手で負けるだなんて……」
「僕はなにもしてませんよ」
「そうだとしても負けは負けよ。認めるわ、あなたがカシワ様ではなく、スズネを恋人に選んだことを……」
それは正常な判断では?
「たとえあなたがロリコンくそ野郎だとしても、負けは負け」
おい、喧嘩売ってんのか?
「そういえばあなた王都に行くんだったわよね?」
「そうですよ」
「この推薦状をあなたにあげるわ。王都のギルドマスターに渡すといいわ。なにかと役に立つと思うわ」
「はぁ…ありがとうございます」
「いいのよ、敗者が勝者になにもあげないってのも後味悪いからね」
カヨコといくらか情報交換した後、村を出発した。この村を越えて街を一つと村を二つ通れば王都に着くらしい。カヨコはカシワ村に行くそうだが、頼むから変な誤解をうまないようにしてほしいものだ。