第90話 カヨコの心配事
未だに笑いながらこの村の面白味のなさを語り合う村長とカヨコに向かって質問をしてみた。
「この村の近くにもう一つ村があったことはご存知ですか?」
「近く?そんな村あったかしら?」
「わしはそのような村は知らんなぁ」
やはりあの村は知られていなかったようだ。あの村はもしかしたら僕のようなものしか連れ込んでいないのかもしれないと思っていたが、1年ほど人がここに来ていないという点から、見えない人も連れ込んでいた可能性が出てきた。
「僕がこの村に来る前に僕と従魔にしか見えない住人が住む村がありました。そこにはごく普通の村人達が住んでいました。しかし、僕と一緒にいるスズネには見ることができませんでした」
「そのような村は聞いたことないわね」
「儂も知らんなぁ。それに噂もなかったしのぉ」
あの村については知られていなかったようだ。さすがに見えない住人がいるということは知ることは出来ないが、行方不明者が出ることはないのだろうか?
「行方不明者が1年の間に出たことはありませんか?」
「うむ、うちの村人にはいなかったが、確か近くの街から行方不明の者を捜索しに来たものがいたのぉ。なんでもこの村を経由して王都に来るはずのものが来ないだとか、商人が来ないなんてことはあったが、また魔物にでも襲われたんじゃろうと思ってほっておいたわい」
「そうでしたか。実はその村なんですか、アンデッド系の魔物が作り出した幻惑で訪れた者を殺して力を蓄えるというものだったんですよ」
その話にはひどく村長とカヨコが驚いていたが、討伐したことを伝えると安心してもらえた。行方不明者についてはわからなかったが、ちゃんと燃やして供養しておいたことを探しに来ていた人に伝えてくれると約束してもらえた。
今日はもうこの村に泊まることになったのだが、なんとカヨコの家に泊まることになった。どちらかといえば宿があるので、そこがよかったのだが、頑なにカヨコの家に泊まるように言われたので仕方がなく、泊まることにした。
ちなみにシエスタとアッシュはカヨコの家の納屋近くでごろごろしながら夜を過ごすことにした。相手をしてなかったことを拗ねていたが、オークの肉をあげたら機嫌がなおった。
普通に考えてSランクの魔物に警戒すべきだが、Sランク級のオネェがいる村にとっては微塵も怖くないそうだ。それに餌付けするとかわいいとなかなかの人気を博していた。
僕もSランク級のオネェを知っているが、慣れないものは慣れない。というかオネェのボスみたいなのに好かれてるから、慣れてしまうと後がこわい。
「あなたに質問があるのだけど、いいかしら?」
「なんでしょうか?」
「その狐獣人の子とはどんな関係なのかしら?」
「そうですね、スズネとは仲間であり恋人ですね(キリッ)」
先程まで我関せずとばかりに呆けていたスズネが顔を真っ赤にして照れ始めた。僕のどや顔がちょっとむかついたのか、頭をガジガジと甘噛みしてきた。
「そうなの……ちゃんと愛されているのね……よかったわ」
カヨコは関係にほっとしていたが、僕とスズネの関係がそれほどまでに気になったのだろうか。確かに獣人は他の国では奴隷とされているが、この国では法律上では差別よりも特別に扱っているので大丈夫ではないだろうか?
「獣人を大切に思うことは普通のことではないのですか?」
「そうね……今ではこの国で普通のことだけども、昔はそんなことはなかったのよ。法律では決まっていても外から来る人間にとってはこの国のルールなんて関係ないとばかりに奴隷にされていったのよ」
そうか、外の人間からしたらこの国のルールは関係ないのか。確か日本で起きた犯罪の犯人が外人だった場合、日本で刑を執行するのではなく、外国で行われたりすることもあるしな。外国人は外国で裁く。みたいな風習がこの世界でもあったりするのかな?
「そうだったんですか。それについては安心してください。スズネについては僕が絶対に何があっても守り抜いてみせるので大丈夫ですよ、これでも冒険者の端くれですから」
「そうね、無駄な心配だったかしら?」
「心配してくださることには感謝してますよ。それにスズネになにかあれば街のみんなに殺されます」
「随分物騒な街があったものね。それはどこの街かしら?」
街……どこの街?あれ?なんて街だったかな?ヘルプ!シエスタ!『キリカ街だよ!』さすシエ!
「キリカ街というところです」
「なんですって!?あのカシワ様がいらっしゃる街じゃないないの!」
あっ……やっぱりこの人もカシワ繋がりなんですね、ですよね~。
いまだに街の名前を覚えていません。
なんでだろう…カシワ村のことすごい覚えてる…。