第87話 見送り
村人の人から話を聞いた限り、この村には旅人が来ることはあるが、こちらの声を聞くことができる人は少ないらしい。しかも勝手に家にあがって勝手に家に泊まろうとする輩がいるらしい。
それは僕からしたらなんてやつらだ!と思ってしまうが、見えないスズネからしたらそれは仕方がないのでは?と思うだろう。そういうときはどうするのかといえば、箒やクワで撃退するようだ。
僕からしたらその対策はしょうがないものだと思うが、襲われた方は恐怖で二度と寄り付かなくなるだろう。そのせいか、それからは旅人が寄り付かなくなったという。
地図にも載ってないせいか、それとも近寄ってはならないと箝口令がしかれたのかわからないが、久しぶりの旅人が僕のような村人を見ることができる人でよかったと呟いていた。
あの優しいおじさんは薬草をとりに行くそうなので、見送りはこの村でも若い?お兄さんだ。若い?のかよくわからないが、暇を持て余してるらしい。
「一泊した恩もありますし、なにかこまったことはありませんか?」
「そうだなぁ…特にないなぁ」
「魔物被害とかあったら討伐しますよ?」
「それも大丈夫だなぁ…あいつらこっちのこと全く気づかないし、殴っても周りをキョロキョロするだけで全然危ないんだよなぁ」
どうやらスズネだけではなく、魔物もおじさんたちのことを見ることができないようだ。生と死を彷徨う者には見ることができるおじさんだもんな。というか生と死を彷徨って生きてる魔物って相当強いやつぐらいしかいなさそうだよな。ゴースト系がいるかは知らないが、大体のやつは見えないんだろうね。
「じゃあハチミツはどうですか?」
「おぉ!そいつはありがたいな!久しぶりに食べたかったんだよな」
久しぶり?これって結構貴重なものじゃなかったっけ?
「食べたことあるんですか?」
「あぁ、砦の周辺を散歩してたときに見つけてよ、よく採りに行くんだよな」
そうか、この人ら魔物からも見えないもんな。そりゃあ簡単にたどり着くし、とりにいくことできるわな。
「じゃあこれはどうですか?蜂蜜酒なんですけど…」
「おぉ!そいつはありがてぇ!」
さっきと数倍テンションアップしたんだが、やっぱりみんな酒がすきなんだろうか?話を聞く限り、この村では交易をしないそうだ。
見えない住人と商売などできるわけがなく、お金も持ってないため、買い物もできない。しかも「これが欲しい」と思ってもこちらに気づかないのでお金とかそんな次元の話ではないそうだ。
しかし隔離された場所というわけでもないため、時々旅行に行くこともあるそうだ。なかなか自由に過ごしているようだ。旅行では多少の不便はあるものの、悪いことばかりじゃないではなく、真剣な人の前でふざけたことをしても気づかないのでそれはそれで楽しくやっているらしい。
そして本来入れない場所も普通に入れるので密会してる場所なんかもでも目の前で小躍りしててもなんもされないので買い物できないデメリットも補えるそうだ。
自然にあるものは簡単に取ることが出来るが、店に売られているものを盗むわけにもいかないので、お酒の入手はハチミツよりも難易度が高いそうだ。
見送りには参加しなかったおじさんだったが、次の村に向かう際に遭遇した。
「おや?ソウタ殿ではないか、奇遇ですなぁ」
「あ、おじさん」
「え?なに?おじさんがいたの?」
「そうなんだよ、おじさん一泊させて頂き、ありがとうございました!」
「いえいえ、それくらい構いませんよ…ただ…」
「はい?なんでしょう?」
「魂だけ置いていって下さればそれでいいですよ?」