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流されたものの行方  作者: 『食べられません』を食べた人
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第9話 寄生スライム

 シエスタを肩にのせながら歩いていると、門の辺りが騒然としていた。


 「なにかあったのかな?」


 肩に乗っているシエスタに聞いてみたが、無反応だったので、わからないようだ。町に近付くと僕の方に指を差していることに気づいた。後ろに異変がないことから、騒いでる原因が僕にあるといえる。


 町まであとちょっとのところで、鎧を着て槍を構えた人が二人ほどやって来た。どうやら僕たちのことを警戒してるらしい。というよりもシエスタのことを警戒していた。


 「お前は人間か?それとも、生きた屍か?」


 その問いに、僕はどう答えるべきか迷った。なぜならここでの僕がどの分類に入るかわからないからだ。形は似ているが、ここでは僕のことを「タコ」と呼ぶのかもしれない。


 「失礼、彼は貴方がそのスライムに寄生されていないのかを知りたいんだ。なんでもいい、答えてくれ」


 スライムが寄生する?シエスタが、僕を?そんなわけない。


 「寄生?これは僕が名付けたスライムですよ」


 「よかった…言葉は喋れるみたいですね。では、そのスライムを切り離すことはできますか?」


 彼の言っている意味がわからなかった。だが、シエスタが肩に乗っていることで、なにかしらの警戒をされていることはわかった。


 シエスタをそっと持ち上げて地面に置くと、彼らはほっと胸を撫で下ろしていた。どれだけスライムが凶悪な生き物なのだろうか。


 「そのスライムは寄生スライムではなく、ただのスライムということが判明しました。これまでの無礼、失礼しました」


 安堵した表情だが、まだ警戒、というより緊張している。もしかしたら僕が怒鳴り付けることでも考えているのだろうか。


 「い、いえ。僕もシエスタを肩に乗せてたのが悪かったんです」

 「いやでも、本当によかったです……」

 「なにかあったんですか?」

 「ええ、実はこの辺りで新種のスライムが見つかりまして。なんとそのスライムは死骸に寄生するんです。それもどんな魔物にも寄生できてます。これがもし、人間だったらと思うとゾッとしますよね…。そういう理由もあって警戒してました」


 最後まで説明し終えた彼は表情が明るくなった。


 寄生するスライムとうちのシエスタが関係ないことを祈ろう。今のところ、寄生されそう場面に遭遇してないからかもしれない。一応警戒だけはしておこう。


 地面に置かれたシエスタが、あまりにも動かなくておかしいな?と思っていたら、眠っていた。さすが昼寝スライムというべきか。


 肩だと落ちてしまうので、抱き抱えることにした。兵士たちに連れられて、門まで向かうと、身分証の確認をされた。


 これだけ大きな町だと、身分証を確認されて当たり前だ。しかし、手持ちに身分を証明するものはなかった。


 無言で立ち尽くしていると、兵士が男臭い笑いをして、木の板を渡してきた。それを受けとると、「身分証がないなら、その仮の身分証がつくれる。金はあるか?」と兵士が尋ねてきた。


 それに首を振ると、今度は金目のものはないかと、尋ねてきた。


 ゴブリンの魔石なら腐る程あったので、それを兵士に渡すと、五個だけ受け取り、それ以外は返ってきた。


 仮の身分証をつくるのに、500リノ必要で、ゴブリンの魔石は一つ、100リノすると教えてくれた。


 仮の身分証には名前と年齢を書く欄があり、仮の身分証だけあって必要なことなのだそうだ。兵士に従うと、今度は丸い水晶に手をかざすように言われた。


 すると、水晶は白く光った。不思議な現象だったが、この世界では一般的なものだと思い込み、疑問を飲み込んだ。兵士に「問題なし!」と太鼓判を押された。


 兵士は心優しい方で、身分証をつくれる場所とテイムした魔物、シエスタが安全だと証明できる場所を教えてくれた。そこは冒険者ギルドと言われる場所で、すぐ近くにあるということで、兵士に送ってもらうことになった。


 道すがら『スライムに寄生された人?』『スライムかわいいー』『変わった服装ね』と言われ、子供には指を差された。


 町の人と比べるとシャツは不自然なほど白く、少し光沢を帯びたジャージのズボンはよっぽど珍しいものに見られただろう。ちなみにこれは、僕が思うもっとも寝やすい格好だ。そのため、木の上でも寝れたのだ。


 そんなことを考えながら歩いていると冒険者ギルドに着いた。そこで兵士と別れ、一人で入ることになるのだが、少しだけ、ほんの少しだけ、テンプレの新人いびりを期待した。


 予想は入って早々に裏切られることとなった。僕を見た強面のお兄さんが、固まってしまったのだ。その目線の先には僕の抱えたシエスタが。そんなこんなで、いじめられることはなかったが、注目の的になってしまった。


 受付があったので、そこに並ぶと、前の人が「具合が急に悪くなった」とか、「ちょっと受付に用事を思い出した」とか言って列から外れていった。


 最初の人はわかるが、二人目はおかしい。受付は目の前にあるじゃないかと。


 それが何度も行われ、最前列まで来てしまった。申し訳ない気持ちもあるが、譲られたのなら、仕方がないと、前に進んだ。すると、受付のお姉さんにすごい形相で睨まれた。


 声にならない叫び声をあげそうになったとき、受付のお姉さんは呼吸を整えて話しかけてきた。その顔は変わらず、警戒心のある顔だったが、さっきよりは幾分か優しい顔をしていた。


 「あの、つかぬことをお聞きしますが、スライムに寄生されてませんか?ちゃんと生きている方ですよね?」


 その問いに対して、シエスタを受付にドンと置いて、高らかに宣言した。


 「もちろんですよ!この子は昼寝が好きなただのスライムですよ!」


 すると、受付のお姉さんだけでなく、後ろにいた人達から安堵した息を吐いていた。


 「そうでしたか!てっきり新種のスライムに寄生された人かと思いましたよ!それで、ここにはどのような要件がおありでしょうか?」

 「冒険者の登録が身分証の代わりとなると聞いてきたのですが、登録は可能でしょう?」

 「可能ですが、年齢の方は15歳を越えていますか?」

 「越えてますよ」


 そう答えると、登録料の500リノを請求された。これにはゴブリンの魔石で対応した。次に、登録用紙を渡されたので、名前と年齢、特技を記入した。名前はソウタで、年齢は17歳だ。特技は風と水、火の魔法と記載した。


 記入した登録用紙を返すと、「テイムしている魔物はいますか?」と聞かれたので、「この子です」と言い返した。お姉さんはふふっと微笑んで、登録用紙を確認した。


 「確認しました。魔法を3属性も使えるなんて珍しいですね!」

 「そうなんですか?」

 「ええ。ほとんどの人は0~2属性使える人なんです。3属性以上使える人はあまりおらず、全属性使える人なんかは一握りしかいないんです!」


 受付の方はなにやら興奮しながら教えてくれた。「今後が楽しみですね!」と言った後、「少々お待ちください」と言って奥の方に行ってしまった。


 待っている間に、未だに眠りこけているシエスタをぷにぷにした。そうしているといつのまにか帰ってきたお姉さんに笑われてしまった。


 「これが冒険者カードです。失くさないようにしてくださいね」

 「これが……あの。聞きたかったんですけど、冒険者って何をする職業なんですか?」

 「あら?ご存知ありませんでした?では、説明しますね」


 そう言って、ガイドブックを持ってきた。そこに書かれていたのは、ランク制度と依頼についてだ。ランクは最高がSSで最低がFランクだ。当然、登録したばかりの僕はFランクだ。


 依頼は自分の一つ上までの依頼まで受けることができ、失敗すると違約金を払わないといけなくなる。つまり、その依頼を受けて達成できるかの見極めをしないといけないということだ。


 今の段階では常時依頼である町の中での依頼をすることになる。


 時間も時間なので、「安くてご飯がおいしい宿はありませんか?」と質問した。するとギルド直営店を進められた。そこは安くてご飯がおいしく、先輩冒険者が講義による講義も受けられるそうだ。そのため、登録したばかりの冒険者に人気があるそうだ。


 時間はないが、お金もないので、依頼を受けることにした。常時依頼にはゴブリンとスライムの討伐があったので、それぞれのお金になりそうな部位についてガイドブックで調べた。


 そこに、薬草を採取しながらだと、いい稼ぎになると書かれていたので、見つけたら採取することにした。


 ある程度の準備ができたので、再び門へと向かった。兵士に冒険者カードを見せて、仮の身分証を返却した。


 早速狩りに出掛けることを伝えると、夜には帰ってくるように言われた。それに返事しながら、門を抜けていった。


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