表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流されたものの行方  作者: 『食べられません』を食べた人
87/114

第84話 未知との遭遇

 全く理解できない事があると人は混乱し、そして否定する。僕はそれが普通の事だと思う。そして僕は今、混乱してそれを否定している。


 「ソウタ!私がつくったご飯が食べられないって言うの?」


 僕の目の前には愛するスズネがいる。でもその手の先には未知が存在する。それはなんだ?僕は混乱している。それを食べるの?僕は否定している。どうすればいいんだ。


 「スズネ、まずは落ち着いて手元のものを鑑定するんだ!」


 「ソウタ、鑑定なんてしなくたってこれが卵焼きってわかるでしょ?」


 「いやいや、卵焼きってそんな色してたかな?」


 「してるわよ。私がつくったらだいたいこうなるのよ」


 「まぁ落ち着こうよ。それを皿の上に戻してゆっくり皿を向こうに投げるんだ」


 「捨てろって言うの?ソウタは私がつくったものが食べられないって言うの?シエスタだってアッシュだって食べてくれたのに!」


 「食べたよ!食べたけどさっきからピクリとも動いてないじゃないか!」


 そう。シエスタとアッシュはスズネがつくった卵焼きを食べた。食べたがそれからは微動だにしない。なんと口に含み無理矢理飲み込んだところから動かないのだ。あれだけ悪食だった2匹がだ。


 なぜこんなことになっているか、それはほんの数時間前のことである。僕達はハーマル街から謎の出来事があり、出てから数日経った頃、山でラフィルバードという鳥の卵を偶然に見つけた。


 それを見たスズネが「私、卵焼きつくるの得意なんだ」と言っていたから、僕はつい「食べてみたいな」と言ってしまった。するとスズネが「つくってあげるよ!」と元気良く言われたので、昼頃につくってもらうことになった。


 そして昼御飯は僕が軽くつくった焼肉とサラダとパンにつきあわせに卵焼きをつくってもらうことになった。


 僕は学生生活の中で塩コショウの万能性に気がついてなんでも塩コショウをかけたらおいしいと思っていたので味付けにむやみやたらと混ぜたりしない。とりあえず塩コショウをかけるだけというシンプルな味付けをしている。よって特に失敗することのない料理をした。


 なので料理を習っていなくともある程度てきとうでも大丈夫、スズネだってできるとそう思う時期が、僕にもありました。


 スズネは「卵焼きには出汁が必要だから!」と言って何を入れるのかな?と思っていたらハチミツを入れ出した。甘めの卵焼きをつくるのかな?と思っていると「足りない」とか言ってさらにハチミツを足し出した。


 その時点で「これはハチミツと卵を混ぜたスイーツでは?」と思っていたが、今度は出してあった調味料を雑に全種類入れ出した。調味料には塩・コショウ・7種類の辛味のある薬草・レモンのような果実・砂糖・店で調合された甘辛ソースなど様々だが、一つ言えることは全部混ぜても美味しくなることはまずない。


 そんなことは構わないとばかりに混ぜるスズネだが、僕以外には好奇心をもったシエスタとアッシュがいた。もちろんこれが料理であるかないのか2匹にはわからない。


 焼き始めるともはやそれがなにかすらわからないが、とりあえず固まったことは確かだが、色は黒に近い。香りはなんて表現したらいいかわからないが、とりあえずあれは食べてはいけないと脳から警告がきている。


 そんな卵焼きをシエスタとアッシュは食べてしまった。スズネはにこにこしながら皿に盛り付けて2匹の前に置くと、それを2匹は興味深そうに見たあと、一口で食べた。飲み込んだ後変化が訪れた。食べた瞬間から2匹が動かなくなってしまったのだ。


 そして僕はこの状況に至るわけだ。これをどうするかというのが僕の目標だ。食べたら確実に2匹のようになってしまうだろう。どれだけ言ってもスズネは僕にアレを食べさせようとするだろう。しかし捨ててしまったとしてもいつかまたこのときが来てしまうことだろう。そして僕は決めた。僕はアレを食べてスズネにアレの危険性を伝えるんだ!


 その前に周りの安全の確保をしよう。まずは周りの魔物の気配を探知して水魔法で水玉をつくり、それを魔物の頭に当てて倒す。それによって周りの魔物がいなくなる。そしてその魔物の血が溢れないように凍らせておく。これで準備完了だ。目の前のスズネは大変お怒りだ。


 「スズネがそんなに言うなら食べるよ」


 「そう!ソウタはこの私がつくった卵焼きを食べたらいいのよ!」


 「じゃあ、あーんしてくれる?」


 「ほら、あーん!」


 「あーん、あぐっうむうむ…っん!?」


 南無三!ソウタ選手卵焼きを愛するスズネから戴きました。おおーっと口の中に広がるのは甘い辛い甘い辛いしょっぱい辛い甘い苦い辛い…くそ…ま、ず、い。


 その後、僕が目覚めたのは夜だった。どうやら僕は卵焼きを食べた瞬間から気絶してしまったようだ。僕はなんとスズネから膝枕してもらっていた。周りには涙を流しているスズネと僕と同じく生死を彷徨った勇敢な2匹の従魔がいた。


 シエスタとアッシュからは念話で「おかえり」と言われた。それ以上は2匹ともなにも言っていなかったが、わかることがただ一つ2匹とも遠い目をしていたことだった。


 「ソウタぁ~よがっだぁ~…ぐずん」


 「ただいま、スズネ」


 「お…がえり…ごめんね…ソウタ…」


 「次つくるときはキリカ街に帰ってから料理を宿の親父さんに習ってからつくろうね…」


 「うん…」


 「怒ってないけど、今度から料理は僕が担当するね?」


 「うん…」


 「じゃあ今日はもう遅いし、寝よっか」


 「うん…」


 その日はめちゃくちゃ甘えられた。ちなみにまた夜ご飯抜きになってしまったが、スズネの料理のことがあってからはしばらく自らご飯の調達をしに行って僕につくるように促してきた。


 「言うことを聞かなかったらスズネの料理を食わす」と念話で脅してシエスタとアッシュに言うことを聞かせてることはスズネには内緒のことだが、2匹もこれをスズネに訴えると実現しそうなので僕とアッシュとシエスタの秘密になっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ