第83話 別れの時
「あぁ、お前が一番ふさわしいと俺は思ってる」
→「あぁ、お前が一番ふさわしいと僕は思ってる」に修正。
スズネとの夜のプロレスのことによってシエスタには怒られ、アッシュにはハチミツを要求された。それはいい、だがこの状況はなんだ?
「兄貴!荷物持ちましょうか?」
「いえ、大丈夫です」
「兄貴、今からこの依頼やりにいきませんか?」
「いえ、遠慮しておきます」
「兄貴!」という言葉を永遠と言われ続けるこの状況はなんだ?確かに数十人は瞬殺したよ?殺してはないけど。でもこの変貌ぶりはなに?昨日はせっかくスズネと付き合うことになったのに、なんで朝から強面のおっさんたちの相手をしなきゃならん。
「あの?いいですか?」
「「「「へい!兄貴何でしょうか?」」」」
「僕のことを兄貴と呼ぶのはやめてもらえませんか?」
「「「「いえ、兄貴のことを兄貴以外で呼ぶなんて恐れ多いです!」」」」
「じゃあ付きまとわないでくれますか?」
「「「「へい!承知しやした!」」」」
そう言って強面の男達は離れていった。スズネはシエスタに跨がっているが、アッシュは相変わらずおねむなので宿に残してきた。
ここにはもう用事はないのでギルド長に挨拶に行くのだ。依頼があればそれをしなければならないが、ないならすぐにこの街を出ていくつもりだ。というか今すぐに出ていきたい。
そんなわけでギルドに着いたのだが、ギルドの扉を開こうとすると、勝手に開いた。入るとそこには受付までの道に跪いた男達がいた。
「「「「兄貴!おはようございます!」」」」
「お、おはよう」
「「「「今日はどのようなご用で?」」」」
「ぎ、ギルド長に用事が…」
「おい、今すぐギルド長をお呼びしろ!」
「はっ!今すぐに!」
「兄貴!さっ、こちらへ!」
「お、おぅ」
「兄貴!何か飲みやすか?」
「お、おぅ」
「姉御も何か飲みやすか?」
「あ、うん」
強面の男達はどこぞのレストランの店員のように用を聞き、席に案内して飲み物を持ってきた。その間も無駄口を叩くことなく、静かに跪いていた。そして先程ギルド長を呼びにいったものが帰ってきた。しかもちゃんとギルド長を連れてきている。
「兄貴!ギルド長を連れてきました!」
「あ、うん」
「ほっほっほ、ソウタ殿今日はどのような用事ですかな?」
「はい、この街で高難度の依頼があるのならするようにと、キリカ街のギルド長に言われてまして」
「そうですな、今のところはないですね。ここにいる冒険者達も普段は酒ばっか飲んでますが、Cランクの実力を持つものばかりですからね」
「そうでしたか。それならさっそく次の街に向かいますね。元々王都に向かう通過点であってここに留まるわけにもいかないので」
「そうですか。まぁお土産だけでも持っていってくださいな。ギルドを出て右に行ったところにおいしいチーズが売られてる店があります。ぜひともそちらで買い物していってください」
「ご丁寧にありがとうございます。それでは」
「ええ、また近くに来ましたら寄ってくださいね」
そう言って席を立ち上がって出ていこうとすると男達がこちらを悲しそうな目で見ていた。なぜか泣いてる者でさえいた。
「あ、兄貴ぃ…行ってしまうんですかっ?」
おい、なんでだ。なんでお前そんな悲しそうな顔してんだよ。というか今日のお前らどうしたんだよ。ずいぶん感情豊かだな。情緒不安定か?
「あ、うん」
「俺らを置いていくって言うんですかっ?」
そもそも連れてきてすらないんですけど。元々ここにいたよね?置いていくもなにもないよね?
「そうだな」
「俺らのどこがいけないって言うんですか!」
そうだな。敢えて言うとどうしてそんなに1日で変われるのかってところだな。
「え、あーっと…うーん、よし。今日からお前がここのボスだ!」
うん、僕何言ってんだろ。そもそもこの流れがなんなんだろ。
「お、俺でいいんですか!?」
「あぁ、お前が一番ふさわしいと僕は思ってる」
うん、てかお前がここで一番強いとか言って無かったっけ?
「あ、ありがとうございます!」
「おう、頑張れよ。頑張ってみんなをまとめるんだぞ」
「はい!頑張って兄貴のように一人前の男になってみせます!」
「じゃあな」
「「「「お世話になりやした!」」」」
僕は背を向けた後手を上げて別れの言葉を言うと後ろから泣いたような声が聞こえてきた。それから兄貴コールが聞こえてきたが、それを無視して僕達はギルドを後にした。
それから少ししたところにチーズ屋があり、どれも美味しそうだったので大量に買っていくとすごく店主に喜ばれた。
それから宿に向かうまでの間、強面の男達からは羨望の眼差しで見られた。宿でアッシュを回収して王都側の門に向かうとなぜかギルドの冒険者が集まっていて、握手を求められ、サインを求められ、お土産をもらって寂しそうに別れを告げられた。
門から離れていく僕達に後ろの男達から熱い兄貴コールがしたが、それは離れていくうちに段々と消えていった。それから少ししてスズネから一言告げられた。
「ねぇ、あれはなんだったの?」
「僕にもわからん」