第8話 昼寝好きのスライム
朝、ゴブリン村を出発した。
サカリ村?なにそれ?はじめて知ったんですが、そんな村ありましたっけ?
一応ゴブリンが持っていた剣を回収していく。ゴブリンの悪臭が村に染み付くかと思ったが、どうせゴブリンがまた来て食べるから、放置しておいた。
病気の類いを気にしたが、ゴブリンが住み着いていたことがすでに衛生的に悪い。処理する術もなくはないが、そこまでこの村に義理はないと判断した。というより、一刻もはやくここから立ち去りたかった。
村から伸びる道らしきものを発見したので、そこからでた。草で道が荒れていたが、方向的に考えれば違う村にでも着くかもしれないと考える、進むことにした。
木に実っている木の実を回収して食べながら道なりに進んだ。途中川があり、ゴブリンとの戦闘で染み付いた悪臭を水で洗って落とした。濡れた服はさっと風魔法で扇いで水気をとった。
何度か加減を間違えて飛ばしてしまったが、土ならまたつく。それよりも一刻も早く、ゴブリンの臭いをとりたかった。ある程度とれたら、また道沿いに進んだ。
歩いていると、またゴブリンに遭遇した。僕の顔を見た途端、逃げられてしまった。おそらく称号のせいだ。今のところこの世界のことでゴブリンと腐った村しか知らない。
もしかしてゴブリンが支配する世界に転生したのかと絶望しそうになっていたところ、半透明の塊を発見した。木の下でそよ風を浴びながら揺れていた。少しだけ観察してみると生き物のように動いていることがわかった。
「ファンタジーでいうところの、スライムってやつか」
今日は晴れていて昼寝にはちょうどいい。きっとこのスライムも僕と同じ『昼寝の達人』なんだろう。それを見てるとなんだか眠くなったので、スライムの真横で転がってみた。特に反応もないので、襲われることはないだろう。
「いたたた、ずいぶん硬い寝床だな…ん?どこだここは?」
どうやら、いつの間にか寝てたらしい。寝ぼけてどこにいるのかわからなかったが、周囲をみて把握した。しかし、先程横にいたはずのスライムはどこかに行ってしまったようだ。
よく寝たことで体力も回復したので、川を下ることにした。森を抜け、開けた草原についた。川には魚がいるので、なんとか捕獲してここで昼御飯にすることにした。
まずは獲物を捕まえなければならない。便利そうな雷の魔法は持ってないので、【流体操作】を応用して捕まえることにした。
川の流れはさほど速くなかったので、石でコの字を作った。ここに魚を追い込んで捕獲するのだ。川でばしゃばしゃと暴れて魚を誘導する。ここで【流体操作】を利用して魚を囲いから出れなくする。
そうすることでなんとか三匹捕まえることに成功した。魚は風魔法で頭を落として石の上に並べた。焼くためには火魔法があるが、調理するには焚き火が必要だ。
石で囲いをつくり、拾ってきて枝に火魔法で火をつける。魚はそのまま焼いてもいいが、内臓は好きではない。頭を落としているので、指で開いて簡単にとることができた。
枝を洗って魚に突き刺して、枝が燃えないように気を付けながら焼いた。食べてみると思っていた以上においしかった。木の実ばかり食べていたせいか、舌が喜んでいた。
満足したので、火を消して先に進むことにした。終わる頃に、視界の端に半透明のスライムが写った。いつの間にかいなくなったいたが、スライムを見つめてみると身体の中に草のようなものが見えた。
どうやらスライムも昼御飯を食べていた。ぷるぷるしながら近づいてきたので、先程の魚の内臓をあげてみることにした。それをぷるぷるしながら取り込んでいった。口がどこにあるかわからなかったが、どこからでも入りそうなので、気にしないことにした。
スライムの捕食シーンだが、半透明なので溶ける瞬間まで見えてしまい、とてもグロテスクに感じた。
食べ終わったのか、足元に来て身体を足に擦り付けてきた。お礼をいっているのか、危害を加えてくるようには見えなかった。試しに撫でてみると、反撃されることはなかった。
これなら、ラノベでいうところの、テイムができるはずだ。確証はない。
「よし!今日からお前の名前は『シエスタ』だ!」
このスライムは昼寝好きなので安直だが"昼寝"という意味の言葉にした。それを聞いたスライムは踊るように飛び跳ねた。
喜んでいるようにも見えるが、残念ながら僕にはスライムの言いたいことがわからない。
だが、僕が歩き始めると、後ろからついてくるので、成功したのだろう。なんだか犬と散歩しているみたいだが、残念ながらシエスタには首がないので、首輪もリードもつけられない。
歩いてみたが、シエスタのペースに合わせると何ヵ月かかるかわからないので、持っていくことにした。
抱き抱えてみたのだが、これでは戦いが始まった勢いで、投げてしまうおそれがある。そこで肩に乗せることにした。
肩にのせると、顔にすり寄ってきた。可愛かったので撫でたらぷるぷる震えだした。震えることはおそらく、喜びを意味する。確証はもちろんない。
言葉は通じないが、とりあえず聞きたいことを聞いてみた。
「なぁ、シエスタ?人がいそうなとこ知らないか?」
すると、シエスタは自分が昨日泊まったゴブリンの村の方に触手を向けた。他のところを知らないかと聞くと、川とは反対側の草原に触手を向けた。
シエスタは僕よりも地の利があるようだ。これはとても便りになる。シエスタに「ありがとう!」とお礼をいいながら撫でるとぷるぷると震えた。
シエスタの言う方角に進んでいくと、草が生えてない道があった。もう一度シエスタにどっちか聞くと右の方に向けた。なので、シエスタに言われた通り、右に進むことにした。
時折ゴブリンに遭遇したが、こちらと目があった瞬間に逃げ出した。それを見たシエスタがぷるぷると縦に震えだした。
これは「すごい!」と褒められてる気がした。そんなシエスタを見て和みつつ、道すがらに進んでいくと、壁に囲まれた町を見つけた。