第66話 上位種と下位種
レイさんとレイジュさん、それにギルド長から拝まれていると、砦の主はため息をつきながらも話を始めた。
「では、黒猪王と白猪女王についての報告をしてくれぬか?」
砦の主はギルド長に話を振った。話はどこで気付いたのかということと、どれくらいの規模だったのかということ、あとは僕がどのように対処してどのような技を使っていたのかということを報告した。ついでに灰猪王を従魔にしたことも話しておいた。これも重要なことだろうと僕は判断した。
「ふむ、結構危ない状態だったわけじゃな。それについては感謝する。それにしても黒猪王と白猪女王の子か。今まで確認されたことのないことじゃな」
アッシュはやはり特殊な存在だったわけだ。今までも黒猪王と白猪女王が出てきていたのであれば灰猪王も要注意ということを言われるはずだ。しかしそのことは全く触れられなかった。つまりは今回のことは今までにない特異な事柄だったわけだ。
「アッシュについては黒猪人族からも認識されていました。しかしアッシュは黒猪人族のことを仲間という認識よりもご飯という認識が強かったですね」
「ふむ、それはつまり黒猪人族にとっては上位の存在ではあるが、そのアッシュとやらにとっては仲間意識がなかったか」
砦の主は考え込むようなポーズをとったが、僕が見ていると上位の存在と下位の存在について説明してくれた。
「下位の種族に興味を持たないのであれば他の種族でもあり得ることじゃ。龍でいえば子が下位の竜で生まれたら捨ててしまう。ホブゴブリンがオーガに進化した場合そのオーガは集落から離れていく。だが、今回はそれとは訳が違う。認識すらしていないことが不思議でならない」
上位の存在は下位の存在を切り捨てるのか。アッシュはあの状況から察するに下位の黒猪人族から敬われていた。ということは上位であることは認識されている。しかしアッシュの方だけが認識していなかったのではないだろうか。
「可能性として考えられるのはアッシュが親のことしか認識していなかったのではないかということですかね。黒猪人族は生まれたてのアッシュを見たことがあり、王の子であると認識していたが、アッシュのことを外敵から守るために屋敷に匿った。それにより大きくなっても黒猪人族を見たことがなかったのかということですかね」
「ふむ、その可能性はありそうじゃな。まぁ敵にならなくてよかったことだけは確かじゃな。魔法と斧を使いこなし力と防御力を備えた灰猪王が敵で現れるなんて、黒猪王と白猪女王が同時に来られるより厄介じゃわい」
確かにあの大きな斧を振り回しながら火魔法を撃たれるなんて強すぎる。白猪女王の火魔法は強力だった。僕は相性がよかったが、他の人ではどうなるかわからない。
「そういえばそのアッシュとやらはどこじゃ?」
「それなら食堂でハチミツを舐めてると思いますよ。先程呼ばれたときに起きてご飯を催促されたので、オークのステーキとハチミツを与えました」
アッシュは肉にも嬉しそうにしていたが、ハチミツにも嬉しそうにしていた。シエスタにもあげてみると喜んで食べていた。魔物も人も変わらずハチミツが好きだってことがわかった。
「そうかそうか、大人しくやっとるなら砦に入れてもいいぞ。まぁあといても数日じゃ、好きにするといい」
「わかりました。あ、ハチミツはどこに持っていきましょうか?」
「わしが砦に帰るときに一緒に来てくれ。物資の配達と討伐した魔物をギルドの方に寄越してくれ。今回はオークが沢山取れたと聞いておる。黒猪人族は最終日にでもくれるといい」
「わかりました。それと魔石が大量にあるのですが、どうすればいいですか?」
「魔石じゃと?魔物の身体はないのかのぅ?」
見回った限り身体は見付からなかった。黒猪人族が着ていたものが多分身体なんじゃないかと思っているが、どれがどれかなんてわからないので、とりあえず回収だけしている。
「オーク達が上位の存在のために貯めていたものなので、魔石だけなんですよ。狼種が多くてそのおかげでシエスタは嵐狼スライムへと進化したんですけどね」
「魔石だけならここでは武器や防具の素材として使われているから、半分ほど分けてくれると嬉しいのぅ。」
砦の主がそのことについて詳細を言おうとしたら、レイさんが話に入ってきた。
「その事なんだが、俺たちもいっぱい取って来たから、納品は俺たちのものをしてくれないか?ソウタの取ってきた魔石はソウタが使えばいいと思うんだ。魔物は魔石で強くなり進化する。だからソウタには魔石が必要じゃないのか?」
魔石をもらえることは嬉しい。それがあればシエスタをさらに強くできる。それにもしかしたら狼種の魔石をアッシュにあげると、アッシュも狼種寄りの進化をするのか凄く気になっていた。
「ではレイの魔石をもらおう。魔物の進化や特性についても気になるからな」
魔石をもらえることになり、報酬については後日ということになった。砦の方にはレイさんと僕と砦の主で向かうことになり、砦では酒樽5つ分程並々と注いだ。その量にみんなびっくりしていたが、砦の主は大喜びだった。余談だが、砦から補給所に帰るときにレイさんに抱えられて帰ることになった。