第64話 幸せの食堂
今日の夜ご飯は異常な量取れたため、オークがメインのステーキだ。トンカツとか食べたかったが、生憎揚げ物はこの世界ではまだ見たことがない。ステーキとパンとサラダとシチューというメニューで異世界ものでよく見かける黒パンではない。ちゃんとしたふわふわしたパンだ。
魔法と料理スキルで柔らかくしてるとのことだったが、料理スキルがなければ黒パンができるようで、パンは料理スキルを持つものに任せているそうだ。シチューやサラダといった焼いて混ぜるといったものでは料理スキルがなくともめちゃくちゃ美味しいって訳でもないが、まぁまぁかなってものはつくることはできる。
僕はゆっくりとパンにシチューをつけて味わったり、パンにステーキを挟んで食べたりしてると、周りから視線を感じる。別に特別なものは食べていない。みんなと同じものを食べている。それなのに感じるその視線には困惑した。僕が食べているから異常に美味しいわけでもないのだが、なぜか食べ物を口に運ぶと視線が集まる。寒気すら感じる。
ご飯を食べ終わると待ってました!とでも言いたげなスズネがこちらをきらきらした目でみてきた。スズネはいつも僕よりも食べるのが遅いのにも関わらず、すでに食べ終わっていた。
「ど、どうしたの?そんなにハチミツが欲しいの?」
「ほしい!」
スズネは机から身を乗り出してきた。耳はピクピクと動いていて、尻尾は激しく振られていた。
「どこに出せば良いかな?」
「この皿に入れて!」
その皿はシチューが入っていた皿だ。結構底が深いのだが、どれくらい入れればいいのだろうか。
「どれくらい入れればいいの?」
「たっぷり!なみなみ!」
並々だと!?どんだけ食べるつもりだよ!虫歯になるぞ!そんなことは思いつつもここまで楽しみにされちゃあ断れないので、少しずつ流していった。溢れることを防ぐために流体操作で空中から渦を巻きながら注いでいく。それには全員から視線が集中してみられた。スズネも「あわわわわっ!」とか言って慌てていたが、ひたひたに注がれたハチミツには頬を赤らめていた。そのハチミツをスプーンで掬って一口含むと凄く幸せそうな顔をしていた。
そのスズネを眺めて癒されていると、突然後ろから肩を掴まれた。振り返るとそこには強面の冒険者が数人いた。僕はこれからカツアゲでもされるのだろうかと思っていたがどうやら違う様子だった。
「ちょっとでいいからそのハチミツ俺らにも分けてくれねぇか?」
強面の冒険者は頭をかきながら照れくさそうに言ってきた。後ろの冒険者達はスズネを羨ましそうに眺めていた。
「ええ?あぁはい?どれくらい欲しいですか?かなりの量ありますから、この部屋を埋めることもできるほどありますよ?」
強面の冒険者はその返事を聞いて驚いた後、歓声を上げて酒が入っていた小さな樽をいくつか持ってきた。そんなに食べるのかと思ったが、どうやらハチミツで蜂蜜酒をつくるようで、あるならいくらでも欲しいとのことだった。樽を満杯にすると、お礼にと手作りのお酒と薬草をくれた。MP回復にも役立つもので高品質で売っても金になると言っていた。
冒険者達が去った後、スズネを眺めているとまた肩を掴まれて振り返ると周りの冒険者がみんな立ち上がっていた。
「俺たちも少しでいいから、そのハチミツ分けてくれねぇか?お礼はちゃんとするからよぉ!」
冒険者達は手を合わせて頼むお願いだ!と呟きながら言ってきた。それほどまでにこのハチミツは好かれているのだろうか。
「いいですよ。1人じゃあ食べきれる量ではないので、どれくらい欲しいですか?」
「スズネちゃんと同じくらいでお願いします!」
「じゃあ皆さん席に座ってください。皿に直接送るので」
「お、おぅ?わかった?」
不思議そうに冒険者達は着席した。スズネと同じくらいということで先程言ってきた人の皿にハチミツを流体操作を使って流し込んだ。すると「おぉーっ!!ありがとな!」と言ってからハチミツを味わい始めた。その顔は緩みきって原形をとどめていなかった。とても幸せそうだった。それから次々と注いでいくとシチューを飲んでいなかったものは急いで食べ、「私にもください!」「お、俺にも!」等々言ってきたので、順に入れていった。その結果謎の幸せ空間が出来上がった。
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