第34話 ゴブリンの事情
スズネの愚痴を聞くだけでは修行にならないので、無理矢理気持ちを切り替えさせて始めることにした。
「魔法はイメージで発動できるんだよ、だから妄想力もそれの糧になると思うんだ。だからスズネにはすぐにできると思うんだ」
スズネはジト目のまま魔法の練習を始めた。最初はうまくいっていなかったが、そよ風を使えるようになり、強風もできるようになった。そしてなぜか目をきらきらさせていた。きっとできたことに喜んでいるのだろう。
「ソウタ!ソウタ!これがあれば気付かれずに風を送ってスカートめくりができる!」
彼女が何を言ってるのか僕にはわからない。確かにできる。だが、ばれたときどうするんだ!しかも魔法があることがわかっているんだぞ!
「スズネ、魔法を発動するときには魔力で検知できるんだ…ばれるぞ…」
「ソウタ…現実はそう甘くないんだね…」
「そうだな…それに女冒険者だった場合…ボコボコにされるぞ、前世とは力の有り様が違うんだ」
「そうね…この前の彼のように1発で沈められるものね…」
彼とはスズネに近付いて玉砕したケモナーのことである。前世では女性が殴った程度では痛いぐらいにしか思わないだろう。辺りどころでいえば確かにあり得る。だが、殴るだけで地面をえぐれる人だっている。数百kgのものを片手で持てる人だっている。そんな世界のパンチが弱いわけがない。
「それができたら、風を纏めたり、剣をつくったり形状をつくるんだ。そしたらいつの間にか呪文がステータスで加わってるから。やりたかったら中二病のように唱えたらいいさ。僕は無詠唱の方が心臓にいい」
スズネは目を閉じて両手を広げる。すると、風が集まってきて人型のようになる。それは180cmぐらいの人だろうか?目を開いてこちらを見てくる。スズネはにこりと笑ったような気がした。その人はこちらに近づいてきた。なにかするのだろうか?そして殴りかかってきた。
「くらえ!」
なぜかその風の人を使って殴ってきた。うん、なぜだろう。まぁいいや、防ごう。風の壁を瞬時につくって、人を霧散させる。
「僕、なんか悪いことした?」
「いや、ただの八つ当たり」
「八つ当たりなら転生神にしてくれ」
スズネは気がすんだのか、風で槍や剣をつくったりしていた。風魔法は一通りすんだので、水魔法の練習をすることにした。水は川が近くにあるので、そこに向かうことにした。
「そういえばソウタは魔法は誰に習ったの?」
「いや、自己流だよ。森の中に転生してゴブリンを倒すために頑張って覚えたんだ。色々検証するのは楽しかったよ」
「そうなんだ。じゃあ私も自己流で色々できるのかな?」
「まぁ、そこは想像力で何とかしていけばいいんじゃないか?」
「そっかぁ…妖気も便利そうだし、試行錯誤してみるよ」
「やっぱり川に向かうまでに魔物に遭遇するよね。川にゴブリンが5匹いるよ」
ゴブリン達は川で魚を捕まえていた。ゴブリンは木の実と肉ばっか食べてるのかと思ってたけど、そんなことはなかったようだ。魚も食べるんだな。食バランスが僕よりも良さそうだ。
「スズネ、風魔法で倒してみてくれ」
「やってみる!」
ゴブリン達はまだ僕らに気付かず、ひたすら魚を追っている。スズネは風で槍をつくってゴブリンに飛ばした。1匹のゴブリンの頭に刺さり、倒したが、ゴブリンはまだ魚に集中していた。すごいな、仲間の死に気付かないなんて。
「ゴブリンはまだ魚を捕まえてるようだね、まだいける?」
「いける!」
「次は火を使ってみよう。こんな感じに火の玉をつくってね」
僕は掌に火の玉をつくってみせた。スズネは火の玉を3つほどつくってどや顔した。いやいや僕もそれくらいできますよ。意地を張って10個ほどつくったら、スズネは悲しそうな顔をした。
「ごめんごめん。これくらいできるようになるよって見せただけだからさ。ほらゴブリンが気づいたみたいだよ」
1匹のゴブリンAはやっと気付いたのか、こちらに向かおうとした。そのときちょうど無事魚を捕まえることができたゴブリンBが喜んでいた。気づいたゴブリンAは手を振り上げた瞬間、魚を捕まえたゴブリンBの手に当たり、魚を逃がしてしまった。それに気まずくなったゴブリンAはこちらの方を指をさし、『あいつのせいだ』と言わんばかりに言い訳をしたが、怒ったゴブリンBはゴブリンAをボコボコにしていた。そんな彼らをみたその他のゴブリンは唖然としていた。もちろん僕らも唖然としていた。
「な、なんか気まずいけど、ゴブリンだし…倒そうか?」
「う、うん…そうね…」
その後、僕らは火の玉を彼らにぶつけて水魔法の練習をして帰宅した。
今週は忙しいので、来週あたりに投稿したいと思います。