第11話 副ギルド長カシワ
冒険者ギルドの副ギルド長はなんと、ゴブリン村の廃屋に置いてあった本の主人公であり作者のサカリ村の村長カシワであった。あんなおかしな村の村長が今では副ギルド長だと!?実はここも腐海だったりしないのかな?不安になってきた。
村長はこちらに熱い視線を向けており、とても鳥肌がたった。受付の方は無心で坦々と話しかけている。
「副ギルド長、そんなことはどうでもいいので、話にうつらせてもらってもよろしいですか?」
今、受付の方良いこと言った!そうだそうだ!話を進めるんだ。その気持ち悪いからそんな悲しそうなそれでいて熱い視線を向けるのやめてくれませんかね?
「どうでもよくなんかない!これは私の趣味であり、人生であり、生き甲斐なんですよ!なぁ?それよりもどうだ?私と楽しいことしようぜ!」
カシワは机に手を叩きつけて立ち上がり否定した。そしてソウタのことをさらに熱い視線で見つめ出した。
うわぁ…めちゃめちゃだな…。しかも受付の方目が死んでる。とりあえず助けを求める視線を向けてみると、目をそらした上、尊い犠牲だったと言わんばかりに目元を押さえてる。諦めるなよ!
「申し訳ありませんが、僕には心に決めた人がいるので、副ギルド長のお相手は無理です」
これでどうだ?まぁ心に決めた人なんていませんけどね。これでどうか諦めてくれませんかね?お願いします!
「うむ…だが、考えてみてくれ…。私のように美しい肉体を持ち、この優しく強い包容力を持つ女神のような私以上に素晴らしいモノなんていないだろう!どうかね?この腕に包まれてみないか?」
カシワは袖をまくり、腕の筋肉をさらけ出して力をいれて筋肉を魅せるためのポーズをとりだした。ソウタのことを諦められず、先程よりも熱い視線で顔を凛々しくしている。
た、確かに筋肉凄いけど、優しい包容力を持つ女神のようなお姉さんだったら、すぐにでも行きたいよ?でも村長はおっさんだよ?生理的に無理だからね?そこの受付嬢の方にならほいほい行くんだけど、ちょっと今冷たい眼をしてるけど、美人さんだしな。
「申し訳ありませんが、僕は優しくて胸が大きい女性が好きなので、無理です」
「いやいや、待ってくれ!この私の胸筋をっ!大きいぞっ、たくましいぞ?」
カシワは胸を張り出した。
「本当に申し訳ないのですが、筋肉ダルマのおっさんは恋愛対象ではありません。それより話を進めませんか?」
「それは結婚を前提にとのことかね?もちろんいいが…私のテクニックを舐めて貰っては困るぞ?これでも昔は村中の男たちと愛を育んでいたからなっ!」
なんでこういう熱い人って話聞かないのかな?やっぱり脳筋だからかな?なんだよテクニックって!?僕は村長に口説かれにきたんじゃないぞ!あれだよ!あれ?僕ここになにしに来たんだっけ?
そのとき、ドアがノックされて、誰か人が入ってきた。
「失礼します。お茶をお持ちしま…し…たぁ?」
振り返ってみると、そこにはカシワと比べて劣らずの筋肉を持つおっさんがいた。そしてこの状況に気付き、お茶が入ったコップを落とした。それを気にせず、近付いてきた。なんだか悲しそうな顔をしている。
「カ…カシワさんっ!私のことを嫌いになりましたかっ?」
今にも泣きそうな顔をしているおっさんは悲しそうにカシワを見つめ出した。それをみてはっとしたカシワは戸惑いながらも弁解を始めた。まるで今までのことがなかったかのように、おっさんがおっさんと見つめ合いだした。
ちょっと待ってよなんだよいきなり!?なにが始まったの?
「そ、そんなわけないじゃないか!私はレイシアのことが好きに決まってるじゃないか!」
戸惑った様子のカシワが机を越えてレイシアを抱き締めた。それに応えるようにレイシアもカシワを抱き締め返した。
「ほ、本当ですか?もう浮気しませんか?」
少し目をうるうるしたレイシアという筋肉ダルマ2がカシワに問いかけた。
「もちろんだとも!生涯、レイシアのことを愛してるよ!」
熱い包容を暑苦しい包容に変えて、まるで二人しかこの場にいないかのように愛を語り出した。死んだ目をした受付嬢とソウタはそれをただただ見てるだけでなにもできなかった。
「私もです!カシワさん、愛しています!」
そして2人はこちらのことを気にせず、ソファでいちゃつき始めた挙げ句、僕たちは蚊帳の外に追いやられてしまった。受付の方は深いため息をして、この状況を見せられている僕はここになにしに来たのだろうと、自問自答していた。
そしてカシワは今は忙しいとかほざいて、僕と受付の方は追い出されてしまった。ちなみに受付の方は女性で、名前をリサと言うらしい。すいません、僕はここになにしにきたのでしょうか?誰か僕に教えてもらえませんかね?