第106話 愛し合う二人
戦闘狂については放置してきた。街の近くでは採取をしてる学生や冒険者もいるだろうし、街近辺では魔物はほとんどいない。少しは反省できるだろう。
門に戻るとメルサ達はまだいた。あとなんか通常ではあり得ない組み合わせでイチャついてる奴等がいた。
「あぁ…いいっ…アッシュさんの香りいい。私、アッシュさんのこと…好きになってしまいました…はぁ…はぁ…。うっ…んんっ…はーっんぁ」
「ブモゥ(そ、そうか)」
「実は私…こんなんでも料理が得意なんです!ぜひアッシュさんに私の手料理食べてもらってもいいですかっ!」
「ブモゥ!?(料理…だと!?)」
「も、もちろん…食べてもらいたいのは料理だけじゃなくて…わ、私も…な、なんでもないですぅ」
「ブモゥ(料理がおいしければ考えてやらんことも…)」
「はうっ…や、優しくしてくださいね…」
「ブモゥ(私も初めてだからな…)」
まぁあれだけ満更でもなかったアッシュだからなくはないとは思ってたけどさ。でもさ、アッシュってあんな貴公子みたいなキャラだったっけ?もっと純粋にハチミツばっか食べてる。赤い服着た黄色い熊みたいな印象しかなかったんだよね。
別にいちゃつくことは構わないよ。僕だってスズネと毎日イチャついてるよ。もふもふしてるよ。でもさ、君ら会ったの今日初めてだよね?
一目惚れってやつかな?そんなことはよくはないけど、あるだろうさ。でもさ、なんで言葉わかるの?そこは全然噛み合ってなくて僕に助けを求めるとかするでしょ。戦闘狂を倒すのに一時間も経ってないんだよ?おかしいでしょ。
見てみなよ、門で唖然としてるメルサと…名前なんだっけ?まぁメルサ親子がいるんだよ。君らもう少し周りを気にしなよ。
アッシュは地面に座り、変態さんが抱きついている形だ。その二人を遠目に僕とメルサ達が挟んで見ており、アッシュから離れたところでシエスタがお昼寝していて、その上でスズネがのんびりしている。
なかなかカオスな状態だが、二人の邪魔をする気力もないので、僕はスズネのところでことの成り行きを眺めることにした。二人は今もお互いにアピールを繰り返している。
言葉が通じる点においてはなんとも言えないが、オークが好きすぎてきっと不思議と言葉を理解できるようになったとか、そんな感じだろう。
「あら、ソウタ。おかえりなさい」
「ただいま。この状況はずっとああなの?」
「そうね、アッシュの言葉はわからないけど、なんとなく通じあってるように見えるわね」
「僕も耳を疑ったけど、会話を聞いてる限りはお互いの言葉を理解してるみたいだよ」
「そう…きっと愛が為せる技なんだわ」
「愛ねぇ…」
愛の力ということで解決したのだが、僕らはそんな喜劇を観るためにここにいるのではなく、王都に向かうためにここにいるのだ。これは止めるべきなのだろうか、それとも彼女も連れていくべきなのだろうか。ちなみにアッシュを置いていくつもりは毛頭ない。
「……そろそろ二人に話をするか」
「そうね、いつまでもここにいるわけじゃないもの」
僕は二人の愛の句を並べあっている空間に入るのはなんだか辛いが、ここで後に引けばまたここに泊まって戦闘狂の相手をしないといけないという無限ループに陥ってしまうだろう。そんなことをすれば、きっと彼等は嬉々として参加するだろう。
僕はそれだけはめんどくさくてしたくない。だからこそ終わらせるのだ、この異種族恋愛を。