第98話 牢屋リフォーム
アッシュの要望に答えるためにまずは監察室の全部の鉄格子を外した。それからイケメンくんを監察室の端っこに追いやってちょうど一人分のスペースをつくってそこに放り込んだ。
監察室には10部屋ほどあったので5部屋分を取り込んで床に木材を敷き詰めた。この木材は魔の森で伐採した時にもらったものだ。さらに壁も木材をはめた。最後に椅子や机、ベッドそれから調理場をつくって完成だ。
「うんうん、これはいい出来だな」
「これなら牢屋ってのも我慢できるわね。後は寝室もつくりましょ」
「それは名案だね!」
という感じにスズネの要望に答えた結果、調理場兼リビング・僕とスズネの寝室・アッシュとシエスタがくつろぐ部屋・イケメンくんの部屋が出来上がった。
「よしよし、これはいい焼き加減だぞ。スズネ食べてみて」
「おいしいわ、ソウタ」
「それは良かった。シエスタとアッシュはまだ食べるか?」
「ガゥ(ボクはもういいや、お腹いっぱいだよ)」
「ブモゥ!(食べる!)」
「しっかり味わって食べるんだぞ?ん?なんだか騒がしいな。どうしたんだろ?玄関の方から音がするね」
「あら、お客さんかしら」
「ちょっと見てくるよ」
「いってらっしゃい」
スズネに見送られて玄関(牢屋の入り口)に向かうと放心状態のギルド職員とメルサがいた。
「あれ?メルサまた話でもしに来たの?もうお腹いっぱいって言ったよね」
「ソ、ソウタ殿…これは一体…?」
「あぁ、汚かったし狭かったから掃除して過ごしやすくしたんだ。それに面倒なことにみんな話を信じてくれないから、こうして住めるように改造したってわけだよ。」
僕の話に驚いたのかメルサは固まってしまった。まぁあの汚い牢屋が今では立派なマンションの一室みたいになってるもんな。驚くのも無理ないさ。
「まぁこんな閉鎖的な空間にはずっと居られないから、明日には外に繋がる道でも造ろうかと思っているところだよ。メルサ?話聞いてる?まぁこんなところで話すのもなんだから入ってくるといいよ」
牢屋の扉を開けてメルサを迎い入れる。ギルド職員達は勿論入れない。信用がないからね。
「さっき出来たばかりだから、それほど家具は揃ってないけど、椅子は有るから座るといいよ。あ、これ焼きたての猪人族の串焼きね」
「あ、あぁ…頂くのじゃ」
アイテムボックスから調味料を出すとメルサはその様子を真剣に見ていた。メルサは魔法好きだもんな。
「そうそう、今日はどんな用事で来たの?魔法の話なら今はいいからね。するなら帰ってもらうよ」
メルサは深呼吸をすると椅子から立ち上がった。もしや魔法の話がしたくて来たのかもしれない。と思っていたが、それは思い違いだったようだ。
メルサは僕の真横まで来るとその場で座り、土下座をしてきた。それには僕もスズネも困惑していた。突然の出来事に僕らは放心してしまっていた。
「ソウタ殿、スズネ殿本当に申し訳なかった!」
「え?あ?うん?」
「Sランクであるソウタ殿を牢屋に入れるなんてギルドとしては異例の事態であり、これほど遺憾な行為などあってはならないことですじゃ。ソウタ殿へ無礼を働いたギルド職員達についてはソウタ殿への賠償金と謝罪、さらには投獄も辞さないつもりですじゃ!」
「んー?あぁ全く話を聞かない人らのことか。このまま解放してくれるなら罰についてはそちらで考えてください。牢屋をリフォームするのはなかなか楽しかったのであまり気にしなくても大丈夫ですよ。あと頭をあげてください」
メルサは土下座の体勢のまま話を進めていく。
「もちろんです!すぐに釈放ですじゃ!元々ソウタ殿は被害者なのじゃから!」
「だから頭をあげてください。メルサが悪いわけではないのですから」
「それでもですじゃ!これも長の責任なのじゃ。わしのことは気にせず受け取ってください!」
「はぁ…わかりました。受けましょう。それじゃあ宿の方に戻ってもいいですか?」
「ささっどうぞどうぞ」
「スズネ、アッシュ、シエスタ。帰るよ」
「うん」「ガゥ」「ブモゥ~」
メルサに導かれるまま出所するのだが、牢屋に置いてある家具は放置して調味料や猪人族の素材回収を忘れない。
ちらっと信用のないギルド職員のことを見たが絶望したのかこちらをガクガクと震えながらすがり付くような目線を送ってくるが、この件については自業自得なので僕にはなんともできない、
ギルドから出たときの空気はとても美味しく、日光に当たることの良さを再確認した僕は日当たりの良い草原を見つけたらぜひ昼寝をしてみたいと想いを馳せていた。
事後処理は後日行うことが決定された。ちなみにイケメンくんはまだ狭い空間で簀巻きにされているということだけはそのままである。