第97話 ソウタ、牢屋に入れられる
屋台のボスに抱えられギルドにやってきたのだが、今日は随分と静かだな。ギルドって言えばうるさいイメージなのだが。
「次の方どうぞ、あら?ゼンカイさん今日もですか?」
受付嬢は呆れた顔をして屋台のボスに同情の視線を送った後、僕とイケメンくんに蔑みの視線を送ってきた。あの僕は被害者なんですけど。
「あぁ、聞いてくれよ。またこいつが俺の屋台を壊しやがったんだ。せっかく直ったばっかりだったのによぉ…」
「そうでしたか、それは大変ですね。賠償金の方はいつものように屋台の修理代と商品とこれから稼ぐはずだった利益分でしょうか?」
「それで頼むわ。こっちの野郎が証人だ。えーっと名前は何て言うんだ?」
「え?あぁ…ソウタです」
「このソウタが証人だな。まぁこいつも絡まれてた被害者なんだが、お前さんも要求するものはあるか?」
「そうですね、とりあえず降ろしてくれませんか?」
やっとボスの腕から解放されたので、伸びをして体をほぐす。
「僕は賠償金とかいらないので、観光に戻ってもいいですか?」
そこで受付嬢から待ったがかかる。証人である僕には状況の説明義務があるそうだ。はやく解放されるべく、説明していくとまた受付嬢から待ったがかかる。
「ギルドランク詐称は冒険者ギルドの規定に反しますよ?特にSランクと言うのは国で特殊な地位を与えられた存在ですよ。貴方のような人にはそれ相応の罰が必要になります」
なんか話が面倒な方向に向かっているのがわかる。僕はこの人にとっては詐欺師とでも思われてるんだろうな。ちょっとそこのイケメンくん「ざまぁ」みたいな表情してるけど、君はもうちょっと罪の意識持とうか。
「この件はギルド長に報告させて頂きます。貴方にはしばらくの間、このギルドの監察室に入ってもらいます。無駄な抵抗はしないことですね」
うーん、なんだか勝手に話が進んでるけど、この人身分確認しないんだけど。もう確定ですか?そうですか。
屋台のボスからは申し訳なさそうな視線を送られたのだが、まずは話を聞いてくれないのでしょうか。
反論する間もなくギルド職員に監察室に案内される。それにはスズネもシエスタもアッシュも連れていかれた。反論してみたが、こちらの言葉には見向きもしなかった。
監察室は罪人の牢獄みたいな感じでとても汚れていた。僕らは1つの牢屋に案内されてた。それから職員はその場から去っていった。
「なんだか面倒なことになったね」
「そうだね。こっちの話は全く聞かれなかったのは痛かったな。とりあえずここは汚いからキレイにしとこう」
水魔法と風魔法を使い、床や壁のほこりと汚れを落としていく。ひとしきり掃除を終えると汚れの塊を遠くに飛ばす。アイテムボックスから木の丸太を取り出して床に置いてそこに座る。
「初めて牢屋に入ったけどなかなか雰囲気があるね」
「そうね、ギルドにこんな部屋があるなんて知らなかったわ」
暢気にスズネと雑談していると先程のイケメンくんが簀巻きにされてギルド職員に運ばれてきた。イケメンくんは口元も縄で塞がれていて牢屋に無造作に投げられていた。
それからギルド職員は坦々と鍵を閉めてこの場を後にした。
「おや?彼もここに来たのか。随分とまぁ雑な扱いされてるな。常連なんだろうな、牢屋に名前が書いてある」
イケメンくんはこちらを鼻で笑ってきたが、僕らの牢屋の綺麗さを見て首を傾げていた。まぁ掃除したからな。
シエスタとアッシュがお腹を空かせていたので、アイテムボックスから猪人族の肉を取り出して、牢屋で調理する。その匂いにイケメン君がよだれを垂らしていたが、あげる気ないからね。
「いい感じに焼けたね。シエスタはどれくらい食べる?」
「ガゥ(2匹分)」
「アッシュは?」
「ブモゥ!(5匹!)」
「アッシュは成長期だもんな。スズネと僕は1匹だけでいいかな。やっぱ広げて正解だったね」
今、僕らは1つの火を囲んで座っている。牢屋は最初はそれほど広かったわけではなく、ぎちぎちに詰め込んだ状態だった。僕とスズネは平気だったが、アッシュが耐えられなかったので、牢屋を広げることにした。