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ニューゲーム?コンテニュー?それとも強くてニューゲーム?  作者: おれんじじゃむ
第1章 魂は経験値の塊
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第7話 死の予知再び

ご覧いただきましてありがとうございます。個人的なことですが短めの夏休みに入りましたがお金も無いので家でゴロゴロしながら続きを考えながら書いています。

そとは暑いので極力出たくない極度のインドア派人間です。

さて、本編ですがルシアに死の予兆がまたしても襲い掛かります。珍しく感情的なルシアに警告するかのように予兆が襲い掛かるわけですがこの経験をどう活かし乗り越えるのか?良ければお読みください。

余談ですが前話でハルシオンという人物が登場しましたが、薬ではありませんw

━━━━━━はぁ、はぁ、レア姉ゴメン・・・俺のせいだっ!町の人の命を背負い指揮権を発揮してるのはレア姉だ!その方が円滑に進むと思って・・・・勝手にレア姉に〃町の人達の命〃を背負わせていたっ!俺はいつの間にか逃げてたんだっ━━━━━━くそっ!


 ルシアは深く後悔していた。上手くまとめ上げる為だけにレアを利用し、ただレアに面倒事を押し付けただけだった自分が許せなかった。この時のルシアは後悔の念により冷静な判断が出来ずにいたのだが当の本人にそんな自覚などもちろん無い。

 ただレアと落ちた人を助ける事だけを考え全力で走っていた。


「サリアッ!長いロープの手配を頼むッ!二人にロープに摑まるだけの力が残っているとは思えないが縛り引っ張りあげるくらいの事は出来るはずだっ━━━━━━━━━!」


涙を流しルシアの背後を必死に付いて走っていたサリアはうなずいて一言、

「お願いっ・・・・」

そう言いロープを掻き集める為にルシアと離れ走っていった。

サリアと別れて走っていたルシアが違和感を感じる。


━━━━━━おかしい・・・・まだかっ?そろそろ人型の姿を確認出来る所まできているはずだっ。思ったより遅い・・・・それにしてもこの酒の匂い・・・キツイ。んっ?・・・もしかして酒か!風上から流れた酒の臭いが人型の進行を上手く邪魔しているのか?あの匂いで人の匂いを誤魔化せていたなら・・・まだ猶予はあるかもしれない!


普段は希望的観測を一切捨て、ただ起こりうる最悪の事態を想定して動いていたルシアにとって作戦に影響のある〃風向きと雨〃だけは賭けだった。普段は獣相手に風上は避けるのが定石。この時、風上という不利な状況が酒の匂いにより一転ルシア達に幸運をもたらしたのだった。

 因みにルシアがエミロッテ姉妹と合流しその場で練った作戦にも風向きが複数関係している。


ルシアがあの時たった10秒足らずで考えた作戦内容は・・・


《━━━━━━まず人型がなぜ縄張りがある森を抜けカルランへ一直線に向かってきたのか?・・・恐らく匂いだ。確認できた人型二頭の動きは獲物を狩る時の動きだった。更に俺達は奴らの″風上″にいた。そのまま俺たちの方へと向かってきていた事がその証拠となるだろう。という事は森を出なければいけない程奴らは″飢えている″のか・・・。

 飢えによる本能か?そこまではわからないが、奴らがカルランへと一直線に向かってきている事から嗅覚は従来のグラーズとは比べ物にならない程鋭い。

 なにせ俺達は奴らの嗅覚も警戒してグルリと迂回するようにして森を抜けたのに捕捉されていた事になるからな・・・だが逆に奴の武器とも言える嗅覚さえどうにか出来れば・・・━━━━━━匂いと言えば昼間の酒の匂いはキツかったな。━━━━━━ひょっとすれば嗅覚の鋭い奴らには酒の匂いは有効かもしれないな・・・それに酒はアルコールで引火性も高い。酒が有名なカルランなら大量に用意する事も可能・・・か。酒の匂いで鼻を麻痺させあわよくば奴らを火だるまに・・・使えそうだな。

 あとは戦う場所か。まぁこれはカルランと森を繋ぐ谷の一択だな。あそこは天然の迷路だ。都合のいいことに行き止まりもある。上手く誘い込めれば一網打尽に出来るしこれ以上はないな。

 ・・・・カルランへと繋がる道三か所の谷間に酒を撒いておくか・・・万が一突破されそうになった時火を付ければ火柱が壁になって近づけないはずだ。奴らにとっても火は脅威でしかないからな。

 最後に武器だ、これはカルランで用意できるものに限る。剣か弓・・・弓一択だな。矢には麻痺性の毒を塗って・・・いやだめだ。矢が人に当たらないとも限らない。ならここもやはり火か・・・火矢で酒との相性もいい。弓隊を崖の上に配置させればのぼって来れない奴らに襲われる事もない上狙いたい放題━━━━━━。

こんなところだろうか。後の細々した不安要素はこれから潰せばいい。》


 ここまでがルシアの作戦だ。もともと意識を一点に集中して考える事が得意なルシアにとって現実時間と思考時間はイコールではなく、10秒程の時間でさえもこれだけの思考時間へと変換する事が出来た。 

 誰もが羨み、天才だと言うこの能力だが別に訓練によって得ただとか、最初からあった能力ではない。

 この能力はルシアにとって過去のトラウマの産物であり、思い出したくない過去が嫌でも顔を出す。それだけに大事な場面以外は出来れば使いたくない能力だった。


 そんな力でも使わなければ守れるものも守れなくなることがある。ルシアは能力と引き換えに辛い過去を忘れられずにいるのだった。

  

━━━━━━もうすぐだっ!レア姉っ!はぁはぁっ!走りながらだと酸素が・・・はぁ・はぁ・足りない。このままだと意識の底に潜れない。レア姉の所までいって時間があれば・・・・なんとか潜れるか?


全力で走って来たルシアの眼前にはざわつく男達。その視線は崖の上へと向けられ只事ではない雰囲気を彼等の表情、慌てる姿から感じ取れた。


━━━━━━よしっ!崖を上る梯子が見えたっ!


「道を開けてくれっ!開けてくれぇぇぇ!!」


 ルシアは谷間に木霊するほどの大声で叫んだ。声を聴いた男達が道を開ける。人だかりの中に出来た一本の道をすり抜け走った先に梯子が見えた。

 梯子に飛び移り、20メートル程の崖を駆け上がる。あっという間に崖の上へ登りつめたルシアは呼吸を整えながら行き止まりの谷が見えるところまで急いだ。


━━━━━━着いたっ!どこだ!?


 顔をつたう汗を拭いながら行き止まりの谷を恐る恐る見下ろした。崖下に二人の姿が見える。そこには横たわり腹部から血を流す男とその男に応急処置を施すレアの姿があった・・・・だが同時に恐ろしい姿もルシアは捉えていた。人型グラーズがおよそ十数頭行き止まりにいる二人の元へと迫っていたのだった。

 更に運が悪いことにその十数頭のうち七頭はすでに″酒の境界線″を越えてしまっていたのだった。


━━━━━━これ以上レア姉に近づけさせてたまるかっ!


「誰かっ!矢に火をつけて俺に貸してくれっ!」


近くの男が弓をルシアに手渡して火矢も続いて手渡した。と同時に凄まじい集中力と後悔、人型への殺意による重い空気が周囲を包む。その瞬間ルシアが弓を引きギシギシという音と共に弓は大きくしなり火のついた矢が放たれた。矢は勢いよく飛び出し風切り音を響かせ″酒の境界線″へと刺さり酒を引火させる。瞬間火柱が5mほどあがり、周囲の温度が一瞬上昇する。

 その直後突然の熱風に驚いた人型の化け物が酒の火柱を目撃する。火を背にした人型がレアと男を視界に捉えた。先ほどの火柱の事もあり警戒している人型はゆっくりと二人のもとへ歩き出した。


━━━━━━人型は七頭か・・・いけるだろうか?。考えている暇はない!後は息を整えて″戦闘中に潜るだけだ″。


 ルシアは大きく深呼吸した。大量の酸素を体内に行き渡らせる。それと同時に筋肉に溜まった乳酸を血液へと流し筋疲労を回復していく。三度深呼吸した後呼吸が落ち着く程に回復したルシアは両手の弓を投げ捨て両腰に携えた剣を抜き崖を駆け下りようとした。


━━━━━━よし・・ケジメをつけるぞ。誰も死なせない・・・自分のケツは自分で拭く。


意を決し崖を下ろうとと飛び出そうとした瞬間だった。


ルシアの体は全く言う事を聞かず動きが完全に止まり同時に胸を切り刻まれる痛みが走った。


━━━━━━ぐっあああああああぁぁぁぁぁああぁぁぁあ!!


苦痛の雄叫びをあげるルシア。だが周りの誰の反応もない。


━━━━━━ま・・・さか・・・


 周囲は以前にルシアが体験した白黒の世界へと変わっていた。何もかもに色味のない冷たい世界がルシアの前に広がる。


━━━━━━また・・この・か・・んかくか・・・・。


 ルシアの体からもう一人のルシアがズルズルと抜け出していった。前回と同じく意識だけの抜け殻となったルシアは、勇み駆けだした実体を持つ自分の姿を客観的に眺める。

 実体を持つルシアは崖の僅かな突起に足を掛け、落下するスピードを落としながら崖を下っていく。難無く崖を下るが、斜面は急で常人には真似できない程の角度だ。


「うらぁぁぁぁぁぁあああぁあ!!」


ルシアはわざと大声を出し自分へと注意を引き付けた。人型が一斉にルシアの方を向きルシアの放つ殺気、気配を察知する。レア達へ向けられていた警戒意識を自分へと向ける事に成功したルシアは両手に持った剣を逆手に持ち替えた。

 崖を一気に下ったルシアがその勢いのままに人型へと襲い掛かる。深く呼吸したルシアは意識の底に潜りすべての感覚を人型へ集中する。ルシアの中では走馬燈を見るかのようなスローな世界が流れていた。


━━━━━━ここからは賭けだっ!この状態は長くは保てない・・・・この間にすべての人型を斬る!


ルシアの姿はまるで舞い踊るかの様で一連の動作に全く無駄が無い。人型の行動を見てどう出るのかを先読みし最善の手を選び無駄のない動きで人型を斬り捨てていく。

 

 かつてはルシアの剣術はアルケィディア流と呼ばれ、王宮剣術の候補となるほど有名な剣術であった。


その技能を会得する事が出来る者は少なく候補止まりとなってしまった剣術である。師範はルシアの父であったがある日突然消息を絶ってしまいその後姿を見たものはいなかった。

 正統な継承者も現れないままにアルケィディア流は途絶えたかに見えたが幸か不幸かルシアを襲う辛い経験と引き換えに自己流ではあるがその技術を再現、身に付けたのだった。

 凄まじい剣速で舞いながら人型を斬りつけていく。そのままのスピードで次の人型へと向かい更に斬りつけていくルシア。傍から見れば一方的過ぎる強さを発揮しているのだが当の本人は一瞬でも気が抜けない状態が続いており、感覚としては長い時間を息継ぎ無しでそのまま剣術を繰り出している状態であった。


━━━━━━く、苦しい・・・・まだ四頭・・・思ったより酸素の消費が激しい・・・これは・・もたないっ!


ルシアの中でスローに見えた世界が徐々に元の速度へと戻っていく。後だしジャンケンの様に最善手を選んできたルシアに限界が訪れる。通常速度ではとてもじゃないが後だしジャンケンは出来ない。舞う様に斬り捨ててきたルシアの動きが止まった。


「ぶはぁっ!・・はぁっはぁっはぁっ━━━━━くそっ!」


残り三頭、今のルシアに捌ける筈もなく一気に押され始めた。


「ルシアっ━━━━━━!!」


様子のおかしいルシアにレアが叫んだ。その瞬間レアのもとに崖の上から一本のロープが垂らされた。


「このロープを体に縛って!!引き上げるわっ!」


 声の主はサリアだ。ルシアにロープの手配を任されたサリアが必死の思いで探し出しギリギリのところで間に合ったのだった。


━━━━━━間に合ったか・・だが、こっちはもうもたない・・・・・・


 息も整わない状態でギリギリの攻防を続けるルシア。レアは先に男の体にロープを縛り引き上げの合図を送る。


「私は後でも大丈夫っ!先にこの人を上げて!━━━━━━(大丈夫・・・ルシアならきっと大丈夫。)」


レアはルシアを信じて疑わなかった。


━━━━━━二人助けるまで諦めない・・・やって見せるっ━━━━━━!!・・・ぐあっ!?


胸から腹部に凄まじい痛みが走る。すべての攻撃を捌き切っていたように見えたが、ルシアの覚悟と想いに反して体は限界を迎えていた。捌き切れなかった人型の一撃が胸から腹部にかけて鋭い爪で切り裂かれてしまっていた。

 

「がぁああぁ・・・あぁ・・・・」


もはや限界。本来ならば意識の底に潜る事さえ出来ない。それ程の疲労を騙し、精神力のみで維持してきたルシアにしてみれば長く保てたほうであった。


━━━━━━だめだ・・・痛みで意識が・・・もう。


フラフラとよろけ今にも倒れそうなルシア。無情にも人型の二撃目が無防備なルシアを襲う、その瞬間だった。足を引きずりながらレアがルシアの盾になる様に人型の一撃との間に割って入ったのだった。


━━━━━━はっ?レア姉?・・・・・・・・・だ・・ダメだっ!


それでも体は動かない。レアとルシアの目が合う。レアの目、それはルシアのよく知る死を覚悟した生き物の目と同じ目をしていた。


━━━━━━ダメだダメだダメだダメだっ!動け動けっ!動けッ!


足搔こうにも体は言う事を聞かない。その時だった。ルシアにも伝わる程の重い一撃がレア越しにルシアを襲った。


「あぁああぁ・・・・レア・・姉・・・・・?」


レアが苦悶の表情を浮かべ、目から命の光が消えていくのをルシアは感じ取っていた。


「ごめんね・・・ルシア。私のせいで・・・こ・・・んな・・こ・・・と・・に・・・・」


ルシアの耳も元で、それでもなんとか聞き取れる程の振り絞った小さな声でそう言ったレア。


「違う・・・俺のせいだ。俺がレア姉を巻き込んで・・・面倒事を押し付けたんだ。俺が・・俺が・・・」


最後の力を振り絞りルシアと目を合わせるレア。レアが最後に見たルシアの目からとめどない涙が流れ落ちていた。


「わ・・たしを、頼ってくれて・・・あ・りがとうルシア・・・」


最後に一言振り絞り、うっすらと微笑みながらルシアの目を見つめたままレアは息を引き取った。


レアの体を受け止めきる事も出来ず、ルシアはレア抱きかかえながら共に地面へと倒れこむ。周囲には人型が集まりはじめた。


そして、ルシアにかぶさるように倒れたレアを人型が軽々と持ち上げる。


次の瞬間人型はレアを食べだした・・・・


「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ━━━━━━!?」


崖の上から悲鳴が上がり地獄絵図が広がる。ルシアの目の前でレアは奴らの餌となり、この瞬間にルシアの精神が壊れた。


さらにもう一頭がルシアを掴み上げる。


━━━━━━レア姉・・・レア姉、レアねぇ・・・れあねぇ・・・・


涎を垂らし、鋭い牙をルシアの肩に食い込ませる。しかしルシアは痛みも感じぬ程に精神は壊れ、体も痛みを感じない程に限界を迎えていた。


━━━━━━なんでオレは。レアネェにシキをまかせた?・・・オレのせいでヒトガタニ・・・・オレのせいで・・・あぁ・・・ヒトガタ?・・・ヒトガタのセイダ・・・アイツラガ・・・・ゼンブ・・・ナニモカモ・・・・。


魂だけの存在となっていたルシアにも壊れた感情が受け止めきれない程の量で流れ込む。


━━━━━━ツギハ・・・・・シナ・・・セナイ。シナセ・・・ナイ。━━━━━━レ・・・・ア・・・・ネェ・・・・。


プツリと意識が途絶える。


それはルシアの二度目の死を意味していた。 


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