第0.5話 意識不明の前世 後編
0話は暗く重たいお話が終始。0.5話は最後はクスッと笑える感じで区切りを付けることができました。もし目に留まったら是非0話と0.5話ご覧頂けたらと思います!
宜しくお願いします!
━━━僕は神様等の都合のいい存在を信じてない。
あくまでも僕個人の意見だ。信じている人は不快に感じるだろうが、僕は信じていない。宗教の自由というやつ?信じないのも自由という訳だ。
誰も見たことがない存在それが神様で、僕の中で神様とは人の心の弱さが生み出し、生きていくための希望と願望を叶えてくれるらしいモノ。中には懺悔すれば罪を許してくれる都合のいい神まで世界には存在している有り様だ。
後者の神に至っては全く理解できない。
何が言いたいかと言えば、僕は目に見えないモノは信じないということ。なにも初めから信じていなかった訳ではないのだが、こんな僕でも過去に神様に頼んで頼んで頼み倒したことがある。
2年前の春、幼馴染の咲がある事件にあった時だ。咲の容態は悪く医者の話ではこの1週間で何かしらの変化が見られなければこれ以上の快復は望めない。との事だった。
その日の深夜から期限の1週間。近くの神社にお百度参りを毎日した。つまり七百度参った訳だが、それでも咲の容態に変化は無かった。僕に出来ることは神頼みしか無かったのだが、どうやら僕の信じた神様はどこにも居ないようだった。そうして僕は神様等というあやふやな存在を信じなくなった。
だがその考えも2年越しの今日限りであっけなく終わりを告げてしまった。僕の力になってくれるという彼女には羽がある。紛れもなく神の類いの存在だった。
抱きついて離れないまま、彼女に甘えたままの状態だった僕は落ち着いた所で我を取り戻した。
「と、とっ、取り乱してすみません!!」
まさか、あんな状況で女性に抱擁されるなんて思ってもみなかったから完全にやらかしてしまった。
「かまいませんわ?わたくしがした事ですし。むしろ突然で驚かせてしまいました・・よね?」
━━━━どこまで僕の理想の天使様なんだ・・・・
「いや、ホントに何て言うか・・・その、救われました・・・」
彼女は僕に向かいクスッと笑い少し照れくさそうだった。冷たく感じた病室の空気が暖かく変わっていくようで心地がいい。でもいつまでもこのままではいられない。僕には今を何とかしないといけない理由がある。
「さっき、力になってくれるって、どういう・・・?」
「そうですわね。それにはまず自己紹介から始めさせていただきますわ。わたくしは天界の主の元で転生官を仰せつかっております、名はアリシアと申しますわ。」
━━━は?転生官?いやいや、おかしい、と言うか多分間違えている。
「転生って輪廻転生とかの転生・・・ですか?だとしたらおかしいんですが・・・・?」
「???いえ、間違えておりませんわ?私は大樹様を新たな世界へ転生する為に主より遣わされ参上いたしましたの。」
━━?いや、俺はまだ生きてる!死んでないから!いきなり転生って・・・
「ア・・アリシアさんっ!俺は今ここで生きてる!意識が・・俺が、まだ戻ってないだけなんだっ!」
動揺し震える僕の手をアリシアはそっと握りゆっくりと状況を説明し始める。
「確かに大樹様はまだ生きていらっしゃいますわね。なので今お身体にその魂を戻すことも可能ではありますわ。その場合ですが大樹様は意識を取り戻すことなく15年後お亡くなりになります・・・」
━━━━━━僕は死ぬのか・・・・?
「選択肢は・・・ないってこと、ですか?」
「・・・・・仰る通りですわ。」
小声で申し訳なさそうに答えた。
━━━━━━ッんだよ。力になるって。ただ俺を転生させるだけじゃないか。
「ダメだっ・・・・アリシアには!・・アリシアさんにはわからないだろうけど、僕はそこにいる母さんや、助けた小学生と、それに咲の為にも!戻らないと・・今すぐだっ!!」
俺は右手の拳で壁を思い切り殴り唇を血が出るほど噛んだ。
「助けた小学生。その事ですが実はわたくし共も事情は把握して参っておりますの。」
全く痛くない拳が虚しい。拳を下ろしアリシアの方を向く。
━━━━━事態を把握していて転生?天使どころか悪魔か?
「子供達を救った英雄とかの功績でもなんでもいいから意識を戻してくれ・・・」
僕は怒り、悲しみ、更には糠喜びに希望も断たれ、意識だけの状態ながら疲れ果てていた。
「大樹様は小学生達の命を救われましたわ。しかし、彼らは本当ならばあの場で亡くなるハズでしたの。大樹様は世界にイレギュラーをもたらされましたの。」
「・・・・つまり、僕の現状が変わるわけではなさそうだけどそのイレギュラーを伝えに来て、転生させに来ただけ?」
「その通りですわ。イレギュラーの件に関しまして、我が主はこう仰りました。」
『彼には気の毒だが転生してもらうしかないな。このイレギュラーの原因である大樹くんが、例えば~、そうだな。水面に落ちる一滴の水・・・いや、車程の隕石とするなら、大樹くんが起こしたその波紋は波を起こし数々の命の運命を狂わせる事になったのだ。・・・ん〜我ながら素晴らしい例えだっ!そうは思わないかアリシア!?』
アリシアをチラチラ見る。
「・・・・・・・」
無視するアリシア。
『・・・・・・・つ・ま・り!私はその処理に追われなければならないのだよ!大樹くんを人種以外の適当な生物・・・理性を持たぬ適当な生物で━━━ミジンコにでも転生させてきたまえ!!━━っ早く行け!』
「・・・っと機嫌が悪そうにおっしゃっておりましたわ。」
━━━━━━?だからなんだというのか??余計な事だが機嫌が悪くなったのはアリシアにも原因があるように思うが。
「我が主のつまらない話を要約いたしますと、とっととミジンコに転生させてこい!でございますわ。」
━━━━━━カチンと来た!ミジンコ以外にも犬とか猫とかあるだろ!?なんて冗談にしてもこの状況、笑えない・・・・だが今はそこじゃない。
「ふっ、ざけんなよっ!小学生達には死んでほしかった!俺が余計なことをしたから迷惑だ!とっとと処理してこい!ってことか?助けた命と俺の命!!命をなんだとおもってやがるんだっ!━━っ!何が力になりますだっ!何が神だっ!」
すると、アリシアが間髪いれず誤解を解きに入る。
「力になります。と申し上げたのは嘘では御座いませんわ!わたくしの独断で力になります!ということなのですわ!」
━━━━━━?主に背くという事か?アリシアのメリットが全く見当たらないが・・・。
「我が主は大樹様を人の輪廻枠から外すつもりですわっ!先程も申し上げましたが、転生先が人種ではなくなるのです!主は、イレギュラーはイレギュラーをまた起こすのだ。と仰っておりましたわ。そのせいかと思われますの。」
今の僕にとっては大樹である僕の人生が全てで、戻れるならその後はミジンコにでもなんでも転生してくれて構わなかった。
一度しかない人生の今が僕にとっては全てだからだ。
「それがなんだ!俺には今が全てだっ!!」
アリシアの肩を掴み、荒げた声をアリシアにぶつけるように怒鳴ってみせた。 直後、今までのアリシアからは想像も出来ない表情、声で僕に訴えかけてきた。
「それでもですわ!大樹様は素晴らしいことをなされました!あなたのような素晴らしい魂を人の輪廻より外すなんて事を私は認めません!」
━━━━━━???転生官ってみんなこんなに人間くさいのか?だとしたら確実に向いてない。
アリシアに圧倒された僕は今だけは全てを飲み込み聞くことを選んだ。
「・・・・・良く聞いてください。わたくしを信じて言うとおりにしていただければ大樹様にとっても悪くない話となりますわ。」
「突然ではありますが魂にはランクがございますわ。・・・前世で善行を行えば、後世で優遇された人生を与えられますの。その中でも最高ランクを獲得した魂は過去何度も例はありましたが、その中でも特例転生として【前世に戻る事を選べる】というのがありましたの。」
━━━━━━つまり、僕にも戻れる可能性があるのか!?
「但し条件がございましたわ。【前世の身体が生きているにも関わらず、やむを得ず転生した者のみ特例とする。】というものでしたわ。」
━━━━━━今の僕そのままじゃないか!これならいける!帰れるっ!母さんや咲、みんな待ってるっ!・・・・・・・あっ!!いや、ダメだ。僕達は大事なことを忘れていた。
「それだと僕は身体に戻っても意識が戻らないまま死ぬしかないよ。」
落ち込む僕。そんな僕に向かいアリシアは両手を腰に手をあて下から覗き込んできた。同時に僕と目が合うと何故かアリシアが渋い顔でため息をついた。
「大樹様・・・・・話は最後までお聞きくださいませ。」
今凄く馬鹿にされた。アリシアの顔が夢に出そうだ。夢なんか見れやしないが、もし夢に出てきたら夢だし叩いていいかな?と思う。
もう馬鹿にされたくない僕はアリシアの話の続きに集中する。
「━━━━━━続きを申し上げますわ。大樹様のように、人生を途中で諦めなければならなくなった方の為の特例なのですわ。この際、大樹様のように意識不明の方への配慮もされておりますの。その配慮ですが、【戻る時間に制限を設けない】ですわ。」
今までのアリシアなら自分のことのように喜んでくれそうなものだが、アリシアは何故だか少し浮かない顔をしていた。
「ということは、僕は意識不明になる前に戻れるのか・・・・!マジか!?よしっ!よしよしっ!母さんっ、咲っ!帰る━━ッ、アリシアっ!頼むっ!その可能性に賭ける!転生させてくれ!」
戻れるというただの可能性があるというだけでこんなに嬉しいとは僕は思ってもみなかった。
「・・・かしこまりましたわ。」
アリシアはまだ浮かない顔をしていた。そして、その理由が解るのはまた僕が【死んでからの話】になる。
「では儀式を執り行いますわ。」
アリシアは自らの羽を一枚ちぎり僕に手渡すと、両手を胸の前で握り何やら呪文?を読み始めた。すると、アリシアの前に厚い本が足元から現れた。その本は色褪せボロボロで黒いモヤがかかっている。得体の知れない気味の悪さを感じる。
「汝、烏丸大樹。その魂は天より遣われし天使アリシアと契約し、『ルシア・アルケィディア』として転生する事を誓うか?」
━━━━━━転生って新しく生まれ変わるって事じゃないのか?ルシア?女性の名前?それにゼロからスタートじゃないのか?本もボロボロだし。・・・・不安は拭えないが今はアリシアを信じるしかない。何にせよこのチャンス逃せない!
「誓います!」
すると、アリシアはその本を手に取り開いた。中には血で書かれたサインの様な文字列が並ぶ。僕、というよりは魂が嫌な予感を感じとる。
「その羽でサインを・・・」
気味が悪い文字列の次の行に烏丸大樹とサインした。インクは付けてないが、赤い線で文字が浮かび上がる。
「誓いは誓約されました。」
その瞬間、床から約3m程の金属質の両開きの扉が現れた。
━━━━━で、デカイっ・・・
扉には美しい天使や見たこと無い動物が描かれていた。アリシアが、
「大樹。きっと大樹なら立派な魂となって、またわたしの所に帰って来てくれると信じてるから。」
━━━━━━さっきまでと喋り方が違う???
アリシアはまだ浮かない顔をしている。正直僕はあまり良い予感はしていない。ボロボロの本に、中身は血のサインの様な文字が並んでいたし、名前も決まってた。そしてアリシアの態度。でもアリシアを信じて、自分を信じて行くしかない。
「大丈夫。僕はみんなを悲しませたままにしない為に転生するんだ。」
震えた手を隠し精一杯笑って見せた。それでもアリシアは震えに気づいていたのか初めて会った時のように抱き締めてくれた。
━━━━━━その気持ちに答えないと男じゃないなっ。今度は泣かない!ありがとうアリシア。
震えも止まっていた。
「英雄嘗めるなよ?アリシア」
「そうでしたわね!ふふふっ♪」
最後にアリシアの笑顔が見れて良かった。ふと横を見る。母さんがまだ僕に被さって寝たままだった。
「この時期にそんな寝方してたら風邪引くよ母さん・・・必ず戻るから。」
すると、アリシアが、
「私からの特例ですわ。」
アリシアが椅子にかかっていたブランケットを持たせてくれた。
━━━━━━天使ってこんな事も出来るのか。っにしても、アリシアの特例って多くないか?転生先に加えてこんなサプライズとか借りばかりが出来る。・・・アリシアに拾ってもらえたのも【イレギュラー】だったりして。
僕はブランケットを拡げ母さんの肩にそっと掛けた。
「最後の親孝行にしない為に行くから。諦めないで待っててくれ母さん。・・・・じゃあそろそろ行くよ。アリシア、また会おうなっ!って縁起でも無かったか?」
「いえ?お待ちしておりますわ♪」
アリシアを背にして門を開ける。眩しい光が目の前に広がり僕は吸い込まれる様に門をくぐった。
大樹とは違う【ニューゲーム】の始まりだった
"僕は大樹としての人生を一度終えた。僅かな希望だった。カーテンから漏れるほんの僅かな月明かり程のぼんやりとした光。大切な人達の元に戻らないといけないという思いの前では、そんな淡い光でも大樹に戻るための未来に繋がっている道標に見えた。
〜天界〜
『━━━━━━シアっ!アリシアは帰ったか!?』
怒鳴る神はまだ機嫌が悪そうだった。それでよく神が勤まるものだ。
「ただいま戻りましたわ。」
それでもアリシアはしれっとしている。
『で、報告はないのか?大樹くんはどうなった!?』
更に機嫌が悪くなる神。そんな神の前でアリシアは、
「彼ですか?彼は━━━━━━ミジンコにして差し上げましたわ♪」
満面の笑みで神を欺いた。
最後のアリシアの一言がお気に入りです。
初めての作品で、とても小説とは言い難い出来ですが、書きながら成長していきたいとおもってます。
驚きや笑えるお話を盛り込み最後まで自分らしく書ききりますのでこれからも良かったらご覧下さい。毎週日曜日にアップします。
最後になりましたが0.5話、ご覧頂きまして有り難うございます!