第6話:俺の幼馴染み sideレキ
投稿遅れました( ̄▽ ̄;)
今日は、幼馴染みの17の誕生日。そして、彼女が王都に旅立つ日。ひとりで行くと言って聞かない彼女を道が分からないだろう、野宿の仕方をよく知らないだろうとどうにか説得して一緒にいくことに納得させるのに成功した。
「ユー、そろそろ行くぞ」
「はーい」
去年の誕生日にもらい、今日までしっかりも忙し続けていた馬のエリーのたてがみをブラッシングしていた彼女に声をかけて出発する。
まるで乗りなれたみたいに自由に馬を操る彼女は嘔吐の馬貸家よりもうまいのではないかと思ってしまう。考えてみれば、彼女が出来ないことなんてほとんど見たことがなかった。
彼女に会うのはこれで5歳の時に再開して以来になる。俺は、彼女に負けたあの時から強くなることだけを目的にして王都で鍛えてきた。そして、ようやく騎士になったのに。
彼女が冗談で言っていると思っていた『冒険者になる』を実現すべく王都へ向かうことを勝手に決めてしまっていた彼女に振り回されっぱなし。
それに王都には真っ黒な髪のイケメンの冒険者がいる。いや、国王に召し使えられているからお抱えの魔導師か。17になった彼女はそれはそれは美しく、そして年相応に可愛らしくなっていた。
そんな彼女を王都で、俺の隣で見せびらかせることは嬉しくもあり、そして俺よりも力ある人の目に止まってしまったならばどうしようという焦りがある。
それに、彼女の髪の色は深い紺色。黒とは言わないけれど、ゼノさんに似ている。女嫌いと名高い元冒険者お抱え魔導師のゼノさん。実際に俺も飲みに行ったことがあるが、追い払っていた為本当なのだろう。
名字は聴いたことがない。なんでも上層部の機密とか。古代からある力ある言葉の一つらしい。だから用意に名乗れないとか。その人に彼女は興味を持っている。
何でも、「黒髪なら見てみたいじゃない?」とか。
でもそれが理由じゃないことは分かる。
時間は長くなくても、彼女だけを見てきたんだ。ユーは時々、その年齢には似合わないほど影のある表情をする時があった。とても悲しげに笑う時があった。まるで、痛む心の傷を無理やり塞いで隠しているかのように顔を歪める時があった。
そして、ユグ、と呼ばれることを嫌った。俺がいない間にその呼び方で何かあったのかと思ったけど、母さんの話だと、昔からユーはユグと呼ばれることを嫌うらしい。
でも、ユグという単語は嫌いじゃないと思う。むしろ好きだとも。彼女自身がその言葉を口にする時、懐かしそうに目を細めて遠くを見やる。多分それは本人も気がついていない無意識の癖。
ほかの人にユグ、と呼ばれると色々な感情が入り交じったとても複雑そうな顔でそう呼ばないでほしいと告げた。彼女の着るワンピースの隙間から、一瞬見えた気がした紋。
彼女の特徴は『熾天』族のそれに当てはまる。紋があるということはもう既に神との邂逅を済ませているということ。でもそんな話一度たりとも聞いたことなんてなかった。
それなら、ユーが意図的に隠している?何の為に?そうすることで彼女にはなんの利点がある?
「レキ君?どうかしたの?」
考え過ぎていたらしい。心配げな表情でこちらをのぞきこんでくる彼女。近すぎる。勘弁して欲しい。
こちとらユーと自分の両親に襲うなよと徹底的に言われてきた身なんだ。頼むから俺の理性を壊そうとしないでくれ。
「大丈夫だ。あ、あと近い。」
「そう?ごめんね。」
本当に分かっているのか。彼女の特徴は人との距離のとり方が下手くそだ。基本的に近い。俺はまぁ、たまにしたくなるけどどうにか自分を律してきた。
だが、王都の他のやつならどうだろうか。この距離で楽しげに笑われたりなんかしたら、勘違いするなという方が無理だろう。
そもそも子供の数が少ない村と違って王都は溢れんばかりに人がいる。厄介事にならないといいが。
「ねぇ!あれが王都の門!?」
目の前にそびえ立つのは王都の正面門。村から出たことのない彼女にとっては随分と新鮮なものだったのだろう。
「そうだ。だから落ち着けって。こっちに並ぶんだ。」
はしゃいであちこち見回すユーを周りの奴らは微笑ましそうに見ている。顔を赤らめて声をかけたそうにしている奴もいる。
そんな奴に見せ付けるように彼女の方に手を乗せてエスコートする。
そこで、ふと違和感に気がつく。自然に手を取りエスコートされる彼女。だが村ではデビュタントなんでなければエスコートなんてされる機会もない。
なのに自然に、そう動作するのが当たり前のようにされる彼女は何処で学んだのだろう。そんなことを考えていると彼女は門番と話し込んでいた。
「へぇー!そんなに強いんですか。見てみたいです。」
「近いうちに式典がある。その時に歩くかもという話を聞いたから見てみるといい。」
「わっ!耳より情報ありがとうございます!」
「ユー、行くぞ」
彼女の手を話そうとしない門番の手を軽く振り払い彼女の手を取る。彼女はそのことに全然気が付かない。
全く。警戒心が薄すぎる。一人で来させなくて本当に良かった。
「いいか?あっちの角に宿屋がある。明日の朝に迎えにいくから夜は街に出るなよ?」
「もー、子供じゃないのに」
不満げな彼女をどうにか宥めて明日の約束をした。
そして俺は城に向かう。その途中でゼノさんと先輩のジークさんにあった。
「おっ、丁度いいところにいるなレキ!お前も飲みに行くか!いいよなゼノ」
「勝手にしろ」
相変わらずクールなゼノさん。それでも断られなくなっただけ前進だ。それに、返事を貰えることも。
今までどれだけ嫌われていたんだと言いたくなるだろうが、ゼノさんはそれがデフォだ。
「マスター、エール三杯。で、どうしたんだゼノ?珍しい、お前から飲みに誘うなんてな。」
それを聞いて俺は飲んでいた酒を吹き出しそうになった。
ゼノさんと仲のいいジークさんとはいえ基本的にジークさんがゼノさんを誘っている。
それにゼノさんが乗ることすらほぼない。なのに、ゼノさんから誘ったなんて。
4杯目のジョッキを開けながらゼノさんが言う。
「……もう、不安なんだよ」
もしかしたら酔っているのかも知れない。お酒に弱くはないと聞いていたが、彼が飲んでいるのは銘柄は見えなかったがストレート。強くても酔うだろう。
「不安?お前がか?冒険者からお抱えの魔導師にまでなって」
「そんなのはどうでもいいんだ。俺には、ずっと探している人がいる。ここなら見つけられると思ったのに、見つからない。俺は彼女が隣にいてくれたなら何も望まないのに……」
憂い気な表情でそう言うゼノさんはどこか遠くを見ていた。その表情が彼女と重なってつい口に出していた。
「その気持ち、少し分かります。」
二人がこっちを見る。
「俺には、ユー……ユーグラシアって幼馴染みがいるんです。
綺麗な紺色の髪に銀のメッシュが入っててめっちゃ美少女なんです。俺は彼女を守りたいのに彼女はどんどん危険な道へ進んでいってしまう。
守られる必要なんてないっていて。冒険者になる為に今日王都に来たんですよ。」
「それは、なんというか……止めなかったの?」
「止めたけど、負けちゃったんですよ。」
「え?君が?」
ジークさんが驚いた顔でこっちを見る。そうだろう。
主席で騎士になった俺が村娘に負けたとはなんの冗談だと自分でも思う。
「それくらいユーは強いんです。なのに向けられた好意とかに全然気が付かないし。」
俺も酔っていたんだろう。尊敬する2人に気がつけば愚痴を言っていた。
「ふーん、ユーって呼ぶんだ。普通ユグ、じゃない?」
その言葉に一瞬ゼノさんの方が揺れた気がしたがきのせいだったのだろう。
「ユーは昔からユグって呼ぶと怒るんです。でも、その名前が嫌いな訳ではなくて。人に呼ばれるのが嫌なだけみたい、みたいな」
「そうなんだ。何でだろうね?」
「でも、俺ゼノさんが女嫌いって聞いていたのでそんなに会いたい女性がいるなんて驚きでした。」
「確かに。僕も聞いたことなかったよ。その人のこと好きなの?」
「好きだよ。自分じゃもう抑えられないほどに。彼女には幸せでいてほしいのに、それが俺の隣じゃないと嫌だと思うんだ。」
俺はジークさんと顔を見合わせてしまう。それは心の底からそう思い、なにかに後悔しているといった風の表情だったから。
過去を慈しむように目を細めて笑うゼノさんを見たお店は男女関係なく顔が赤くなってしまった。基本無表情がデフォルトな彼の表情が変わったところなんてなんてプレミアだろう。
そんなに、その人のことを愛おしく思っていたのだろうか。
「だから、探しているんだね。」
「そうだ。俺は……」
そこで寝てしまったらしい。
「ゼノが寝落ちるまで飲むなんて初めて見たよ。笑うところも、ね。」
「俺もです。驚きでした。」
「ゼノの想い人か。会ってみたいな。」
あの時。ゼノさんが遠くを見ていた時。心のどこかがざわついたのに見ない振りをして酒を煽る。
「じゃあ、俺はそろそろ帰ります。」
「早いね。」
「明日、ユーと約束しているんですよ。これから一人で生きていくと思ってたのに、なんて言われたら誘わないわけにはいかないでしょう。じゃあ、お先に失礼します。」
そう行って帰る。
だから、その時にゼノさんが酷く驚いた顔で何かを決意したことなんて知らなかった。