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ユグの呼声《ヨビゴエ》  作者: 黄昏の罅
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第5話:幼馴染みの帰還











「お前ユーグラシアっていうのか。」







そういったのは幼馴染み?のレキ君。


最後に会ってからもう5年経つのか。最後に会ったあと、レキ君はお父さんの仕事で王都に引っ越していた。今の私達は7歳。


レキ君は私のことを覚えてないみたい。まぁ、2歳の時にあったのが最後なんだから普通覚えてない。




「そうだよ。あなたは?」



分かってるけど聞いてみる。これが普通の流れだよね。



「俺は、レキだ!」




うん。無駄に声が大きい。やっぱり王都は騒がしいから大声で話すくせでもついたのかな?微笑ましいなぁ。



「よろしくね、レキ君。」



「あぁ、ユグ!」




そうやって呼ばれた。昔みたいに嫌、とは感じない。でも、やっぱり。



「ごめんね、私はユグって呼ばれたくないの。」




ユーグラシアは普通ユグって略す。だから、この話をしたことは何回もある。




「は?何でだ?」


「なんでも。とにかくその名前で呼んじゃだめなの。」


「お、おう。」




私の必死さ?が伝わったのか彼は私のことをユーと呼ぶことになった。

もう二度と会えなくても、会えないからこそ、私の事をユグと呼ぶのは彼だけでいい。



















「こっちだ、ユー!」



あれからというもの、ことある事にレキ君は私を連れ出す。楽しいからいいのだけど、普通の女の子なら体力が足りなくなっちゃうよ?


私は魔法でパッシブドーピングしてるからこそ耐えられるのだ。




「俺は騎士になるんだ!実は、王都にすっげーつえー兄ちゃんがいてな!名前は知らねぇんだけど超かっこいいんだぜ!」


「ふーん」


「お前、興味無いだろ。」




騎士といえば、私の兄さんが騎士候補生になった。

やっぱり、兄さんは夢を叶えられるのだろう。凄いなぁ。


優しげな雰囲気の裏腹に若干腹黒に育ってしまった兄さんは私のことをものすごく可愛がってくれた。



多分、家では一番懐いてるかもしれない。お父さんもお母さんも畑仕事とか狩りとかで忙しくて、私の世話を一番してくれたのは兄さんだったからね。



だから、騎士に興味が無いわけじゃない。むしろ、王都の騎士に兄は師事している状態なので色々気になる。


いい人なのか、理不尽で不当な扱いはされていないか。正しい方法で正しい剣を学べているのか。



本当ならば私が教えてあげたいくらいだけど、三歳も年下の妹が突然習ったどころか見たこともない剣の型について熱く語りだしたら引くだろう。私だってドン引きする。



でも、私は騎士よりも私の未来になる予定の冒険者に興味があるのだ。





「無いわけじゃないよ。私はね、大きくなったら、冒険者になってあちこちを旅したいの。」



そう言うとレキ君は物凄く驚いた顔をする。初めてこの事を話した時のお母さんと同じ反応。


お父さんと兄さんはこの世の終わりみたいな顔をしていたな。


その後物凄く慌てて、命をかける仕事なんだとか、鍛えてこなかった村娘がわざわざ選んでなるようなものじゃないと。


それでも私が魔法を見せて三日三晩力説した末に折れてくれた。




一番簡単なのは背中に現れた天使の羽をモチーフにしたタトゥーを見せてそれが何かを教えることなんだろうけども、それには別の弊害が出そうだからやめておいた。


いきなり現れた日には、なんで!?って思ったけれど、考えてみたら神のうんちゃらかんちゃらがシグレ様との夢での邂逅で果たされたことになったんだろう。



だから、背中に紋が現れた。


その頃には魔力も完全に制御できるようになっていたし、あの後訪れた魔導書だらけの場所の魔導書が夢じゃなくて本物ということが分かった。


最初は物凄く驚いたけど、多分あれも私に贈られた報酬の一つなのかもしれない。


私は神とは違うから神格を上げるなんてできないもんね。





「お、おい!!お前、この街を出るのか?女のお前が冒険者になる為に?」



大きな声をかけられて思い出す。話途中だったんだ。そしてその、ちょっとした差別的な言い方にむっとした。



「そうよ。悪い?貴方よりは強いと思うけど?」




人生経験というか、対人経験だけが不足している私は男の子のプライドを傷付けることを言ってしまった。ということに言ってから気がついた。


そうだった。似たようなことを彼にした事があって、それ以来彼にだけはちゃんと発言を考えるようになったんだった。なのにまた繰り返してしまうなんて。



こんなことなら、前世の時からもっと他人とコミュニケーションを取っておけばよかった!!



「は!笑わせんなよ。俺は騎士になる為にもう訓練もしてるんだぞ?お前みたいなヘナチョコな女に負けるわけねーだろ!!」



失敗してしまった。どうしよう。今回のは完全に私が悪いので謝って許しを請うのも吝かではない。


そもそも、この勝負を受けて年頃の男の子を打ちのめしてもいいものなのだろうか。



私の強さを知る彼のお母さんに視線を向けるとむしろやっちゃってみたいな感じで返された。


これは、あれだ。年頃の変に才能のある男の子が物凄く調子に乗っちゃってるやつなんだろう。



まぁ、断る理由もないし受けてたとう。




「どうなっても知らないからね?」




裏の広場へ歩いて行く。その間にどんどん魔法をかけていく。レキ君にデバフ魔法を掛けてもいいけれど、気乗りしないからかけない。



軽量化に感覚鋭化、その他諸々をしっかりとかけて怪我しないようにしておく。これで怪我してしまったら私がお母さんにどれだけ怒られるのか分かったもんじゃない。



男に勝負を売るなーとか、やっぱり冒険者は危ないとか、言われてしまってはかなわない。だから、万全の状態で。



そして、勝てると思い込んで止めない彼。思い込みと先入観か油断以上に恐ろしいものだ。






女だから。村から出たことがないから。彼のそんな思い込みは全て壊してしまおう。





「かかってこい!」




ご丁寧に初手を譲ってくれた。なら、御言葉に甘えて。そして、私からも警告をあげましょう。




「受身を取りなさいっっ!!」




そういうと同時に地面を蹴り右手に召喚した魔法陣のボックスから直接刃を潰した模擬刀を取り出す。それを左から右へと振り抜くのと同時に剣圧を調節して体がうっかり切れてしまわないようにする。






「かはっ!?」








「ふぅ。」




反対の木の方向まで吹っ飛んだレキ君の方を一瞥して息を整える。


元々乱れてないが、戦闘、それも久々の対人戦に高ぶってしまった感情を落ち着ける意味で深呼吸をする。


それでもさすが王都で鍛えていたからか、受身は取れていたみたい。

これで取れてなかったら私は彼を軽蔑してしまったかもしれないな。

人の実力どころか、自分の実力すら把握できない愚か者として。



「ね?私他にも沢山魔法も使えるの。17になったらこの村から出ていいって言われてるの。」



驚愕の表情を隠しきれない彼に手を差し伸べる。レキ君はそれを握り悔しげな表情を隠すことなく言う。




「そうだな……王都にも女で強いやつも沢山いたしな。ごめん」




騎士を目指すのならば、考えや狙いがバレないように腹芸を覚えた方がいいよ、という言葉はどうにか飲み込んだ。



「うん。私こそごめん。ついいじになっちゃった。」




そんな私たちふたりをお母さんは物凄く微笑ましそうに見ていた。


歩きながら、またレキ君は王都の強いひとのことを語っている。





「夜匀様みたいに真っ黒な紙で3体も悪魔を従えてるだぞ!それに魔法も剣も超絶凄くて、国王に召し使えられてるらしい。」


「黒髪、ねぇ……」




そうやって聞くとどうしても浮かぶのは彼の顔。でも、きっと彼じゃない。


彼の従える悪魔は3体程度じゃないし、国王に召し使えるようながらじゃないもん。

でも、夜匀様に関係深い人かも知れないから一度は見てみたいな。



「後は、見た目が全然変わってねーらしい。それに、寄ってくる女は全部適当にあしらってるって噂だぞ。それどころか女嫌いとか。」


「じゃあ、魔力が高い人なのかもね。って、イケメンで女嫌いって……もしかして、ホモ?」



この世界では魔力が高い人ほど寿命が長い。20歳くらいの一番肉体と精神のコンディションが高いところで一度成長をやめ、それからゆっくりと後退していく。



「そんな噂もあるな。でも、高魔力に黒髪を受け継がせる為に国王様は姫さんやらなんやらを見合い相手に勧めまくってるらしいぞ。」


「もしかしなくても、がっつき過ぎた女達がその人の女嫌いの原因何じゃないの?」



いつだった、実体を持つ彼と2人で買い物に行った時にお化粧が濃いめのお姉様方に話しかけられてぶっ殺そうとしていたのを止めた記憶がある。



「そうかもな……」


「レキ君も気を付けなね?かっこいいんだから。」



今まで調子に乗っていたとはいえ、むしろそのくらいがかっこよく見えるお年頃だろう。


王都で騎士の訓練なんかしていたら尚更。


モテるだろうからその人と同じ末路を辿らないといいけど。そんなことを思っていると、やけに隣が静かだ。振り向いてみると彼が顔を真っ赤にしていた。




「大丈夫?熱があるんじゃない?」




おでこをくっつけて熱を図ろうとしてもすぐに逃げられてしまった。大丈夫かな?頭を抱えちゃってる。





「……こいつこそ自分が女でめちゃくちゃ可愛いって自覚ないよな……」





「ん?何か言った?さ、家に帰ろ?ちゃんと休んだほうがいいよ。」


「……あぁ。」



彼が言っていたことはうまく聞こえなかったけど、レキ君も言い直さなかったからそんなにたいせつなことではないのだろう。





そうして私達は手を繋いで家に帰った。





















私はまだ知らない。






















彼の心も、王都にいるその人の事も。












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