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ユグの呼声《ヨビゴエ》  作者: 黄昏の罅
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第1話:死にたがりの魔女

ども!すーぱーがーるのナギちゃんです。新作始めました。区切りのイイトコまでかけてるので投稿開始します。最初の二つは長め。(๑•̀ㅂ•́)و✧










ここは東京、国会議事堂近くの大通り。


沢山の人の叫び声が響く。

仕事帰りのサラリーマンにデートからのお持ち帰りなラブラブカップル。孫とお出掛けをしているおばあちゃんに学校帰りの高校生。


彼らが示し合わせたように私から離れるように走り去って行く。ある者は怯えたように、またあるものはバケモノを見るように。



そんな彼らを尻目に私は沈んでいく太陽を見やる。







──あと、9時間。








三時間ほど切り続けて、切れ味の落ちてきた刀を名残惜しくも投げ捨てる。投げ捨てるって言っても離れた人の足に刺さるように狙って投擲したのだけれど。



そしてサイドポーチからハンドガンを取り出してセーフティを解除する。背中に掛けたライフルでもいいけど、もしうっかり殺してしまったら目覚めが悪いじゃない。



何の罪もない人を殺したい訳では無いのだから。

逃げ惑う人々の中からたまたまそこに居た幼い少女の太ももを撃ち抜くと、国会議事堂の方向を見やる。


10キロほど離れた所に武装し、統率された集団の存在を感̀知̀した。これでミッションはステージ2に移行できる。

予想より遅かったな。


わざわざ警備が強化されている重要な会議の日を狙ったのに。3時間も待たせないでほしいわ。

いや。あぁ、そうか。先に重要人物を逃がしてたのね。そう考えると納得だわ。




『ごめん、お待たせ。ようやく来たみたいだからミッションをステージ2に移行します。』




ようやく見つけた協力者達に連絡を取る。

了解の回答を得るとすぐに回線を切り替えて、すぐ側に流れる電波から日本全土のネットワークを掌握する。



そこから、私の姿を映し出す。






『初めまして、皆様。私達は【狂人の宴】と申します。


20の自殺志願者と10の狂人に、わたくし死にたがりの計31人が演じるゲームはお楽しみ頂けているでしょうか。


開始から3時間が経過し、国会議事堂の方に警備員含む武装した方々が来たご様子ですので、これにてチュートリアルを終了したいと思いますわ。


ここからが本番ですの。このゲームにおける貴方がたの勝利条件は、「私を殺す」事。あぁ、私以外の所詮彼等はネットから集められた烏合の衆ですのでら私の指示無くしては禄に動けませんよ。

だからさっさと始末してしまってくださいな。


私を殺すのが勝利条件な理由も軽く説明いたしましょうか。

信じ難い事でしょうが、私は少々特殊なんですのよ。

普通に死なないの。とある悪魔と契約していましてね?

その恩恵で不老不死なんですよ。



どんな外的要因でも死なないの。ふふ、凄いでしょう。こんな見た目だけれど、もう百年以上生きているんですのよ?

だって本当に何したって死なないんですもの。



たとえ、心臓を貫かれても、首に刃を通されても、水中に漂い続けても。



……おっと、話が逸れてしまいましたね。そうそう、夜と月に愛された私が死ぬ為には光と太陽に愛された人間が必要なんです。





だから、日本全国に宣戦布告します。わたくしを止めて見せない。



人を集めてゲームを開始する為のチュートリアルでは人を殺していませんが、小娘1人なかなか殺せないなんて、言いませんよねぇ?あまり甘っちょろい事しないでくださいよ?



時間制限は今から9時間。9時間経っても私が生きていたら、殺戮パーティーを開始しようと思いますの。


手当り次第、目に入るもの全てを殺すわ。あぁ、そうだったわ。太陽の愛し子は男で今年で21になるらしいの。そして、警察官をしているみたい。


ようやくここまで分かったの。百年以上待ったんだから。もう、終わっても良いでしょう?待ってるわ。私を殺せる、太陽の愛し子。



さぁ、無様に踊りましょう?愚かしく艶やかに血濡れて舞いましょう。私は魔女。悪魔と契約し道を踏み外した、人ならざるもの。闇に堕ちし者。


ゲームはまだまだ始まったばかりよ。生き残りたいならば、地を這い貪欲に貪りなさい。


お互い、存分に楽しみましょう。健闘を、心より、お祈りますわ。』





あらかじめ作られていた台本を、あたかも今考えながら話しているように語り終わると、頭がちょうど痛くなって来た。


流石にここまで発達したネットワーク全掌握は負担が大きい。最強の大悪魔帝なんだからもっと頑張りなさいよ、と独りごちて前を見やる。


顔を強ばらせた男達がこちらに銃を向けている。私は黒と白のゴシック調にしてはシンプル目なワンピースの裾をつまみカーテンシーで挨拶をする。




『御機嫌よう、皆様。お待ちしておりましたわ。さぁ、私と遊んでちょうだいな。』






──あと、7時間30分。






女の声と高い声が混ざったような合成音で話す。カーテンシーにこの口調は時代が違うことは分かっている。


いつもはこんな喋り方なんかしない。ソレらしい雰囲気作りのためにこんなことをしているのだ。


やむを得ない事情で悪魔と契約してから随分とたくさんの力を得た。私自身が元々月と夜に愛される愛し子ということもあって悪魔との相性がそれはそれは良いらしい。



どれくらいいいかって言うと、契約していないのに光が嫌いな悪魔が起きたい時間に朝起こしてくれた。


さらに、闇の、夜と月の最高神である夜匀神やひとがみ様が加護をくれて元熾天使の堕天使と同等ほどの能力を得た。


そして、我侭で傲慢の象徴である悪魔、その中でも最高位、つまり神に準ずる格をもつ大悪魔帝が幼い私の願いを叶えるために契約してくれるほどに。




「痛いのは嫌だ。ここから逃げ出して、一人で生きたい」



ただの人間の、それも小娘に寄り添うなんてことをした事の無かったであろう彼は戸惑いつつも私の世話をしてくれた。


使えられる側の彼がそんな事をしてくれ他おかげでその時、3歳だったにも関わらず、

私はしっかりと見た目年齢15歳、精神年齢百歳超えまで成長する事が出来た。




私にとって彼は、何よりも大切な存在。だから、私は死にたいの。私と彼の契約は、『私が生きる事』。



そして、代償として私は私の魔力というものをあげる。この世界では魔力を具現化出来ないらしい。


だから、身体接触で彼に魔力を受け渡す。あ、エロい意味じゃないよ。普通に手を繋いだりで大丈夫。




でも、これは特例中の特例。




魔力はあくまで彼が実体を保つのに必要なもの。召喚者側が用意して当たり前のものなのだ。これは代償とは言えないだろう。


だから、彼は一月に1度途方もない程の痛みに襲われ、独りで耐える。悪魔のアイデンティティ崩壊の足音。



彼が最高位で強い意志を持つからこそ、存在できているのであって他の、彼よりも一つ格が低いだけで一度たりともその痛みに耐えられずに死んで、消滅してしまうものらしい。


この事を聞いたのは半年前。ずっと一緒にいたのに気がついてあげられなかった自分に嫌気が差した。9時間の時間制限。



それは彼の痛みが引くまでの時間。それまでに私が死ねば、彼は解放されるの。





私という、重荷から。鎖から。




……いやだなぁ。彼から離れたくない。私以外の人が彼の隣にいる所を、見たくない。でも、私がいる限り、彼は『夜と月』を強く持つ私から離れられない。


彼が、私がいなければ出逢えるであろう、魅力的な契約者。

私みたいな生まれつき持つステータスじゃなくて、その人自身に惹かれて契約したいと想える相手に出逢えるのだろう。



そして、それは、きっと私じゃない。私が我侭で奪っていいものでもない。




物思いに耽っていると周りはもう随分静かになっていた。



きっと、前に来た人間を私が撃たないから。私は白と黒の仮面を外す。


悪魔と契約すると悪魔の象徴の色に瞳が変化する。



私は金。さらに悪魔や加護の力を使っている間は右目が紅くなる。それを隠すための仮面。異能を使ったタイミングをバレないようにしていた。


まぁ、そんな事しなくても負けなかったみたいだけど。余計なことを考えながら適当に、力をほとんど使わずに相手していたからか、随分時間が経ってしまったみたい。




──あと、10分。




『あぁ、見つけた!見つけたわ!私を殺す人!太陽の愛し子!さぁ、私を、わたくしを、ワタクシを!!』



狂ったように大袈裟な動作で両手を開く。





──あと、7分。彼が息を呑むのがわかる。





『『あは、あはは、アハハハハ!!!』』



そして、高ぶった感情の狭間にふと気がつく。

最悪。私も時期が重なってたみたい。頭を掻きむしりながら叫ぶ。




これは、破壊衝動症候群はかいしょうどうシンドローム



唐突に、全て壊して奪って破壊して。そうして何もかも無に帰したくなってしまう。満たされないこの空白を埋めたくなってしまう。


彼が居れば、抱き締めてくれた。

私が嘆いて、叫んで、叩いても。優しく抱き締めてくれる。背中を撫でてくれる。


そうすると、何もしなくても段々落ち着いて、眠ってしまう。その彼がいない今。私を抑えてくれるものは何もない。



そして、この空白は二度とうまることはない。心に空いた穴は、二度と塞がることは無い。

抱き締めた時に聞こえる心音も、背中を撫でる手も、もう別の人のものになる。





でも、それでいいの。私が縛ってしまった彼が幸せになれるなら何でもいいの。その為なら、私は我慢出来るから。





──あと、3分。





愛し子が銃を持ち、セーフティを外す。震える手を必死に抑えようとしているようだ。まぁ、警官だからといって人殺しが怖くないはずない。



ごめんなさい、余計なものをあなたの人生に背負わせることになるね。ちょうど私ももう抑えきれないから。

私がもっと死ぬべき悪人になればいい。




『『あはハハはー!?』』




合成音にさらに高い音とハスキーなノイズが交じる。もう、だめ。制御出来ない。渦巻くような衝動が飛び出そうと暴れ回る。まずは私を呑み込んでしまえと言わんばかりに。




そして、とうとうどこからかガチャガチャと『鍵』が開いていってしまう音が聞こえてくる。最後まで持つかな?





──あと、2分。






仕方が無いので、力を開放する。周りの建物が音を立てて軋み、ビルの窓が割れて丑三つ時に光るネオンの看板が落ちる。

そして、道路が盛り上がり、木が倒れる。



もう、お膳立ては十分でしょ?




「はぁっはぁっ」愛し子の息が荒い。時間が無いことがわかっているみたい。きっとこっちを睨んでくる。






──あと、1分。






私は微笑む。一気に解放したからか少し落ち着いたみたい。能力も制御下に戻ってくれたし、これなら問題ないかな。




『『さぁ、殺しなさい。じゃないと沢山の人が死ぬわよー!あはっ!』』




これだけお膳立てして、煽ったのにまだ随分と悩んでいるみたい。だからもう少し、もう少しだけ煽ってみる。





──あと、30秒。





ようやく決意ができたみたい。深呼吸をしてこちらを見つめる。







──あと、15秒。







私は仮面を片手に持ち、両手を開く。








──あと、10秒。








さぁ、早く。早く撃ちなさい。









──あと、5秒。









あぁ、もう。貴方が遅いから彼が来ちゃうじゃない。まだ痛いだろうに。まったく。










──あと、3秒。










この世のものでは無い力によって私の横の空間がねじ曲がる。












──あと、2秒。












愛し子は気が付かない。そして、トリガーを引く。













──あと、1秒。













そこに現れた彼が酷く驚いた顔でこちらを見ている。時間の流れが遅く感じる。それでも、彼は動けない。



私が、解放した全ての力を使って抑えているから。そうしても、私が抑え込めるのは数秒が限度。でも、今ならそれで充分。




「大好き。さよなら、どうか、どうか、幸せに。」




最後は上手く笑えただろうか。貴方と契約するであろう誰かに、嫉妬した歪んだ顔なんてしていなかっただろうか。






































─────あと、0秒。

























さよなら。私の最高の、最愛の、百年連れ添ったパートナー。







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