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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
ジンセキ
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94. HAっぴィエNど

 歌が聞こえる。廃ビルの屋上で子供達が歌を歌っている。

 上の方からピアノが聞こえる。子供達の上で誰かがピアノが弾いている。

 その歌は小学生や中学生の合唱であれば、歌った事、或いは聞いた事がある「戦争○知らない子供たち」だ。

 酷く黒い地面の上に立ち、服はボロボロで様々な人種で男女の子供達が手と手を取り合い、輪になって、クルクル回りながらその歌を歌っていた。

 黒い地面の下には崩れた瓦礫が散乱している荒れた地面。子供達はチラチラとその地面を見ていた。

 しかし、その子供達は今にも恐怖で泣き出しそうなのに必死にこらえて顔が強張り必死に楽しそうに演じていた。

 そして、歌い終わった時、子供達の上から声が聞こえた。


『ジョウズニウタエタネェ・・・』


 心の奥底まで響き、不安と戦きを一気に噴き出す様なそんな不気味な声。

 聞いた瞬間、思わず体を震わせる子供が幾人かいた。その様子に気が付いた隣の子供がダメだ震えるな怖がるな、と小声で言い聞かす。そんな子供達とは余所に声の主は静かに子供たちを見守る。


「「「・・・・・・・・・・・・」」」


 その声に子供達は決してその声のする方へ見ようとしなかった。するとその声の主はその様子に気が付いた。


『ンン?ドウカシタノ?』


 その声を聞いた子供達は一斉に顔を上げる。


「「「・・・・・・・・・・」」」


 笑顔になっている子供達だった。

 しかしよく見れば顔は生きているのかどうかすら判別がつかない程にまで蒼白で額にはびっしょりと大量の脂汗が流れていた。


『・・・ダイジョウブソウダネ』


「「「・・・・・・・・・・・・・」」」


『ソウソウ、サッキノウタハスキカイ?』


「「「大好きです!」」」


 大きな声でそう答える子供達。しかしその顔は怯えて顔が強張った笑顔だった。


『ホントニ?』


「「「世界一好きです!」」」


 さっきよりも更に大きな声で答える子供達。


『ソウカ、ジャアタノシミニシテマッテイルヨ・・・』


「「「・・・・・・・・・・・・・」」」


 更に強張った笑顔になる子供達。


『コレ・・・キョウノブンダヨ・・・』


 カンカンカンカンカンカン…


 そう声が聞こえて上から落ちてくるのは大量の缶詰だった。その缶詰は子供達が立っている黒い地面よりも下の荒れた地面に落ちた。


「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」


 落ちてきた缶詰を見てホッとする子供達。すると上からまた声がした。


『アシタモソノウタキカセテモイイカイ?』


「「「はい!」」」


『ジャアマタアシタ』


 声の主がそう言うと子供達は少し安堵の顔になる。立っていた黒い地面からもう一つ下にある崩れた瓦礫がある地面に順番に降りる子供達。

 全員が下りた瞬間、黒い地面が急に動き上の方へ移動した。上を向くとそこには酷く黒い巨大な人影があった。


「「「さよなら~!」」」


『サヨナラ』


 声の主はその巨大な人影だった。その人影は100m以上もあり、顔が子供たちの方へ向いていた。


「「「・・・・・・・・・・・」」」


 子供たちの顔が更に蒼白になる。全身、全てが黒く、その顔は大きな目と大きな口があり、鼻は無かった。目は白目に当たる部分は血のように赤く、瞳は全てを吸い込まれてしまうのではないかと不安と恐怖を煽る様な黒だった。

 そして、その人影はどういう訳か巨人ではなくそれは怪物と表現するのに相応しいと判断してしまう存在だった。

 その怪物は大きな目がギョロリと子供達を見据えて耳元まで裂ける位に笑っていた。その目を見ると体が動かなくなり、背中に大量の氷を押し付けられたような恐怖が洪水の様に伝わってくる。


『・・・・・・・・・』


 怪物の視線は子供達から来た方向の道の方へと視線を向けてそのまま歩んでいった。


 ズズン…ズズン…ズズン…


 その怪物は見えなくなる位まで小さな地震を起こしながら子供たちの元から去って行った。立ち去った事を確認した子供達は缶詰に目を向ける。


「「「・・・!!!」」」」


 目の前にある缶詰に一斉に群がる子供達。当然起こるのは少しでも多く手に入れようと喧嘩が起きる。


「これ俺のだ!」


「取るな!」


 そうギャーギャーと騒ぐ子供2人。誰かが喧嘩を止める様な時間も無い程の喧嘩が始まった瞬間だった。


 ドスッ…!


「「「!?」」」


 缶詰を取り合っていた2人の子供の首から黒い鋭利な棘が貫いていた。当然子供2人の口から血を吐いていた。


「ア“ッ…!」


「ガッ…!」


 その2人はおろか近くにいた他の子供達も何が起きたのかが分からなかった。ただ分かっているのはその黒い棘は怪物が立ち去った方向に伸びていた事だ。

 何が起きたのか分からなかった、丁度その時立ち去った方向から声が聞こえた。


『ケンカハダメダヨ』


「「「!」」」


 あの心の奥底に響くような不安を煽るあの声が再び聞こえた。怪物は刺した子供達2人をそのまま上に上げてゴミを放り投げる様に遠くに投げた。

 捨てた方向方を確認した後すぐに怪物は子供達の方へ向いた。


『ナカヨクネ』


 捨てられた子供達には何の一瞥も無く只々必死にその言葉に返事をする子供達。


「「「はいっ!」」」


 声が震えている事が明らかで、顔色は最早死人の様な土色だった。


 他の廃ビルの屋上でも幾人の子供達が住んでおり、怪物がやってきてはその歌を歌わされる。その歌の見返りに缶詰が手に入るのだが、一日に2缶程しか手に入らない。その上喧嘩に参加した者や逆らった者は容赦なくすぐに殺された。

 今の「ブレンドウォーズ」の世界では人類は怪物によってここにいる子供達の様に管理されていた。



 暗い闇の中、声が聞こえる。


「ス・・・ォス・・・」


 聞き覚えがある。若いが渋みのある男の声。


「カ・・・ァカ・・・」


 こっちも聞き覚えがある。若くて優雅でそれでいておっとりとした少女の声。


「ァマ・・・サマ・・・」


 この声は間違いない。礼儀正しく丁寧過ぎてどこか機械的ではあるものの服にはうるさい男の声。


「ボス!」


「若!」


「旦那様!」


「っ!」


 バッ!


 シンが起きた場所は自分の基地を建設中である為、軍事施設内にある会議室を暫定的な自室として宛がわれた。その為中は会議室でよく見かける長机にパイプ椅子。会議室では不似合いな大きなタンスに病院にある様なベッドが置かれていた。シンはその長机で急に眠たくなり長机の上で居眠りをしていた。

 魘され顔が増々青褪めていくシンの様子を見た3体はシンを起こしていた。

 そして3体の心配する叫び声に跳び起きるシン。シンの顔は今まで見た事が無い位に青褪めて、滝の様に冷や汗をかいていた。

 そんな様子に先に心配の声を掛けたのはアカツキだった。


「大丈夫かボス!?」


 目の前のキャップに目をやるシン。すると右の方から今度はリーチェリカの声がした。


「魘されてたで~」


 リーチェリカはシンの右側にいた。肩と背中に手を添えていた。どうやら体をゆすって起こそうとしていた様だ。


「何かお飲み物を持ちしましょうか?」


 シンが起きた事に安堵したグーグス。気を落ち着かせる為に何か飲み物を持ってきた方が良いか、と提案する。シン自身も大量の冷や汗を掻いたせいなのか喉がカラカラに渇いていた。


「あ、ああ、そうだな。頼むよ・・・」


「畏まりました」


 そう言って恭しく一礼してその場を後にするグーグス。するとリーチェリカはシンの顔をマジマジと見ていた。


「どないしたん~?汗びっしょりやで~」


「全くだ。具合が悪いわけじゃないだろ?何か嫌な夢でも見たのか?」


 アカツキはシンの臓器全てが「BBP」になっている事を知っていた。その為病気になる事が無い事を知っていた。その為具合が悪くなるのは別の理由であると考えた。


「・・・ああ、「ブレンドウォーズ」の事でちょっと嫌なもんを、な・・・」


「「・・・・・・・・・」」


 アカツキとリーチェリカは何も答えなかった。シンと深い関係にある者であればシンが何者なのかはよく知っている。つまりこの場に居るアカツキとリーチェリカはおろか、グーグスもシンは何者なのか知っていた。

 そして今回のシンが魘されていた原因も知っていた。それ故に何もできない。その原因を何とかするにはシン自身がどうにかしなければならないからだ。

 シンが見た夢は「ブレンドウォーズ」の5つある内の1つのED(エンディング)だ。悪い順に並べると、「ワーストエンド」、「バッドエンド」、「トゥルーエンド」、「ハッピーエンド」、そして「ベストエンド」の5つある。

 現実の世界の真は「ブレンドウォーズ」の2つのED(エンディング)を見た。どちらも決していいED(エンディング)ではない。

 まず真が見た一つ目のエンディングは完全に機能している国家機関がどこにも存在せず、生きている知的生命体は、ほぼ死滅したP(プレイヤー)C(キャラクター)が唯一の人類として一生を過ごすという「虚無と孤独」、つまり「バッドエンド」だ。

 そして、もう一つのエンディングがさっきの怪物が登場するED(エンディング)P(プレイヤー)C(キャラクター)が黒い人型の巨大な怪物となり荒廃した世界を支配する暗黒郷(ディストピア)。「HAっぴィエNど」と呼ばれる事実上のバッドエンドの上をいく、「ワーストエンド」だ。

 当時、使用された曲やこの様なED(エンディング)が流れた事によりネットでは相当な物議を醸しだした伝説のED(エンディング)として話題になった。


「・・・・・・・・・」


 シンがそんな事を思い出しているとグーグスが飲み物を持って戻ってきた。グーグスはそっとシンに近付いた。


「麦茶でございます」


 そう言ってシンに麦茶が入ったコップを差し出した。


「・・・ありがとう、グーグス」


 そうお礼を言って手に取り、一気に麦茶を飲みほした。


「お具合の方はよろしいですか?もし悪い様でしたらご休息をとられた方が・・・」


 グーグスは心配してそう提案する。だが、シンは首を横に振った。


「いや、大丈夫だ。それよりもこれからの事について話したい」


「これからの事?」


 シンは静かに頷き、続きを話す。


「恐らくだが、この世界にこの島にはない、或いはこの島では少量の物質が他に存在する」


 シンがそこまで言うと物質の調査に携わっているグーグスとリーチェリカは静かに頷いた。


「そう言った物はどこからか手に入れないといけない」


 シンがそこまで言うとグーグスとリーチェリカは再び静かに頷いた。


「そこで他所からの資源調達は基本的にグーグスに任せる。ただ、グーグスにはなるべく目立たない様にして欲しい」


「畏まりました」


 グーグスは頭を縦に振った。それを見たシンは更に続きを話す。


「それから、この世界には盗賊と奴隷商人と言う人間が存在する。そこから大量の資金や資源を手に入れる事ができる。だが、全てグーグスで行わせると後々拙い事が起こる可能性がある」


 シンの言う通り、グーグスに全て任せるとグーグスの能力や身元等がバレてしまう可能性がある。となるとグーグスは飽く迄もアシストやサポートで資源調達のリーダーを決める必要があった。


「・・・」


 シンはリーチェリカの目と一瞬あったが、すぐに逸らす。その時のリーチェリカは何故か妙に潤んでいた。まるで子犬の様なクリクリとした何かを訴えかける様なそんな目。


「・・・・・・・・・」


 シンは両目を少し強めに瞑る。


「・・・当然アカツキは論外」


 アカツキはその巨大な体故、その場にいて主導する事は出来ない。


「・・・・・・・・・」


 片目をあけるシン。

 その目に映ったのは右手を軽く拳にして口元に当てる。少し愁いの形になる眉に、潤んだ目でチラチラとシンを見る。明らかにオーソドックスな乙女チックな仕草をするリーチェリカ。

 そんな様子のリーチェリカにシンは深いため息を吐いた。


「・・・誠に、本当に、全く持っっっっっ・・・・・・・・・・・て、不本意だが、盗賊と奴隷商人の件はリーチェリカに任せようと思う」


「え、その言い方は何なん~?」


「だって、下手すれば俺の許可なくその場で盗賊や奴隷商人はおろか奴隷も人体実験に使うだろ」


 シンがそこまで言うとリーチェリカはクネクネしながら文句を言う。


「え~、うちそないなんせぇへんよ~。それに~うち研究にせわしないし~」


「やっぱり俺がやろう」


「ああ待ってぇなぁ~!それうちがやる~!報告してもええから~!ちゅうか報告するさかい~!」


 慌てふためくリーチェリカ。明らかに言質をとったシンは畳み掛ける様に言い切った。


「じゃあリーチェリカに任せるな。グーグス、しっかり監視してくれよ?」


「畏まりました」


 シンがそう言うとグーグスは恭しく一礼して承諾する。言質を取られた事に対してなのかリーチェリカはむくれた顔になっていた。

 そんな中今度はアカツキが口を開いた。


「ボス?」


「ん?」


「資源調達に外貨も必要じゃないのか?」


「・・・・・・・・・」


 この世界での必要としている資源で最も手放したくないと言えば何かしらの金属が出る鉱山だろう。その鉱山から出る金属はその国の物になる。手つかずの鉱山と言うものはなかなかそうないだろう。それにたとえ発掘したとしてもその国の領地の物と相手の主張が出てくる。そうなれば何かしらのいざこざが出てくるだろう。それを可能な限り避けるにはその金属を手に入れるにはそれなりの資金が必要になる。


「こっちからも商品を作って売った方が良いんじゃないか?」


 となればどんな商品がいいのかを考える必要がある。シンは数秒程黙って考える。


「・・・・・・・・・」


 需要が高い物と言えばやはり生活必需品だろう。

 だが、だからと言ってこの世界に可能な限りゴミは出したくない。現実の世界のゴミのほとんどにはどんなに少なくともプラスチックが使われている。

 この世界の文明レベルが中世ヨーロッパレベル。という事はゴミの管理の仕方がよく分かっていないだろう。そうなれば当然ポイ捨てする。プラスチックが土に還るのにペットボトルであれば500年かかるとされている。あまりにも長すぎる。

 また売る商品が増えれば捨てられるゴミが多くなってくる。捨てる場所が減り、どうにかしろと声が上がる。その声を聞かせるのは当然そのゴミを造った原因の所だ。こうなれば一々そう言った声を対応するが面倒だ。

 ポイ捨てをしても問題ない生活必需品。


「そうだな、外貨獲得の為に食品加工用の機械も造るか・・・。パッケージはリサイクル可能な有機物中心にして」


「なるほど・・・悪くないな」


 シンが思いついたのは食品だった。食品は毎日食べるから当然需要はある。しかも、現実世界ではメジャーではあるがこの世界にはないメニューを開発して売買すれば大ヒットの可能性が大いにある。


「ああ。だがその前に情報が必要だがな」


 とは言えこの世界にあっているのか、既にあるのか、人々の好み等の情報が必要だ。何にせよ情報を手に入れなければならない為、当然と言うべきか必然と言うべきかこの課題は後回しになる。

 そう考えたシンは最後に3体・・・特にリーチェリカとグーグスに伝えなければならない事があった。


「・・・最後に話しておきたい事がある」


 シンはリーチェリカとグーグスにも人体実験の事について説明した。2人は黙々とシンの話を終始、耳を傾けていた。


「・・・共犯者になるちゅう事やなあ~」


「ああ」


 リーチェリカの反応にシンはいつもに増して真剣な表情で答える。その顔を見たリーチェリカはカラッと笑ってこう答えた。


「分かったで、共犯者はん~」


 リーチェリカがそう答えるとアカツキもつられる様に言った。


「今後ともよろしくな、共犯」


 アカツキの口調から察するに結構陽気な雰囲気で答えていたのが窺える。更にグーグスも同じ言葉を言った。


「今後ともよろしくお願いいたします。共犯者様」


 恭しさはあるものの取っ付きやすい穏やかな口調でそう答えるグーグス。3体のその言葉を受け止めたシンは少し顔が綻び穏やかな口調で答えた。


「・・・ああ、よろしく共犯者達よ」


 そう答えたシンに他の3体はいつもように返事をした。


「OKボス」


「畏まりました」


「分かった~」


 そう言ってグーグスとリーチェリカはシンの自室から退室した。


「ボス、引き続き周辺を監視する」


「ああ」


 アカツキも島周辺の様子や島内、施設周辺を監視に戻った。

 そうなるとシンは自室一人でいる事になる。


「・・・・・・・」


 軽い深呼吸をしたシンは目つきを鋭くしてこう呟いた。


「あんな事には絶対させない・・・!」


 夢の、この世界を「HAっぴィエNど」の様な状況にさせたくなない。「ブレンドウォーズ」の様なED(エンディング)を迎えさせたくない。

 シンはこの世界で生きていくに当たって悔いのない選択をしていこうと改めて決意した。


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