7.これから・・・
チュン チュン…
恐らく小鳥であろう雀の様な囀りが聞こえた。暗かった世界が徐々に赤い世界に変わっていき、眩しさを感じる。
「んん・・・?」
朝日の光によって重かった瞼が軽々と上がっていく。目の前に広がっている世界は藍色の暗かった世界から橙色に近い赤い光が徐々に染まっていく。その影響で薄く彩った雲も同じように寒色系から暖色系に変わっていく。
(朝・・・)
シンは漸く朝だと気づき、体を起こした。寝起きのシンは暫くボンヤリとする。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、そうだ朝メシ」
数分程間が空いて、やっと今置かれている状況を思い出し朝食の用意をする。近くに置いてあったカレーが入った寸胴の蓋を開ける。
「足りないな・・・」
昨日の残った僅かなカレーの量ではシンを含めた7人の腹を満たす事はできない。
最初は米のご飯を考えたが、カレー以外の主菜等がこの世界の人間に口に合うかどうかが分からなかった。
そこで「ショップ」で大きな皿と食パンと子供が好きそうな各種の惣菜パンと菓子パンを買い、それで済ます事にした。
袋を開け、各種類のパンを種類ごとに分けて綺麗に並べる様にして大きな皿の上に乗せていった。
各種類のパンによって出たゴミは「自動開発」で何か使えるかもしれないと考えたシンは「収納スペース」で取敢えず一旦放り込んで置いた。
(こんなもんかな・・・)
後は綺麗に乗せた大きな皿をブルーシートの真ん中に置くだけだった。ブルーシートが使えないのは当然ながら皆が占拠していた。つまり皆が起こせば良かった。
が、シンはここに居る皆を見て起こそうとするのを踏みとどまった。
「・・・・・・」
ナーモとニックはお互いの頬を殴っているような形で鼾をかいている。また、シーナはククとココを抱き枕代わりにギュッと引っ付きククとココの顔がやや苦しそうで鬱陶しそうだが心底嫌そうにしていない顔でまだ眠っていた。エリーは本来頭があるはずの枕の所に左足を乗せ、両手を挙げて「万歳」のポーズでまだ眠っていた。
飽く迄シンの想像でしかないのだが、奴隷だった時では移動する時は歩かせるか、エリー達の様な馬車だろう。もし馬車であれば奴隷を詰めるだけ詰め込んで、下手をすれば立っていられるだけしかないスペース位にしている事もあり得なくない。もしそんな事が起きているのであれば、今の様にこうした自由なポーズで寝る事ができなかっただろう。
(起こすのも悪い、か・・・)
明らかに爆睡している事が分かる。シンは皆を今は思う存分に寝かせる事にした。
(まぁ、自己確認ができるし丁度いいか・・・)
待っている間に自己確認をする事にしたシン。まず始めに「ショップ」を見た。
「ん?」
よく見てみると「ショップ」で使う魔力に対してある事に気が付いた。
「魔力の量がおかしい・・・」
昨日買った調理器具やカレーの材料、今日の朝食のコストと最後に見た魔力の量を採算してみると明らかに合わない。
例えるなら、支出した金額が1週間分の食品の値段が何故か1日分の食品の値段になっていた。
これはどこからどう見ても変だった。
(何故だ・・・?)
暫く考え昨日の事で思い当たる事があった。
「あ」
シンは昨日は奴隷商人連中と狼との戦闘になった事を思い出した。
「戦闘をしたからか?」
そのまま殺したが、奴らの身体に触れていない。
なのにも関わらず、魔力がこんなもある。
ここから導き出される答えは一つしかなかった。
(倒しただけで手に入る!)
思い返してみればノートには「相手から魔力を手に入れる事ができる」と書いただけだった。どうすれば手に入るとは具体的に明記していなかった。
という事は相手が敵対象として遭遇すれば自然と戦闘になり、倒せば魔力を奪える事ができる。
これはシンにとってこれは思いがけない収穫だった。
前の様に一々「ショップ」で通貨に対して気を回す必要が無くなった。
シンはホッと胸を撫で下ろした。これから先の事に対して大きな不安があったのが大きく軽くなった。
「・・・・・」
シンはホッとしそのまま安堵の空気に浸る。
「と言うか、よく考えたら俺って結構考えなしに物を買いまくってたって事だよな・・・」
夕食以降の事を思い出すシン。確かに莫大な魔力があるとは言えいつかは無くなる。調子に乗って買いまくってしまえばあっと言う間に尽きてしまう。
今後は慎重に「ショップ」を活用しようと心に決めたシン。小さな溜息を付き、そのままぼんやりとしながら「ショップ」を眺めていた。
「そうだ、LP!」
すっかり忘れていた「LP・改」。
皆はまだ寝ている。その間にLPを確認する。
「おお・・・!」
思ってた以上の出来だった。
LPはほぼ音を出さずに攻撃ができ、有効射程距離は10kmを超え、人間の頭を軽く破裂させる威力である。しかし、威力を調節ができない、反動も大きく次に撃つ時に狙いが定まらない等の問題点があった。
しかし、その問題点は解消された。まず威力調節ができるように安全装置部分に付いた。次に完全無反動になった。連続して撃つときにブレが少なくなった。
(理想の銃・・・)
シンは普段は無表情な男だ。だが、今のシンは無表情から歓喜のオーラが滲み出ていた。早速「ショップ」でハンドガン専用のホルスターとピストル専用のランヤード(拳銃を落とさないようにするための伸縮性の紐)を買った。LPにランヤードを付け、腰の左側面にハンドガン専用のホルスターを装備し、LPを装着した。
「マジで便利だな「自動開発」・・・」
次は何を作ろうか、何を改造しようかと考えるシン。何気なく皆の様子を見たシン。
(どうせなら、今の生活を一気に向上したいな・・・)
今ある物では何かしら限界があった。
まず、雨風をしのげる場所が洞窟だけだという事。これだと雨風はしのげても、結局は雨による流れる水によって洞窟の中に入り込む。すると、何かしらと動くため体が汚れてしまう。結果的に家屋の様な物が欲しい所だ。
また近くには川などが無い為、水を手に入れる方法が洞窟内にある水溜りや雨から手に入れる方法しかない。
シンは兎も角、この世界でどんな菌やウイルスが存在しているかも分からないのに子供に生水を飲ませるのは危険すぎる。一々煮沸すればいいのだが、毎回白湯を飲むのも夏などの気温が高いときであればかなりきつい所はある。やはり家屋の様なものが欲しい。
(安全な水や火や電気を起こせる物・・・)
一応考えが纏まったシンは「自動開発」を開きある物を開発しようと考えた。
「これで・・・」
シンの目には「これを開発しますか? YES NO」という表示が出てきた。シンは迷わず「YES」を選択した。
「明日にはできるか・・・久しぶりに布団で寝られるな・・・」
期待を膨らませてそっと表示を閉じる。するとちょうどその時、エリーが声を掛けた。
「おはよー」
「ああ、おはよー」
シンは声のする方へ向くと皆体を起こしていた。ククとココは同時に大きな欠伸をして、ナーモは眠気眼を擦り、シーナとニックはトロンとした目でシンに向かって「○○○○」と言った。何て言っているのか分からないが、多分「おはよう」と言っているのだろう。
眠たい目を擦り、未だウトウトとしているエリーが思わず、そしてとんでもない事を言った。
「・・・ハンドガン」
ぼそりと恐らくこの世界ではありえない事を言った。
エリーは「しまった」と言う顔をするがシンは聞き逃さなかった。
「エリー、もしかして「“日本人”がいる世界の人間」なのか?」
シンが確信を持ってエリー少し詰め寄る様な形で尋ねる。
「・・・・・」
しかし、エリーは俯き黙ったままだ。シンはそんな様子のエリーを見て少し考え口を開く。
「・・・・・エリー、言いたくないのであれば別に言わなくてもいい。・・・ただ、頼みがあるんだ」
「・・・?」
シンの真剣な言葉に思わず顔を上げ、聞き入ろうとするエリー。
「俺にこの世界の言葉を教えてほしい」
「・・・・・」
唖然としているエリーにシンは続ける。
「多分、この世界では「魔法」?で言葉が分かるんだろうけど、何故か俺にはエリー以外の言葉が分からない。だから、この世界での読み書きを教えてほしいんだ」
それを聞いたエリーは恐る恐る自分が何を隠しているかについて告白してきた。
「・・・聞かないの? 私が何か隠してる事について・・・」
それを聞いたシンは何をする事もなく落ち着いた態度で接する。
「・・・そりゃあ、知りたいよ? でも、それってお前の問題じゃないのか? もし、そうならエリーのタイミングで話せばいいさ。今後も話したくないなら話したくないままでいいし・・・」
真剣で、毅然とした声に強張った表情のエリーが一拍空けて口を開いた。
「「危険」な事かもしれないよ?」
危険を示唆する事を聞いたシン。その事を言ってただジッとシンの方を見つめるエリー。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
この場に流れる数秒の沈黙の空気。すると先に口を開いたのはシンだった。
「・・・お前の言う「危険」はどういう事かは分からないが、初めて会った時に「日本人」って言っただろ?それは俺に付いていけば皆安全だろうと思ったんじゃないか?」
エリーは目を大きく見開く。
それはシンの言う通りだったからだ。どういう根拠で「日本人」であるシンに付いて行けば安全と確信するのかは現時点のシンは知らない。だが、奴隷商人や狼を瞬殺したのを見ればシンに付いて行けば安全は保証される。誰でもそう考えるだろう。
「エリーと俺はお互い知らないが、本当に「危険」だったらその時のエリーは俺に知らせると思ってる。
つまり今は危険じゃないって事だろ? なら、その時まで待つさ・・・」
無表情。だが信頼しきった言葉と真っすぐな目でエリーを見る。
「・・・・・」
エリーはシンの方をじっと見ていた。だがその顔は難しい顔では無く大きく見開いた目でシンを見ていた。
「それよりも教えてくれるのか?」
シンの口から「それよりも」。彼にとってその「危険」は問題ないのかもしれない。
そう思ったエリーは一旦目を瞑り数秒間を置いてから目を開ける。
「うん・・・!」
強い意志がこもった目でシンの方を見て大きく頷いた。
初めて会った時と比べて、憑き物が取れ、どこか安堵している様に見えた。
その様子を見たシンは普段と変わらないポーカーフェイスだったが目は穏やかなものになっていた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
追記 改善してほしい部分がございましたらご連絡ください。
・・・何とか書けた