85.必要なモノ
今回の様に・・・というかほぼいつもの様なものですが・・・取敢えず今回書けたのはここまでです。
ドォォォォォォォォォォォォ‥‥‥‥…
目を開く事すらままならず、当たれば痛みを感じてしまうのではないかと思えるほどの大きな雨粒が激しい音を鳴らして降り注ぎ、下手をすれば身体ごと吹っ飛ばされてしまう程の風が吹き荒れていた。
降り注がれた雨水が水溜りを通り越して、やがて小川となり、流れそうな所があれば無遠慮に流れ込んでくる。
それはシンが避難していた洞窟も決して例外ではなかった。30分ほど前から雨水が小さな川となって入ってきていた。
そんな状況の中シンは色々ダメージを受けたキャンピングカーを見ていた。エンジン部分や設備に内装を作動するかどうか点検していた。
今はエンジン部分をくまなく調べていた。
「ボス、どうだ?」
アカツキがそう声を掛ける。するとシンは小さな溜息を付いて答える。
「ああ、色々問題があるな・・・」
まず、エンジン部分が至る所で故障しかけていた。また、電気系統の一部が完全にダメになっていた。その為、ベッドルームとシャワー室の電気が付かなくなっていた。おまけにシャワーのお湯を沸かすための機械に電気が行き届かない為、シャワーから出るのは冷たい水だった。
「少しの間、これは乗れないな」
「あの倒木は嵐のものだったとはな・・・」
今まで異様な数の倒木の謎は恐らくあの嵐によるものなのだろう。倒木があった付近に足跡などの痕跡が無い。という事は動物による倒木という線は消える。
となればそれ以外の可能性はこの世界特有の現象か自然災害だろう。
「俺達は「生き物」って事にとらわれていたな」
「ああ」
シンは深い溜息を付いた。アカツキも呆れたような口調だった。もしアカツキが人間であれば間違いなくシンの様に溜息を付いていただろう。
「キャンピングカーを修理するのか?」
「ついでに強度を上げるから改造もする」
当然修理もするが今回の一件でキャンピングカーそのもの自体を強化する必要があった。
「もしかしたら、装甲車の様にするって事か?」
さっきまで服等の色合いから「物騒だ」と言っていた矢先に物騒な装甲車風のキャンピングカーを作るのか、と訊ねるアカツキ。
「そういう事になるかもしれないな」
「・・・結局俺達ってどこか物騒だな」
「ある意味運命なんだろうな・・・」
「嫌な運命だな」
そんなやり取りをしながら徐にシンは「自動開発」の画面を開く。するとある事に気が付いた。
「魔力が増えている・・・」
「え?」
シンは確かに複数のモノを「自動開発」で作った。その為相当減っていた。だが、今は「自動開発」を起動する前以上に魔力が溜まっていた。
「これ、どういう事だ?」
シンが困惑しているとアカツキから助言の通信が入る。
「ボス、一旦画面を閉じてもう一度開けてみたらどうだ?」
アカツキは何かの見間違いか、画面表示のバグか何かではないかと思いそう言った。
「いや、これは機械じゃなくて、魔法だ・・・」
「だが、万が一もあるだろ?」
「・・・そうだな」
シンの言う通りこれは魔法だ。決して機械ではない。だが、コンピューターのバグの様に、機械の回路の様に、「ブレンドウォーズ」の世界の魔法も絶対的とは言い切れない所はある。アカツキの言う通り万が一という事もある。念の為にシンは一旦画面を閉じてもう一度開いた。
「・・・・・」
改めて見たものの、魔力の数値が更に増えていた。さっき見た時と比べて少しずつ増えていっている事が分かった。どうやら決して見間違いや不具合という訳ではない。どういう訳か正常に魔力が手に入っていた。
(何かを倒したわけでも無いのに、こんなにも魔力が増えているなんて・・・)
現代日本の金額に換算すれば30億以上もあった。しかもそれが少しずつ、10万単位で増えていっている。
この事から考えられる事は一つしかなかった。
「・・・もしかしてここ魔力の源泉なのか?」
実際誰か何かを殺したわけでも無く魔力が手に入っている。という事は何もない場所で「魔力吸収」が発動している事になる。
いや、「何もない」というのは間違いだろう。「魔力吸収」はそこに魔力があれば吸収する。恐らくここは、シンが今立っているこの場所は魔力の源泉なのだろう。
「もしそうだとしたら「ショップ」だったら買いまくりできるな」
「そうだな。「自動開発」で作りまくる事もできるな」
思わぬ収穫にシンとアカツキは取敢えず現状に素直に喜んだ。
「当面の間は問題なさそうだな」
「ああ」
シンは改めて魔力量を見る。現在の魔力量は金額に例えれば30億もある。何か手に入れるとするならば高性能な戦車で例えれば3両程手に入る事ができる。
「自動開発」は複数のモノを開発中の為活用できない。消去法で言えば、活用できるのは「ショップ」しかない。
「折角、こんなにも魔力があるし、何か買うか」
そう言って「ショップ」の画面を開くシン。
「それで何が必要になるんだ?食糧とかか?」
「・・・そうだな、まず、資材や武器に兵器、当分の間の食料、乗り物、後は本だな」
「資材とか武器とかは分かるが、何故本も必要なんだ?」
「改造のヒントになるかもしれないからだ」
「そう言えば、KSG・・・も改造したんだったっけ?」
「ああ、あれはだいぶ使いやすくなったな」
LPやKSG、巨大ヘリコプターを改造してその成果の事を考えれば、「自動開発」による改造は間違いなく今後に役立つものだろう。これから使う武器がより良い物となってもらう為にも、本等の書籍を「ショップ」から購入して、改造のヒントとなる事を学んでいく必要がある。例えば「ショップ」で戦車を購入したとする。戦車をより良い性能にしたい時ではその事について学んでいるかいないかで大きく変わってくる。
「だけどそれだけじゃない」
「どういう事だ?」
「・・・俺の「BBP」」
「・・・ああ、なるほどな。要するに「BBP」による攻撃を出さずに済むって訳か」
「そういう事だ」
シンの「BBP」はこの世界においてかなりイレギュラーだ。今見えている黒くなっている部分は取敢えず、「先の戦争で四肢が失ったから特殊な義手義足を取り付けている」という設定で通している。だが、いずれにしてもその嘘はバレてしまうだろう。少しでも先延ばしをする為にも義手義足以外の所に目を向ける様にする。
その代表格が銃器等の現代武器と兵器だ。
シンの黒い四肢以上にその外見や能力により、興味を引く事ができる。
つまり、改造した現代兵器と銃器を駆使して可能な限り「BBP」や「ブレンドウォーズ」の世界で使われている魔法は見せない様にするのがシンの狙いだ。
「だが、見せる武器は選ばねぇと」
「ああ、それを狙ってくるな」
この世界の文明レベルは中世ヨーロッパ程度でもあっても空軍や魔法による兵器はある。もし、ここに更に有能そうな現代兵器が現れてしまえば、更に軍事競争が加速する。最悪世界を巻き込む大きな戦争になってもおかしくはない。
それだけは避けなければならない。使う武器を選ばなくてはならない。
「見られても、奪われても問題無い様な銃だな・・・」
シンはそう呟きホルスターに下げていたLPを徐に取り出す。するとアカツキはその見慣れない武器に疑問の言葉を口にする。
「そういやボス、見た事ない拳銃だが、それは?」
「ああ、そう言えばこれの事に付いて言ってなかったな。これはLPという銃だ」
「・・・あ~、ボス?聞き間違っていなかったら、それとんでもない物のように聞こえたんだが?」
「だから、人の頭を軽く破裂させるくらいのレーザーを放つピストルだ」
「あ~うん、聞き間違いじゃなかったな・・・」
アカツキの言葉を要約すれば「そんな物騒な物を持っていたのか・・・」と呆れていた意味だった。
「アカツキ、呆れるのはまだ早いぞ?」
「どういう事だ?」
「銃や兵器とかの種類を決めて買っていく」
「それって・・・大量に?」
「そうだな」
「Oh…」
アカツキは増々自分達が「物騒」という単語から離れられない存在である事を改めて認識した。アカツキが人であれば間違いなく、いや確実に溜息を付いているだろう。
離れられない「物騒」という単語に対して諦めたアカツキは最早何も言う事無く話を進める方向に尋ねる。
「・・・まずは何からだ?」
「食糧だな」
何の迷いも無くそう言って「ショップ」のカテゴリーから「食品」を選んだ。すると画面が切り替わり日本国内だけでなく、世界各国の食品までもが画面にずらりと並んでいた。
「・・・・・」
シンは黙々と欲しい食品を買った。買った食品は「収納スペース」に収納済みだ。すると買った食品のリストの中に気になるものがあった。アカツキはシンに訊ねる。
「ボス、これは何だ?」
呆れた口調で尋ねるアカツキ。それに対しシンは恐る恐る答える。
「ポテトチップスだが・・・?」
するとその答えを聞いたアカツキは呆れたような口調で再び質問をする。
「じゃあ、これは?」
「・・・アイス」
「・・・じゃあこれは?」
「ジャーキー等の干し肉っぽい物・・・」
「・・・ボス?」
「いやな、何かこう・・・久しぶりに食べたくなってな・・・?」
「それぞれ、量が多いように見えるんだが?」
アカツキが上げた食品それぞれ、数百kg単位の量だった。その事にアカツキは厳しく追及する。それに対しシンは気不味くなり無言になる。
「・・・・・」
シンの視線は明後日の方向へ向いた。
「ボス、無言にならないでくれ」
もし、この場にアカツキが居たら間違いなくジト目で見ていただろう。次第に呆れてそのまま話を進めた。
「・・・次は何を買うんだ?」
「そうだな・・・銃器からだな」
シンは「ショップ」のカテゴリーから「武器・兵器」を選んだ。すると画面が切り替わり大量の武器と兵器の一覧がズラッと並んでいた。
「まずM2は必要だろ・・・」
シンは次々と欲しい武器を選択していった。
シンが武器を買い込んで20分ほど経過した頃。
アカツキは呆れて無言になっていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・買い過ぎたか?」
アカツキが無言になる程呆れていた原因はシンの武器と兵器の買い過ぎだった。
「あ~・・・何か、ゴメン・・・」
「別に・・・必要な事だろ?何も悪い事じゃねぇだろ?」
「じゃあ、さっきの無言は何だよ!」
実際それぞれ1~3丁ずつの武器と兵器の全種類を買いこんでしまったのだ。その量は、この場で買い込んでしまった武器と兵器を「収納スペース」から出現させたらこの洞窟の地面が埋まってしまう位に。
「ボス、今の魔力量は?」
「・・・2億位」
「・・・・・・・・・・・・」
魔力の残量が一気に減った事に思わず無言になるアカツキ。シンは何かいたたまれない様な何とも言えない気分になり、アカツキに声を掛けた。
「うん、無言になってしまうかもしれないが無言にならないでくれ」
「残りの魔力で何を買うんだ?資材?書籍?」
「・・・・・」
無言になり考え込むシン。何を買うかによって今後が決まってくる。それなりに重要な決断の場面だ。だが、シンは数秒程で結論を出した。
「全部を本・・・書籍につぎ込む」
「ん?何故だ?」
資材は今後、拠点となる建物等の材料、乗り物はこの島の探索に必要だろう。
だが、それらを一切選ばなかった。もっと言えば使う魔力の比率をある程度決めてそれぞれ買っても問題なかった。
にも拘らず、シンは資材や乗り物を一切買わず、書籍を選んだ事にアカツキは疑問の言葉を口にした。
「魔力は今の所10万単位程で手に入っていくからな。規格品の武器兵器を手に入れるよりも俺オリジナル・・・オーダーメイドの武器兵器の方が良いかと思ったんだ」
「なるほど、あの時の武器と兵器の衝動買いは一応考えてはいたんだな?」
「あ、ああ」
「・・・・・」
歯切れの悪い返答に怪しんだ無言で返すアカツキ。
シンは小さな冷汗をかきつつ「ショップ」の画面を「書籍」のカテゴリーを選択した。その様子を見たアカツキは忠告する。
「あ、そうだボス、漫画とかそう言った娯楽系の書籍を爆買いするんじゃないぞ?」
実際、武器と兵器の衝動買いの件があった。アカツキは書籍でも娯楽系の書籍を衝動買いしてしまわないかとシンに釘を刺した。
「そ、そんな事しないから・・・」
「・・・・・」
アカツキのその無言は「ホントかな~?」と疑惑たっぷり含んでいた。その無言にたまらずシンはアカツキに文句を言った。
「無言にならないでくれ」
シンは気を取り直して、漫画等の娯楽書籍を一切買わず、真面目な書籍を大量に買った。
シンが買い終わった時、かなりの量の書籍を買った事にアカツキは現状ある魔力量をシンに訊ねた。
「ボス、魔力の残量はいくらあるんだ?」
「あ~念のために1000万程残しているが」
シンは今後の事を考えて念の為1000万程魔力を残した。
「まぁ、良いんじゃないか?」
今回の事に流石に文句はなく、素直に肯定した。
「だが、資材と乗り物は流石に手に入らなかったな?」
「ん”っ・・・」
アカツキからの厳しい追及によりシンは思わず口籠る。
シンの衝動買いと言うべき行動にアカツキは少し間を空けてから今後の事を話した。
「まぁ、それは明日以降でも何とかなるだろうからいいか・・・」
「ああ」
シンのそんな生返事にアカツキは気にかかった。
「だが、ボスは衝動買いには気を付けろ!」
「・・・ああ」
正論過ぎて最早、反論はおろか、ぐぅの音も言えない状態になっていたシン。
少し堪えたのか今までとは違う無言になるシン。
そんなシンに対してアカツキはただ様子を見ていた。
(しかし、ボスがこんな衝動買いの癖があるとは思わなかったな・・・)
一抹の不安を抱えながら島の探索一日目が過ぎていった。
投稿話数が少なくてすみません。