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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
ジンセキ
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84.嵐

いつもの様に思い付きで書きました。

 太陽が最も高い天に昇る少し前の事。黒いキャンピングカーの周辺の森を探索してこの島の何か変わった事、地形、生物等々を調べて回ったシン。

 アカツキは複数あるカメラのほとんどをシンの周辺を見ていた。


「ものの見事にいなかったな」


「ああ、いたのは野ウサギと辛うじてイノシシがいたくらいか・・・」


 この島を探索していると確かに野ウサギやシンが期待していたイノシシは見かけた。だが、原住民やイノシシ以上に大きい生物や危険な生物はいなかった。

 因みにそのまま野ウサギとイノシシは朝食の魚と同じ要領で狩って「収納スペース」(インベントリ)に放り込んでいる。


「こんな大きな無人島ってのはあるのか?」


「全くないわけでは無いだろうが、俺は初めて見るな」


 この島の大きさは概ね日本列島と同じだ。現状から見れば危険な生き物はおろか人間らしい人種も確認できていないがかなり広い為何処かにいる可能性も否定できない。寧ろ、そちらの方が高いだろう。


「最初はこんなものなのか?」


「さぁな・・・。一つ確かなのはこれが現実って事だけだがな」


「そうだな」


 つまり、アカツキが言いたい事は、そんな都合よく、いきなり敵や原住民に出くわす事自体がアニメや漫画等の世界だけで、これが現実なんだから、そんな簡単に遭遇しないだろう、という事だ。

 シンはその言葉を対して頭を縦に振った。


「それにしても・・・」


 シンの目線は辺りに向けた。


「倒木多くね?」


 目線の先には林の中の時同様、異様なまでに倒木が多く、生えていた木は若木だけだった。しかもその倒木は苔が付いておらず、風化もあまりしていない。どうやらつい最近倒れたばかりの様だった。その為今いる場所は森というにはやや程遠く、どちらかと言えば深い林に近い状態だった。


「何だってこんなに倒木が多いんだ?」


 シンがそう呟くとアカツキは周辺の状況を伝える。


「・・・その周辺はおろか、2km圏内でもそんなでかくて危険そうな生き物は居ねぇな」


「そうか・・・」


 シンの黒いワークキャップのカメラのレンズが動く。


「地震にしては地形が綺麗すぎるし・・・」


 シンは木の方へ目を向ける。


「動物とかの足跡とかも無いし、虫の異常発生でもないな」


 シンの言う通り倒木付近には足跡が無いから動物によるものでもない。また、木の幹等には虫食いによる独特の小さな穴があった。だが、それが原因で倒れる程の多さではなかった。何が原因で異常な量の真新しい倒木が出来たのかが分からなかった。


「何だろうな、こりゃ」


 結局倒木の謎が大きく膨らむばかりで疑問の言葉をつぶやくアカツキ。シンは無言のまま考え込んでいた。


「・・・・・・・・・」


 丁度その時シンの腹から違和感が起きた。だがその違和感は生き物であれば、普通で当たり前の事だった。


「・・・少し早いが昼食にするか」


 空腹だった。シンは小さな溜息を付いた。


「そうだな。丁度いい獲物が手に入った事だしな」


 朝食が魚だけと今までの中では相当軽い食事の部類に入る朝食だった為か、空腹になるのが普段よりかなり早かった。


「さっさと戻るか・・・」


 一旦倒木の謎は保留にしてそのままキャンピングカーの元まで戻った。



 黒いキャンピングカーの元まで戻ったシンはイノシシを捌いて、サイコロ状にカットして焚火に組まれていた石と石の間に串を挟んで焼いていた。


 ジュ~


 肉が焼ける音と香りが辺りで漂っていた。肉自体は段々と赤い肉質と白い脂身が徐々に焼かれて美味しそうな色に変わっていた。

 そんな焚火の側で倒木の丸太の上に座っていたシン。


「・・・・・」


 そんな猪肉の串焼きに目もくれず周りに警戒していたシン。今まで危険な生物には遭遇していなかったとは言え、この島は広い。その為まだ確認できていない所が多い。いると想定して行動するのが的確だろう。

 今の様に肉を焼いた香りでやってきてもおかしくはない状況だ。


「もうそろそろ焼ける頃なんだけどなぁ・・・」


 そう言って鋭い目つきで未だに周辺を見渡していた。しかしそれでも周りには生物の気配が一切と言って良い程無い。


「・・・それでもいないか」


 そう呟きながらシシ肉の串焼きを手に取る。


「いただきます」


 合掌こそしていないものの挨拶はきちんとするシン。そのまま手に取った串焼きを齧り付いた。その時アカツキの通信が入る。


「2km圏内でも引っ掛からなかったぞ」


 それを聞いたシンは呆れた様に呟いた。


「これ、いくら何でもいなさすぎだろ・・・」


 小さな溜息を付くシン。するとアカツキから通信が入った。


「ボス」


「ん?」


「夜行性の生き物っていう可能性はないか?」


「・・・まぁ、あり得るな」


 確かにアカツキの言う通り、夜行性の生き物であれば日中に現れないのは十分に説明できる。今は正午過ぎ。夜行性は眠っている為、現れなくて当たり前だ。

 普通の人間であれば夜間は警戒しなければならないだろう。

 だが、シンにはその必要は無い。


「だからと言って大した問題ではないけどな」


「確かにな。寧ろ朝飯に変えちまうだろうな」


 夜が迎えたとしてもシンは気配で察知できるためセンサーの様なものを設置しなくとも問題ないし、そもそもアカツキがいる。いざ出くわしたとしてもシンの強さであれば、獣の類ならば次の日の食料となっているだろう。それほど大きな問題ではない。


「色々と謎が多いな」


「と言ってもまだ探索する範囲が広いから、多くて当然だろ?」


「確かにそうだけど、倒木が何かこう・・・気持ち悪くてな」


 大きな生き物が未だに確認できておらず、虫の異常発生でもない。本来なら安心な判断材料であるにも関わらず、何処か不安要素のある事なだけに気になって仕方が無かった。


「取敢えずメシ食い終わったらもう一度探索をする」


「OK」


 アカツキの返事を聞いたシンは再びシシ肉の串焼きを齧り付いた。



 昼食を終えたシンは早速探索に入った。だが、どんなに探索しても辺りには倒木だらけ。生き物は遭遇頻度が少ない野ウサギとイノシシだけだった。

 キャンピングカーから200m先の森の中にいたシン。3時間以上探索していたが結局目新らしい発見は無かった。


「結局どこにもいなかったな」


「ああ」


「だいぶ深くまで入ったんだけどな・・・」


 シンがそう呟いて小さな溜息を付いた。するとその時だった。


 フワ…


 急に後ろから風が吹いてきた。同時に湿気た空気匂い、雨の匂いがした。


(・・・空気が変わったな。雨でも降るのか?)


「そろそろ・・・」


 一雨が来る。「そろそろ戻ろうか」。シンが何か言いかけた時だった。


「!?ボス!」


 いきなりのアカツキの声を荒げた通信によりシンは何があったのかと訊ねると同時に周辺警戒をして身構える。


「どうした・・・!?」


「急いでキャンピングカーまで戻れ!」


 それを聞いたシンは咄嗟に走り出した。行き先は無論キャンピングカーだ。

 走っている最中に何があったかを訊ねるシン。


「何かあったのか?」


「ああ、周辺を確認しようと更にクローズアウトした時、嵐を確認したんだが、風速55.3mでボスがいる所に向かっているぞ!」


「何!?」


 風速50m以上になるとトラックが停めていたとしても横転してしまう程の強さだ。つまりこのままではキャンピングカーは横転してしまう。「収納スペース」(インベントリ)に入れたとしてもシン自身が風雨にさらされる。いや、風による問題は無いが、風によって飛ばされた物でダメージを食らうのは流石に問題がある。酷ければ風に飛ばされた倒木によって吹っ飛ばされる事も決してあり得なくない。やはりキャンピングカーと共にどこか安全な場所まで移動しなければならない。


「チッ…どこかいい場所ないのか?」


 山であれば土砂崩れ、川付近であれば洪水の恐れ、無人島である為家屋等は無かった。つまり現状ではキャンピングカーにとって安全な場所はない。


「どこに・・・」


 シンが必死に探索していたコースを思い出しているとアカツキから通信が入る。


「ボス、近くに大きな洞窟がある!」


 洞窟。確かにそこであれば土砂崩れが起きたとしても問題は無い。しかし、中に何もいないという保証はどこにもない。


「距離!」


「413m程だ」


「分かった、すぐに「収納スペース」(インベントリ)に入れて、走っ・・・」


 ポツッ…


 ポツッ…


「っ!」


 ポツッ…ポツッ…ポツッ…ポツッ、ポツッ、ポツッ


 雨音が次第に変わっていく。


 パラパラパラパラバラバラバラバラ…


 その音を聞いたシンは増々酷くなっていく事を実感した。今の状況の事を考えれば、ここから移動するのに一々「収納スペース」を開いて入れてから移動する、ではとてもでは無いが間に合わなかった。

 即座に判断したのがキャンピングカーをそのまま運転して移動する事にした。


「~~~っ、運転する!ナビを頼む!」


「OK、そのまま真っ直ぐ進んで!」


 事が事なだけに急いでエンジンを掛ける。


 グォォォォン…!


 ギャギャギャ…!


 ハンドルを握り、エンジンを吹かし、ギアを即座に入れ、アクセルいっぱいに踏んで発進した。


 ブォォォォォォン…!


 バキッ…バキッ…バキッ…!


 ほとんど全速走行な為、細い若木程度であれば構わず薙ぎ倒しながら乱暴に真っ直ぐ進んだ。


「ボス、少し左に逸れてる!右に少し修正しろ!」


「っ・・・!」


 シンは少し右にハンドルを傾ける。

 シン自身は真っ直ぐ進んでいるつもりでも舗装されていない平原では見た目が平らな地面に見えても実際は緩やかな坂になっており、無意識にバランスをとってしまう。すると、バランスをとったせいで真直ぐに進んでいるつもりがいつの間にかズレてしまうのだ。

 もしアカツキが指摘していなければ目標に辿り着くのが困難になっていただろう。


「修正は出来ている。そのまま進んだら合図をする。その時に右に曲がって行け!そうすれば洞窟が見えるはずだ!」


「了解!」


 前を見ながら目の前にある倒木を避けつつ前に進む。その都度、本来の最短の道のりから逸れてしまうのだが、アカツキが通信で指摘する。シンはその指摘に従って只管前に進む。

 すると、走って3分程の事だった。


 バラバラバラバラバチバチバチバチバチッ…!


 ゴォォォォォォ…


「!」


 水滴が何かに当たる音が次第に破裂音の様な音に変わっていく。その証拠にさっきまでのフロントガラスから見える世界は大粒の雨によってぼやけた世界だった。何とか見えて来るまでは知っても問題ない程度のものだった。だが今では降ってくる雨粒が大きく勢い良く降ってくるせいで灰色がかった白い画面に見える。よく見れば辛うじて外の様子が見える程にまで雨が酷くなっていた。最早ここまでひどくなれば何処かで停車せねばならなかった程の状況だった。しかし、風速50mのせいで停車するわけにはいかない。

 おまけに風の音が大きくなり、より強くなっている事が窺える。時間が迫ってきていた。


「かなり酷くなったな・・・!」


 こんな状況であれば普通の人間であれば停車して無事に嵐が過ぎる事を願うだろう。だが、シンはこんな状況を見ても焦りもせず、恐れもせず、ただ只管目的地に向かってキャンピングカーを走らせていた。

 そんな時にアカツキから通信が入った。


「ボス、もう少しだ・・・」


「・・・・・」


 どうやらもう少しで右に曲がる様だ。シンは無言で返し合図を待った。


「今だ!」


「っ!」


 シンは思い切りブレーキを踏み、握っているハンドルを大きく右に切った。すると凄まじい音が鳴り響いた。


 ギャギャギャギャギャギャ…!


 観光バス並みの大きさのキャンピングカーがドリフトに近い状態になる。泥のせいで一瞬タイヤの回転が空回りした。だがそのおかげでカーブした時の車体自体が動くスピードが緩やかになった時、再びアクセルを強く踏み込んだ。


 ギュルギュルギュルギュル…!


 ガリガリガリガリ…!

 泥のせいでまた一瞬タイヤの回転が空回りするがすぐに地面と接してすぐに音が変わる。その音はタイヤの回転により砂利や石がお互い軋み合いこういった音が響く。そして辺りにまき散らしてエンジンの轟音と共に前に進んだ。


「ああ、あれか・・・!」


 前に進んで僅か2分の出来事だった。フロントガラスから辛うじて見える光景は岩肌があった。山ほどの大きさでシンが向かっている道の先には黒い大穴があった。

 その大穴は紛れもなく洞窟だった。


「そうだ、そのまま突っ走れ!」


「ああ!」


 その瞬間―――


 ゴオォォォォォォォォォォォォォ…!


 後ろからとんでもない勢いの風が吹いてきた。


「っ、ついに来たか・・・!」


「ボス!」


「ああ、突っ切る!」


 アクセルを改めて思いきり踏み込んだ。


 グォォォォォォォォ…!


 ドォッドドォッドンッ…


 地面にある窪みや大きな石のせいで乗り上げ、そのまま地面に着地している音が激しく聞こえる。

 そんな音の事等気にも留めずそのまま洞窟の中へ吸い込まれるようにして突っ切った。


「よし、入った!」


 どうにか洞窟の中へ入る事に成功した。しかし・・・


 ギャギャギャ…!


「!」


 洞窟の中にある水により岩肌がツルツルな滑らかな床になっていた。それよりハンドルが取られてしまった。


「くっ・・・!」


 ギャギャギャ…ドガァァァン!


 キャンピングカーの右側面が洞窟の壁に当たってしまった。かなり激しい衝撃のせいでキャンピングカーの窓ガラスが割れたり、中にある付属品が散乱していた。

 これを見れば激しい事故を物がっている事がよくわかる。

 シンがいる運転席はフロントガラスこそ割れはしたが一応無事だった。


「くそ・・・ついにぶつけてしまったか・・・」


「だが、どうにかしてあの嵐から避難出来たじゃねぇか」


「それはそうだが・・・」


 シンは徐に運転席から立ってそのまま下車した。



「あ~あ・・・」


 ワークキャップのカメラのレンズに映った物を見て思わずそう声を上げるアカツキ。


「派手にやっちまったな・・・」


 キャンピングカーの右側面は完全にひしゃげており、運転はどうにかできるが、あまり無理はできない状態になっていた。

 そんなキャンピングカーを見たシンは深い溜息を付いた。


「取敢えず詳しく見るか・・・」


「そうだな、外からの影響はあまりない。それから今は嵐の雲のせいでボスのワークキャップが頼りだからな」


「おう」


 そう返事をしてまた軽く溜息を付く。外は徐々に暗くなり、ライトと焚火で洞窟の中を照らしてキャンピングカーを改めて点検を始めた。


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