83.外の島
これで最後になります。
時刻は日が上がる少し前の事。当然日が出ていないせいで辺りは見る事は出来ない。昼活動している生き物であればまだ眠っている時間帯。
そんな時間帯のどこかの海域の空からこの世界では一切聞き慣れず、現代世界ではかなり聞き慣れた音が鳴っていた。
バラバラバラバラバラバラ…
この下が陸であれば空を見上げても何が起きているのか分からないだろう。そんな分からない中、唯一知っている者がいた。
「だいぶ進んだな・・・」
シンだった。シンは巨大なヘリコプターに乗っていた。しかもそのヘリコプターを操縦していた。
巨大ヘリコプターの機体は真っ黒で、全長37m、全高12.7mもあった。羽根が8枚あり、タンデムローター式となっており、タンクやエンジンを改造して航続可能距離は7000kmもあった。
航空機の事に詳しければ「Mi-12」と「CH-47 チヌーク」を足して2で割った様な姿、と言えばしっくりくるだろう。
「Mi-12」とは、かつてロシアがソビエト連邦と呼ばれていた頃に開発された世界最大のヘリコプターである。ただ残念ながら運用はされず試作品として2機だけしか開発されなかった。
「CH-47 チヌーク」はアメリカで開発されたタンデムローター式の大型輸送用ヘリコプターの事であり、日本でも自衛隊の輸送機として今でも使われている。
「アカツキ、今どの辺りだ?」
その場にはシンしかいなかった。だがシンは誰かに訊ねる様に呟いた。するとその疑問に答えたのは
「目的地まで約26km程だ」
シンの首元から声が聞こえた。声の主はアカツキだった。成層圏よりも更に上から現在地から目的地までの距離を推算してシンに伝える。
「そうか、もうすぐだな」
「ああ。それから10分程で日の出が見られるぞ」
「ほぅ・・・」
シンが巨大ヘリコプターで飛んでいたのにはいくつか理由があった。まず、以前アカツキは「移動するのならできれば陸路の方がいい」と言っていた。だが、シンの素性はアイトス帝国では知られているだろう。そこで、陸路での移動はやめて空路での移動となった。竜騎士と思しき者達への対策として、日中に飛ばさず、深夜に離陸して移動する事にしたのだ。これなら深夜に警戒してもサーチライトの様な物が無いため見つけにくいだろう。万が一、サーチライトの様なものがあったとしても船体が黒い為、より見つけるのがより困難になる。だからこの巨大ヘリコプターは真っ黒だった。
「それから今の所脅威となるものの姿はないぞ」
「了解。引き続き航続する」
「OKボス」
結果として言えば陸路で海岸まで進み海路で向かう方法よりも、真夜中に黒いヘリコプターで一気に飛ばす方がより効率的だったようだ。
この巨大ヘリコプターが出来たのは今から30分程前の事だ。
「ここらへんでいいか・・・」
時間帯は午前3~4時程。周りは暗く、当然日が出ていなかった。そんな時刻にシンは城から抜け出して町から少し遠く離れた平原まで来ていた。
「ボス、やっと足が出来たんだな?」
シンの首元にある通信機からアカツキの声が聞こえた。
「ああ、かなりでかくて速い奴だ」
シンはそう答えて「収納スペース」から真っ黒な巨大ヘリコプターを出現させた。
このヘリコプターを開発したのはアスカ―ルラ王国の武力向上、シンが銃器のヒントを与えた時の会議から2日前の晩の事。
アカツキのエネルギー補給ができず、アカツキのある提案した時。アカツキは超大陸の遥か東に島があった事をシンに告げたのだ。そこで本拠地を作り、定期的にそこで燃料補給をしたらどうかと提案したのだ。
その提案にシンはアッサリと受け入れて、次の日の朝に取敢えず「速くて長距離移動できる何か」を作ろうと思い付いたのがこの真っ黒の巨大ヘリコプターだった。
そのヘリコプターが丁度出来た所でシンは城から抜け出して今に至る。
シンは出現した巨大ヘリコプターの操縦席に早速乗って起動させた。操縦席にあるスイッチやレバーを動かし問題無いかチェックする。
「どの部位にも異常無い」
するとアカツキからの連絡が入る。
「周辺問題無し。離陸準備をしても問題ない」
「了解。これより離陸開始する」
そう言ってシンはアクセルを踏みローターエンジンの回転速度を上げる。離陸するのに十分な回転速度に到達した時真っ黒な巨体が徐々に宙に浮かんだ。
「これより目的地まで移動する。ナビを頼む」
「OKボス。そのまま前に進んでくれ」
その言葉を聞いたシンはレバーを前に倒して前に飛んで行った。
そして今に至る。
巨大ヘリコプターを操縦しながら今までの事を思い返していると海原の奥から赤い水平線が見えてきた。
「あれは朝日か・・・」
それは朝日が昇ってくる瞬間だった。徐々に上る朝日の赤い光の線が水平線上に沿って徐々に赤い朝日の光が露わになってくる。
「・・・・・」
そして、とうとう朝日が水平線から昇り切って赤い朝日がシンめがけて眩い光を浴びせにかかる。
「そう言えばあの時は朝日を見る余裕なんてなかったな・・・」
そんな朝日を見たシンは静かにそう呟く。
「ボス、そろそろ目的地の島が視認できる位置になるぜ」
「ああ、目的地らしき島が今見えてきた」
シンがいた大陸と比べれば遥かに小さいがそれでも大きい島である事には変わりない。
「着地できそうな場所はあるか?」
「ああ、あるぜ。そのまま更に586m程進んだところに何もない平原がある。周りに敵影無し」
「了解。そこに着陸する」
「OKボス」
朝日の光によって見える平原は見る限りでは敵影は無い。だが、もし待ち伏せていて襲ってくるという可能性もある。シンは慎重に着陸する。
巨大ヘリコプターが着陸すると操縦席から離れ巨大ヘリコプターの側面から降りる。
シンは降りてその場を動かずに辺りを警戒する。
「・・・・・・・・・・・・・・」
数分程その場を動かずに辺りを警戒していたが、人はおろか獣の気配すら感じられなかった。
「・・・・・気配は、無いか」
大陸と比べれば確かに相当小さいが、実際はかなり大きい。こう言った島であれば原住民等の人間がいてもおかしくはない。もし、いれば警戒して様子見に来るはずだ。
また人以外の生き物であれば巨大ヘリコプターを豪華なご馳走の獲物として見て襲ってきてもおかしくはなかった。だが、周りを見ると人はおろか、生き物の気配すらなかった。
「安全、というにはまだ早いか・・・?」
いくらすぐに襲ってこないとは言え安全と判断するには早計だろう。シンはその場を動かずにもう少しだけ辺りの様子を見た。
「・・・・・・・」
数分ほど経ったがやはり何も現れてこない。そればかりか周辺に生き物の気配がほとんどない。
「ボス、一応周辺を確認したが誰も何もいない様だ」
「そうか・・・」
余りにも何も起きなかった事に拍子抜けするシン。
「だが、罠や待ち伏せの可能性があるから警戒は解かずにいるぞ」
「OK、引き続き周辺を警戒する」
シンの言う通り周辺に誰もいなかったとしても何かを狩る為に罠等を設置している事もある。警戒を怠らず次の行動に出た。
(まずは巨大ヘリコプターを「収納スペース」に入れて、キャンピングカーを出す)
シンは久しぶりにあの黒いキャンピングカーを出した。
「こうしてみると、俺の作った乗り物全部黒いな・・・」
「そういや、そうだな」
今までの作った乗り物は確かに全て黒色だった。様々な理由で黒色になっているのだが、やはりこうして見れば何か味気の無いものがある。
「ヘリはせめてカーキにでもするか」
「・・・まぁ、物々しい色ではあるがな」
「まぁな。でも、今の状況を考えるとな・・・」
「仕様がないといや、仕様が無いけどさ・・・」
アカツキの言う通り今のシンが選んだ色のほとんどが軍隊やミリタリーショップでよく見かける黒とカーキとデザートベージュだった。物々しい色と言われても仕方がない。
因みにだがキャンピングカーの黒は太陽光発電システムが搭載されている関係で色を変える事は出来ない。
「まぁ、取敢えずここを本拠地としよう」
「OK、水は1時の方角に川がある。食料も魚がいれば何とかなるんじゃないか?」
「そうだな、取敢えずそこまで向かうよ」
「じゃあナビをするぜ」
シンは正確にナビするアカツキの誘導に川まで向かった。
数分も経たない頃、シン達は林の中にいた。その林の中はやたらと倒木が多くあった。見渡せばどこもかしこも倒木があり、生えている木のほとんどが若木だった。
「だからと言って人の手によるものとかじゃないな」
全ての倒れた木は根元からぼっきりと折れていた。恐らく、動物か自然現象によるものだろう。
「に、してもかなりあるな・・・」
かなり巨大な動物が木を倒した事も考えられるが、根や果実、木その物に食べた様な形成が無い。それに倒木の位置があまりにも広範囲過ぎる。その事を考えれば恐らく嵐等の自然現象が最も可能性が高いだろう。
そんな事を考えながら進むと川のせせらぎが聞こえてきた。
「・・・そろそろか。結構近かったな」
「ああ、分かりにくかったのは、林や薮があったからだろうな」
「うん、耳を澄ませたら分かったが、視認では難しいな。・・・お、着いたぞ」
林を抜けるとチョロチョロと川のせせらぎが鮮明に聞こえてきた。シンの目の間には綺麗な川があった。
「まぁ、当然手付かずだな」
川は結構幅が広く、角が丸くなった大岩がゴロゴロとしていた。その大岩の間を縫うようにして清水が流れていた。川の中を見れば無数の魚達が悠々と泳いでいた。
「食糧も問題ないな・・・」
今後の食料については問題ないと判断したシンはそのまま何も言わずただジッと川を見ていた。するとアカツキから通信が入る。
「ボス、そろそろ「自動開発」で・・・」
アカツキは最後まで語らなかったが、シンは何が言いたかったのか分かり頭を縦に振った。
「ああ、そうだな・・・」
その場で「自動開発」を開き、複数のモノを開発した。すると画面には「これらを開発しますか? YES NO」と表示された。シンは躊躇う事無くYESを選択した。
「次の日にはできるか・・・」
「意外と短いんだな」
「ああ、結構開発したんだが、思いのほか短かったな」
キャンピングカーで1日程、アカツキを製作する時でも1週間程かかった。シンは少し訝しげに思ったが、短い期間で出来るから、まぁいいかと考えた。
ヒュンッ
パシャッ!
シンの黒い右腕から滴る綺麗な水滴。木の枝の様に分かれた触手状にした腕の先には清水流れる川の魚、5匹が握られていた。何が起きたのか分からない魚達は暴れ出していた。
「・・・よし、朝食ゲット」
そして、そのまま魚を締める。すると魚達は暴れていたのをやめて次第に動かなくなった。動かなくなった事を確認したシンは、そのまま踵を返し、キャンピングカーへ戻っていった。
キャンピングカーに戻ったシンは早速採れた魚をシンプルに串に刺して石で囲った焚火で焼いていた。
そんな朝食を見ていたシンは呟くようにしてアカツキと話していた。
「水と食料もあるし当分の間は問題無いな」
実際近くには綺麗な水と種類こそ少ないものの魚が手に入る。しばらくの間は問題ないだろう。
「ああ、その上危険となる生き物は現れてこないしな」
アカツキが周辺を確認するも動物を視認するどころか、居た痕跡も無く、気配が全く無かった。
そんなアカツキの言葉にシンは小さな溜息を付いた。
「イノシシとかそう言った野生動物が出て来てもおかしくないんだろうけどな」
「けど、現れて欲しいんだろ?」
少し惜しむ様に言うシンにアカツキは軽い口調でそう言った。
するとシンは小さな笑みを浮かべて答える。
「まぁな、大物だしな」
そう答えてそのまま残った魚の串焼きを齧った。
口いっぱいに詰め込みモグモグと口を動かしながら改めて周りを確認する。
「・・・それにしても人気が無いな」
「ああ、全くって言って良い程にな」
「まぁ、いなかったら、いなかったでいいんだけどさ・・・」
「というかむしろ邪魔されないからそっちの方が良いだろ」
「そうだな」
そうやって話し込んでいるといつの間にか朝食の魚が焼けていた。シンは徐に焼き魚の串焼きを手に取った。
「いただきます・・・」
すっかり、「いただきます」という挨拶をする様になっていたシン。皆と一緒に挨拶する事により完全に習慣化していた。挨拶の有無は当の本人とアカツキは気にしていなかったが、皆と出会う間と比べればどこか文明的な所が垣間見える。やはりするとしないではどこか違うように見える。
朝食の魚の串焼きを頬張りながら改めてアカツキと話をする。
「ボス、最初は周辺の探索か?」
「ああ。次の日は範囲をでかくする」
この島の大きさは大雑把だが、日本列島とほぼ同じ大きさだ。つまり、これだけの広範囲を探索するにはかなり時間がかかる。そこで最初は近い範囲から円を描くようにして探索していく。可能であれば「自動開発」でドローンを製作して偵察をする。
「誰かに出会ったらどうするんだ?」
「取敢えずコミュニケーションをとる。まずはそこからだな」
万が一であった場合は敵対行動をとられる事、取る事を極力控えて接して相手の縄張りを把握し、最終的に自分の縄張りを張ってそこを本拠地にする。
「もし誰もいなかったら?」
「島を完全に俺達の本拠地とする」
「OKボス」
こうしてこの島の探検一日目が始まった。
これにて「陰謀」の章が終わります。色々続きの話の事を考えたのですが、私が思うこの小説らしい小説とはと自問自答した結果こんな形になりました。人によっては「アレッ?」と思う方がいらっしゃるかもしれません。
勿論、まだ物語自体終わったわけではありませんので次回から新しい章に入って続きます。
基本的には新しい章のプロットと執筆になりますので修正はだいぶ先になります。もし、何か違和感のあるところがございましたら私にご連絡ください。
こんな小説ではありますが、「アンノウン ~その者、大いなる旅人~」をよろしくお願いします。
ここまで読んで下さりありがとうございました。楽しみにしてください。