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81.ある者の消失

今の話を含め、あと3話ほどで今の章が完結しますので3日連続で投稿します。その後に今度こそ、今度こそっ・・・!新しい章のプロットと執筆、修正を行っていきます。

 上から落ちる滝と言うには程遠い湯の滝。それは最早、打たせ湯と言ってもいいものだった。シンはそれを頭から被って身体中についていた血の汚れを落としていた。

 エーデル城にある浴場にてシンは身体を清めていた。


「・・・・・・・」


 身体中から流れ落ちる赤かったであろう血は水に混じって流れていくと共に血が固まった黒い塊も流れていく。


「・・・・・」


 シンはここに戻ってきた時の事を思い出していた。



 当時のシンは貪り食っていた干し肉はエーデル城へ入る前に食べきってしまっていた。持っていた量は5人分だったが、まだ足りず空腹のままだった。


(城で食い物を・・・いや先に体の方をどうにかしないといけないな)


 干し肉が切れ、自分の格好を改めて見まわして、そんな考えが浮かんでいた頃にエーデル城が見えた。

 門番の兵士に自分が戻ってきた事を伝えて城内に入ろうとした。その時、丁度庭の様子を見回っていたロニーと鉢合わせした。


「その格好はどうなされたのですか!?」


 最初に血まみれになったシンを見たロニーは驚きと心配の目をシンに送っていた。


「大丈夫だ、どこもケガをしていない。それよりも丁度良かった。体を洗いたいんだが・・・」


 そんなシンは体に付いた血の臭いと空腹があった為、取敢えず先に体を洗いたかった。

 その事をロニーに伝えると、浴場へ入る許可が下りた。シンが脱衣場に入る少し前にロニーに許可を下りた事への感謝の言葉を贈ろうとした時、ロニーの心配と恐怖の目でシンを見ていた事が頭から離れなかった。



 最後に頭髪に付着していた血を洗い流すべく頭をワシャワシャと洗っていた。


「・・・・・・・・・」


 髪を上げて視界を広くする。床を見れば赤が混じった水はもう流れてこなかった。どうやらさっきまであった固まった血の汚れは無くなり、強烈な鉄臭さも一気に減った。完全になくなったわけでは無いが、シンの独特の体臭、メントールの香りの事を考えれば未だにある鉄臭さは問題ないだろう。時間をかけて洗ったかいがあった様だ。


「そう言えば俺の身体って傷跡一つ無いんだな・・・」


 ギアとの仕合でキズを負ってもすぐに治る。その上傷跡一つも無かった。シンは浴場からそのまま脱衣所に向かった。



 黒に近い灰色のソフトシェルジャケット、黒いサブマリンズボンに着替えて白の廊下を歩いていた。


「ああ、シン様」


「ロニーさん・・・」


「その御様子ですと本当にケガをなさっていたのではないのですね」


「はい」


「そうですか・・・」


「「・・・・・・・・・・・・」」


 シンは何を話そうか考えているのに対し、ロニーはシンの異様な姿で城に戻ってきた事に少なくとも恐怖していた。

 そんな沈黙を先に破ったのはシンだった。


「ロニーさん、悪いんだが何か食べる物をお願いしたいのだが、いいか?」


 シンは空腹である事をロニーに伝える。ロニーは軽く礼をする。


「畏まりました。ですが、今は大広間の方では現在使われておりますので会議室となりますがよろしいでしょうか?」


「ああ、それで頼むよ」


「はい、早速準備しに参ります」


 そのままロニーは準備をしに、すぐにその場を後にした。恐らく先に会議室で食事の用意をしているのだろう。シンはそう考えゆっくりと会議室の方へ向かった。



 会議室に着くと何人かの小人族の執事が出入りをしていた。シンはそのまま会議室に向かうと中では豪華な食事が用意されていた。


 幾つかの豪華な料理が乗った皿の左右一番端には数種類ものあるナイフとフォーク、スプーンが丁寧に添えられていた。

 手前の真ん中には500gもある恐らく牛肉であろうステーキに焼いた野菜が添えられて上から茶色のソースがかけられていた。おかげで肉の香りとソースが絶妙に合わさってより食欲が立つ香りが会議室の中で漂っていた。

 その真ん中の奥にはパイ包み焼きがあった。近くにいた小人族の執事に訊ねると、どうやら中にはオオグイゴマのホワイトソースの様だ。

 手前右には何かのポタージュなのだろか白いトロっとしたスープの水面の真ん中に細かくきざまれたパセリの様な物が振りかけられていた。

 その右奥には幾つかのポーチュラカの花が添えられたスクランブルエッグの様な物の上にバジルソースの様な物がかけられていた。

 手前左には薄切りにされた生ハムの様なもので、オオグイゴマと思しき実とポーチュラカにレタスの様な葉物の野菜、春巻きの様に包まれた副菜があった。

 その左奥には食用キノコとジャガイモらしきイモ類をマッシュポテトの様にしたものをドーム状に仕上げたものがあった。

 右に水が入ったグラスの丁度対照的な位置する左には大きなバスケットがあった。なかには沢山の様々なパンが入っていた。その中には「豊穣パン」が入っていた。


 余りに豪華な食事内容を知ったシンはロニーの方へ視線を向ける。こんな忙しい中これらの豪華な食事を用意してくれたことに対して感謝の念を込めて軽くお辞儀をした。


「ありがとう、ロニーさん」


 するとロニーは首を横に振る。


「いえいえ、本来ならばそれぞれの料理の名前と解説が必要なのですが、我々はこれからどうしても外せない用事がございます。その為それらは略称とさせていただきたいという事になります。大変申し訳ありません」


 そう言ってロニーは深々と礼をする。それを聞いたシンはロニーの首振りをそのまま返すかのように横に首を振る。


「いや、いいよ。外せない案件があるなら、どうかそっちの方を優先させてくれ」


 ロニーは頭を上げて、また深く一礼をする。


「ありがとうございます。私はこれにて失礼します。ごゆっくりなさってください」


「うん」


 シンがそう頷くとロニーは会議室を後にした。会議室にはシンしかいなくなった。周りに誰かに言うわけでも無くただ習慣で手を合わせて


「・・・いただきます」


 そう挨拶してナイフとフォークを手に持って食事する。するとアカツキから通信が入った。


「ボス、これからどうするんだ?」


「ああ、取敢えず今夜にでもここから去ろうと考えている」


 シンは脱衣所で誰もいない事を確認して「いただきます」を合図に、アカツキから連絡する様に言っておいた。


「今夜?随分急だな」


「ああ。少なくとも俺は国と国との間にヒビを入れるような真似をしたんだ。このままいれば間違いなく争い事に巻き込まれる」


「なるほどな。だが、何で今夜なんだ?明日か明後日でも問題ないんじゃないのか?」


 シンはステーキにナイフを走らせながら答える。


「これは飽く迄俺の勝手な考えだが、あのシャーロット女王はどうにかして俺をここにつなぎ止めようとして画策する」


 そう答え、切ったステーキを頬張る。


「ああ、確かに依頼をこんなにも早くできた人材は、国やギルドだったら是が非でも欲しがるだろうからな」


 口の中にあったステーキはそのまま飲み込み話を続けながらステーキにナイフを走らせる。


「・・・もしそうなら今の俺の状態は檻の中に入れられて鍵を掛けられるか掛けられないかの瀬戸際に立っているという事になる」


「なるほどな、それで今夜にでも去るって訳か・・・」


「そういう事だ」


 そう答えて再び切ったステーキを頬張った。


「だが、子供らを人質になる可能性は全くないわけじゃないぞ?」


 そんなアカツキの疑問にシンは口の中にあったステーキを胃袋に収めてナイフを走らせながら答える。


「大丈夫だ。会議の威しが効いているし、皆にはグランツやマリーがついている。よっぽどの事が無い限りギルドと対立を取る事は無いだろ?」


「そういやボスはあのチビの執事の前で言ったんだよな」


 アカツキそう言った瞬間、シンはナイフの動きを止めた。一瞬誰の事かと考えそうになったがすぐに誰の事なのか分かった。


「チビ?・・・ああ、ロニーさんか」


 シンははっきりと「教える事は無い」とロニーの前で言った。という事は、これからはシンと皆とは無関係になる。その為、人質にとってもシンが無視する可能性が出てくる。

 また、ギアやリビオ達・・・アスカ―ルラ王国の者達が黙っている可能性はほとんどないだろう。よって皆が人質になるという事は無いだろう。


(・・・というか前々から思っていたが、アカツキって、ちょいちょい口悪いな)


 アカツキの口の悪さに少し呆れつつ話を続ける。


「まぁ、ロニーさんは女王の専属執事か側近の様だからそれなりに発言力と信頼性は高いな」


「・・・となると、ボスに鍵を掛けるとしたら、爵位か?」


「そうなるだろうな」


 皆を人質に取れば完全にシンを敵に回す上にギアやアスカ―ルラ王国の者達までもが敵に回る可能性が非常に高い。ならば、逆に豪華な餌を用意して取り込む様に画策するだろう。

 例えば褒美としてエーデル公国から爵位を授与させてそのままシンエーデル公国の貴族として取り立てる等の方法でシンを縛り付けるだろう。


「断るのも面倒だしな」


「分かった。そのついでに俺の燃料補給もする算段を立てるってわけだな?」


「そうだ。アカツキはエーデル公国からも近隣国からも知らなさそうな高度のある土地まで俺を誘導してくれ」


「そこから出発する、か。OKボス」


 その答えを聞いたシンはそのまま食事を続けた。

 シンはステーキから副菜へと手を伸ばそうと右手に持っていたナイフからフォークに持ち替えた。その時アカツキはシンが言っていた「エーデル公国からも近隣国からも」についてふと疑問に思った事があった。


「そういや、近隣国で思い出したんだが・・・」


「何だ?」


 突然の通信にシンは驚きもせず、生ハムが刺さったフォークを口に運ぶ動作を止めて、真摯にアカツキの言葉に耳を傾ける。アカツキは今回の騒動の発端となったアイトス帝国について語る。


「今回のアイトス帝国の事なんだが・・・」


「ああ、俺も気になっている。アスカ―ルラ王国を侵略した事自体はあまりこの世界では珍しくは無いんだろうが・・・」


「アスカ―ルラ王国を落とせるだけの軍事力をどこから手に入れたか、だな」


「ああ」


 シンはここ十数年で侵略と占領によってアイトス帝国は大きくなったと考えている。

 そうであればネネラとニニラ、リースが帝国出身である事もさほどおかしくはなかった。

 確実な情報取得手段がないこの世界において、集落に友好的な関わり合えば自ずと帝国領になるし、敵対的であれば占領し集落民を追い出すか奴隷にすればいいだけの事だ。恐らくリースの集落の場合は友好的であったため帝国民という事になっていたのだろう。その証拠に彼女は騎士として仕えている。

 逆にネネラとニニラの集落の場合は敵対的であったため物心がついた時には集落を潰されたのだろう。だが、どこの国にも属していないだけに帝国領であったため自分達は帝国出身と勘違いしたのだろう。

 これによりアイトス帝国の領土拡大は着実に進み国としての機能も高くなった。


 ここで一つ疑問が浮上する。

 占領は友好的な態度で接すれば問題ないだろうが、侵略の方はそうはいかない。それなりの軍事力が無ければ侵略はできない。

 しかもこの2つが共通しているのは時間がかかるという事だ。占領は時間をかけて徐々に打ち解けていく必要があるし、侵略は軍隊を動かす必要がある上、勝つか負けるかの大博打だ。また侵略は軍備に時間がかかる上に侵略が成功したとしても戦後処理などに時間がかかる。それなのにも関わらず十数年ここまで大きくなった。

 その秘密はアイトス帝国に洗脳技術や軍事にかかる資金や武器を蓄えていた事だ。そのおかげで騙し討ちとは言えアスカ―ルラ王国を侵略に成功した。



 では、アイトス帝国はどこから洗脳技術や武器、資金を手に入れたのか?



 アカツキは訝し気に低いトーンで話す。


「・・・何か裏がありそうだな」


「ああ、だから今回の一件はまだ解決はしていない」


 今回の一件はアイトス帝国のみの事ではなく少なくとも国家と同等以上の組織力、或いは力を持った何かが背後で動いている可能性が高い。


「もしこのまま俺達が周辺の近隣国に入ってしまえば、何かしらの接触、或いはボスに碌でもない事をするか・・・。そう考えれば俺達が行く所が遠くて助かるな」


 今回の一件でアイトス帝国以外の国家で一番情報が手に入るとするならば近隣諸国だろう。もしアイトス帝国に支援をしていた国があるとすれば間違いなくシンに()()()()()を掛けてくるだろう。


「ああ、この世界の交通手段は余り発達していないだろうから、これから向かう先にはたどり着けないだろう」


「全く持ってホッとするぜ」


「ああ」


 止まっていたフォークを動かしそのまま生ハムを口の中へ入れた。アカツキは続けて話し、シンは生ハムのコリコリ感と野菜のシャキシャキ感、口に広がる美味さを楽しみながら黙って聞いた。


「ボス自身はその裏がありそうな連中の事について把握するのか?」


 口の中に入っていたものを飲み込み答えるシン。


「可能な限りは欲しい。だが、今はなるべくなら遭いたくない」


 そう答え、もう一つの生ハムを突き刺す。

 シンの方が知らなくても向こうが知っている可能性の方が非常に高い。もし遭遇すれば間違いなく向こうから手を出して戦闘になるだろう。


「あ~・・・まぁ、俺だけでは力不足の面が多いからな」


 今のシンにはアカツキ以外の支援が必要だ。情報収集、支援砲火、航空支援、状況確認、流通関係、その他諸々…。

 これらの支援システムが充実していればこの世界の国家一つ相手どころか、下手すれば複数の国家相手でも問題なく相手できるだろう。

 例えばアカツキは高度約700~1500km程保ってシンの周りの様子を窺う事が可能だ。だが、それは飽く迄も外側だけの話だ。小屋や洞窟、城等の内部の事については壁や天井等が遮って偵察ができなくなる。

 そこでシン以外の人材か自律ロボット等が直接偵察する必要がある。また、シンの「ショップ」ばかり頼ればいざという時に魔力不足で使えなくなるという事もあり得る。

 これらの事を考えればどうしても必要になる。


「まぁ、何にせよまずは向かう先に辿り着いてからだな」


 シンはパンを一つ取って千切る。


「そうだな、その後ボスの後方支援に関わるシステムを構築すりゃいいしな」


「他にも、した方が良い事があるかどうかについて考える機会も出来たしな」


 そのまま口にパンを放り込む。シンの「した方が良い事」というセリフに反応するアカツキ。


「他にもした方が良いってのは何だ?」


 口に入っていたパンは胃袋に収めて、今度はステーキを食べようと再びナイフをステーキの上に走らせる。


「・・・アカツキの燃料補給に俺の後方支援システムの構築は勿論だが、俺自身のバージョンアップ、必要であれば需要と供給がある物を生産できるシステムも構築したいしな」


「結構あるな。・・・まだ他に何かあるのか?」


「後は・・・他にもあるかどうかについて考えるってところかな?」


「なるほど、まとめると俺達の目標はしなければならないのが俺の燃料補給と後方支援システムの構築だな」


「そうだな。後は何をすればいいのかについてじっくり考えるさ・・・」


「OKボス、俺達の目標は取敢えずそれらだな?」


「ああ」


 明確なこれからの事や目標を掲げたシンは再びステーキを頬張りだした。その時、アカツキはその様子を見て干し肉を食べていた時の事を話す。


「そういや、ボスが・・・多分ならず者から奪った干し肉は美味かったのか?」


 口の中にあったステーキの肉を飲み込み、ナイフを走らせながら答える。


「はっきり言えば不味かった」


 干し肉で有名なのがやはりビーフジャーキーなのだが、こっちは香辛料が使われていてうまい具合に塩の量を調節している。だが、この世界の干し肉は単純に大量の塩で漬けてから干したのか、塩辛くて肉の臭みがあった。

 この世界での香辛料は非常に高価で庶民でとても手が出せない物だ。そのせいで肉特有の臭みが消えていなかった。


「不味かったんじゃそのまま捨ててしまえばいいんじゃなかったのか?」


 アカツキのそんな疑問をシンに投げかける。アカツキの言う通りそんなに不味ければ、何処かで新しい食べ物を手に入れて干し肉をそのまま捨てればいい。

 そんな疑問に対してシンは小さな笑みを浮かべてこう言い切った。


「空腹は最高の調味料だからな」


 それを聞いたアカツキは通信機越しに「ああ」と言って呆れた様に答える。


「そういうもんか」


 そんな様子のアカツキにシンは淡々とした態度で答えた。


「そういうもんだ」


「・・・それならしょうがないな。食事中に話しかけて悪かったボス」


「いや気にするな。だが、そろそろ切った方が良いかもな」


「近くに誰かいてもおかしくないもんな。OK、通信終了」


 アカツキがそう答えると電話特有のブツッという音がして、沈黙した。

 そんなやり取りを最後にして通信を終えたシンは食事を20時位まで楽しんだ。シンは食事を終えるとそのまま客室へ向かった。



 翌朝の事。朝日が昇り辺りがやっと明るく照らされてくるころ。外は霧が深く、30m先が見えない白い闇の朝だった。

 その時間帯になると働いている身の者であればもう既に起きて働いていた。それはエーデル城に仕えている者もそうだ。霧が深いとは言え朝は朝だ。朝食の用意ができてシンを呼ぼうと小人族の執事2人はシンが泊まっている客室までやってきた。


 コンコン…


「「・・・・・・・・・・・」」


 シンの返事を待つが返事が来ない。おかしいと思った一人の執事がもう一度ノックをする。


 コンコンコン…


 部屋の中にいるシンに聞こえる様に音を大きくしてノックの数を増やしてみた。


「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」」


 やはり返事が無い。そこで声を掛ける。


「失礼します。執事の者ですが、ご朝食の用意ができましたのでお呼びに上がりました」


 部屋の中にいるシンに聞こえる様にかなりの声量で話した。


「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」


 それでも返事が無い。流石に不審に思った一人の執事がドアノブに手を掛けた。


「申し訳ありませんが、中に入らせていただきます」


 そう言って中に入った。そこにはシンの姿は無かった。


「いない・・・!?」


 シーツはシワ一つなく綺麗に整えられて、床はゴミはおろか埃一つも無く、家具は一切動かされていなかったかのようにそこに佇んでいた。部屋の中はきれいに整理整頓しており生活感が全く無かった。

 そんな光景を見た執事2人は部屋を間違えたのかと勘違いする程にまで今の部屋の様子に驚いていた。すると一人の執事が部屋の中にある机の上に何かがある事に気が付いた。


「ん?これは?」


 机に近付いてみるとそこにあったのは一通の綺麗な手紙だった。その手紙の宛先が「今回の事で関わった方々へ」と綴られていた。


「随分綺麗な羊皮紙だな」


 それはきれいな純白に近い手紙だった。そんな綺麗な手紙の差出人誰なのか確認する。


「!?」


「どうした?」


 そう言って覗き込む。するとその名前を見た瞬間、大きく目を見開いた。


「「シン」!?」


 それはシンが皆も含め今回の一件で関わった者達に送った手紙だった。手紙の差出人の欄の近くに一行分程の文章があった。その文章にはこう書かれていた。


『私シンは暫くの間皆の前に姿を現しません』


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