79.対面
これで最後です。
その晩、雲に隠れた月のせいで燭台にある小さな火が更に輝きを増していた時、アウグレントは机の上に溜まっていた書類にサインをしていたのか羽ペンを動かしていた。
フワッ…
急に吹くはずのない風がそのまま燭台にまで来た。
フッ…
その風のせいで小さな火は消えた。この部屋の中で唯一の灯りが消えてしまった事に訝しげな顔でその風の吹いてきた方へ向ける。
「む?」
アウグレントの視線の先には誰も呼んでいないはずなのにそこに黒い人影がこちらを見て立っていた。アウグレントは訝し気さを更に増して人影に誰なのかを訊ねた。
「誰だね?」
丁度その時窓から月から雲が離れて行って月の淡い光がギルド長室に差し込んだ。
そして、その人影の正体が漸く分かった。
「・・・!」
アウグレントは驚きで目を大きく開いた。そこに立っていたのは、アウグレントが求めていた人材であるシンだった。
アウグレントをただジッと見ていたシンは口を開いた。
「お前がギルド長か?」
単刀直入にアウグレントの身分を訊ねたシン。アウグレントはその言葉を聞いてシンが何をしにここまでやってきたのか分かり余裕をもって答える。
「如何にも。そういう君はシン、君だったかな?」
「ああ」
肯定の返事を聞いたアウグレントはニヤァと笑う。
「そうかそうか、良かったよ。人間違いであったら君みたいな良い駒が手に入らない所だったよ」
「あっそ。それよりも・・・まぁ、ダメだろうがお前に聞きたい事がある」
シンは素気ない返事で返す。その様子のシンにアウグレントの目は「何だその態度は」と非難するような目でシンを見るがそれでも余裕の態度は崩さなかった。
「何だね?」
口調は穏やかではあるがどこか傲慢さを感じさせる物言いで語るアウグレント。シンはそんな様子のアウグレントの問いに素直に答える。
「無条件で降伏して今までの事をギルド本部か隣国に支部に報告する、或いはこの件に関わる証拠を俺に渡す気はないのか?」
その言葉を聞いた瞬間アウグレントは喉の奥から何かこみ上げる様なものを感じ取った。
「っ・・・はっはっはっはっはっ!」
大きく笑い出したアウグレント。シンは黙ってその様子を眺めていた。
「・・・・・」
漸く笑いが収まったアウグレントはシンに明かな傲慢な態度で話しかける。
「何を言い出すかと思えば・・・何の冗談かね?君みたいな事を何というのか知っているかな?」
「あ?」
シンはぶっきら棒な態度で返してくる事に対してアウグレントはその姿勢を崩さなかった。
「「泳ぎ網入る雑魚」というのだよ」
「・・・・・」
シンは沈黙で返す。その様子にアウグレントは「泳ぎ網入る雑魚」という言葉の意味を知らないのかと考え余裕と傲慢さをたっぷりと詰め込んだ言葉をシンに送る。
「君みたいな愚か者の事を言うのだよ」
恐らく「泳ぎ網入る雑魚」というのはこの世界でのことわざなのだろう。
「泳ぎ網入る雑魚」の言葉のニュアンスから考えれば、泳いでいる雑魚が何も知らずにそのまま漁師が仕掛けた網にかかる事なのだろう。
その事を踏まえればその意味は恐らく「飛んで火にいる夏の虫」と同じなのだろう。
「飛んで火にいる夏の虫」は灯火をめがけて飛んでくる夏の虫のように、自分から危険なところに身を投じ、災難を招くという意味。
シンは呆れて小さな溜息を付く。
「何だね?その溜息は?」
「お前こそ・・・」
シンはアウグレントをジロッと睨み付けて言葉を続けた。
「「張り子の虎」と言う言葉の意味知っているか?」
「ん?」
聞いた事も無い単語や言葉に思わず間の抜けた疑問の声を漏らすアウグレント。それに対しシンは変わらず淡々と答える。
「お前の様に「見掛け倒し」の奴の事を言うんだよ・・・」
「・・・」
アウグレントの目元がピクリと小さく動く。だが、すぐにニヤッと笑う。
「どちらが正しいのかすぐに分かる」
「どうやってそんなのが分かるんだ?」
「すぐに分かるさ・・・フレイムバースト」
そう言ってごく自然とで香炉の方に近付き、手を掲げて呪文を唱える。すると香炉に火が付いた。アウグレントの行動にシンはただ黙って見ていた。
「それよりも私の方からいくつか聞きたいのだがね」
「何だ?」
「君はどうやってグリフを倒したのかね?」
シンはすぐに答えるわけでも無くそのまま質問を返す様に質問をした。
「その問いは今から俺の質問に答えてから、だ」
アウグレントは眉を小さく顰めるが特にアクションを起こす事も無く余裕をもって答える。
「ふむ、まぁいいだろう。では何かね?」
「お前の言ったグルフはお前らによって引き起こしたのか?」
笑顔のアウグレントの目元が少し細める。
「・・・その通りだよ」
「・・・・・」
シンは何か反論する事なくただ黙ってアイグレントの話の続きを聞く。
「使える駒と使えない駒を選別するためにね」
人間を駒扱い。そしてそれを自慢するかのように答えるアウグレント。そんなアウグレントにシンは質問する。
「グルフはかなり凶暴らしいが、よくそんな凶暴なモンを従えさせる事ができたな?」
その言葉に更に気持ちの悪い笑みを浮かべるアウグレント。
「そんなものは簡単な事だよ、ここにある香炉の香りでね・・・」
「・・・・・」
ギルド長室は火がついたお香による煙が充満していた。不敵な笑みを浮かべたアウグレントはシンの方へ徐々に近づいていく。
「そろそろかね?」
「・・・・・」
シンはただジッとアウグレントを見ていた。
「・・・ああ、もう少しか。まぁいいだろう」
アウグレントは余裕綽々にシンに後ろを見せた。
「君の問いにちゃんと答えよう。アイトス側から私を全ての国のギルド長にさせる事と莫大な金を約束する代わりに冒険者達を兵士に変える様にしむけてくれ、と言われたのだよ」
「・・・・・」
アウグレント何か思い出したかのような仕草をする。
「いかんいかん、洗脳の事を忘れる所だった。洗脳はそこにある・・・香炉の中にある使用すれば飛ぶ鳥も狂って落ちる「トリオチソウ」を主に使われているお香が入っているのだよ」
「・・・・・・・・・」
「「トリオチソウ」の量を少なめに調合して嗅がせると、軽く朦朧する。後は私の「ゲヘンバッシュ」を使えば、どんなふざけた言葉であっても甘い囁きに聞こえるのだよ。ああ、「ゲヘンバッシュ」というのはね、相手を洗脳できる魔法の事だよ」
アウグレントはシンの方へ向いてほぼ目の前まで歩いて立ち止まった。
「さて、私から答える事はこれで全てかな」
「・・・・・・・・・・・」
アウグレントが「そろそろかね?」と言ってから未だに一言も言わないシンに止めとばかりにあの呪文を口にした。
「ゲヘンバッシュ」
そう言ってから、間を置かず、すぐに傍から見ればふざけた言葉をシンに囁く。
「ではシン君、私の為に働いてはくれないかね?」
「・・・・・・・・」
シンはただ黙ってジッとアウグレントを見ていた。そんな様子にアウグレントは少し疑問を持ったがそれでもお香と相手を洗脳できる魔法である「ゲヘンバッシュ」をシンに明らかにかけたのだから問題ないだろう。そう考えていた為余裕綽々の態度のまま甘い囁きをシンの耳元に囁く様に話す。
「君は栄華ある帝国に選ばれたのだよ」
「・・・栄華ある?」
あれ以降一切話さなかったシンがオウム返しで答えた事にアウグレントは間違いなく洗脳ができたと考え畳み掛ける様に囁く。
「そうだよ、誇り高き帝国民として選ばれその上聖戦士として戦う事が許されたのだよ」
「・・・・・・」
急に黙ったシン。そんな様子にも拘らず、今度は饒舌に語りだしたアウグレント。
「そう、だからこそ輝かしい帝国の未来の為にもシン君、私の為に働いてみないかい?」
これで決まったとアウグレントはそう思った・・・。
「断る」
「へぁっ?」
シンの「断る」を聞いた瞬間アウグレントは間の抜けた声を発した。そして次の瞬間――
ゴッ!
シンが目にも止まらぬ速さで裏拳をアウグレントの頬に炸裂した。
「ぶぶっ!!!」
不細工な声を上げながら
ドガァァァッ!
近くにあった棚に激突した。棚に入っていた本や書類が上から落ちて来てアウグレントの上に覆いかぶさる。
そんな本と書類の山に埋もれたアウグレントは殴られた頬を手で擦りシンの方へ見た。「何故お前は平然としているんだ!?」と言わんばかりに。
シンはそのままアウグレントに近付きその辺に生えている雑草を見ているような目で見ていた。
「というか、気持ち悪いんだよ、ニヤニヤしやがって・・・」
「な、なな、なぁぁぁっ!?」
何が起きているのか分からず間の抜けた大きな声を叫ぶアウグレント。
「お前は今の今まで多くの冒険者を洗脳してきたからどの位の時間で出来たかどうかが分かるんだろうが、相手が悪かったな」
シンの肺は「BBP」になっている為人体に有害な物質をフィルターの様に除去する事ができる。という事は本来グリフや人間相手であれば効くはずのあのお香も、シンの前ではただの臭いを誤魔化すだけの煙ったい日用雑貨品という事になる。
さっきのシンの言葉でどういう訳かあのお香が効かない事に理解したアウグレントは歯噛みをする。
「・・・っ!」
口の中からギリッと歯と歯が強く合わさって軋む様な音がした。そうなると当然顔は怒りの表情となって歪ませ、シンを強く睨み付ける。
「もう一度だけ言う。降伏して大人しく証拠とお前の身柄を寄越せ」
シン自身は勧告のつもりだったのだが、今の言葉はアウグレントにとってナメられていると受け取ってしまった。その証拠に顔を真っ赤にさせて明らかなシンに対する殺気を放ち右手を突き出して呪文を唱えようとした。
「っ・・・このっ・・・愚か者がっ!ファイヤーボ・・・!」
バキッ!
シンはアウグレントの右手を横薙ぎする様に蹴った。その蹴った音は竹がとんでもない速さで薙いだ時に起きる独特の折れる音がした。
「ぐがああああっ!」
アウグレントの右の前腕があらぬ方向へ向いてしまい、折れた個所は見る見るうちに痛々しい色になっていった。あまりにも痛々しい状況がアウグレントの目に映りその状況通りの悲鳴を上げる。
ガッ!
シンはアウグレントの顔の上半分を右手で覆うかのように強い力で掴んだ。
ギュゥゥゥゥ…
「ぐ・・・ぬっ・・・うぅっ・・・!」
徐々に力を入れていくシン。そのまま力を入れ続けていけば当然アウグレントの頭は握りつぶされる。そうはさせないと折れていない左手で殴ったり叩いたりと抵抗するがビクともしない。おまけに頭が締まっていく様な痛さと右腕の痛みのせいでまともに呪文も言えないでいた。
「そうか、残念だ」
シンは呟くようにそう言って更に力を入れる。
ビシビシビシ…
頭から聞こえる不穏な音。更に痛みが増し、今度は割れそうな痛みが走る。ここまでくればアウグレントは少しでもいいから緩めて欲しいが為に今までの行いの証拠となる物をどこにあるのかをシンに必死に訴え始めた。
「ま、まてっ・・・!証拠ならすぐに言う!出せる!!」
「は?」
その時シンから発せられる明らかな殺気。しかもその殺気は尋常ならざるものだった。
今のアウグレントは蛇に睨み付けられた蛙そのものだった。
「っ・・・」
アウグレントは焦りによる冷や汗から恐怖による脂汗へと変わった。体は冷たい北風にさらされたかのような寒気が一気に走る。
ガチガチと震えて抵抗する気も起こす事も出来なくなった。
「どこだ?」
目を隠されている為か脳の奥にまで響くようなその声を聞いたアウグレントは声に震えながらもすぐに答える。
「そ、そこの棚の引き出しの中だ・・・た、助けてくれ・・・」
シンはアウグレントを掴みながらその机の方へ視線を向けた。
「そうか、分かった。ところで何でお前はあの香を嗅いでも平気なんだ?」
ここに2人以外の他の者がいれば「それはお前もだろ!!」とツッコみたくなる質問だが、そんな事を思いつかさない程にまでシンが放った殺気による恐怖は凄まじいものだった。
アウグレントは余計な事は言わず素直に淡々と答える。
「それは・・・私が普段から、解毒剤を飲んでいたから・・・」
多分アウグレントは普段から解毒剤を飲んでいれば問題ない。仮に誰かにその薬を飲んでいる様子を見られたとしても、説明で「病気持ちで普段から薬を飲まなければならない」と騙れば問題ない。その上アウグレントの見た目の年齢を考えればその言葉の信憑性は更に高まる。
その事理解したシンは質問を続ける。
「ああ、なるほどな。それでそれはどこにあるんだ?」
「・・・今私が持っているのは十日分程だ・・・残りは帝都にある」
今から帝都に取りに行っていては明日の正午までは間に合わない。アウグレントが持っている全ての解毒剤と作り方を手に入れる必要があった。
「じゃあ作り方が記されている物はあるのか?」
ここで何か誤魔化すような事を言っても頭を締め付けられる。アウグレントは素直に答える。
「ああ、ある、あるとも・・・」
「サッサとよこせ」
「左の、私のズボンの左のポケットの中に手帳がある・・・」
それを聞いたシンは声を低いトーンで言った。
「取り出せ」
右手に力が入る。頭により一層強い痛みが走った。それに耐える精神力をもと合わせていないアウグレントはすぐに手帳を取り出した。
「ぁ、っ・・・ああ・・・」
左のズボンから手帳を取り出したシンは左手で受け取りそのままパラパラと軽く手帳の内容を見た。
(確かに、薬草っぽい植物のスケッチに、調合する比率とかが書かれているな・・・。それに人の名前があるな・・・)
他にも、別の薬草のスケッチや、大量の謎の数字、そして最も信憑性の高かったのは植物のスケッチの下に「トリオチソウ」と書かれていた事と、ある薬の調合比率が書かれていた事だ。
「・・・・・」
恐らく本物だろうと判断したシンはそのままジャケットのポケットの中に入れる。
「もう話す事なんてないだろう・・・?」
つまりアウグレントは「もう話す事は無い」から解放してくれと言いたかった。シンは最後の質問をした。
「・・・最後に、今までお前が言った事は全て偽りなく本当か?」
「ほ、本当だとも・・・!だから、助けてくれ・・・!」
大きな声で狼狽え命乞いをするアウグレント。その様子を見たシンは口を開いた。
「そうか、ご苦労だった」
「はぇっ?」
アウグレントの最後の言葉は間の抜けた言葉だった。
ドスッ…!
アウグレントの後頭部から異様な速さで何かが飛び出した。それは黒く細く鋭い棘がだった。シンは右手の手首と手の平の付け根に当たる部分から鋭い棘を出した。
「・・・・・」
ズズズ…
後頭部から出た棘は徐々にアウグレントの後頭部に・・・正確にはシンの手の平の付け根に当たる部分に吸い込まれるようにして戻っていった。
パッ
完全に戻った右手はそのままアウグレントの頭を離した。
ドサッ…
重い体が床の上に落ちる音が部屋の中で響いた。アウグレントの顔を見ると丁度鼻に当たる部分に3つ目の鼻の穴ができており、その穴から大量の血が流れ出ていた。当然アウグレントは白目をむいて絶命していた。
「教えてくれてありがとう」
冷たい声色でアウグレントに感謝の言葉を送った。
その時アカツキから通信が入る
「ボス、ちょっといいか?」
いつになく少し強めの口調だった。
「何だ?何かあったのか?」
様子がおかしいアカツキにシンは身構えながら訪ねる。
「ボス、単刀直入に言うぞ。あのオヤジに万が一洗脳されたらどうするつもりだったんだ?」
シンは「何だそんな事か」と小さく溜息を付き、軽く説明する。
「・・・アカツキ、煙草を吸っても、吸った気分にならなかった事があったのを覚えているか?」
皆と宿屋「旅烏」の暗い夜道でシンは煙草を吸った事を言った。確かにあの時点でBBP化された肺より煙草本来のおいしさが分からなくなってしまった。アカツキはシンの煙草の一件の事を否定する。
「・・・そんな事じゃない」
「?」
アカツキが更に声色を強くしてシンに言い放った。
「俺が言いたいのは魔法での事だ!」
そんなアカツキに驚いたのか、少し考えていたのか、或いはその両方なのかは分からないが数秒程間を置いてから答える。
その時シンはエリー達と出会った時の事を思い出す。
「・・・・・ああ、そうかアカツキは知らなかったな・・・」
「何の事だ?」
未だに強い口調のアカツキ。
「アカツキ、俺がエリー達に出会った時の事を話していなかったな」
アカツキはさっきまでの強い口調から疑問に思うような口調に変わった。
「そう言えばそうだが・・・」
シンは初めてエリー達に出会った時の事を話した。それはエリーが勝手にシンを「解析」して「アンノウン」と出た所まで。
それを聞いたアカツキはシンが何を言いたいのかが分かった。
「あ~ボス、つまり・・・相手の魔法が効かないって言いたいのか?」
「そうだ」
迷いなく答えるシン。アカツキはエリーの「解析」による魔法の件の事例は聞いただけでは一件だけだった。アカツキは他にも似たような事が無いかについてシンに訊ねる。
「エリーの時だけなのか?」
「ああ、それだけしかない」
アカツキは再び口調を強くしてシンを叱った。
「だったら、もし、さっきまともに受けていて、万が一・・・!」
「すまない」
シンは言い訳するわけでも無く素直に謝った。
「・・・!」
そんな素直に謝罪した事にアカツキはそれ以上強い口調で叱る事はしなかった。そんなアカツキにシンは続けて謝罪の言葉を口にする。
「・・・勝手な事してすまない。さっきアカツキに我儘だって叱られたばかりだというのにな・・・」
アカツキはA.Iだ。だから溜息を付く、なんて事は無い。だが、もしアカツキが人間であれば間違いなく溜息を付いたであろう。
「・・・決して魔法が効かないという保証はどこにも無いんだぞ?」
アカツキの言う通りエリーが使った「解析」の魔法が効かないとは言え、一切この世界に存在する魔法が効かないという保証はどこにもない。ゲームであればガイドや攻略情報等があるだろうがこれは現実だ。そんなものはどこにもない。そう言った事を知るには自分で考え自分から動かなければならない。
「・・・アカツキが強めに止めに入ってしまえば他の人間にバレるからな・・・。本当にすまない・・・」
シンの言う通りアカツキの存在はシンとアカツキ自身にとっては最重要機密に当たる事柄だ。赤の他人はおろか、最も信頼できるような人物でない限りこれは誰にも言えない大きな秘密だ。
バレてしまえばシンを利用しようとするものが現れ、最悪大きな戦争といった事態にもなりかねない。それを避ける為アカツキが止めに入ったとしても、大きな声で止めに入れば誰かにその声が聞こえてしまう為できない。
「・・・誰か止めるような奴がいればだいぶ違うんだがな」
それを聞いたシンは何か思い付いた事をアカツキに提案する。
「俺とアカツキだけでは、まだ対応しきれていない所がある。そこで俺は、俺なりの方法で仲間を作るってのはどうだ?」
それを聞いたアカツキはいつものような口調でシンに語る。
「それはボスの勝手な行動を「待った」を掛けられる存在を作るという事か?」
「そうだ」
「・・・・・」
確かにシンの言う通りアカツキだけでは、シンの我儘な行動を止めるのは少し無理があった。そこでシンは信頼できる仲間を作るという考えに至った。
シンのその考えにはアカツキも賛成だった。
「分かった。それについて、異論はない。それでいつそれを?」
「アカツキのエネルギー補給と共に、だ」
「O.K。じゃあもう何も言う事は無い」
一通り依頼と己の事についての方針が決まり安堵した途端シンの腹から空腹の悲鳴が叫ぶ寸前だった。
「あ~腹減ったな・・・」
「そんな時間にはまだ早いんだが・・・」
アカツキは今の時間から算出した時間をシンに伝える。
「そうか・・・ん?」
シンがアカツキの返事に答えた丁度その時だった。誰かが2階へ駆け足で上がり、ギルド長室へ入ってきた。
バンッ!
3人程の冒険者と思しき男達が入ってきた。
「・・・!」
「これは・・・!」
「あっお前手配書の!」
ある男が言ったセリフにシンは目つきを鋭くして瞬時に右手が消えた。
ヒュンッ!
「「「!?」」」
何かが風を切った様な音がした。3人は何が起きたのかまるで分らなかった。そして次の瞬間、3人ともツツ―と首から赤い線が浮き出し始める。
「あ」
3人のうち誰かがそう言った瞬間、床に3人の首が同時に落ちてしまった。
ブシュ―――…!
シンにとっては最早見慣れてしまった赤い噴水。その赤い飛沫がギルド長室を赤く染め上げていった。当然シンもその赤い噴水を被った。
3人の内ある男が言った「あっお前手配書の!」。この言葉から考えられるのはこの3人は帝国側から手配されてしまったシンをつけ狙う犯罪組織、ミーソ一家とシルノフ一家の構成員だろう。
シンは咄嗟にそう判断し右手を瞬時に鋭利な刃物状にした。そして触手状で伸ばした右手で目に見えない程の速さで3人を殺した。
「とんだ邪魔が入ってしまったな・・・ん?」
「どうした?」
シンはその冒険者の男の腰に下げた袋の中からある物を取り出した。
「ボス、これは干し肉か?」
カメラ越しに見たアカツキは尋ねる様にして言った。
「ああ、多分な」
微かに匂う肉の匂いでそう判断したシン。
「丁度いい。全部貰っていくか」
「そうだな、食べるのは・・・戻りながらでもいいか」
その言葉を最後に、後は無言でそのまま証拠となる物を探し出す。シンはそのまま証拠となるであろう物は全て「収納スペース」に放り込んだ。
事が済んだシンはそのままギルド長室の窓から来たルートで帰っていった。
しかし、この時アカツキとシンは、自分達の事でもう一つどうにかしなくてはならない問題があった事にこの時気が付いていなかった。
一気に書いて、一気に投稿した形になりましたので、申し訳ありませんが読みにくいかもしれません。また慣れない事をしましたので誤字脱字、文章でおかしな事や、ストーリーとして違和感がございましたらご連絡ください。
また暫くの間はこれからの話のプロットの構成や今までの話の修正や変更をしていきます。ですので、次話投稿がいつになるのかは楽しみにされている方々には申し訳ありませんが未定です。
長くなった後書きですがここまで読んで下さりありがとうございます。まだまだ「アンノウン ~その者、大いなる旅人~」は続きますのでどうぞお楽しみください。