6.夕食
今回は2話投稿させていただきます。
子供達を例の洞窟へと連れて行った日の晩。
エリー以外の子供らはシンの方へ睨みつけていた。
「「「・・・・・・」」」
「「「・・・・・・」」」
睨み付けるその目は不安によるものか警戒しているかの2つだった。シンは仕方が無いと諦め、今後の事について考えを練ろうとした時だった。
キュ~…
洞窟の中で可愛らしい音が響く。それも複数だ。シンは音のする方へ向いた。
「「「・・・・・」」」
洞窟に着くなり何人かの子供達のお腹から鳴った。エリーを含めた女子組は顔を赤らめ恥ずかしそうに俯いていた。男子組は未だにシンの方へ睨み付けていた。だが音が鳴る前と大きく違っていたのは顔を赤くしていた事だ。
「・・・」
シンはやれやれと言わんばかりの溜息をつく。
そこで急遽洞窟の前でシンは夕食の用意をする事にした。皆に信用してほしいという下心でカレーライスを作ろうと考えた。
早速人数分の米、ニンジン、タマネギ、ジャガイモ、牛肉、カレーのルー、水、インスタントコーヒー、木のまな板、2つの折り畳み式コンロ、数十個の固形燃料、ライター、寸胴、大きな鍋、お玉、杓文字、スプーン、皿を「ショップ」で購入し具材を切っていた。ここまででかなりの出費ではあるが対して今後に響く程の大きな痛手の出費という訳でもなく、暫くこういった生活しても問題はない程のものだった。
(とは言え、このままこいつらを面倒を見るわけにもいかないからな・・・)
そんな事を考えながらも具材を用意する。そんな中シンは右手を見てある事を考えていた。
「・・・・・」
右手を「BBP」で刃状に変えて具材を切ろうかと考えていた。
(やっぱり、包丁も購入するか・・・)
自分はともかく、敵を斬った刃物で料理して人前に出すのはどうか。そう思い包丁を購入した。自分を含め7人いる上に今後の事を考え多めに買った。結構な買い物になってしまった。
折り畳み式コンロを立てるシン。
1936年にドイツで発明された某有名なポケットストーブに似ている物を今回使用している。本来の物であれば、折り畳み式で誰でも簡単に立てて火を付ける事ができる為、今日まで軍用のポケットストーブの代名詞として使われてきた物だ。
ただ大きく違っていたのは大きさだ。本来はどんなに大きくても収納時130×100×40mmなのだが、今回大人数である為これは収納時300×230×90mmもある。
最初は焚火で料理をしようかと考えていたのだが、火加減の調節が難しく、下手をすれば寸胴や鍋がすぐにダメになってしまう恐れがあった。
ましてやこういった事ではシンは素人だ。最初は折り畳み式コンロと固形燃料にして、後々に焚火での料理方法を習得しようと考えた。
折り畳み式コンロを立てるとその中に固形燃料を入れる。シンは固形燃料に火をつける為に購入したライターを取り出す。このライターは今後の事を考えて丈夫で、簡単に火が消えず、ベトナム戦争でも使われた有名な某ライターだ。
「・・・・・」
右手に持ったライターにはある文章が彫られていた。シンはそれを数秒程見つめていた。
(今は料理・・・)
首を小さく横に振り、気持ちを切り替える。このライター特有の蓋を開ける音と火を付ける音が洞窟内で小さく響かせた。
キンッ
シュボッ!
ライターに一発で火が付いた事を確認したシンはそのまま固形燃料に火を点けた。するとすぐさま、オレンジ色の光をコンロの中を照らした。
その様子を見たシンはライター特有の蓋を閉じる音を鳴らした。
カチンッ
次にカレーの具材の皮剥きを始める。シンが手にしたのはジャガイモだった。包丁の刃の下の角で芽を取り、皮を剥くために刃を入れ始める。そんな作業をしていると昔の事を思い出す。
(こうして料理の用意をしていると、林間学校の時の事を思い出すな・・・)
黒元 真は前の世界では高校2年でどこにでもいる普通の学生だった。高校1年の時に林間学校に行き、班ごとにカレーを作っていた。シン達の班では後はかき混ぜるだけで完成する一歩手前の所だった。
「え、それ何?」
高校1年の黒元 真は思わず指を指していた。指している先は同級生が焦げ茶の円筒の缶だった。そんな事はお構いなしとばかりに、その同級生はその缶を開けてカレーの中に何かを入れようとしていた。それを見て思わず聞いた。他のメンバーも何だろうと覗く。
「コーヒーだよ。これを一つまみ入れるとコクが出るんだ」
その同級生はニコニコしながら返答し、スッと一つまみコーヒーの粉を入れてかき混ぜる。
「マジで?」
黒元 真は思わず聞き返す。だがその聞き返しは答えながらそのまま入れた事に対する驚きだった。黒元 真の驚きがそのままうつったかのように他のメンバーも口をあんぐりと開けていた。
だが、その同級生は隠し味が余りにも意外だった事に対する驚きと勘違いしていた。黒元 真達がコーヒーを入れた事の驚きに対するものとは微塵も思っていなかった。所謂ドヤ顔気味にニヤリと笑って黒元 真の聞き返しをそのまま返す形で返答する。
「マジで」
黒元 真達はポカンとだらしなく口を開けながら只々その様子を見ていて、その同級生はそんな様子に構わずカレーをかき混ぜていた。
同級生がかき混ぜて完成したカレーを皿に装って実食する直前だった。
「「「・・・・・」」」
黒元 真も含めメンバーはマジマジとそのカレーを見ていた。見た目はいたってごく普通のカレーだった。だが作って見たもののやはり何か信じられないものがあった。
「いただきます」
「「「・・・いただきます」」」
半信半疑ながらもスプーンでそのカレーを一口すくって口に運んだ。
パクッ…
「「「!」」」
「・・・美味い」
全員が目を大きく見開いた。口の中でカレーの食欲そそる特有の匂いが鼻腔をくすぐり、コクと深みのあるカレーの味が舌に広がっていくのを感じた。
「だろ?」
同級生はドヤ顔で返答する。そんな同級生の様子にメンバーは理由こそ無かったが無性にイラっとした。だが結果的に真の班はおいしい時間を過ごした。
カレーに対してこだわりを持った同級生がいた。
今作っているカレーはそいつからの意見を参考にした「こだわりカレー」を作っていた。
皮を剥き終え具材をまな板の上に乗せ適当な大きさに切っていく。その時幾人かの視線を感じた。
ジー…
と言うよりもさっきから気配がしていた。
物陰からニックとククとココがこっちを見ていた。
「何を作っているのか」という好奇の目と「何を企んでるのか」という警戒の目を感じる。
シンは呆れながら「さっきから見えてるよ」と思いつつ、気にせず調理を続行する。
米は無洗米で鍋に水と米を入れて、炊いている。
カレーの方は人参、ジャガイモを半分ほど残す形で具材を切る。
次に寸胴に油を入れて具材を炒める。
適量の水を入れ、蓋をして沸騰したらアクをとり、残しておいた人参、ジャガイモをすりおろしに近い状態になるまでみじん切りにし、混ぜて煮込む。
いったん火をとめ、カレーのルーをお玉に割り入れて溶かす。
5分くらい弱火にして、時々かき混ぜる。仕上げに一つまみ程のコーヒーの粉を入れてかき混ぜる。
これで出来上がりだ。
クタクタと煮て、カレーの匂いが周りにどんどん広がっていく。
タラ~…
グ~…
物陰に隠れていたニック達はの口からだらしなく涎が垂らし、空腹音が聞こえる。洞窟の空腹の時の様に顔を赤らめていない。どうやら今の自分達の状態に気が付いていないようだ。
まぁ仕方がないだろう。カレーの匂いは空腹をより煽らせてくる。
ご飯も丁度炊けたのでよそっていく。エリーに「御飯ができてるよ」と皆を呼ぶように言った。
皆が来て1人ずつ皿に入ったカレーライスを渡していく。未だにナーモとニックがこっちを睨んでくる。「敵意はないよ」という念を送るも「どうだか・・・」と言わんばかりの目をしている。
だが、そういう目も数十秒も経たずに解いていく。
グ~…
空腹音が鳴った。それも同時に。渡したカレーライスの匂いを嗅いでなってしまったのだろう。
「「・・・・・」」
2人は再び恥ずかしそうに顔を俯き赤くなっていた。
シンは小さくため息をつきその様子を見て手を合わせ
「・・・いただきます」
と言った。
エリー以外の皆は「?」と何をしてるのか分からなかったようだ。
シンがスプーンでカレーライスをすくい食べ始める。
エリーも同じくスプーンでカレーライスを食べる。
「♡」
何の躊躇もなく食べて満面の笑みを浮かべているエリー。
(やっぱり、何かしら日本人との関わりがあるんだな・・・)
シンはそう思いながら食べ続ける。
「・・・・・」
「・・・・・」
その様子を見たククとココはスプーンを持ってカレーライスを口に運ぶ。
パクッ…
「「~~~!!!」」
何とも言えない幸せそうな顔をして、ガツガツ食べ進める。
その様子を見たナーモとニック、シーナは恐る恐るカレーライスを口に運んでいく。
パクッ
「!」
「!!」
「・・・!」
目を大きく見開いて、ナーモとニックはガツガツ食べ始める。
シーナも少しずつ食べていたが、次第にガツガツ食べていくようになった。
シンは何気なく皆の方へチラリと見た。
「・・・・・」
シンは食べる為に動かしていたスプーンが止まっていた。それもそのはずだ。皆涙を流していた。
涙と鼻水が出ているのをお構いなしに食べているククとココ。堪えているつもりの様だが、出ているナーモとシーナ。ニックはボロボロ出ている。エリーも目に涙を潤ませ次第にポロポロと出ていた。今自分達が涙を流している事には気づいていないようだった。
(こいつらの生活は俺が考えてる以上に過酷だったのかな・・・)
皆の服装はボロボロの汚れた貫頭衣だった。その上痩せており、まともに食事をさせてもらえなかったのが窺える。
この世界は命と自由と人権とは安く見られているのだろうか・・・
そんな不穏な事を思いながら彼らを見る。
「・・・・・」
ガツガツ食べるナーモ、ニック。皿についているカレーのルーをスプーンで擦り取るように食べるククとココ。まだ物足りなさそうにこちらを見るシーナとエリー。
シンはフッと笑い
「お代わりならまだたくさんあるぞ」
と言い、カレーをよそった。
カレーを食べ終え、ククとココ、ニックは疲れたのか洞窟の奥で寝ていた。シンは「ショップ」でブルーシートと毛布を買い、3人をそこで寝させた。
スースース―…
「・・・・・」
小さな寝息を聞き3人の安堵した寝顔を見ながらそっと毛布を掛けた。するとナーモとシーナがシンの所まで来ていた。シンは後ろへ振りかえる。
「?」
シンは何か用かと思い2人の様子をジッと見ていた。ナーモから口が開く。
「○、○○○○・・・」
その後に続く様にシーナも口を開いた。
「○○○○、○○○○○・・・・・」
と少し顔を赤くしながら何か言った。言うだけ言ってそそくさと他の皆が寝ている所へと向かった。
「・・・・・」
何を言っていたのかは分からなかったが少なくとも悪い事は言っているようには見えなかった。そんな様子を眺めているとエリーもシンの元まで来ていた。
「今日の事はありがとう」
「気にするな」
エリーは少し俯きながら何か言おうとした。
「それから・・・・・・・・・・」
口ごもる様にして黙った事にシンは尋ねてみた。
「まだ何かあるのか?」
「・・・ううん、お休み」
少し穏やかな顔でそう挨拶したエリー。
「ああ、お休み」
シンも挨拶で返した。エリーは皆の元まで言ってそのまま横になった。シンはそんなエリーの様子をただジッと黙って見ていた。
「・・・・・・・・」
何か言葉が詰まったような言い方をしていたエリー。シンは何となく、その理由が分かっていた。
だが、色々あって皆疲れているだろうし、自分もそのまま寝る事にした。
シンはブルーシートの方には行かず手前で蹲る様な形で眠りについた。そのまま顔を膝小僧に埋める様に頭を倒し、静かに目を瞑った。
カレーを作った時の事を再び思い出す。
まずカレーを作るために調理器具を買う時、「敵を斬った刃物で料理して人前に出すのはどうか」と躊躇い包丁を買う。
「・・・・・・・」
何か違和感を感じ閉じていた目を静かに開けてしまった。
「・・・・・・・・?」
はっきりとは分からないが少なくとも違和感があった。
「・・・・・・・・・・・・・」
今の自分の身体に疲れが無かったが念のために体を休めた方が良いと考え再び静かに目を閉じた。
しかし後にこれも重大な決断するきっかけの内の一つである事に気が付いたのはだいぶ先だ。
追記 改善してほしい部分がございましたらご連絡ください。