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74.故郷と出身

「・・・そんな事が」


「信じられませんな・・・」


 ギルド長室にはシンとグランツ、パーソ、リース以外の皆は退出させていた。皆は別室で待機。マリーには皆のお守り。ネネラは気を失っているニニラの様子を見る為に留置されている別室にいた。ロニーはこの件についての報告するために一度城へ戻っていた。無論シンを襲った4人の男達もその部屋にいる。

 因みに元からいたパーソの護衛はヨルグに構えている店の護衛をしている。その為今回やってきた6人全員帝国の息がかかった者達だった。ただし、リースを除いて・・・。

 シンとグランツは今までの経緯をパーソとリースに聞かせた。当然2人は何も知らない上に信じられない数々の事実に顔を青褪める。


「私達は知らず知らずの内に巻き込まれていたのですね・・・」


 パーソは自分の無知さに少し呆れていたのか小さな溜息を吐きながらそう口にする。そんなパーソにシンは声を掛ける。


「パーソさん」


「何でしょう?」


「リースが帝国の騎士である事は知っていたのか?」


 シンはリースがどういった目的でパーソと共にここまで来たかについて知りたかった。まず、パーソにリースの身分の事を訊ねてみた。これでパーソの返答がYesかNoによってだいぶ違ってくる。


「はい、存じておりました。そして、帝国の事についても何も知らなかったようです」


 Yesだった。という事はリースの身分を知っていて何のためにここに来たかについて訊ねる事にしようと話し通うとした時、先にグランツがその質問をする。


「何故リースと共に行動しておったのじゃ?仮にも帝国の人間じゃろう?」


 パーソは冷静に答える。


「私がここに来たのはアイトス帝国の農作物の売買の相談で参りました。その為の護衛としてリースさんが私と共に来たのです」


 パーソの答えを聞いたシンはふと気になった事をグランツに訊ねる。


「疑うといえば、ギルド長はリースに対して何も疑わなかったのか?」


 もし、疑っていたとすれば、ほとんど尋問に近い形で接していただろう。だが、今のグランツの様子を見ればそこまで疑っている様子はなかった。グランツはその理由を軽く説明した。 


「うむ、儂もパーソ氏を人質にとるかと思うて警戒したのじゃが、そんな様子もなく、護っておった。あれで十分じゃよ」


「なるほど・・・」


 シン達から聞いた話でのリースに対して半信半疑だった。だが、大通りでの出来事のリースの行動を見て敵ではないと確信したグランツ。今では全くとまではいかないが、さほど疑心を持ってはいなかった。

 シンはリースの方へ向いて最も気になっていた事を訊ねる。


「リース、何故ニニラと共にこの国に来た?」


 リースは短い間とは言えニニラの事を知っていた。出国料の件以降でニニラの事は少なからずその時ニニラの様子を知っていたはずだ。

 つまり、それなりに様子がおかしい事は知っていた事になる。それにも拘らずリースはパーソの護衛という形でニニラと共についてきた。

 シンが気になっていたのはそれだった。


「実は帝国からの命令でパーソさんの護衛をしながらエーデル公国まで行くように言われました。ただ・・・」


「ただ?」


「・・・ただ1つおかしかったのは、帝国兵として入ったばかりのニニラさんと共に行く事でした」


 確かに、ある程度の期間、騎士として務めているリースと共に行くのはそこそこ地位のある騎士かベテランの騎士だろう。だが、共に行くとなったのは帝国兵として入ったばかりで若輩者のニニラだった。いくら腕が立つからと言って特定人物の護衛という任務はかなり責務が重い。入ったばかりの人間では心もとない上に責任が重すぎる。それなのにも関わらず、この命令が下ったのは変だ。

 シンは続けて質問をした。


「他の4人は?」


「4人も帝国兵で共に護衛するという事でした」


「そうか」


 リースは続けて話す。


「パーソさんの所に帝国から兵士を寄越すという事に、私は何かあると思いここまで参りました」


「ん?商人に兵士を護衛として寄越すのはおかしい事なのか?」


 実際パーソは高いとは言え、塩と胡椒を大金貨10枚で払う程の商人だ。その事を考えればそれなりに有力な商人と言える存在だろう。そんな商人を国から兵士を寄越して護衛するとなってもおかしくは無いはずだ。


「帝国と深い関わりがあるならば分かりますが、パーソさんは帝国に店を構えたのは1年前であまり関わりがありません」


「なるほど」


 パーソは帝国に店を構えて日が浅い。その為国との、帝国との関わりは必然的に浅い。それなのに帝国の兵士を護衛として寄越した。これも帝国に対する疑問点の一つだった。

 そんな疑問点が出てきた上に更にグランツは気になる事を口にする。


「じゃが、何故リースは「帝国の息」がかかっておらんのじゃ?」


「そう言えばそうですね・・・」


 グランツとパーソは疑問の目でリースを見る。するとリースは頭を横に振る。


「すみません、私も思い当る事はございません」


 そんな3人をよそにシンは少し考え込んでいた。


「・・・・・」


 シンは何か思いつきリースの方へ向き訊ねる。


「リースの出身国はどこだ?」


「私はアイトス帝国出身ですが・・・ってまさか・・・!」


 シンは頷く。


「多分だが、リースが帝国出身だから、国の為に働く。だから十分信頼ができるから何もされなかった、或いは様子を見ていたんだろう」


「・・・・・」


 唖然とするリースに対して、お構いなしに話をつづけるシン。


「アイトス帝国は元々小さな集落に近い武装組織だったんだよな?」


 そう言ってグランツに訊ねる様に見る。


「うむ、周りの集落を侵略や占領して大きくなった国と聞いておる」


「それはいつからなんだ?」


「随分昔からそうじゃった。じゃが、20年近く前から動きが激しくなったのぉ・・・」


「結構最近なんだな」


「うむ、あまりにも早い国土拡大により周辺国は警戒しておったのだ。そしてその矢先に・・・」


「アスカールラ王国が乗っ取られたと」


 グランツは静かに頷く。シンは小さな溜息を吐き今度はパーソの方へ見る。


「パーソさんに聞きたい事があるんだが」


 パーソは顔を上げてシンの方へ見る。


「何ですか?」


 するとシンは突拍子も無い質問する。


「出身国はどこだ?」


「?」


 パーソはキョトンとした顔をしていた。


「私はラッハベール合衆国ですが・・・それが何か・・・?」


 頭の上にクエスチョンマークを出しながらも取敢えず答えるパーソ。


「確認したい事があったんだ」


「確認・・・でございますか?」


「ああ」


 シンはスッと立ち上がりギルド長室のドアの方へ向かった。そんな様子のシンにグランツは尋ねる。


「む?どこへ行くのじゃ?」


 シンはグランツの方へ振り向く。


「ネネラの所だ。ちょっと確認したい事があってな・・・」


 そう言ってギルド長室を後にした。何が何だか分からないままシンを見送った3人だった。




 ドアをノックもせずそっとドアを開けたシン。何故静かに開けたのには理由があった。


 別室のドアを開けるとネネラとニニラ、4人の冒険者風の男達がいた。奥の方では4人の冒険者風の男達は壁にもたれかかる様にして眠る様に気を失っていた。ニニラは4人の男達とは別に窓側の壁沿いに気を失って横になっていた。

 当然、起きて暴れない様に後ろ手に縄で拘束していた。気を失っているとは言え、全員スヤスヤと穏やかに眠っていた。とても大通りで激高して暴れていたとは信じられない位に。


 もし何かの拍子に起こしてしまったたらまた暴れるかもしれない。シンはそれを考慮して敢えてノックをせずに静かに入ったのだ。


「・・・・・」


 気を失って眠っているニニラを心配そうに見つめるネネラ。

 そんな様子のネネラに近付いて行ってシンはネネラに声を掛ける。


「気持ちは分かるが、洗脳の件があるから起こさない様にな・・・」


 起こせばまたあのような事態になる。念の為シンはネネラにそう言った。ネネラは振り返る事も無く答える。


「大丈夫よ、そんな事はしないわ」


 声にはしっかりとした力のある声だった。どうやら心配は必要なかった様だ。


「そうか」


 シンは少しだけネネラに近付く。


「ニニラ達の洗脳はエーデル公国の魔法省の専門機関で何とか解く事になっている」


「そう・・・」


 ネネラはそう答える。その後少しの間沈黙が流れる。


「・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


 気まずい様な重い空気が流れる。そんな空気の中で先に口を開いたのはネネラだった。


「ありがとう・・・」


 シンは何に対しての言葉なのか、予想はついていた。ニニラを助けた事だろう。だが、その予想に対してシンは思う所あって素直に受け入れる事は出来ない。


「・・・ああ、いや、俺は・・・」


「それ以上は何も言わないで?」


 穏やかで重みのある口調だった。


「!」


 シンはネネラが何を言いたいのか、すぐに分かった。


「・・・俺が何を言いたいのか分かるのか?」


 少し間が空いてからネネラは答える。


「うん、ニニラを殺そうとした事でしょ?」


「・・・・・」


 シンの方へ向かず未だにニニラを見ていたネネラ。変わらず穏やかで重みのある口調で語る。


「洗脳されている。でも・・・それでもニニラがシンを殺そうとしていた」


「・・・・・」


 シンは何か言葉で返す事もせずただ黙ってニニラの言葉に耳を傾けていた。


「そして、シンも自分を守る為にニニラを殺そうとした事も・・・!」


 ネネラはバッと勢いよくシンの方へ振り替える。


「でも、シンはニニラを助けてくれた・・・」


 シンの瞳に映ったのはネネラの憤怒の形相でも無ければ静かな怒りが籠った形相でも無かった。ただ穏やかな顔だった。


「私とニニラは孤児だったの」


「・・・・・」


「私達は元々どこの国にも属さない小さな村で育ったの・・・。でも戦争で村を焼かれて両親は失った。いたのはニニラただ一人だけだった・・・」


 寂しい目を眠っているニニラに向ける。


「数少ないとは言っても孤児となった私達は村にとって邪魔でしかない。口減らしに森に放り出されたわ。それからは生きるために必死だった・・・」


「・・・・・・・・」


 ネネラは遠い目をして小さな溜息を付いた。


「必死になって冒険者になって、せっかくできたクランもほとんどは殺されたり、生活に合わなくなって出て行った。そしてクランはいつしかもう無くなっていた。私の側にいたのはいつもニニラだった」


「・・・・・」


 この2人から冒険者は様々な形で離れて行った。その為お互いの事しか知らない。ニニラもネネラも孤独感を味わっていたのだろう。

 だが、今回の一件でネネラは本当の孤独を味わう事になっていたかもしれない。

 シンが殺そうとしていたとは言えニニラは助かり本当の孤独を味わずに済んだ。


(あの背中は2人だけでは寒かったからか・・・)


 シンは宿屋「旅烏」の行き先を教えてくれて別れたあの日の夕方。その日のニニラの背中は何処か寂しそうな背中だった事を思い出していた。

 あの寂しそうな背中の本当の意味は本人以外、誰にも分からない。だが、恐らく2人にしか分からない孤独感を埋めようとクランを作った。だが失敗に終わった。今シンが思っている事が真実なのだろう。

 シンは聞きたい事はニニラが自然と自分から話してくれた事によりもうこの場での用はなくなった。


「・・・他にも用があるから、これで」


 シンはそう言ってこの場から去ろうとした。するとネネラは大きな声でシンの名前を叫ぶ。


「シン!」


 シンは徐に振り返る。目線の先には目が潤んだネネラがいた。


「改めて言わせて・・・。ありがとう・・・」


「・・・ああ」


 シンはそう言ってその場から立ち去った。




 シンがギルド長室へ戻ろうとすると途中の廊下でマリーに遭遇した。


「マリーさん?」


「ああシンさん、ちょっとよろしいでしょうか?」


「何かあったのか?皆は?」


 皆がいない事に気が付き何かあったのかと思い尋ねる。


「皆さんならギルド長室に向かわせました。それよりも私はシンさんに耳に入れたい事がありましてこちらに来ました」


 皆は無事ではあるものの何か別の案件が出てきたようだ。それもシンも関わっているようだった。


「耳に入れたい事?」


 マリーはシンに近付き小声で用件を伝える。


「実は受付嬢から王城の方からロニー様と・・・その、ドラグーンの方がいらしてまして・・・」


 マリーは歩きながら話を続ける。


「ドラグーン?竜騎士か?」


 少し躊躇ったのか僅かな間が空いて答えるマリー。


「・・・・・そうですね、竜騎士で有名なあの「ドラグーン」です」


 シンはアカツキが視認した「空飛ぶドラゴンであろう生き物に人間らしきものが乗っていた」存在は恐らくこれだろう。どうやらこの世界での「ドラグーン」はこういった形で実在している様だ。


「そうか・・・(ロニーさんは分かるが、そんな竜騎士みたいな人間と遭遇した事なんて無いんだが・・・)」


 今まで接してきた人間は少ない為かなり限られる。竜騎士という事は国が認められた精鋭部隊の可能性が高い。という事は国絡みでシンに近付いてきた可能性は十分にあった。


(だとしたら、警戒しなければならないな・・・)


「出会うと少し驚かれると思いますが・・・」


「?」


 シンはどういう事は分からないまま進んでいくと、ギルドの玄関まで来ていた。先にマリーがドアを開ける。そこにいたのは恭しく礼をするロニーと


「我はドラードと申す!」


「・・・・・・」


 古代ローマの服装である白いトーガの様な服を身に付けた、高々に「ドラード」と名乗るギアが仁王立ちしていた。


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