5.アンノウン
「さっき・・・「日本人」って言ったのはお前か?」
銀の髪の少女はコクリと頷いた。
真は銀の髪の少女に近付きそっと屈む。すると近くにいた赤毛の少年が銀の髪の少女の前に出た。ギロッと真の事を睨み付け、表情から見るからに警戒していた。
「・・・・・」
そんな様子の赤毛の少年に真は何か言おうとした時、銀の髪の少女が少年に話しかける。どうやら真が安全な人物である事を説得している様だ。
「○○○!」
「?」
「○○○○○○○○○○○○○○○○○○○・・・」
「○○○!?」
「○○○○○○、○○○○○○○○。○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○?」
「○○○・・・」
「○○○、○○○○○○○○○○○○○?」
赤毛の少年は真の方へ向く。
「・・・・・・・・」
数秒程見た赤毛の少年は銀の髪の少女の方へ向く。
「○○○○。○○○○○○○○」
「○○、○○○○○・・・」
銀の髪の少女が赤毛の少年に最後に何か言った。それを聞いた赤毛の少年は一歩下がった。どうやら話し合いが終わった様だ。真はそのタイミングで銀の髪の少女に
「名前は何て言うんだ?」
と穏やかな口調で名前を尋ねる。その口調のおかげか銀の髪の少女は素直に名前を言った。
「エリー・・・」
見た目も名前も決して日本人と言えない容姿だった。
何故エリーは「日本人」と言う単語を知っているのか、何故この娘とは言葉が通じているのか、色々聞きたいことは山ほどある。一つ一つ質問しようとする。
「「エリー」か、いい名前だな。それで・・・」
次に何か言おうとしたその時、真は何かの気配を察知した。
「・・・・・」
真は気配がする方へ鋭くした目を向ける。馬車の外に殺気を帯びた複数の何かが出現する。真は外の様子を確認するためエリー達に子供達と共に馬車の中で待機させる様に言った。
「・・・ここに居て」
「うん・・・」
エリーは素直に従う返事をする。それを聞いた真は軽く頷きそっと馬車の外を見る。そこには7匹の狼達がいた。
前の世界でもブレンドウォーズでもよく見かける「ハイイロオオカミ」とそっくりだった。大きさは160cm程で「ハイイロオオカミ」と言う位だから黄褐色から灰褐色のような色、白っぽいものや灰色のもの、ほとんど黒いものや真っ白なものまで、様々なものが一般的だ。
グルルルルルル…
唸り声をあげながら徐に死体や馬車に近づいていく。どうやら、ここにある血の匂いに誘われてやってきたようだ。
その事を視認するとまた右手を鋭利な刃の指に変えて戦闘態勢に入る真。その後ろ姿を見たエリーは
「○○○○○○○・・・」
とこの世界の言葉で何かを呟いた。そしてエリーの目にはある単語が映っていた・・・。
戦闘態勢に入った真の周りには7匹の狼に囲まれていた。真は焦りもせず、さっき連中にと同じように攻撃を仕掛けた。
ヒュンッ!
真が盗賊の様な連中の時と同様に右手を振り払う形で血を飛ばしていた。
すると、4匹の狼の身体から血が噴き出し倒れた。絶命していた。
!?
それを見た7匹のリーダーっぽい狼は「ウゥゥ・・・」と唸りながらジッと真を見て、残った狼を連れ後ずさりするようにその場から撤退した。
狼達が去ったのを確認すると、真は武器となった自分の右手を見た。
「・・・使いづらいな」
そう呟き、普段の手に戻す。これからの事について話そうとエリー達の所に戻る。
「エリー・・・」
と声をかけるとエリー達は気が付いた。エリーは日本人である真に対して警戒を解いていたが、残りの5人たちは未だに警戒している。
「・・・・・」
どうしたものかと悩む真にエリーから突拍子もない事を言った。
「あなたの名前って「アンノウン」?」
「・・・・・・・・・・は?」
自分の名前は「黒元 真」。決して「アンノウン」ではない。
そもそも「アンノウン」とは主に「正体不明の存在」といった意味合いが多い単語。
真は「何故俺の事を“アンノウン”って呼ぶのか?」と聞こうかと思った。
だが、真はそのセリフを口にはしなかった。
「エリーそれはどういう意味?」
真は何となく自分の事を「アンノウン」と呼ぶのに何か意味があると思ったからだ。
するとエリーは・・・
「あたしには「解析」の魔法を持ってる」
至極当たり前のように答えるエリー。しかし真は聞き慣れない単語が出て来たからエリーに訊ねる。
「何だそれ?」
「え?」
「え?」
お互い頭の上にクエスチョンマークを出し、首を少し傾げる。
何かが食い違っている。
真は何となくエリーがこの世界の常識を前提に話をしているのではないかと考えたのだ。
まず、真はここに居てはまた狼等の他の肉食獣がやってくるかもしれないと判断し、エリーを通して自分がいた洞窟へ子供たちを連れて行く事にした。子供達は渋々付いていく。
5人の子供達のそれぞれの名前と容姿は赤毛でツンツン頭、赤い瞳の15歳の少年の「ナーモ」。真をキッと睨み付けた少年だ。
同じく15歳で長い金髪、青い眼が特徴の少女の「シーナ」。泣いていた年下の子供達を抱いていた少女。
10歳の少年は「ニック」。栗毛で短髪、垂れ目で茶色の瞳が特徴。
金色の瞳に緑の髪で長すぎず短すぎない兄の「クク」とポニーテイルの妹の「ココ」。どちらも8歳でシーナに泣きついていた子供2人だ。その道中の間とりあえず自己紹介から始めて仕切り直す。
「まず、俺の名前は「黒元 真」」
真はそう名乗るとエリーがある事に気が付いた。
「「クロモト・・・シン・・・」、姓名・・・」
「別に姓名があっても珍しくもないだろ?」
確かに姓名は真が元いた世界でもブレンドウォーズの時でもあった。だが、この世界では問題があった様だ。
「珍しいと言うよりも・・・その姓名は貴族だけしかないから・・・」
「そうなのか?」
「うん・・・」
「・・・・・」
貴族だけしか姓名が無い。と言う事は、気軽に「黒元 真」と名乗ると後々面倒な事になるかもしれない。
よくよく考えてみればこの世界で貴族だけしか姓名が無いのは決して珍しくないのだろう。中世ヨーロッパにおいては、庶民にはファミリーネームも氏もなく、名前と出身地、父親の名前、クリスチャンネーム、ニックネームなどを組み合わせて使用されていた。
庶民でファミリーネームを使用するようになるのは、近代になってからだ。
貴族層では、名前と出身、家門、ニックネームなどを組み合わせて使用していた。
この世界では恐らく貴族層は出身か家門が姓名となっているのだろう。
「(今後は「シン」と名乗るようするか・・・)エリー、真・・・俺の事は「シン」と呼んでくれ。それから他の皆にも俺の事を「シン」って呼んでくれるように言ってくれるか?」
「分かった」
取敢えず自分の名前の件は何とかなるようになった事にシンは安堵する。
「エリーは何で俺の言葉が分かる?他の子は分からないようだが・・・」
「・・・・・」
エリーは俯き黙ったままだ。その様子を見ていたシンは聞いてはまずい事なのかと考え、後々どうにかする事にした。
気を取り直して違う質問をした。
「あ―――…どうして、俺の事を「アンノウン」と?」
「「解析」・・・と言う魔法を持っています・・・」
真は少し目を大きく見開いた。
「・・・悪いんだが、それは何かについて教えてくれないか?」
「・・・知らないの?シンは「魔法」であいつらを倒したんじゃないの?」
「ちょっと、違うかな?」
真の言う通り魔法ではない。かと言って前の世界の技術でもない何か。
「・・・・・それよりもさっきの連中ってやっぱり、「奴隷商人」ってやつか?」
その事について説明しようか考えたが、説明するにしても複雑な事情であるが故、半ば無理やり話題を変える。
「・・・うん、ここにいる子達は様々な理由で奴隷に身を落としたの」
詳しく聞くと口減らしや戦争孤児だったり、「奴隷狩り」という目にあったりして集められるようだ。ほとんどの場合は労働や性的目的が多い。しかし、中には聞いていてあまり気分のいいものでもない目的で買う連中もいる。
(・・・奴隷、か。そういう事を考えればこの子らは運がいいな・・・)
シンはせめてここにいる子供達が助かって良かったと思っていた。
そして、この世界は如何に物騒なのかがわかった。
(とんでもない所に来ちゃったな・・・)
思わずため息が出る。この後洞窟に連れてった後の事を考えながら洞窟へ進むシン達。
シンは連中や狼を殺した時の事を思い出す。
(そう言えば、生き物はおろか人間を殺して何も感じなかったな・・・)
そう疑問に思っていたが後ろをチラリと振り返る。そこには助けた子供達がシンの目に映っていた。
「「「・・・・・・」」」
大半は下を俯き、力のない目が地面の方へ向いていた。言葉が通じない得体のしれない者にこれから何をされるのか分からない不安や絶望を受け入れた虚ろさが滲み出ていた。
「・・・」
今は助け出した子供達の今後の事についての考えを優先した。
これが後に己にとって重大な決断のきっかけになるとも知らずに・・・。
ここまで読んで下さりありがとうございます。誤字脱字矛盾がありますがどうかご勘弁を。
勢いで書き上げましたので次の投稿はいつになるか分かりません。
追記 改善してほしい部分がございましたらご連絡ください。
ネタ・・・が・・・
ネタがほしいよ・・・
ガクッ・・・