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64.方針

更新が遅くてすみません。

 同時刻。アイトス帝国、ヨルグ支部のギルドのギルド長室にて。顔を真っ赤にして、歯をギリッと噛み締める。明らかに怒りの色を見せて、思わず


 バンッ!!!


 飴色のテーブルに思いっ切り拳を叩きつける男がいた。


「男の方は兎も角、女子供の一人でも連れてこれんのか!あの掃き溜めの集まりどもが!」


 帝国支部ギルド長のアウグレントだ。


「せっかく()()()()()()()冒険者どもの装備を与えたというのに!」


 叩きつけた拳をそのままそっと引っ込め、椅子の背もたれにドカッと乱暴に寄りかかった。アウグレントは怪しまれて足が付かれる事を警戒してギルドで登録されていた冒険者に依頼せず、ミーソ一家とシルノフ一家に洗脳して()()()()()()()冒険者の武器や装備品を横流ししていた。

 ミーソ一家とシルノフ一家の構成員の中には10年以上も冒険者として生きて来た者もいた。そんな者に上等な()()()()()()()武器を与えていた。


 アウグレントは小さくため息をつき


「・・・やはり面識ある者で行かせる必要があるか」


 事が上手くいかない事へのイライラのせいで歪んだ顔を目の前にいる人物へ向ける。


「ニニラッ!!!」


「はい、アウグレント様」


 何の疑問を持たず素直に返事をするニニラ。


「3~4日程野宿でも問題ない様に準備をしろ」


「はい」


「そして、この前君が言っていたシンという男と子供達を悪しき者達がエーデル公国へ連れて行ってしまったのだ。そこで君にやってもらいたいものがある」


 この「悪しき者達」はリビオ達、魔眼族の事だ。


「何なりと」


「この者らは今エーデル公国の難民キャンプにいる。そこまで行って最低でも君が知っている子供の一人でも連れてこい」


「分かりました、アウグレント様」


 何の疑問を持たない無邪気な子供の様に返事するニニラ。


「うむ、期待しているよ。私も行きたい所だが、つまらなくて面倒なギルドの仕事があるのでね・・・。悪いが君に任せたよ。そこそこの人数を寄越すから私の期待に応えてくれたまえ」


「はい、アウグレント様のご期待に副える様尽力します」


 ニニラは今までのやり取りで一度も疑問も持たず明るい返事で答えた。そんな答えにアウグレントはにこやかな笑顔でニニラの退室を見送った。


「ふぅ~・・・。後はこの2人を・・・いや、何も知らせずにエーデルに向かわせるか・・・」


 一人になったアウグレントはリストを眺めていた。


「ふむ、何も知らなさそうな騎士と商人にすれば向こうは警戒せずに潜り込める・・・」


 彼の手に持つリストには「リース」と「パーソ」という名前があり、表題には「エーデル公国の威力偵察にて問題無き者達」とあった。


「上手くいけば他にも良い()が手に入ろう」


 己の怒りを鎮め宥める様に二ヤつきながらそう呟いた。




 エーデル城の使用人と思しき小人族の男性がやってきてシンは無事に部屋へ戻り少し時間が経った頃。


「ヨルグ・・・か」


 ヨルグが元々小さな集落だった事にスラム街の事を思い出すシン。


(あの時いた子供は元々いたヨルグの住人なのか?)


 石畳の通りはゴミや瓦礫が地面にあちらこちらに落ちて辺りには悪臭が漂うあのスラム街。


 ゴミの中に何か使える物は無いかと探っているのかボロボロの洋服に身を包んでいた少女。


 家と家の間のさびれた道の真ん中では同じくボロボロの洋服に身を包み、顔中汚れた貧しい少年。


 占領された土地にかつての住人は占領した国としては邪魔な存在だ。そのまま追い出されそのままスラム街の住人となった。あの子供達は集落だった頃のヨルグの住人である可能性もあった。


「数年、スラムにいればああいう生き方になるか・・・」


「ボス、ヨルグの住人とアスカ―ルラ王国を助ける気があるのは分かるが・・・」


 シンとしてはアスカ―ルラ王国とエーデル公国に恩を売っておけば、大きな後ろ盾になる。出来るならば助けたい所だ。しかし、問題はあった。


「ああ、銃器だよな・・・」


「どうにかして、暴走が出来ないようにしないとな・・・」


 シン自身は魔眼族に銃器のヒントを与えてもいいと考えていた。しかし、ヒントとは言え何百年先の武器の技術を提供するという事は、この世界においてとんでもない武力を手にするという事になる。そうなれば、他国への侵略行為も短絡的にするようになる恐れがあった。

 こうなれば最早暴走と言っても過言ではない。

 そんな暴走を食い止める方法として必要なのが


「・・・「制裁」だよな」


「だが、その「制裁」の武力がなぁ・・・」


 暴走しない様に武力持って「止める」、或いは「制裁」を掛ければ大抵の場合は問題無い。現状のシンの武力ではシン自身ではとてもでは無いが押さえつける事は出来ない。だが、アカツキの持っている兵器による武力であればまず問題無い。

 しかし、どうにもできないような危機の場合以外はアカツキの武力を見せるのは躊躇われる。つまり、どうにかして一個人のシンではなく、団体として「何か」の武力を持つ必要があった。


「今できる事はボスが殺気を出して「制裁」について言って、その後急いで武力整えるのが良いんじゃないか?」


「・・・そうだよなぁ、持っているのでは無理だし「ショップ」では戦車や戦闘機でも無理があるからな」


 シンの「ショップ」は戦車や戦闘機でも購入する事は出来る。

 こういった暴走で最もよく使われるのは、「軍隊」だ。その為所属している兵器は飽く迄「パーツ」だ。

 蹂躙可能なモノがあったとしても包囲されて袋叩きにされたり、迂回して本拠地や補給地を叩くだけで「軍隊」と「一個の何か」の戦いではそれほど意味が無い。仮に「ショップ」で戦車や戦闘機を購入して戦っても包囲されて袋叩きにされれば終わりだ。


 つまりこの世界において純粋に数は力、大量破壊兵器とかでひっくり返せない限りそれは絶対的有利。


 アカツキの提案は会議でシンが銃器のヒントを教える時に殺気を出して暴走しない様に「制裁」を掛ける様に装う。少なくとも少しの間だけでも暴走が起きない様にして、その間にシンの武力を底上げする。


「(これでいくか・・・けど、少しも待てない場合もあるから・・・)アカツキ念のために()()を発射準備をしてくれ」


「・・・保険、だな。OKボス」


 可能性が低いというだけで全くないという訳ではない。万が一のためにアカツキの持っている兵器の起動準備させるように言った。


「取敢えずはこれでいくか・・・」


 シンはこれからの事をまとめようと頭の中で整理しようとした時


「それからボス・・・」


 アカツキが声を掛けて来た。


「ん?」


「俺の燃料補給の事なんだが・・・」


 アカツキは無限の何かから起動しているわけでは無い。何かしらのエネルギーが必要だ。アカツキのエネルギーは電気とロケット用の燃料、シン特有の魔力が必要だ。


 だがこれにはすでに解決策がある。シンの「自動開発」で電気を貯める蓄電池と、特有の魔力を貯める蓄電池のような装置、それらを載せるためのドッキング可能なロボット付きの運搬用ロケットを開発し、アカツキに高度500mまで降下させ、人目の無い所で飛ばすというのがシンの考えだった。だが・・・


「ああ、ここからそれなら少し離れた所で・・・って、そうか、そうだったな・・・」


「ああ、そうだ()()が問題だ」


 シンはすっかり失念していた。今ここに居る場所は小人族と巨人族と魔眼族がいるエリアだ。

 少し離れたくらいでは燃料補給のためにロケットの様な飛翔体を飛ばすのは魔眼族の誰かに見られる可能性があった。


「しまった、どうしよう」


「ボス、そこで一つ提案があるんだが」


「?それは?」


 シンはアカツキの提案を聞く。





「・・・という方法だ。どうだろうか」


「なるほどな。それならば安全に動く事ができるな・・・。分かった、それでいこう」


「OKボス、()()は取敢えず明日の会議開始以降は起動する」


「頼んだぞ。問題ないだろうが間違っても・・・」


「安心しろ、起動はしねぇよ」


 アカツキの強気で頼りがいある言葉を聞いたシンは


「そうか」


 胸を撫で下ろした。


「ではこれにて通信終了」


「ああ」



 ブツッ



 電話等の通信機特有の回線が切れた音がした。


「さて、明日はどう過ごそうか・・・」





 同時刻にてギアが止まっている部屋にて


 コンコン…


「?」


 2回のドアノックの音がしてダブルベッドよりも大きなベッドで寛いでいたギアは音が鳴ったドアの方へ視線を向けるギア。


「今参る」


 巨体を起こしそのままドアの方へ近づきドアノブへ手を掛ける。


「何奴だ?」


 ギアがドアを開ける前に向こうにいる何者かに身分を明かすように言った。


「ナーモです。それから皆も・・・」


「!?」


 ギアは驚いたように少し目を見開きそっとドアを開けた。


「何だ、どうしたのだ?」


 ギアは少し心配そうに皆に聞いた。すると皆は


「「「・・・・・・・・・」」」


 ナーモ以外は落ち込んだように俯いていた。ナーモは口をキュッと一文字になり、眉間に皺をよせ、深刻そうな顔でギアを見ていた。


「・・・取敢えず中へ入れ」


 ギアは何か重大な話があると考え、そのまま部屋へ招き入れた。


「何があったのだ?」


 皆を巨大なベッドの上に座らせその体面にギアが胡坐をかいて腕を組み、何があったかを聞いた。するとナーモが


「・・・ギアさんは人を殺した事がありますか?」


 と聞いてきた。


「む?」


 ギアは思っても見ない言葉に聞き返す。今度はククが


「どうやったら人を殺せるの?」


 と聞いてくる。普段の無邪気、或いは無垢な感じではなくどこか思いつめた様な口調だった。


「・・・・・・・・・」


 2人の口から衝撃的な言葉が出てきた事にギアは一瞬口を噤んだ。恐らく2人の言葉は皆の疑問なのだろう。


「・・・・・何故そんな事を申す?」


 皆・・・少なくともナーモの未だに深刻そうな顔を見てギアと再会する前に何かあったのだろうと考え静かに聞き返した。


「ギアさん・・・」


 ナーモが代表して皆がギアの部屋へ押しかけてきた事の理由を説明する。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「「「・・・・・・・・・・・・・」」」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 長々とナーモが事の説明をする。

 ニックが弓を射る事はおろか、引くことができなかった事。

 ククとココが何かしようにも何もできなかった事。

 エリーが魔法で支援しようにも怖くて何もできなかった事。

 シーナは敵の斬撃を逸らす事がやっとであった事。

 そして、ナーモが初めて人を殺した事。


 そんな長い説明をギアは静かに真剣に聞いていた。


「・・・そしてギアさんと再会したんだ」


「そうか・・・」


「俺達、どうしたら人を・・・身を守れるようになれるのかが・・・」


 ギアは静かに目を瞑り、口を開く。


「其方達には2つの選択肢がある」


「「「?」」」


「我の場合は生きていく上ではどうしても食べる必要のない殺しをしなければならなかった。そんな世界で生きてきた」


「「「・・・・・」」」


 今度は皆がギアの話を黙って聞いていた。


「だが、其方達の現状ではこんなにも安定した国がある」


「正直なところ言えば安定した生活であればこの国に残って農家の様な暮らしをするのが良いとも考えておる。無理に冒険者稼業に付かなくとも良い」


「「「・・・・・」」」


「まずそれが1つ目の選択肢だ。もう一つはどうにかして人を殺す事に躊躇う事を克服し其方達の思う通りにする。これがもう一つだ」


「「「・・・・・」」」


 瞑っていた目を開けるギア。


「それで其方達はどうしたいのだ?」


「「「・・・・・・・・・・・・」」」


 考え込むかの様な沈黙が漂った。



「・・・私は魔法が使える」


 最初に口を開いたのはエリーだった。


「魔法には適性があって使えるのが限られているって言われているけど、そんなことは無いと私は証明したい。そして、どこまで使えるのか私は知りたい。だから私は旅に出る」


 輝きに満ちた目で真っすぐギアを見て、力強く言い切ったエリー。すると、今度はニックが


「俺は昔から弓矢が得意だった。農業も、悪くは無いけど狩りの方が性に合っているし・・・それに、どこまで上達できるか俺は知りたい。だから・・・俺も旅に出たいな」


 と穏やかな言い方で自分の決意を語った。次はシーナで


「わ、私も・・・・・・・・・・・私もこの世界の事を知りたい。私も旅に出たい!」


 多くは語らず、具体性は無かった。だが、それでも十分に「旅に出たい」という強い意志が感じられる言葉だった。


 スンッ…


 鼻をすすった音がした。音がする方へ見るとククとココが泣いていた。


「・・・・・・・・・・・・」


 ギアはそんな2人を見て少し見開いた。ククとココは口をキュッと一文字に閉め、眉間に皺をよせ、ボロボロと大粒の涙をこぼし、身を震わせて


「づよ“ぐ・・・づよ”ぐな“りだい”・・・!!」


「づよ“ぐなっで、たびしたい・・・!」


 と体の奥底から必死になって決心した言葉を絞り出した。

 そして最後にナーモは少し俯き静かに語る。


「あの時初めて俺は人を殺した・・・。俺は怖くて・・・気が付いていたらそのままあいつらを殺すために剣向けていた。シン兄がいなかったら俺はあいつらにケガ、いや殺されていたかもしれない・・・。でも、俺も旅に出たい!旅に出て色んなものを見てみたい!色んなものを知ってみたい!だから・・・、俺は旅に出る!!!」


「・・・・・」


 ギアは真っ直ぐ皆の方へ見て、決意ともとれる言葉を受け止める。


「・・・ふむ、それが其方らの答えだな?」


「「「・・・・・・・・」」」


 皆誰とも顔を見合わせず自分の意志で決め、ギアを真っすぐな眼差しを送った。ギアはそんな皆の真剣な顔を見て、掻いていた胡坐の右太ももを


 パシッ!


 と叩き


「あい、わかった!!!この件について我が何とかしよう!」


 ギアがそう言い切った。すると皆の顔が輝いた。


「だが今夜はもう遅い。我が送るから皆部屋へ戻るのだ」


 今の時間帯で言えば22時位のだろう。現代社会においてはそれほど遅くはないと言う人間もいるだろうがこの世界ではそうではない。灯りに関する発達はどんなに早くとも1800年代のレベル。つまり、外が暗くなればさっさと寝るのが一番というのがこの世界では常識だ。


「そうですね・・・」


「うむ、では参ろう」


 皆はギアの言う通り、そのままギアに付いて行き部屋から出た。





 皆が泊っている部屋の前まで戻り、ナーモが代表して


「ギアさん本当にありがとうございました」


 そうお礼を言った。


「「「ありがとうございました」」」


 皆もそうお礼を言った。


「うむ、明日楽しみにするが良い」


 ギアの表情がニカッと笑った様に見える。


「「「はい!」」」


 再び皆で返事する。


「では、疲れを取る様にな」


 ギアが「お休み」同様の言葉で別れようとすると


「ギア~」


「おやすみ~」


 ククとココが挨拶で返し大手を振って見送り、部屋へ入って行った。


 ギアは手を振り返した。皆が部屋へ戻った事を確認すると


「さてと・・・」


 ギアは後ろへ振り向き小さくため息をつき


「我はここまでどう来たのだったか・・・?」


 ちゃんと自分の部屋に戻れるのだろうかという不安が付き纏い顔を青くした。

 そして、その不安は的中した。その後、ギアは一晩中自分の部屋探すために彷徨い歩き着いた頃は山から白い光が町に照らされた頃だった。

 何ともシリアスに向かないトカゲだった。




 シン、ギア、皆・・・それぞれの方針が固まり、事態は次第に大きくなった・・・。


一応今までの話を修正しましたが、もう一度見直します。

ですので、更新する頻度が今の様な状態がしばらく続くと思います。

楽しみにされていらっしゃる方々にはもどかしいかもしれませんが、今後とも「アンノウン ~その者、大いなる旅人~」をよろしくお願いします。

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