61.事前会議
明けましておめでとうございます。本年度もよろしくお願いします。
「・・・・・・・・」
王城に辿り着いたシン達。目の前には遠目で見た通り白を基調とした巨大な塀に囲まれたゴシックテイストの威厳あるヨーロッパ風の城が建っていた。大きさは恐らく一般的な城と同じ大きさだろう。
大きく違っていたのは出入り口だ。出入り口の大きさが巨人族の女性に合わせてなのか、かなり大きい。また、門番として立っている兵士と思しき人物が巨人族の女性だった。
「ようこそおいで下さいましたリビオ様」
どうやら対応から察するに本当に門番の様だ。
「どのようなご用件で?」
門番がリビオに訊ねた言葉はシンも同じだった。普通銃器のヒントの事も考えればシン達を連れてくる場所は魔眼族の難民キャンプの方のはずだ。それなのに巨人族と小人族の政治の本拠地である王城へ導かれた。
「王妃と巨人族の代表者に私達の軍備強化について会議を開きたいのだが・・・」
「分かりました。どうぞお通りください」
何か面倒な手続きか、自分の所存・・・立場では分からないと言って上の人間に話すといった形で時間を取らせるのかと思っていたシン。だがさっきの様にあっさりとリビオ達はともかく赤の他人である自分達を通させる事にシンは驚いていた。
「・・・ここへ俺達が来る事はここのれん・・・人間は知っているのか?」
連中と言う言葉はどうかと思い慌てて訂正し人間と言い換え、ここへ来る事を知っているのかをリビオに尋ねるシン。
「はい、存じております」
「それなのに魔眼族の軍備強化の話をまた切り出すのか?」
シンは門番の巨人族の女性の対応の事思い出す。魔眼族の軍備強化にシン達が連れてくる事は王城の関係者は知っていた。つまり前もって軍備拡張の話は出ていて、許可等の話は既についているはずだ。なのにも関わらずリビオはまたその話をする。
「ええ、この国の事についてと先程の軍備拡張の話をシンさんも交えて話しておきたかったのです」
「俺も?」
「はい」
「・・・・・」
確かに国内で他所の国の軍備をみすみす容認するとは訳にはいかない。簡単に認めてしまえば下手をすれば望まない武力衝突が生まれ、内乱が起きる可能性だってあり得る。
また今回の軍備拡張についてはシンが大きく関わっている。ヒントを与えるだけでもどれだけの大きな影響が起きるのか計り知れない。慎重に事を進めるためにもカードを選ばなくてはならない。
「・・・分かった。だがそれぞれの軍の関係者はなるべく少ない人数である事が条件だ」
軍の人間が矢鱈にいてシンの銃器のヒントを与えればややこしい事になりかねない。それこそ「世界征服が可能」と思い込み、そして驕って思い上がり、最悪の場合クーデターを起こし、軍国主義の国家になる可能性がある。もしそうなれば遅かれ早かれ碌な事にならない。
そう考えた上でシンは「軍の関係者はなるべく少ない人数である事」を条件につけたのだ。するとそれを察してなのかリビオはすんなりと
「分かりました」
承諾する。
「そうか・・・」
リビオの思惑、この国の思惑がどうあれ承諾できた事にホッとするシン。
そんな寄り取りをしている内に城内に入る為の玄関の前までやってきていた。
するとそこには家令らしき服装に身を包んだ10~11歳位の少年シン達の前に立っていた。その男の少し後ろには同じく家令らしき服装に身を包んだ10~11歳位の少年2人が立っていた。
しかしこの3人の耳は尖っていた。この事を考えればこの3人は間違いなく小人族である事が分かる。見た目は少年だろうが、見た目と実年齢とでは恐らくだいぶかけ離れているのだろう。
「お待ちしておりました、リビオ様」
リビオにそう恭しく頭を下げる家令らしき少年・・・小人族の男。
「はい、女王様はいらっしゃられますか?」
リビオは急ぎなのか挨拶は軽く頭を少し下げただけで済ましこの国の女王陛下の謁見できるかどうかを尋ねる。
「ただいま、会議の準備中でございますので広間でご休憩されております」
「どの位で会議は始められますか?」
「後もう少しでございます」
「分かりました。それから会議で参加する方々でそれぞれの軍の関係者はなるべく少ない人数でお願いしたいのですが・・・」
小人族の男はどうこう反論する事もなく
「承知しました。女王様にもそうお伝えします」
アッサリと承諾する。シン達の前に立っていた家令らしき服装に身を包んだ小人族の男が手を上げると後ろに控えていた別の2人の小人族の男達が静かに頷き城内の奥へ行った。シン達の前にいた小人族の男はシン達の方へ向いた。
「皆様大変申し遅れました。私の名はロニー・セルバンテスと申します。どうぞお見知りおきを」
「自分はシンと申します」
「私はネネラと申します」
「あ、俺、じゃなくて・・・私はナーモと言います」
「私はエリーです」
「じ、自分はニックと言います」
「わ、私はシーナと言います。この子らは・・・えーと右の子はククで左はココと言います」
シーナがそう2人の紹介が終えると
「ククー!」
「ココー!」
2人とも依然行っていた挨拶をした。シーナは2人をジロリと睨み付ける。しかし、ロニーはにこやかに
「こんにちは」
と挨拶で返した。見た目は明らかに10歳ほどの少年なのだが2人に対して、最もらしい適切な対応の仕方だった。まるで家令として働いて数十年の壮年の執事の様だった。
当然リビオ達の事は知っているが、ギアは
「久しいなロニー」
と軽い挨拶だった。
「ギア様も遠路はるばるお越し頂いてありがとうございます」
リビオ同様恭しく頭を下げるロニー。少なくともギアとロニーは顔見知りの関係の様だった。
「皆様、会議室はこちらでございます」
シン達が中へ入ると広々とした空間で白を基調とした清楚な空間を出し、床には赤いロングカーペットが敷かれていた。
ロニーはシン達を連れて会議室へ案内した。
「こちらが会議室でございます」
ロニーが案内した会議室のドアの前に立っていたシン達。
「ではどうぞお入りください」
ロニーがそう言ってドアを開けて片手で「どうぞ」とシン達を誘導する。シン達はその誘導に従い入る。
中の会議室は城内に入った時と同様に白を基調とした部屋の作りになっており、黒檀と思われる様な木材でできた広く長い机部屋の真ん中にあった。壁にはどこかの風景の大きな絵画が飾っていた。会議用に同じ材木で作られたであろう気品ある椅子があり、背もたれとクッション部分は紅い絹の様な素材でできていた。そしてさらにその奥にはドアがあった。
シン達はそんな部屋の様子に見とれていると部屋の奥にあったドアが開いた。開けたのはこの城の玄関で出会った2人の小人族の男の内の一人が開けたようだ。しかし部屋に入ろうとはしなかった。小人族の男はドアを開けて片方の手で何者かを「どうぞ」と部屋へ入る様に誘導していた。
「お入りくださいませ、陛下」
代わりに入ってきたのは煌びやかな純白のドレスと手袋をはめ、高級そうな深紅のマントに頭にはプラチナを思わせるような白い貴金属で出来たティアラを乗せた10~11歳の少女だった。いや、この場合であれば小人族の成人した女になるのだろう。その証拠にその姿をシン達の前に出た時の目が明らかに街中で歩いていた他の小人族の女性とは違っており、目には純真無垢そうな子供の様な目だけではなく、長い年月を経て生きて来た威厳で聡明ある目だった。
陛下、恐らく女王と思しき小人族の女性の口を開いた。
「初めまして皆様。私は第14代目エーデル公国女王シャーロット・イーリー・アルクインと申します」
ドレスのスカートの両端を軽くつまんで上にあげて挨拶するシャーロット女王。
シン達は自分達も自己紹介をする。
「・・・自分はシンと申します」
「私は、ネネラと・・・申します」
「わ、私はナーモと言います」
「・・・・・私はエリーです」
「じ、自分はニックと言います」
「・・・わ、私はシーナと言います。この子らは・・・えーと右の子はククで左はココと言います」
緊張のせいかロニーの時と違い、声がどもったり、一拍空けてから話す等、どことなくぎこちなかった。話シーナはロニーの時と同じように2人の紹介が終えると
「ククー!」
「ココー!」
ククとココはロニーの時同様、緊張のかけらもない屈託のない挨拶をした。シーナは2人をジロリと睨み付けず、「お前等なんて事を・・・!」と言わんばかりのホラー漫画か劇画調の漫画に登場するキャラクターの様に顔が凄んでいた。そんな顔をしたシーナの事に気が付いたククとココは思わず
「「ヒッ」」
と小さな悲鳴を上げた。シーナはハッと女王陛下に無礼を働いたのでは思い、シャーロット女王の方へ顔を向ける。
「・・・・・・・・」
ギギギギギギ…
シーナの首に稼働音がするならばこんな風に不気味な蝶番特有の音が鳴っていただろう。シーナがシャーロット女王の方へ顔を向けると
「クスクスクス…」
クスクス笑っていた。馬鹿にした嘲笑では無く、ただ単に3人のやり取りに面白くて思わず笑ってしまっただけのようだ。
「皆様失礼しました」
シャーロット女王はそう言ってこの部屋に入ってきたドア側の真ん中の席についた。
「今から武器開発に関する会議の事前会議を開きますので皆様、どうぞ席についてください」
片手でシン達に椅子に座る様に促した。シン達はそのまま従いシャーロット女王の反対側の席に座った。シャーロット女王は皆が座った事を確認する。
「では、会議を始めます。まずはリビオ王子」
「はい、私達魔眼族はシンさんが持っている武器のヒントをご教授頂き、我々の新たな武器の開発のご許可を頂きたく皆様をお集まりいただきました」
シャーロット女王は静かに頷き
「それではシン様からの条件に付いてを改めて確認したいのだけれども、宜しいでしょうか?」
とシンに今回の事について説明するように言った。しかしシンはシャーロットにどうしても聞きたい事があった。
「その前に一つ伺いたい事があります」
「何でしょう?」
「アイトス帝国のヨルグと言う町からそう時間がたっていないと思いますが、このエーデル城とヨルグとはそう長くはありませんか?」
シンはヨルグとエーデル公国の重要な場所であるはずのエーデル城とまでの距離が短かったように思えたのだ。シンの問いにシャーロットは
「・・・シン様の言う通りでございます。ここエーデル公国とアイトス帝国との距離は他国ではあまり見られない位短いです」
「・・・もしかして、今回エーデル公国の女王陛下が関わったのはアイトス帝国の存在が、ですか?」
シンの問いにシャーロットは頷く。
アイトス帝国のヨルグは町としては賑わっていた。という事はそれだけ経済が回り、軍事面でも相当潤っているはずだ。つまり、アイトス帝国の次の敵対国として見ているのがエーデル公国である可能性だって決して否定できない。ましてや現在のアイトス帝国は魔眼族の国、アスカ―ルラ王国の領地を奪い、戦争準備をしていてもおかしくはない。
もし、アイトス帝国が宣戦布告してすぐに攻め込まれでもしたらあっと言う間にここエーデル城は少なくとも放棄せざるを得ない。
つまり、ここエーデル公国も他人事ではなくなった。だから、会議に参加したという事なのだろう。
「アイトス帝国は急に出てきた謎の傭兵団だった、と言われております。最初の頃は周辺の集落を襲っては拠点して徐々に拡大してきました。そして、騙し討ちとは言えアスカ―ルラ王国を奪い取られました。現在軍備を整えているようです。もし次の標的が我々であるならば、これは大きな問題です」
現状の危機を真剣な表情で語るシャーロット。
「・・・アイトス帝国と勝手に名乗っているという事ですか?」
「そういう事になります」
「・・・・・」
他国から国として認められるには、領域・住民・実効的支配、が必須要件だ。これを「国家の三要素」と言う。「国家の三要素」が満たし、新たな国家が成立した場合に、その国家を国際法において主体的存在としての国家である事を承認されれば「国」として認められる。だがアイトス帝国は勝手に攻め込み勝手に「国」と名乗っている。他所から見れば「ならず者の寄せ集め」に過ぎない。
(よく考えてみれば、この世界に近代的な国家思想はないかも知れないな・・・)
この世界の文明レベルは中世。近代的な国家思想がほとんど浸透しておらず、アイトス帝国の様に勝手に「国」と名乗ってもおかしくはない。
その事を考えたシンは
「・・・分かりました。教えて頂きありがとうございました」
と素直に感謝の言葉を述べた。
「気になって当然でしょう。仕方がありません。それよりもシン様からの条件に付いてを改めて確認の方はよろしいですか?」
シャーロットは話の路線を元に戻す。
「はい、今回の会議で参加する国の軍の関係者はなるべく少ない人数である事が条件を提示させて頂きたいのです」
シャーロット女王は
「分かりました。今回の会議に参加させる人間は後々こちらで決める事になりますがそれでよろしいでしょうか?」
シンは少し考え込む様な間が空く。
「ええ、それでお願いします」
「分かりました。では今度は私の提案です。シン様が提示する武器についての会議は明後日の正午過ぎに行いたいと考えていますが如何でしょうか?」
「その提案通りにお願いします」
「分かりました、明日の会議はその様に進めていきますが皆様よろしいでしょうか?」
穏やかな笑みを浮かべ全員に訊ねる。
「「「はい」」」
シンを含め全員、特に異論も無く肯定の返事をした。
「ではこれにて武器開発の事前会議はこれにて終了とします」
シャーロット女王はそう言って徐に立ち上がりシン達の方へ向く。
「皆様お疲れ様でした。シン様達はこのエーデル城の客室で疲れを癒してください」
穏やかな笑みのままシン達にそう言ったシャーロット。シンは感謝の言葉を述べる。
「ありがとうございます」
それを聞いたシャーロットはロニーにシン達への御持て成す様に命令をした。
「ロニー、シン様達に客室への案内を」
「仰せのままに」
ロニーはそう言ってそのままシン達を客室まで案内を始めた。
客室まで案内をしたロニーとシン達。シンはここまで案内してくれたロニーの方へ振り向き感謝の言葉を述べた。
「ありがとうございました」
同時に皆もロニーに感謝の言葉を述べる。
「「「ありがとうございました」」」
ロニーはにこやかな顔で受け止める。
「いえいえ。それよりも・・・」
「?」
シンに何か用事があるのか声を掛けてきた。
「シン様、少しよろしいでしょうか?」
「はい」
シンはロニーの言葉に耳を傾ける。
「明日の会議での服装についてのご相談がありまして」
ロニーがそう言うとシンは今の自分の服装を見た。
「・・・・・確かにこれで出席するのは拙いですね」
「はっきり申し上げにくいのですがその通りでございます」
「・・・・・・・・・・」
今のシンの服には冒険者達との一戦で血や泥が付着していた。今回はエーデル城に招かれたのはリビオ達がシン達を連れてくる前に話し合いでリビオ達とシンとその一行が汚れていたとしても城内に入れる事ができるように予め許可を取っていた。その為先程の事前会議にシン達は参加する事が出来た。
しかし、流石に明後日の会議でこんな格好で出席する訳にはいかなかった。ロニーは続けるように
「こちらから貸し出しは難しいのです」
と服が借りれない事をシンに言った。シンは「何故」と聞く前に先に納得した。
「え?・・・ああ、そうか」
「お察しの通りです」
ロニーはシンが思った事を肯定する。小人族と巨人族の服では一般人と同じ体系のシンの体に合わせる事はかなり難しかった。一応この国にも他所からくる商人から手に入る事ができるのだが、ほとんどの商人は一般人が着れるような服は無くこの国に合わせた小人族用と巨人族用しかなかった。
「万が一ございませんでしたら、魔眼族の方々から借りるという方法しかございませんが・・・」
「・・・一応他にも服はあるのですが」
「左様でございますか。もし、ご自身が何か別の服がありましたらそちらに着替えていただけると大変ありがたいのですが・・・」
シンは小さな溜息を付く。
「そうですね。明日に新しい服に着替えるからその服装をロニーさんも見てください。その時に決めましょう」
「承知しました」
そうやり取りしたシンとロニーはそこで別れた。ロニーは廊下の奥へと、シンはエーデル城の客室の中へ入って行った。
新年の挨拶と共に一応次話を投稿しましたがまだまだ改善するべき部分がございますのでまたしばらくの間は今まで投稿してきた話のを修正していきます。ですのでいつ次話が投稿できるのかは楽しみにしている方は申し訳ありませんが未定です。また改善してほしい部分がございましたらご連絡ください。
こんな小説ではございますがどうかよろしくお願いします。