表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/396

60.巨人と小人の国

 


 ズン…


 ズン…!


 ズン…!!


 ズン…!!!


 腹の奥底まで響き渡る地響き。しかしこれは巨人族の女性の足音ではない。いくら通常の人間よりも背が高いからと言ってここまで足音は大きくはない。ならば考えられるのは一つ。


「「「・・・・・・・・・・・・」」」


 この国の事を知らないシン達とネネラは上を見上げて口を開けて呆然としていた。その視線の先には巨大な大木だった。

 いや、よく見れば人の形をしている。皮膚は色こそ巨人族の女性の様に薄緑だが、木の表面の様になっており、ゴツゴツとした岩の様になっていた。

 人間で言う所の髪が柳の枝のようにしなっており髪の様に下げていた。よく見れば枝には細い葉が付いている。

 足には指の代わりに無数の太い根っこがあった。衣服は来ておらず全裸の様だった。しかし、男性の股間についているはずの物が無かった。

 辛うじて頭部の髭のように生えた柳の枝の様なものと体つきで男性と分かる。間違いない。今目の前に大地を響かせて歩いているのは巨人族の男だ。


「皆、顔がだらしのない事になってるよ」


 アイラが指摘されたその事に気が付いた皆。少し顔赤らめる女性陣。男性陣も慌てて普段の顔に戻る。


「まぁ仕方がない事なのでは?」


 と宥めるようにリビオが言う。


「うむ、我も初めて見た時あのような顔になった」


 同じくギアもフォローに入る。


「話には聞いていたが実際見れば迫力があるな・・・」


 シンはポーカーフェイスのままではあったが目の開きが大きくなっていた。そんな風にまじまじと巨人族の男性を見ていた皆。丁度その時、野太い声が辺りに響いた。


「んん?」


「客人か?」


「お客さんだね」


 シン達は声がする方へ顔を向ける。シン以外の皆の視線は上へ向き、顔が強張った。


「おお、すまんな」


「すまん、驚かれたかな・・・」


「ここはいい場所ですので好きなだけ居てください。では僕達は失礼しますね」


 気さくであったり、丁寧であったりとした受け答え。しかし、そんな受け答えをしている人物に目をやると木の幹に人間の顔を当てたような身長10m程の巨人だ。それも3人もおり大きな目がシン達を映していた。


「い、いえこちらこそ・・・」


 最早何を言っているのか分からない受け答えになるナーモ。

 こちらの方へ向いている巨人族の男達をシンは巨人によって支配されている世界観の漫画の事を思い出していた。


(巨人に支配された世界が舞台の漫画にあったな・・・。登場人物もこんな風に感じていたのか・・・)


 漫画のシーンの中で主人公が巨人と遭遇しお互いが見ている状況を思い出し今の状況と重ねていた。


「・・・・・・」


 今度は案内しているアイラの方へ見るシン。


(よく考えてみれば、巨人族の女性ってまるで・・・)


 シンがそこまで考えて思わず


「アマゾネス・・・」


 とつい口走った。するとアイラがゆっくりとシンの方へ向く。


「ねぇ?」


「・・・・・ん?」


 突然アイラが声色を変えて険しい表情でシンの方を見ていた。それを見たシン思わず間の抜けた様な返事をする。


「アマゾネスって!?」


 凄い剣幕でシンに詰め寄るアイラ。


「な、何の事だ?」


 それに対しシンは思わずたじろいでしまう。シンが「何」と聞いたためアイラは大きく息を吸い込み


「「アマゾネス」って何!?」


 どうやらアイラはシンが思わず発言した「アマゾネス」について強い口調で聞いてきた。その様子に思わず他の皆も驚き一歩後ろへ下がってしまう。するとシンはこんな状況から鑑みて思い当る事があった。


(しまった、巨人族にとっては「アマゾネス」は禁句だったのか・・・!?)


 シンはこの地での「アマゾネス」と言う単語は所謂「スラング」ではなかったのかと思ったのだ。


 そもそもスラング(slang)とは、特定の集団やコミュニティでのみ通用する隠語、或いは略語、俗語の事を指す。また「一般的な場では言いにくい言葉」等を隠語や略称で使う事を基本としているので、蔑称等の差別的な言葉や犯罪等の言葉も多いのも事実。


「アマゾネス」とは伝説上では女王の指揮下に、ほぼ女性のみで構成され、狩猟や戦を得意とし、ギリシア神話中多くの戦闘に参加する。年頃になる前に、弓を使う時に邪魔となる右の乳房を切り落とす等、かなり過激な事も行い男性を虐げた存在。


 その為「アマゾネス」は「驚く程の筋肉質を持った闘う女性」や右の乳房を切り落とす等の過激な事もするから「野蛮な女性」と言うイメージもある。巨人族の社会は男性が優位とは言え女性が中心に活躍している社会だ。

 だがシンが目にした巨人族は決して筋肉質ではなく、体格こそ大きいが、決して筋肉質ではない。むしろ「御淑やか」に近い女性だ。


 シンはそんなイメージがある単語の「アマゾネス」をこの社会で活躍している女性に対して軽々しく口にしてしまった。


(そうだとすれば、失礼な事を言った事になるな・・・)


 シンはそう考え謝罪する。


「すまない」


 しかし、アイラの顔は困惑していた。


「・・・何謝ってんの?」


 シンの考えとは違う反応だった事に


「・・・「アマゾネス」は禁句じゃなかったのか?」


 とさっきまでのシンの考えを簡潔に言ってみた。


「は?」


「ん?」


 何か辻褄が合わなかった。その状況に苛立ったのかアイラは大声で


「私は何で()()()()の「アマゾネス」を知っているの!?」


 叫んでしまった。盛大な暴露をしてしまったアイラに


「姉上!」


 と通常の人間では発せない野太い大きな声が辺りに轟いた。その声に驚き叫んだ声の主の方へ皆が目をやる。


「姉上、それは機密の・・・!」


 声の主は皆の想像通り巨人族の男だった。言葉から察するにどうもアイラの弟で王子の様だ。一般の巨人族の男と変わらない15m程の体ではあるが髪が長く、髭は無い。顔は若々しく整った顔つき。見るからに青年の様だった。その王子らしき巨人族の男は身を屈め、ジッとアイラの事を見て話しをしていた。


「あ・・・」


 アイラは「しまった」と言わんばかりの表情でシンだけでなく皆の方へも見る。


「あ、あの・・・」


 目を真ん丸にして、何を話せばいいのか分からず、口がパクパクする寸前の状態にあった。


「・・・アイラ、その「アマ・・・」


「お客人、大変申し訳ございませんが、その事についてはどうか・・・」


 屈んでいた王子らしき巨人族の男がシンの方へ向き、シンの言葉を割って入る様にして告げる。


「・・・・・分かった」


 シンは「アマゾネス」と言う単語と思わず言ったアイラの言葉の「精鋭部隊」。恐らく巨人族にとっての「アマゾネス」と言うのはこの国では数少ない「精鋭部隊」の事だろう。そう考えたシンは頭を縦に振ったのだ。


「そうですか」


 屈んでいた王子らしき巨人族の男はホッと胸を撫で下ろすかのように溜息をついた。


「それで・・・」


 シンが「誰だ?」と尋ねる前に王子らしき巨人族の男はそれに気が付いたのか言い切る前に自己紹介する。


「おお、申し遅れました。私はエーデル公国の第一王子、ノイゼン・ロ・エルネスです。」


 やはり巨人族の王子だった。


「おr・・・私はシンと言います。」


「わ、私はナーモ、です・・・」


「私はシーナです。こちらはククとココ」


 シーナはアイラの時の様な挨拶では困ると思い、代わって紹介した。しかし・・・


「クク!」


「ココ!」


 2人とも大声で自分の名前を叫んで手を挙げてアピールした。

 シーナはククとココをジト目で見た。しかし、気づいているのかいないのかククとココはお構いなし屈託のない笑顔をノイゼンに向ける。

 それを見たシーナは呆れたように溜息をつく。どうやらシーナの気づかいは残念ながら無駄に終わった。


「あ、えーと、ニックです」


「エリーと言います」


 シン達の紹介が終わるとその次は当然


「お初にお目にかかります。私はネネラと言います」


 お手本の様な自己紹介をするネネラ。シン達は思わず目を丸くする。


(・・・って、ちょっと待て。ネネラ、アイラの時の様な挨拶、あれは何だったんだ?)


 とシンが心の中でそう突っ込む。真実を述べるとあの時のネネラは初めて見る巨人族を見て驚き、動揺していた。その為、今のお手本の様な挨拶ができなかったのだ。

 シンがそんな風にネネラの事を見ているとギアとノイゼンが対面する。


「久しいな、ノイゼン」


「おお、バルドラ様。お久しぶりです」


 ノイゼンはそう言って軽く会釈する。


「王族がそのように簡単に頭を下げるでない」


 表現するならば「少し苦笑した」と言える様な喋り方をするギア。


「ですが、貴方は大切なお客様ですので・・・」


 ノイゼンは穏やかな笑みを浮かべる。


(リビオ達だけでなく巨人族とも知り合いとして・・・いや、友人として付き合いがあるのか?)


 ギアとノイゼンの様子を見て色々と推測を立てていたシン。


「ここでは立ち話にもなりますしどうぞ奥へ」


 ノイゼンはそう言って屈んだ姿勢から立ち上がり右手で「こちらへ」と巨木の木々の間の奥を指す。


「うむ、皆ノイゼンがこう言っておる。行こうではないか」


 とギアが皆を巨木の木々の間の奥の何かある場所へ行くように促した。


「分かった」


 シンはそう言って先に巨木の木々の間の奥へと歩き始めた。

 それを見たククとココが


「あ、待ってよ~シン兄~!」


 と追いかけていった。その様子を見た皆もノイゼンとギアが促した場所へと向かった。





「「「・・・・・・・・・・」」」


 シン達は絶句していた。いや正確にはシン以外の皆が絶句していた。巨木の木々の奥へ行きシン達が見た光景が


「ちっさ・・・」


 小人族の集落があった。いや正確には町、或いは都市と言うべきだろう。巨木の木々の世界が急に無くなり代わりにティンバーフレームの家々がズラリと建ち並んでいた。但し、小人族に合わせてなのか家の大きさが余りにも小さかった。

 家の大きさは通常の家よりも一回り小さく、ドアは小人族に合わせているのか、大人が屈まなければ入れない位の大きさの玄関だった。

 道路の幅は巨人族でも通れるように大きく幅を取っており、舗装こそされてはいないが芝生のような短い草が青々と茂っていた。

 その奥には白を基調とした巨大な塀に囲まれたゴシックテイストの威厳ある城が建っていた。大きさは恐らく一般的な城と同じ大きさだろう。

 そして、更にその奥には今まで見て来た巨木の数十倍大きい大木がこの国のシンボルとしてあるかのように聳え立っていた。


 そして、その家々の大きさに合わせるかのように小人族と思しき耳は長く尖って6~12歳位の少年少女のような姿をした男女がそれぞれ行き交い賑わっていた。


「もしかしてここが小人族の町なのか?」


 少し信じられないような言い方でリビオ達に聞くシン。それは仕方がないだろう。今目の前で歩いている子供達と表現した方がしっくりくる者達が200歳まで生き、不老であるという事が信じられない。


「もしかしなくても、です。私達が住んでいるのはこの町の西の方にあります」


 リビオ達が簡単に説明しているとノイゼンが


「では私達はこれで・・・」


 とアイラとギアと共に一旦別れるような事を言い始めた。するとナーモが


「あれ、一緒に行かないのですか?」


 疑問を呈した。


「私達はこのまま進むと町の方々にご迷惑をかけてしまいますので、別の道から行き後に合流となります」


「その先は小道とか入る事もあるからね~」


「・・・まぁ、確かにな」


 確かにノイゼンの言う通り道路の幅は巨人族でも通れるように大きく幅を取ってはいるが、それは大通りでの話だ。家々の間の脇道や小道は流石にアイラの様な巨人族の女性でも通る事が難しいだろう。恐らく巨人族の男性では通れない所を通るのだろう。


「分かった」


 シン達はノイゼンの言いたい事を何となく察したのかアッサリと了承する。


「では後程・・・」


「はい」


 ノイゼンは別の道でシン達と合流するためここで別れた。


「そう言えば俺達ってどこへ向かうのですか?」


 何気なく疑問に思った事を口にするナーモ。確かにここまでくる道中誰も気にしなかった事。しかし、それは仕方が無い事だろう。早くヨルグ、帝国領からさっさと逃げたいため皆が皆そんな疑問を持つ余裕が無かった。おまけにそれを知ってか知らずかリビオ達やアイラ達からの口からその事については出てこなかった。

 つまりここまでシン達がどこへ向かっているのかについて何も知らずここまで来てしまったのだ。

 そんな疑問を払拭させるかのようにコモンドールが


「これから王城へ向かいます」


「お、王城?」


「はい」


「王城」という単語を聞いたシンは


「それはどっちの王城だ?」


「?どっちとは?」


 コモンドールはキョトンとした顔でシンに聞き返す。


「小人族なのか、巨人族かって事だ・・・」


 シンが聞きたかったのは、王城はどちらの種族の物だという事だ。いくら仲が良いとは言え王城がどちらかの物をはっきりさせなければ少なくとも揉めていただろう。シンはそう考えていた。

 しかし、そんなシンの考えとは真逆だった。


「・・・・・ああ、そうか。基本的に小人族と巨人族は共生関係に当たりますので王城は「どちら」の物です」


 コモンドールは納得したかのような返事をしそう答えた。これが答えだという事は王城に関しては「どちらの種族の物か」ではなく「どちらの種族の物」となっていた。つまり公共の物として扱われている。

 小人族と巨人族の共生関係の深さにシンは面食らっていた。


「王様・・・この国を治めている長は?」


 シンは国の形態についてどのような物なのかを知りたかった。そこでまずこの国の長について尋ねてみた。


「小人族の女王です。前は巨人族の王でした」


「女王・・・」


 シンは「小人族の女王」という単語出て来た時、6~10歳の少女のような姿を思い浮かべていた。


(女王というより、王女と言う方が正しそうだな・・・)


 シンがそんな事を考えているとコモンドールが発言していた「前は巨人族の王」という単語が気になった。


「世代交代という訳ではないのか・・・」


 王制国家であれば種族や血族による世代交代で次世代の者が王に着かせることが多い。しかし、この国では前の王は巨人族で現在は小人族の女王だ。


「はい、60年に1度ずつ小人族と巨人族の王族達が交代で治めています」


 この国では種族間で交代する様な形で長を決めていた。シンは益々この国での種族間の隔たりの無さに驚いていた。


(俺の世界の某国々にも見習わせたいもんだな・・・)


 シンは肌の色の違いや宗教観の違いで争いを生んでいる国や地域を見比べて小さな溜息が出しながら王城へと向かった。


この物語を待っている皆様の為に今までなるべく早めに投稿してきました。ですが、今まで投稿してきた話を一旦振り返ろうかと思いました。今回の話で丁度キリがいいですので、また暫くの間は話のプロットの構成や話の修正や変更をしていきます。

楽しみにしている方は申し訳ありませんがいつ次話が投稿できるのかは未定です。また改善してほしい部分がございましたらご連絡ください。

こんな小説ではございますがどうかよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ