59.巨人の王女
朝日の光が漸く瞼にも浴びた時。背中を岩にもたれかかっていたり、フサフサとある草の上で眠っていた皆は次々と重い体を起こす。そんな皆よりもシンは朝の光が紅い時から起きてサンドイッチを「ショップ」で購入して用意をしていた。
「んん・・・?」
「ぅ?」
ククとココが重たい体を起こして眠気眼をこすって周りの様子を確認する。眠気のせいでぼんやりとした意識の中、シンがサンドイッチを用意している事に気が付くと、目がカッと開き、慌ててシンに近付き朝食にありつこうと急かす。
「シン兄、おはよー!」
「サンドイッチ!?」
食べ盛りなのか目の前にあるサンドイッチに対して食いつき方が尋常じゃなかった。その証拠に
「「早く!早く!早くぅ!…」」
「・・・・・・・」
と言った風に大声で連呼していた。そのせいで
「むぅ・・・?」
ギアも起きてしまった。日の光によってキラキラと光る白銀の巨体を起こし声のする方へ向ける。
「随分早起きだな?」
ギアは眠気眼でシンとククとココを見る。
「おお、おはよ」
「おはよー!」
「おはよー!」
起きたギアに対し3人はギアに声を掛ける。
「うむ、おはよう」
そんなやり取りをしている内にエリー達やリビオ達、ネネラが起きた。丁度その時には全員分のサンドイッチを用意できた。朝日が半分と少し程昇ったころにシン達は朝食を摂った。8合辺りの現時点から出発する。
歩いてから3時間ほど経った頃。シン達は歩きながら左右と後ろを見てふとある事に気が付いた。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・」
さっきまで見慣れていたはずの木々の様子が明らかに違う事に気づき木を一本一本、眺めながら歩いていくシン達とネネラ。
先を進めば進んでいくと周りに見ている木々が次々に見ていく度に大きな木が多く見かける。出発した時の木の太さは人が抱き着けば両手が合わせる位の太さだったのに今では大人10人でも足りない位になっていた。
更に奥を見れば今まで見て来た木よりも更に太い木々がズラッと立っていた。
当然その木が太いという事は比例して木の高さも相当なものだった。普通手前から奥の方を見れば木が小さく見える。
しかし、実際は奥の方にある木を見れば見る程大きく、高く見える。つまりそれ程にまで高さあったのだ。
普通であればシン達とネネラの様に驚き木を見ながら歩くのだがリビオ達とギアは大きな木々に視線を合わせずただまっすぐ前を向いて歩いていた。そんなリビオ達の様子を見てシンは
「・・・リビオ、もしかしてこの先が?」
と切り出してみた。すると
「はい、もう少ししたら我々の住むところになります」
と答える。リビオ達とギアが何の迷いも無く且つ大きな木々が多く見かける事に気にも留めないでいた。つまりこの道の事をよく知っていて何度も出入りしているという事になる。
「随分山奥になるんだな」
「ええ、巨人族と小人族の方々の住む場所に関係しています」
「そう言えば、「巨人族」の先祖って古い大木だったよな?」
「はい、大昔の大木が周りの環境に合わせるために意思と行動力を持つようになったと言われています」
「なるほどな・・・」
シンとリビオがそうこう話しているとギアが付け足すように
「小人族はもともと自然を大切にする考えが強い。その為なのか巨人族との共生している」
「前にも聞いたが6~10歳の子供に見える・・・だったか?」
「うむ、基本的な見た目は耳が長く尖って見た目は6~12歳程の子供に見える。その上大抵の性格は天真爛漫で無邪気だから尚更子供に見える」
「けど200歳まで生きるんだろ?」
ギアはコクリと頷き
「見た目が子供だが放つ言葉は重いぞ?」
ギアは少し困ったような顔で思い出すように言った。そんなギアの様子を見てシンは何かあったのかとは気になったが
「そうか」
としか言えなかった。無理に聞けば何かギアの苦労話を延々と聞かされるような気がしたのだ。そんな話をしているとエリーが
「小人族って魔法が進んでいる国だよね?」
「うむ、魔法による技術が発展しておる。その為魔法道具が多くある」
ギアがそう答えるとエリーの目が輝かせ口が「オー」となっていた。そんなエリーの様子を見てシンは
(そういや、エリーは魔法について興味があったんだよな・・・)
今までのエリーの行動を思い出していた。エリーは奴隷商人達から奪った魔法の本をこれでもかと読みふけっていたり、皆から少し離れて陰でこっそりと魔法の練習もしていた。この事からエリーはどれだけ魔法に興味を持っていたかが分かる。
シンは「魔法」と「巨人族との共生」でふと気が付いた事があった。
「ギア、小人族は巨人族と共生関係にあるんだよな?」
「うむ、2部族が共生し国として存在しておる」
「巨人族の方でも魔法が発展しているのか?」
共生に当たってそれぞれの恩恵は当然ある。
例えばヤドカリの中には自分の貝殻にイソギンチャクを付け、背負っているものがいる。これはヤドカリとイソギンチャクの共生関係でヤドカリの天敵であるタコから身を守る為に貝殻にイソギンチャクを付ける事によってイソギンチャクの触手にある毒のある針(刺胞)が飛び出して刺す。そのためタコは迂闊に手出しができなくなるという事だ。
代わりにヤドカリからは食べた小魚等の餌をイソギンチャクに分け与える。これでイソギンチャクはヤドカリが生きている限り飢える恐れはない、という事だ。
それと同様に小人族と巨人族との共生によって何らかの形でお互い恩恵を受けているのではないかとシンは考えたのだ。
「巨人族の魔法も相当なものだ。特に男は体の大きさのせいなのか基本魔法だけでも人家を軽く吹っ飛ばす事ができる」
「つまり、人同士であればケガで済む魔法を彼らが使えば・・・」
「家屋一件軽く消し飛ぶ」
「・・・そうか」
ギアは軽く言ったつもりだったのだろうが、やはり話の内容が内容だけに中々に物騒だった。だからなのかシンは少し間を置いてから返事する。
「まぁ、男の巨人族は理性的だからよっぽどの事をしない限りは問題無かろう」
「分かった。・・・ところで」
シンは静かに目を瞑り
「む?」
「さっきから俺達の事を上から見ているのは魔眼族か?」
シンはそう言って上を見る。シン達が見慣れていたはずの木々の様子が明らかに違う事に気が付いた時、シンは複数の何者かが自分達を見ていた事に気が付いた。
「・・・気が付いておったか」
「ああ」
ギアも上を見上げる。
「今我らを見ている連中は恐らく巨人族の女達であろう」
「女?」
「うむ、背の高さはもう知っておろう?」
シンは木の上にいる者達は魔眼族の兵士ではないかと考えていた。1km以上の距離からでも相手の様子を窺えるぐらいの視力の持ち主達だ。しかし、ギアの口から出た言葉は意外なものだった事からシンは「意外」という思いだった。
「だが、こっちから見ても見えるかどうかの所にいるんだろ?と言うか、そもそも見えるのか?」
「うむ、背の高さだけではなく身体能力も高い」
「それに目も良くて弓矢が得意ですよ」
ギアの言葉に付け足すようにリビオが補足説明する。
「へぇ・・・」
シンはもう一度上を見る。
(少なくとも複数だろうが正確な人数は分からないな。アカツキ・・・でも枝の葉に紛れて分からないか・・・)
アカツキは遥か上空から地上の様子を窺う事は出来るが、枝の葉等で生い茂った所等の様な遮蔽物があると全く見えない。そんな事を考えていると
「お前達は誰だ!?」
木の上から大きな声がした。声から察するに女性だった。するとリビオが
「私です!リビオです!客人を連れて来ました!」
と大声で言うと
「・・・分かった今下りる」
と返事が返ってきた。するとシン達の前に
ドォ…!
「ヨッ、と」
人の形をした何者かが上から降ってきた。その為人の形をした何者かがしゃがみ体勢になっていた。いや、木の上から降りる為飛び降りたというべきだろう。勢いよく下りてきた為か土煙がモクモクと立ち込めていた。その土煙がシン達に襲い掛かってくる。その為周りの様子が分かりにくかった。少し奥の方では上から降ってきた人の形をした何者かが着地した時のしゃがみ体勢から立ち上がりこちらへ向いた。
「それって私達の?」
土煙の少し奥の方から声がした。ほぼ間違いなく声の主は上から降ってきた人の形をした何者かだった。するとその問いかけにリビオが
「いや、私達のなのですが・・・」
「ふーん・・・。まぁ追い返す理由は無いし、いいんじゃないの?」
徐々に土煙が晴れていき声の主の姿が現れてきた。
「「「・・・・・・」」」
「へぇ~、よく見たら可愛いのがたくさんいるじゃないの」
声の主はニカッと笑う。リビオ達とギア以外の皆は絶句していた。ギリシャ神話に出てきそうな革のサンダルを履き、何かの動物の皮をタンクトップの様に着て、腰にはスカートの様な白い布と大量の矢が入った矢筒を下げ、弓の弦を利用して肩に斜めに掛けるように引っ掛けていた。
女性らしいと言えば女性らしいのだが、今まで知っている常識を覆されたようなカルチャーショックを受けていた。
だがそれは仕方がない事だ。何せ今目の前にいる女性は身長2.5mもあるのだから。
白目と濃い金色の瞳。トマトと思わせるようなスベスベの肌。その肌の色は薄緑色で腰の手前にまで伸ばした髪は肌の色以上に濃い緑だった。頭部には飾りなのか桃色の可愛らしい花が5つほどあった。
「!」
その巨人族の女はシンの存在に気が付く。
「・・・・・」
シンの目を見て少し黙り目付きが鋭くなる。そんな様子にリビオが
「アイラ様?」
と声を掛ける。するとその声で我に返ったように
「え?ああ・・・」
と気を取り直すかのように背筋を伸ばす。そして毅然とした態度で右の掌を胸に当て頭を下げ皆に改めて
「私はエーデル公国第一王女アイラ・ロ・エルネスと言います。」
と自己紹介をした。
「・・・お、王女!?」
と驚きの声を挙げたのはシーナだった。残りの皆は唖然としていた。まるでシーナが残りの皆の意見を代表して言っているようだった。
だが、驚くのも無理はない。ナーモ達の王族のイメージは、城の中に王様はドッシリと椅子に座って構えており、王女はその王様の横に立っているか座っている、と言ったものだ。
しかし、その王女が自分達の様子を窺い、高い木から飛び降りるようにして降りて、そして王女らしくない風貌と言動。驚く材料としては十分だった。
「王女が態々ここまで出迎えるのか?」
「あら、それを言うならそこのは、どう説明するの?」
「え?」
アイラの言う「そこ」。シンは何を言っているのか分からなかった。しかし、リビオは
「あ~あはははははは・・・」
乾いた笑い声を上げる。まるで今まで隠してきた事がばれてしまったかの様な。
「改めて申し上げます。私はアスカ―ルラ王国第2王子リビオ・メッテ・アスカリと申します」
「「「・・・・・えええええええええっ!?」」」
数秒程、間が空いて大声を上げて驚く。
まさか、今まで案内をしてくれたこの魔眼族の男が王族の人間だったとは思いもしなかった。
「知らなかったぞ・・・」
シンは大声を上げる程の驚きではなかったが、決して驚かなかったわけでは無い。今まで知らなかった事実をリビオに尋ねる。
「すみません、言えば色々と面倒事になりますので・・・」
「まぁ、それはそうだが・・・」
確かにリビオの判断は正しかった。出会った時点で王族である事を明かしてしまえば色々と面倒事に巻き込まれてしまう恐れがあった。最悪の場合では人質や暗殺等の大きな危険が生じる。それらを避けるために自分の身分について黙っていた。
「まぁ、いいや。初めまして、俺・・・私の名前はシンと言います」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
シンの対応に少し驚く皆。今までのシンの対応は一言で言えば「素気ない」。悪く言えば「ぶっきら棒」だった。
「何だ?」
皆のシンに対する意外なものを見たといった目で見られる事に思わず出た言葉だった。
「い、いや・・・」
「何て言うか、ね・・・」
「・・・・・」
ナーモ、シーナ、エリーの反応は戸惑いや何て言ったらいいのか分からないと言った感じの雰囲気だった。しかしその空気をぶち壊すのは無邪気な
「シン兄ってそんな話し方出来るんだ~」
「何か不思議だね~」
ククとココだ。まるで気になっていた事を全て代弁してくれたようだった。
「丁寧な言葉遣い位できるさ・・・。それよりも自己紹介は?」
シンの言葉にハッと気が付き改めて皆の自己紹介に入った。
「は、初めまして、俺、自分の名前はナーモですっ!」
「私はっ、シーナです」
「僕はニックです・・・」
「エリーです」
ここまでは各々なりに礼儀正しい自己紹介をした。しかし、問題は
「クク!」
「ココ!」
礼儀正しさが全く無い。ただ、笑顔と元気いっぱいに大きな声でただ名前を叫んだだけの自己紹介。
「「「・・・・・・・」」」
「「「・・・・・・・・」」」
「・・・・・」
皆が唖然とした。だが、アイラは
「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」
と豪快に口を上げ高らかに笑った。
「そうかそうか、よろしくね!」
ククとココに負けじと笑顔と元気よく言葉を返した。
そんな様子にシンは
(ククとココの無邪気さには参るな・・・)
そう思い少し穏やかな気分になった。
「魔眼族の客人であるなら私達のお客さんだからね。私も案内するよ」
片眼をウインクする。
「よろしくお願いします」
シンがそう言うと
「ああ、今まで通りの話し方でいいよ。私にはそういう話し方よりも普段通りの方が良いし。さっきのリビオに対してみたいに!」
「・・・分かった。じゃあアイラ、俺達の目的地はこの先なのか?」
「そうだよ。そして」
ニッコリとしていた笑顔がニカッと笑顔になり
「ようこそ、エーデル公国へ!」
どうやらついに目的地である、リビオ達、魔眼族の避難先であり小人族と巨人族の国に着いた。
最近になって更新通知は自動的にされることができると知った折田要です。最近まで「活動報告」で更新の通知をしてきましたがこんなことしなくともできるのではと思いしばらく様子を見るという形で「活動報告」での更新通知をストップします。
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