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57.古の住人達

 現在の時刻は夕方の5時か6時辺りになるのだろうか。コバルトブルーだった空から、奥に見える夕日によって空の色が奥から手前まで迫ってくる様に赤く染まりつつあった。


「ここら辺にしませんか?」


 シン達は山の頂上を何とか超え、8合辺りにて辺りを見れば休めそうな場所があった。リビオがここで一夜を明かす事を提案した。


「そうだな」


 確かに周りを見れば少し開けており、所々に大きな岩があった。岩はそのまま背を預ける事も出来るし、いざという時はちょっとした遮蔽物にもなる。休むには最適な場所だ。

 シンもこの場所を一夜を明かすのに丁度良いと考えリビオの提案に賛成する。


「暗くならない内に薪を頼む」


 そうと決まった瞬間、薪拾いを始めた。


「了解」


「分かった」


「はーい」


「うん」


 シンとナーモとシーナ、ニックはまだ明るいうちに一晩過ごすための薪を拾いに行く事にした。残ったネネラとエリーとククとココは取敢えずこの場で待機する事に。


「私達は周囲を警戒します」


「ならば我も参ろう」


 リビオ達とギアは周辺を警戒するために見回る事になった。





 シン達が巻き拾いをしているとシンの通信機から


「ボス」


 と声がした。無論声の主はアカツキだ。シンは周りに誰か側にいないのを確認する。


「どうした?」


 何かあったのかと身構え、小声でアカツキに聞く。


「1km圏内に野生生物の類は確認できなかった。今すぐに何か起きるという事は無いだろう」


 とアカツキの周辺警戒に関する報告を受けたシン。シンはホッと胸を撫で下ろす。


「そうか、引き続き周辺警戒頼めるか?」


「任せろ」


「頼んだぞ。通信終了する」


 本来ならリビオ達やギアが周辺警戒しなくともアカツキにかかれば問題は無い。だが、後々の事考えれば皆に「アカツキがいるから問題ない」とは言えない。その為、こっそりとやり取りをするしかない。


「周囲に野生生物がいない、か・・・」


 飽く迄も推測ではあるが、野生動物がいない一番の原因はギアのせいではないかと考えていた。

 ギアは人の身体に近いがドラゴンだ。恐らくではあるがこの世界での陸上で最も強い生き物はドラゴンだろう。突然そんなドラゴンが上空で飛んでいれば大抵の生物はその場から去るだろう。だからアカツキによる野生生物の確認が出来なかったのだろうとシンはそう推測を立てた。


(とは言え、今晩のメシの確保ができなくなったが・・・)


 野生生物がいないという事は今晩の食事で新鮮な肉等が食べれないという事だ。


「・・・・・」


 シンは無言で只管薪をかき集めているナーモの方へ向き


「ナーモちょっといいか?」


 と声を掛けた。


「?」





 リビオ達とギアは周辺警戒を終え、ネネラとエリーとククとココの元へ戻っていた。


「何かいた?」


 とネネラが尋ねると


「いえ、この周辺には危険そうなものは何も・・・」


 とコモンドールが答える。


「我も同じだ」


 コモンドールに続いてギアも答える。


「そう、まぁ取敢えず危険はないって事ね」


 ネネラはここまで来てやっと安心できる環境ができた事に心の底からホッとする。

 ただ、野生生物がいないため狩って夕飯ができない、というおまけ付きではあるが。

 同時にシン達が薪拾いから帰ってきた。


「かき集めるだけ持ってきたが、これで足りるか?」


 シン達の両手いっぱいに、真直ぐだったり、曲がっていたりと大小様々な大量の薪が抱え込まれていた。少なくとも一晩辺りなら何とかしのげる量だろう。


「十分足ります」


「そうか、じゃあ早速」


「?」


 そう言ってシンは「収納スペース」から大量のサンドイッチを出現させた。


「「「!?」」」


 シンがとった行動によってこの場に居るリビオ達とネネラが驚く。


「シン殿には「マジックボックス」をお持ちでしたか」


 エレンからの問いかけ。本来ここでのシンの反応は「?「マジックボックス」って何だ?」と聞いていただろう。しかしここで口にしたのは


「ああ、そうだ」


 と肯定の返事をした。


「見事なものですな」


 とルクソスが感心する。するとシンは


「少し違う所があるがこれは間違いなく「マジックボックス」だ」


 と答える。シンが何故「マジックボックス」の事を知っているのか。遡る事日が落ちる少し前――





「ナーモちょっといいか?」


「?」


 シンの方へ振り向くナーモ。


「この世界に収納できる魔法とかってあるか?」


「・・・うん、あるよ」


 小首を傾げつつも答えるナーモ。


「確か「マジックボックス」って言う物だったような気がするけど・・・」


 この時にシンは「マジックボックス」の存在を知ったのだ。


「有名なのか?」


「うん、そうだけど・・・。シン兄、何をする気?」


 また何かするのかと考え尋ねるナーモ。


「・・・皆に俺の話にちょっと合わせてほしい事があってな」


「合わせる?どんな?」


 少し身構えるナーモ。そんなナーモに安心させる様に穏やかな口調で話す。


「俺が使っている異空間で物を収容できる魔法を「マジックボックス」という事にしておいてほしい」


 シンはこの提案をナーモ達は渋ると考えていた。だが実際は


「分かったよ」


 静かに笑って承諾した。その事に少し拍子抜けするシン。理由は何なのかを訊ねようとしたが先に苦笑気味にシーナが答えた。


「・・・面倒に巻き込まれたくはないしね」


「大丈夫!俺がこっそり、エリーやククとココにも伝えとくよ!」


 元気よく承諾し、エリー達に伝えるように宣言したニック。

 何故皆が承諾したのか分かったシン。


「・・・ありがとう、助かる」


 いつものようにポーカーフェイスのままの顔だが少し穏やかに見えた。


「じゃあ、薪拾いの続きをするか」





 時を現在に戻す。シンの「収納スペース」を起動した瞬間を目撃したリビオは


「確かにこれなら沢山持つことができますね」


 呟いていた。それを聞いたシンは


「それからこの事は出来れば他言無用に・・・」


 と釘を刺すように強めの口調でリビオに話す。


「ええ、分かっています。ただ―」


 シンはリビオが何を言うのかと身構える。


「ただ?」


 リビオは神妙な顔つきでシンの方へ向け


「シンさんは「マジックボックス」の存在価値をご理解いただけているように思えます。ですので他人に軽々と見せるようなものではない事は重々承知のはずだと思うのですが何故私達にも見せる気に?」


「・・・・・」


 リビオが言っている事は最もだ。シン自身は「収納スペース」を赤の他人に見せる事に対するリスクの事を何も考えてはいないわけでは無かった。むしろ洞窟から旅立ちの一件以来、細心の注意を払っていた。なのにも関わらずどう言い訳かリビオ達に見せたのだ。


「・・・一言で言えばリビオ達を信用している、という事だ。」


 シンの口から出た言葉。「信用している」。一見すれば単純な理由にも見えるその言葉。しかし、リビオ達はシンの強さでは100人以上の男達を殺してきた者。その上この世界では未知の武器、銃器の扱いに長けている。そんなシンのその言葉を聞いたリビオは「リビオ達を信用している。妙な真似はしないだろ?」という意味に聞こえた。

 つまり信用しているからこそ「変な真似はしないだろう」と言う言葉の「変な真似をするな。さも無くば、ただではおかないぞ」と言う意味。それは牽制とも取れる言葉。


「・・・・・」


 シンの答えにどう捉えればいいのか迷い思わず黙ってしまうリビオ。もしかしたら試されていると考えてしまう。


「何を考えているのかは分からないが、試しているわけでも無いし、裏の意味もないからな」


 しかし、一言だけの説明ではリビオはより戸惑うだけだった。シンはそんなリビオの様子を見てある事に気付く。


「・・・・・」


 シンは小さくため息を吐きリビオに近付き小さな声で


「お前らを信用したのはギアが居たからだ」


「・・・!」


 シン自身はリビオ達の事を完全にとまではいかないが信用していた。その理由はギアだ。ドラゴンの姿であるにも拘わらず出会ってすぐに皆から慕うようになり短い間にギアとシン達のお互いの信頼関係は深くなっていた。

 また、ギアは面倒見がよくナーモ達の訓練でも的確な指示を出していた。そんなギアがリビオ達との面識がある。リビオ達の方が何かを受けて感謝をしていた。それだけの判断材料があれば十分に信頼に値する出来事だった。

 しかし、シンはリビオの様子を見て考えていた事を口に出した。


「それに俺の「マジックボックス」について黙ってもらう代わりと言っては何だが・・・」


「・・・・・」


 何を言ってくるのだろう。そんな事を思い浮かべてリビオは黙ってシンの話を聞く。


「俺の知っている武器以外の技術を魔眼族に教えるという事でどうだろうか?」


 銃器の技術は国からの脱出で話はついていた。となればシンが知っている別の技術は何なのだろうか。


「それは一体・・・?」


 リビオは静かにシンに問いかける。シンはすぐに答える。


「水道だ」


「・・・「水道」?」


 リビオは「水道」と言う聞き慣れない単語に首をかしげる。シンは更に付け足す。


「正確には手押し式ポンプだ」


「???」


 また更に聞き慣れない単語が飛び出た。「水道」に「手押し式ポンプ」。益々分からないためリビオの頭の上に幾つもののクエスチョンマークが飛び回っていた。シンはこの世界では存在しない物を言ったせいで混乱している事に気が付き


「ああ・・・つまり、誰もが簡単な作業で水が手に入る事ができるようにするという事だ」


 と簡潔で分かりやすい説明をした。それを聞いたリビオは


「!」


 目を大きく見開く。


「シンさん、それって・・・」


 リビオがシンに対して「水道」や「手押し式ポンプ」の事を詳しく聞こうと声を掛けようとした時――


「シンよ」


 声を掛けて来たのはギアだった。


「ん?」


 ギアの手がちょいちょい、と手招きをしていた。リビオはシンに対して頷いた。ギアの方を優先していいと言う意味だった。シンはその意味を察しギアに付いて行き皆から少し離れる。





 皆から少し離れる場所。シンはギアが何故自分だけが呼ばれたのかについては何となく予想がついていた。


「ギア、もしかして俺の「俺だけにしか使えない異空間で収納できる魔法」の事か?」


 シンが予想していた事を単刀直入に聞く。


「・・・やはり「マジックボックス」ではないのだな?」


 この答え方はやはりシンが予想していた事だった。


「ああ」


 二文字とアッサリとした答えだった。しかし、顔は真剣そのものだ。その顔を見たギアは


「・・・あい、分かった。其方の話を合わせよう」


 とシンに対して深く聞こうとせず、すんなり頭を縦に振る。ここまですんなり承諾した事にシンは疑問に思う。何故ここまでギアが協力してくれるのか。


(こいつ自身が俺と同じようなモノ(能力)でも持っているのか?)


 シンの考えではギア自身ドラゴンではあるが人の様な形で直立二足歩行ができる。その上人間の言葉が話せる。何か他にも魔法や能力の様なモノがあってギア自身も同じような境遇ではないのではと考えていた。だからこそシンの「収納スペース」や「ショップ」については他言無用にしたのはそういう理解があるのだろう。


「頼む。それから・・・」


 ギアの方を向いてからギアの腰の陰から奥へ見るシン。シンの視線の先には


「エリーもな。それからククとココにも伝えてくれ」


 エリーが立っていた。木陰に隠れるような形でこちらをジッと見ていた。


「・・・ん」


 少し間を置いてから頭を縦に振った。実際、エリーがどういう思っていたのかはシンには分からなかったがエリーも訳ありの人間だ。ある程度の理解があってからこそ頭を縦に振ったのだろう。


「すまない、助かる」


 シンは少し安心したのか小さな溜息をついた。


「戻るか」


 一息ついてシンは元の所へ戻る様に言う。


「そうだな、サンドイッチが既に無くなっても困るしな」


 エリーはその意見に穏やかに同意し


「うん」


 ありきたりで単調な返事ではあったがどこかスッキリとした返事だった。


 そのまま皆の元へ戻って行った。





「ああ、シンさんどちらへ行っていたのですか?」


「ん、その辺を少し見回っただけだ。それよりもサンドイッチを増やすぞ」


「え、ええ、お願いします」


 シンは収納スペースから更にサンドイッチを取り出す。その時シンはふとリビオ達の難民キャンプについて気になってリビオに尋ねた。


「リビオ達がいる所ってどんなところだ?」


 サンドイッチの方に向いていた目線がシンに向けられ


「エーデル公国です」


「エーデル公国?そこが今住んでいる所か?」


「はい」


「どんな国なんだ?」


「えーと・・・初めて行く方々にとってはかなり驚かれるところですね」


 リビオは何か言いにくそうに国の説明をしようとしていた事にシンはその国の文化や風習が理解を超えるようなものではないかと考えていた。例えばアマゾンやパプアニューギニアの少数民族の様なイメージで。


「・・・それは風習とか文化がか?」


 巡り回らせていた考えをリビオに聞く。


「あーいや、そうではありません・・・」


「じゃあ何だ?」


「私達がいる所は小人族と巨人族が住んでいる国です」


「・・・「巨人」?「小人」?」


 詳しく聞けば基本的に耳は長く尖って見た目は6~12歳の子供に見えるため「小人」とある(但し、例外もあり15~20歳の様な姿の者もいる)。

 しかし、見た目に反して、実際は200歳まで生き、不老。他の種族と比べれば体力はあまりないが、代わりに魔法が得意ため魔法による技術が発展している。天真爛漫で無邪気だそうだ。「巨人族」とは共生関係にある。


 「巨人族」は女性の低均身長は2~3mだが、男性であれば10~15m程あり、最も高い者では60m以上にもなる。ただ、巨人族の女性が男性を産む、出生率が50人に1人という少ない確率のため男性を大切にする文化だ。その為なのか巨人族の男性を傷つけた物には容赦しない。女性は基本的に感情的な者が多く、男性は理性的な者が多い。「巨人」とあるが実際は古の大木が祖先であり、意思を持ち、理性が備わり、直立二足歩行をする。肌と髪は緑色。基本的にあまり食事をとらないが、代わりに水をよく飲む。怒らせると手が付けられない程恐ろしい種族のうちの一つして挙げられている。


「何と言うか、極端な国だな・・・」


「ええ、まぁ。ですがとてもいい国ですよ」


「・・・そうか」


 シンはリビオが言う「エーデル公国」の事を考えていた。


(よく考えてみればこんな途方に暮れて困っているとはいえ一国クラスの人数を良く受け入れたな)


 難民を受け入れるというのはそれ相応のリスクがある。しかも国民全員を、だ。この世界の文明は中世ヨーロッパに近い。その為食糧生産は現代から考えればかなり遅いだろう。それなのにも拘わらず全ての難民を受け入れたのだ。


「何かすごい国だな」


 シンは呟くように言った。一体どんな国なのかと考えながらサンドイッチを大皿の上に載せる。


(そういや、アカツキが言う高さ20mの生き物って巨人族の男の事と考えりゃ説明はつくか・・・)


 シンはアカツキが言う「高さ20mの生き物」の話は()()()()()()実際映像は見ていない。「高さ20mの生き物」は飽く迄シンの想像だった。


(聞くと見るじゃ大違いだな・・・)


 諺の「百聞は一見にしかず」とある様に人から何度も聞くより、一度実際に自分の目で見るほうが確かであり、把握できやすい。

 実際、今回のリビオ達による情報によって「高さ20mの生き物」は動物ではない事が分かったため一安心できる。何故なら話が通じれば快く向かい入れてくれることもあれば、「入ってくるな」と言われればそこから立ち去るだけで後は何もしてこない可能性が高いからだ。


(その辺の所は徹底させないとな)


 シンは情報統制の事を考えながら不意に山々の方へ見た。奥にある小さくなっていく赤い空が徐々に黒に染まっていく景色があった。


(向かう国は良い国だといいんだがな)


 そんな事を思いながらしっかりとサンドイッチを頬張り、明日に備えた。



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