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53.小競り合いとも呼べぬ

この話の始め辺りはある男の視点の話になります。

途中からいつもの視点に戻ります。

 今にも崩れそうな家々の間の石畳の通りはゴミや瓦礫が地面にあちらこちらに落ちていた。そんな通りを気にもせず何かを探している様にキョロキョロと見渡しながら歩く連中がいた。

 それは14人の20~40代位男達がぞろぞろと歩いていた。レザーアーマーに皮の手袋。腰には剣等の武器を携えていた。中には無精ひげを生やしていた。その中の一人の男はニヤニヤしながら依頼書の様な紙を見ていた。


「マジでこいつらを捕まえただけで一人に付き金貨50枚ってのは?」


 訝しげな言い方だが、口調から決してそんな様子はうかがえない。もし、さっきの言葉を変えれば「こんな簡単な仕事で金貨50枚?夢のようだ」だろう。


「信じらんねぇよな」


 他の男が改めて依頼書の様な紙を見て


「えーと・・・この黒いカモの嘴みてぇな帽子の男とガキどもでいいんだよな?」


 と確認していた。


「ああ。と言うかそいつ、そんな目立つ格好で逃げてんの?」


「らしいぜ。見つけんのも楽でいいよな」


「ハッ、全くだ」


「「「ハハハハハハハハハハ!」」」


 ゲラゲラと笑いながら辺りを見渡していく男達。その中の内の別の男が


「なぁ、女とかいるのか?」


 と聞く。


「あーいるっちゃいるが、良くて15歳のガキだぜ?」


 また別の男が答える。すると聞いてきた男がニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべて


「そいつらを()()()()()()捕まえるんだよな?」


「・・・まぁそうだな」


 聞いてきた男が何を言いたいのか何となく察した男。聞いてきた男はシン達の中にいる少女の身体目当てでそう質問してきたのだ。捕えたらじっくりと少女の身体を味わおうと考えていた。

 察した男は鼻で溜息をつき


「先に捕まえたもん勝ちだぞ?」


 と言った。それを聞いていた男は


「ああ。だが、俺が女をもらうからな!」


 最早結果の出来事を想像し自分がいかに得する事が出来るかについてにしか考えていなかった。しかし、何もこの男だけではなく他にも


「一番乗りは俺だからな」


「抜け駆けすんなよ?」


 と他にも厭らしい笑みを浮かべている男は多くいた。


「どうでもいいが、あんまり騒ぐと感づかれて逃げられるぞ?」


 気怠そうに注意する男の言葉に


「わーった」


「はいはい」


 と生返事で返す。しかし、その注意に従ったのか、声や音を抑えながら辺りを探っていった。


(金貨50枚で・・・取敢えず酒だな)


 またある別の男はそんな事を思いながら男達と共に見回していた。






 暗い闇の世界の中、何となくではあるがどういう訳か自分は眠っていたと分かった。その時ある音と声がした。


 ドシュッ


「14」


 謎の音と誰かの言葉で暗闇から瞼を開け、現実に戻った男。か細い声で


「ぁ、俺・・・」


 と発する。自分の現状がどうなっているのか目を少しずつ開けていく。世界が霞みがかったようなぼんやりとした光景が目に映る。


「・・・ぅ」


 さっきの声より更にか細い唸り声をあげながら状況を確認しようとする。ジッと目を凝らして見ればぼんやりとした光景が徐々に見えてくる。


(誰だ?)


 赤い筋の入った黒いカモの嘴の様なつばが付いた帽子、黒いブカブカのズボンに黒のブーツ。薄い砂色の見た事の無い皮鎧の様なベスト。そのベストの胸の部分には同じ色の複数の大小様々なポーチが付いていた。そのベストの上から羽織る様に深緑のジャケットを着ていた。左の腰部分には白いL字型の何かの道具の様な物がベストと同じ薄い砂色のケースに入っていた。

 顔をよく見れば整っており、長すぎず短すぎずの黒髪。鋭い眼には吸い込まれてしまうのではないかという不安を煽る様な黒の瞳の男。その黒の瞳の男は剣を握っていた。

 その男は何者なのか知っていた。


(こいつは・・・!)


 男は顔を見て依頼書の様な紙に書かれてあった男だと瞬時に判断し、咄嗟に剣を抜こうと鞘に手を伸ばそうとしたが空気を掴む。男の剣が鞘から消えていた。


(俺の剣・・・!)


 黒の瞳の男の手元を見る。剣は見つかった。場所は黒の瞳の男の手の中にあった。


「ぉ、れぇ・・・」


 男は「俺の剣を返せ」と言おうとしたが何故か口から出る言葉が上手く声となって出す事が出来なかった。


(・・・何だ、声が出ねぇ!?)


 ぼんやりとした光景が徐々に明らかに見えるようになり状況をやっと把握する事ができるようになった。しかし男にとっては絶望的な光景だった。


「!?」


 目を見開き黒の瞳の男は男の物だった剣の刀身の先を目で追っていくと切先が男の胸の中へと突き刺さっていた。


「ゴブッ!」


 状況が分かった途端、口から勢い良く血を吹き出す。胸から焼けた様な鋭い痛みが走り、息が苦しくなっていく。その瞬間男は思い出した。






 14人の男達がゲラゲラと笑って20秒程経ったあの時一番後ろに居たこの男は突然とんでもない力で突き飛ばされ壁に叩きつけられた。その後男は気を失う直前、黒の瞳の男、シンはその男の剣を奪った瞬間、男は完全に気を失った。


「何だてめぇは!?」


 今し方の出来事に気が付いた別の男。


「おい、こいつ依頼書の・・・」


 隣にいた別の男が依頼書に書かれていた特徴とシンの特徴が一致し本人である事を確認した瞬間空を切る音がした。


 ヒュンッ!


 その音と主にシンは何故か


「1」


 と数えていた。


「へ?」


 男は何が起きたのか分からず間の抜けたような声を出す。

 首からツツ―と赤い線が浮かび上がり


 ズルリ…


 ドサッ…


 2秒ほど経った時


 ブシュ―ッ!


 公園にある噴水を連想させるような生きよい良く噴き出す赤い液体。この時男は今の自分は止めを刺されている事に漸く気が付いた。


「なっ!?」


 何が起きたのか分からなかった「何だてめぇは!?」と発した男。するとシンの右腕が一瞬消え


 スパッ!


 突然白く光った何かが男の胸を横一文字に一閃した。


 ブシュッ!


「があああ!」


「2」


 いつシンが剣を振ったのか見えないまま男は深く切り込まれた胸から血が噴き出し倒れ込む。もう後10秒も経たないまま絶命するだろう。


「くそっ!」


「・・・!」


「ぐっ!」


 漸く状況が飲み込むことができた連中は剣を抜きシンに向けようとする。だがシンは


 ヒュン!


 目にも止まらない速さで両腕を切った。


「ギャアアア!」


 悲痛のあまりに叫ぶ男。シンは


「3」


 と呟き残りの男達を見る。シンはそのまま動きを止めることなく


 ザンッ!


 今度は別の男を右袈裟斬りにし


「4」


 と呟くように数を数えながら別の男の喉を切り裂き


「5」


 また別の男を左肩ごと縦に斬り


「6」


 シンの左手に持った剣の尖った柄頭で男の頭を貫き


「7」


 男の頭頂部から股にかけて縦に真直ぐに振り下ろすように斬って


「8」


 胸に右上から左下へと振り下ろす形で斬り込み


「9」


 男を思いきり腹に蹴りを入れて倒す。


 ガッ!


 その男の頭を掴み


「がぁあああ・・・!」


 常人離れした力で引っ張り


 ブチブチブチッ…!


 ヒュン…!


 別の男の右耳から風を切るような音が聞こえ反射的に音のする方へ見ると


 ドンッ、コロコロコロコロ…コロ…


「ひぃっ!」


 シンに掴まれていた男の頭だった。


「10」


 それを見た男はたまらず小さな悲鳴を上げようとするが


 ズバッ!


 背中から右袈裟斬りにされ


「11」


「こ、この野郎!」


 キィンッ!


 ドシュッ!


 シンは右手に持っていた男から奪った剣で手前にいる男の剣を受け止め左手で男の胸を貫いた。


「12」


「ぁぁぁぁあぁぁぁああ・・・」


 シンを前にした男の顔は恐怖に大きく目を見開き口の奥から小さなカチカチと奥歯が鳴らしていた。そして情けない小さな悲鳴を漏らしていた。

 シンはそんな男に凍えるような冷たい黒い目で見つめ


 ヒュンッ!


「13」


 男の首があらぬ方向へ飛ばした。シンはゆっくりと今手に持っている剣の持ち主の方へ見る。


 ドシュッ


「14」







 そして現在に至る。


「オ、ォ・・・」


 剣の持ち主の男は何か言おうとするが口から出る声はもはや声にすらならずそのまま静かになった。


「・・・ここら辺は終わりか」


 とシンは冷たく呟く。そんなシンのつぶやきに答えたのは


「ああ、こっちも見る限り取敢えずそこは“クリア”だ」


 アカツキだった。


「(なら、次の行動は)全員俺の後ろに付いてくれ」


 シンが皆にそう掛け声をかける。

 するとナーモが


「クク、ココ見るな!」


 と言ってククとココの目をナーモとシーナは手で覆った。安全になったから出て来た皆だったが周りの状況を見れば、ついさっきシンに殺されたばかりの新鮮な死体や乾いていない血のせいでなるべくなら子供等には見せたくないような惨状だった。その為ナーモ達やリビオ達の顔が嫌そうな苦々しい顔へと歪む。

 そんな中エリーはそんな顔をしながらも真剣な表情で


「強行突破するの?」


 と聞いてきた。シンはその問いに


「ああ」


 と単調な二文字の肯定の返事だった。シンは殺した男達から6本の剣を抜き取り


「ナーモ、シーナ、これで皆を頼んだ」


 そう言って1本ずつ渡した。ナーモ達が持っていた剣は訓練用に使っていたためかなりボロボロだった。シンはさっき手に入れた剣で皆を守る様にナーモとシーナに渡したのだ。

 残りの4本は2本は両手に1本ずつ、残りの2本はズボンのベルトに引っ掛ける様に腰から下げていた。


「シン兄・・・」


「大丈夫だ。すぐ追い付くから」


「・・・・・」


 不安そうな顔でシンを見つめる皆。


「・・・・・」


 シンは何度も自分に言ってくる「戻ってきて」の言葉にやや鬱陶しくなってきた。またリビオ達はともかく何故ここまで皆がシンに対して心配しているのか理解できなかった。

 それでもありきたり、しかし最も安心できる短い言葉を口にする。


「必ず戻る」


 その言葉を聞いたココは


「絶対だよ?」


 と涙ぐんで言った。


 そんなココにシンは力強く頷く。




 そして、シンは軽く深呼吸をして


「突破するぞ」


 国境を突破するための戦いが本格的に始まった。


今回の話から文字数が多くなっていきます。読みづらいかもしれませんが今後ともよろしくお願いします。

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