52. 国境封鎖
お待たせしました。
「参りましたね。こんなにも人がいますと・・・」
「くそ・・・」
「・・・・・」
彼是考えている間にスラム街にある崩れた城壁から200m手前の所にシン達はガラクタとなってしまった資材や瓦礫の物陰に屈んで隠れていた。案の定スラム街の国境の辺りに例の一家らが監視していた。
(最早、国境封鎖ととってもいいな)
シンがそう心の中でごちるのも無理はない。思いのほか国境の辺りの監視体制がかなり厳重だったからだ。崩れた城壁の間に見えるのは、木材で簡単に作られた柵が国境に沿って建っていた。通行できるように柵の無い道の側には監視するためにこちらも木材で作られた塔が建っていた。更に柵の無い道付近ではギルドで見た冒険者風の男達が剣を腰に下げ、盾を利き腕ではない方に装着し、槍と言ったリーチの長い武器を持った者は決して少なくなかった。おまけに建てられた塔にはクロスボウや弓矢を持った者達がキョロキョロと辺りを警戒するように見渡していた。
「・・・何人に見える?」
「ザッと見て70人位かな?」
「いや、実際の人数はもっと多いかもしれない」
目の当たりにしている国境付近にいる連中を見て人数を数えていたナーモとニック。するとエリーが
「私達だけを捕まえるのにあれだけの人数が必要なの?」
と疑問の言葉を口にした。
「・・・多分私達が関わったからでしょう」
とリビオが答える。リビオの考えではシン達の本来の行動なら何も知らずに宿に居た所を、或いは町に出入りする為の門の所で捕縛する予定だったのだろう。
そこへ自分達、リビオ達によってその方法ができなくなった。それならば他にできる方法と言えばシン達に指名手配をする。また懸賞金を掛ける等をして捕えようとする。
恐らく今あの国境付近にいる冒険者風の連中はギルド、或いはミーソ一家かシルノフ一家での依頼か懸賞金目当て出来ているのだろうと推測した。だがシンは
(それだけじゃないかもな・・・)
と心の中でそうごちる。
シンがそう考えている理由はギルドでのやり取りでシンが思わずやってしまった事があった。それは殺気を飛ばした事だった。あの時男がシン達に絡んで来ようとした時思いきり殺気を飛ばしてしまった。その時にシン自身は現時点では恐らく今回の黒幕であるギルド長のアウグレントにも見せてしまったという考えだった。だが実際は確実に見せてしまった。シンのとんでもない殺気のせいでアウグレントがシンの強さに警戒し人海戦術を展開させてシン達を捕縛しようとしていた。
つまり、現状がこうなった一番の要因は自分自身にあるとシンはそう考えていた。
(何とかは・・・なるか・・・)
一番の要因が自分だからと責任を感じ、何とかしようとシンはまずエリーの肩に指で突く。
「?」
気が付いたエリーに隣にも聞こえない様に小さな声で
「エリー、悪いんだが俺の話に合わせてくれないか?」
と頼んだ。エリーは少し考える。
「・・・・・」
シンの力の事を考慮し、その上で現状を打破できる何かあると考えエリー。
「分かった・・・」
シンと同じように聞こえない様に小さな声で返した。
次にリビオに今度は隣にも聞こえる小声で
「リビオ、もし打開策が無かったら俺を囮にして皆を連れて国を出ろ」
と提案する。
「なりません!」
小声ながらも強めの口調で当然と言って良い程の返答だった。
シンは今の状況の原因である自分が囮役を買って出ようと提案した。
しかし、リビオは帝国に侵略されている魔眼族領を取り戻すためシンから銃器の作り方と使い方の情報を手に入れる。シンは魔眼族にとっては希望の光である。また、シンがどさくさに紛れて逃げる事だってあり得るだろう。
そんなシンに囮役等と危険な提案はもっての外である。しかし・・・
「・・・なら他に打開策はあると?」
「・・・・・っ!」
リビオ達は眉間に皺をよせ口をつぐんだ。この様子から考えれば打開策は思い浮かばなかったようだ。
「エリー・・・この子にどこにいるのか分かる為の道具を既に渡している。その道具を発動すれば粒子状になって消えるが、皆の位置は分かる様になる。もし俺が囮役を引き受けても後から追い付く事ができる」
「・・・・・」
早々に「はい、そうですか」とは答えられない。しかし、だからと言ってこのままでは打開策は思いつかないまま自分達が見つかってしまう。まだ、答えが出ることができない。その時、シンの首に装着していた通信機から
「ボス、2時の方角、40m先から14人程の武装集団を確認した」
とアカツキから連絡があった。それを聞いたシンは
(やはり来たか・・・)
少し前から幾人かグループを組んで巡回している連中がいたのをシンは気配で確認していた。そのうちの一つがシン達に近付いて来る。もはや最初にシンが考えていた基本的な逃走プランは役には立たなくなった。
「どうやら、時間が押しているようだ・・・」
「え?」
シンの言葉に疑問の返事をするリビオ。その答えをシンは口にする。
「巡回している何人かがこっちに来る」
「!?」
リビオは驚愕し目を大きくし顔が引きつる。
「で、どうするんだ?俺が囮で戦うのか、強行突破か」
状況が状況だけにシンは急かす様に聞く。そしてリビオは何もできない悔しさを言葉に込めて
「・・・・・・・分かりました。シン殿、お願いできますか?」
苦渋の決断を下した。今のリビオ達の装備は幾十個の撒菱等、数人の他者を連れだす事ができるように特化した物だった。とてもでは無いが、まともに集団との戦闘ができるような装備ではなかった。
歯痒い。
今のリビオの気持ちはそれに当てはまる。
そんなリビオの答えを聞いたシンは
「ああ」
二言だけ言って皆の前に立った。
たったそれだけの事。
たったそれだけの事なのに
「・・・・・」
目の前に巨大な鉄の盾が出て来たかのような安心感が湧いてきた。
「リビオ、俺が近づいてくる連中を片付けている間に今持っている撒菱を封鎖している連中が追いかけてこない様にばら撒く準備をしてくれ」
安心感に浸っていたリビオがハッと我に返る。
「分かりました。ソラミ、コモンドール、ルクソス、エレン」
「「「はい」」」
そう言ってソラミ、コモンドール、ルクソス、エレンの4人は腰に下げていた袋をいつでも撒菱を取り出せる様にした。そんな中ネネラがジッと下を見て俯いていた。
「・・・・・」
何故俯いていたのかシンは察していた。
「ネネラ、取敢えず今は・・・」
「分かっているわ・・・。脱出が先でしょ?」
姉妹であるニニラを助け出したい。今すぐにでも。しかし、今の自分達にはニニラを助け出す力が無い。今いる皆とヨルグから出る事だけしか力が無い。
悔しい。
悔しいが何も文句を言わずにシン達と共に脱出する。
今ネネラができる最大限の事がそれだった。
シンがネネラの肩へそっと手を乗せて
「皆を頼んだぞ」
真剣な口調でネネラに言う。そんな真剣なシンの顔を見て
「任せて・・・」
ネネラ自身も顔つきが真剣なものになる。
「戻ってくるよ、ね?」
「・・・・・」
ククとココが不安そうな顔でシンの顔を見る。
「・・・」
シンは2人の顔をジッと見て
「戻る」
たった一言だけの返事だった。だがその一言には何か力強さを感じる言葉だった。その言葉にククとココは
「「うん!」」
力強さを感じる言葉に応じるように力強く返事した。
シンはこれからこっちに来る十数人の連中をどうにかするべくそっと立ち上がる。
(行動開始・・・)
これから向かおうとシンが行動を起こそうとするとリビオが
「お願いします。必ず私達の所へ・・・!」
と言ってきた。リビオは希望の光であるシンが死んでほしくない、捕まって欲しくない事とどこかへ行かずに必ず自分達のいる所まで来てほしいという思いが強くこもった言葉だった。
言わずもがな死ぬ気もないし捕まる気もない。そして、どこへも行かずにリビオ達の所へ向かうつもりのシン。返事は当然
「分かっている」
シンはまずこれから来る連中を対処するため移動を開始した。
「“内気でお人好し”か」
移動する最中にポツリと呟く。銃器の仕組みと使い方を教えると約束したとはいえあそこまでシンの事を信頼するリビオ達。シンが約束通りにするという保証はどこにもないと言うのに。そんな思いから思わず口に出した。
そんな呟きにアカツキは思わず訊ねた。
「ボス?」
アカツキの声に返答するシン。無論誰にも聞こえない位小さな声で。
「何でもない。それよりも皆がどこへ向かうかを追跡と・・・」
「正確な敵の位置だろ?任せてくれ。それからボス、「BBP」で対処するのか?」
「いや、ちょっと試しておきたい事があるから、よっぽどの事が無ければ使わない」
「試したいおきたい事?」
「ああ。だが、もうそろそろ・・・」
「後、6mで鉢合わせするぜ」
シンは目を鋭くし確実に且つ一切外に漏らさず殺気を込めた。
「状況開始」