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51.汚れた街

 魔眼族は人間から迫害されている。そんな事実をシンに告げたリビオ。


「・・・・・」


 シンは表情も変えずただ黙ったままだった。まるで予想通りだったかのように。


(まぁ、黒い目何て滅多に見ないだろうな・・・)


 彼らは体格も肌の色も髪の色はそこらの人間と何ら変わりは無い。魔法も使えない。だが、彼らの目は黒い。たったそれだけで見た目の印象も違ってくる。

 漫画やゲーム、と言ったファンタジー系創作物から出て来たような敵キャラによくありそうな風貌だった。

 その見た目を見てシンは何となく魔眼族は迫害を受けているのではと考えたのだ。そして、リビオの口からはシンの予想通りの結果だった。

 シンは沈黙し止まっていた様な数秒間を動かす様に口を開いた。


「・・・その黒い目のせいか?」


「・・・・・」


 口にせずただ黙って頷くリビオ。


「・・・」


 リビオはただ黙って頷いただけだった。たったそれだけで彼らの扱いがどんなものであるかがリビオの様子で分かった。


「その“力”が欲しくて俺を、いや俺達をこの町ここから出そうとしたのか?」


「はい」


 ほぼ迷い無く力強い肯定の返事をした。


「その“力”は何のために?」


「私は、いえ私達は国がありました。ですが・・・」


 リビオが力なく「ですが」と答えて2秒程間が空く。シンは遮る様な、或いは言いにくい事を代わりに予想していた「答え」を答えるかの様に


「「帝国が攻めて来て侵略」って事か?」


 と言った。そしてこの問いに


「・・・・・はい」


 一瞬言葉に詰まるも肯定の返事をするリビオ。


「そうか」


 素気なくぶっきら棒な返事をするシン。


 何故自分、シンに脱出条件でリビオ側が妥協する形で承諾したのかについて推測し、ほぼ正解に近い答えを出していた。

 リビオ達「魔眼族」は帝国に侵略され迫害を受けている。飽く迄シンの考えだが、恐らく数年国が無いまま当てもなく彷徨っている生活。

 或いは他国に援助を頼んだ。しかし、その他国が抱え込んでいた「魔眼族」への援助が限界近くなっていたか。

 どちらにせよ「魔眼族」がここまで追い込まれていた。だから、帝国から自国を取り戻すために「力」を探っており、漸くその方法のカギとなるシンと言う存在を見つけた。


 ここまでがシンの推測だった。


(俺達をここから出すと言って自分達の「アジト」・・・にでも連れて来て俺の「改造KSG」について調べようとする・・・が最も考えられるだろうな)


 シンは自分達のこれからの待遇等の事を考えていた。

 重い空気の中で話している内にいつの間にかスラム街の中のひび割れかけた石畳の道を堂々と進んでいた。


「・・・」


「・・・・・」


 辺りを見渡してみる。石畳の通りはゴミや瓦礫が地面にあちらこちらに落ちていた。辺りには悪臭が漂っていた。崩れかけの家の前には子供が座り込み力のない目でこっちを見ていた。隣の家では扉が無くなって中の様子が窺える。少し奥の方では痩せに痩せて片方の足しかない少年は汚れきった布の上に寝ころび眠っていた。


「・・・・・」


 シンはジッとスラム街を観察しながら街を歩いた。

 壁をよく見てみれば常に湿気っているのかひび割れてデコボコ、今にも崩れそうな状態だった。風が吹けば家の壊れた窓から吹き込んでくる。


「・・・・・」


 左右を見る。


 右を見れば家と家の間のさびれた道の真ん中では顔中汚れた貧しい少年が立っていた。その少年はこちらの様子を窺っていた。


 左を見れば何かの資材置き場の様な所には異臭を通り越して悪臭となった大量のゴミが積まれており一つの山になっていた。そのゴミの中に何か使える物は無いかと探っているのかボロボロの洋服に身を包んでいた少女がゴミの山を漁っていた。


( 「ブレンドウォーズ」でもスラム街があったが、ここでもそう当て嵌まるな)


 シンは「ブレンドウォーズ」の事を思い出していた。遠征先のアメリカのスラム街がステージとして登場していた。ゲーム上その街の中を移動するのだが、そこを歩いていたシンのプレイヤーキャラクターのセリフでこう言ったのだ。


「貧困とは、電気も水もなく、屋根もない家で寝る事だろうな・・・」


 寂し気にポツリと呟くように言葉を漏らしながらスラム街を歩いていた。シンがそんな思い出に耽っているとニックが


「ねぇ、ここまで帝国の兵士が来ないよ、ね?」


 不安げにリビオかシンに尋ねる。するとコモンドールが


「大丈夫ですよ。ここはこの町の住人から嫌われており、易々と兵士でも手は出さないでしょう」


「コモンドールの言う通りですよ。それよりも我々に離れず付いてきてください」


 穏やかに話しニックを安心させるリビオとコモンドール。けれどもだからと言って危険はまだ去ったわけでは無い。


「・・・「離れず」に、って私達を狙ってくるような連中がいるって事?」


 帝国兵から逃げ手からあまり喋っていなかったネネラが口を開く。ジト目でリビオを睨む。


「そうですね・・・」


 リビオが静かに一言だけ返す。すると今度はあまり喋らなかったソラミが


「脅かす様な言い方をして申し訳ないのですが、ここら一帯はミーソ一家とシルノフ一家の縄張りです。その部下に出会えば良ければ絡まれて金を取る、悪ければ強盗殺人、誘拐して売られるが多いですね」


 そう答えた。確かにソラミの言う通り大抵のスラム街は犯罪組織や反社会勢力が集まり治安が悪く、一般人はおろか行政でもよっぽどの事が無い限りは迂闊には手が出せない。

 つまり敵が帝国兵から犯罪組織に変わっただけの事。


「「「・・・・・」」」


 ソラミが一応脅かしの発言を一言だけ断りを入れて発言したのだがそれでもやはりさっきの穏やかではない言葉に思わず黙ってしまう皆。

 特に「誘拐して売る」という言葉にはどうしても反応してしまう。言葉通りに考えれば違法な人身売買を行っているという事になる。

 奴隷と言う身分から抜け出せた皆にとってまたそういった危険が伴ってくる事に警戒し空気が重くなる。


「スラム街を超えるのか?」


 シンはそんな空気を変えようと取敢えず帝国領からの脱出についてリビオに聞く。


「はい。このままスラム街を抜けると帝国領から出る事が出来ますが一つ問題が・・・」


「問題?」


 リビオは少し言いづらそうな様子で


「スラム街付近に帝国の国境があるのですが、その近くに例の一家らが監視しているのです」


「・・・という事は金を取られるとかそういうのか?」


「脅して金品を要求するならまだしも、護衛するから金を寄越せっていうのです」


 脅迫の方は金さえ払えばどうにかして通れるだろう。だが、護衛の方は問題がある。所謂みかじめ料ってやつだ。みかじめ料とは元々は自己の勢力範囲で営業を行い或いは行おうとしている者に対して、その営業を認める対価として、あるいはまた、営業の用心棒代としての意味をもたせて、挨拶料、守料(もりりょう)等の様々な名目で金品を要求する。この要求に応じた者にこれを月々支払わせるのだが、こういった金品の事を「みかじめ料」といい、マフィア等の犯罪組織にとっては、オーソドックスであるが重要な資金源の一つとして有名だ。

 だが実際の問題は金を払う事自体に問題ではない。


「つまり護衛を名目に俺達に付いて行って隙あらば、襲うでもするかもしれないと?」


「決してあり得なくはありません」


「・・・・・」


 シンは眉間に皺を寄せやや目を細める。

 つまり、ここでも一悶着が起きるかもしれないという事になる。

 エレンが続くように


「それに・・・」


「それに?」


「あなた方は“お尋ね者”ですよね?」


「ああ・・・そうか」


 エレンは何が言いたいのかが分かった。

 現在シン達は帝国から指名手配を受けている。そうなると自分達の首には賞金が掛けられている可能性がある。ミーソ一家やシルノフ一家のような犯罪組織は金に関してはがめつい事が多い。自分達の悪行が公にされてなければ怪しまれていても、賞金は手に入る事はできる。通行料を払おうとすると捕まえようとするだろう。


 ・・・そもそも通行料でどうにかできるのかもかなり怪しいところだが。


(なるべくなら避けたいな・・・)


 人目に付かない深夜にこのスラム街から脱出する。もし、深夜でも見張りがいれば脱出ルートの案内は最悪アカツキにナビすれば問題ない。基本的な逃走プランはこれで行くつもりだ。

 万が一見つかって襲ってくるのであれば、その時はその時。思い切って現代兵器を駆使して例のキャンピングカーで強行突破し、脱出を図る。

 しかし、シンはなるべく自分の手の内を見せたくはない。これは最後の手段だ。


(うまくいけばいいんだが・・・)


 そんな事を考えながらスラム街の中へと突き進んで行った。


私が初めて小説が投稿した日が10/31でした。つまり今日で丁度1年になります。私自身かなりの飽き性なので三日坊主で終わってしまうかも・・・と考えていましたが、今日改めて最初に投稿した日付を見ると長続きしていた事に驚きました。

この調子でまだまだ物語を続けていきますので今後とも「アンノウン ~その者、大いなる旅人~」をよろしくお願いします。

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