50. 黒い目の民
一部、表現や描写が説明がうまくできず、怪しい箇所があります。
もし、おかしければご指摘いただけると嬉しいです。
シン達が買い物していた賑やかな通りとは打って変わる程ではないが、人とすれ違う頻度はかなり少なくなっていた。そんな静かな通りの真ん中でシン達8人と藍色のローブを着てフードを被った5人がいた。
フードを被った5人は自ら深々と被っていたフードを少しだけ上げシン達に自分達の素性を確認させていた。
(黒い目・・・?)
シンの目が少し大きく開く。それもそのはず。人間の言う所の白目の部分が黒く瞳が血の様に深紅の目。その5人の目を見たネネラは驚きながら
「貴方達、「魔眼族」?」
と口にし、それを聞いていた黒い目の5人は少し物悲しそうな顔をした。シンは聞き慣れない単語に気が付きネネラに訊ねる。
「ネネラ、「マガンゾク」っていうのは?」
責めているわけでも悪意を持っているわけでも無く純粋に初めて聞く単語に質問するシン。そんな様子のシンに魔眼族らしきフードの5人のうち何人かは少し眉を顰める。
「魔人族の内の一部族だよ・・・」
と一言で答えた。そんな簡素な答えではシンは分かるはずもない。シンは具体的な説明をネネラに求めた。
「詳しく言えば?」
ネネラは小さな溜息を付き具体的な説明をする。
「内気でお人好しで、金属加工が得意でどういう訳か魔法が一切使えない変わった種族」
「・・・ほぉ」
更にネネラに詳しく聞くと3km先の文章が読める程の視力を持ち夜目が効き、魔法反応の状態を唯一見ることができるとネネラはそう答えた。
(3km先の文章が読める程か・・・)
シンは彼らがとんでもない目の良さに危機感に近いものを感じた。目が良いという事は銃器を扱うに当たってよりよく扱う事ができるという事になる。下手をすれば狙撃で使われるスコープは一切必要とせずそのまま狙撃が可能という事になる。
このまま銃器のヒントを教えてもよいのだろうかと不安が頭をよぎる。
するとフードの男が徐に自分達の紹介をし始めた。
「私の名前はリビオです。後ろにいるのは右からソラミ、コモンドール、ルクソス、エレンです」
リビオが最初会釈し、次に紹介された者から順々に軽く会釈していく。
リビオと同様5人とも藍色のローブを着てフードを被っていたが、よく見るとそのローブの下には、深緑色のシャツと同じ色のズボン、こげ茶色のショートブーツだった。シャツの上にはレザーアーマーを着込んでおり、腰の所には小物が入る様に小さなポーチが複数あった。
右から紹介されたソラミはやや浅黒い肌に、短めのライトブルーの髪の若い女性。
次にコモンドールは余り日焼けしていないのかやや白めの肌に、短い金髪の若い男性。
ルクソスはソラミ同様、やや浅黒い肌に、黒みがかった緑色の整った長い髪型、ハリウッディアンと呼ばれる髭を生やしたワイルドな男性。
最後のエレンはコモンドール同様のやや白めの肌に、ワインレッドの長い髪の若い女性。
そして4人を紹介したリビオは、健康そうな小麦色の肌に、群青色の短髪の整った髪型の若い男性だった。
髪の色も肌の色もバラバラだが、目だけは全員共通して、人間の言う所の白目の部分が黒く瞳が血の様に深い赤色だった。
リビオ達の紹介が終えるとシン達も協力する以上自己紹介をしなければと思い、まずシンからか簡単な自己紹介をする。
「・・・俺はシン」
「私はネネラ」
と発言していた者から順番に
「俺はナーモ」
「ニック・・・」
「私はエリー」
「シーナ。後ろの子達はククとココ」
シン達8人の自己紹介が終わる。
「では早速ですが、私達に付いてきてください。こちらに・・・」
シンはコクリと頷き、リビオが続けて何か言おうとした時だった。
「いたぞー!」
声のする方へ向くとニニラと同じ格好した男2人がシン達の方へ指を指しそう叫んでいた。
男2人は軽く着込んだ同じ鎧姿。つまり、彼らは帝国兵だ。
「拙いな」
シン達とリビオ一行はすぐさま自分達が追われている事が分かり
ダッ!
と走る。シンはリビオが脱出の提案について走ながら尋ねる。
「確か、リビオ、何当てがるのか?」
「あります。皆さん付いてきてください!」
そう言うとリビオ一行がシン達より先に出て走る。まるで先行するから後から付いて来いと言わんばかりに。
「捕まえろー!」
ここで2グループの足跡が聞こえていた。一つは複数の革靴等の足音。これはシン達とリビオ達の足音。
タッタッタッタッ…
もう一つは腕や足の脛を守る為の身に着けた鎧や盾の金属製の部分が擦れたり、当たったりして独特の足音。追いかけてくる帝国兵達の足音だ。
ガシャガシャガシャガシャ…
「・・・・・」
シンは後ろを見る。帝国兵との距離はそう遠く離れているわけでも無い。早い。かなりの装備を着込んでいるにも拘らずかなり早く追いかけてくる。
(流石は兵士と言ったところか・・・)
中世ヨーロッパの兵士は遠い場所まで移動するに当たって馬車等に乗せてもらえるわけでは無い。ほとんどは自分達の足で移動していた。この世界の文明レベルも中世ヨーロッパだ。この世界でも同じ事なのか兵士として重装備でも歩みや走る事をなるべく止めないように走っていた。
こちらは少なくとも体力的にも最も厳しそうなククとココがいたのだがそれほど問題なく走り続けている。このまま逃げ続けていれば問題は無い。
しかし、敵は多い。人海戦術を使われてしまえば時間の問題で捕まってしまうだろう。
(しょうがない俺が・・・)
シンは追ってくる帝国兵の妨害しようと右手を刀状にしようとした瞬間―
「ソラミ、ルクソス!」
リビオは急にソラミとルクソスに何か合図の様に声を発した。
「「はっ」」
すると2人は返事をして、シン達のすぐ後ろに行き、ポーチの中から何かを取り出し後ろにばら撒いた。
(何だ・・・?)
シンは後ろの方を見るとばら撒いた何かを確認する。すると、4cm程の菱の実の様な形をした金属製の物が落ちていた。
(あれは、撒菱!?)
時代劇や歴史小説に出てくる、逃げる途中にばら撒くことで追手に怪我を負わせる、またはそれを踏まないようにするために追手の速度を落とさせる効果がある道具、あの撒菱だ。
「ぎゃあ!」
「痛ってぇ!」
帝国兵の装備は金属製の部分は胴体、腕や足の脛を守る為の鎧だけだった。そのため革靴で走ってきたため当然何もされていない足裏は撒かれた撒菱の餌食になる。
「・・・・・」
後ろの方でギャアギャアと悲痛な叫びが町中に響く。先頭に走っていた帝国兵の様子を見た後続の兵士達は撒菱を踏まないよう警戒しながら追う。だが、警戒しながら追うと速度を落としてしまう。これも恐らくリビオ一行の狙いだったのだろう。
ひとしきり撒菱をばら撒いたソラミとルクソスは速度を上げてシン達に追いつき
「さぁ、今のうちに」
と声を掛ける
「分かった」
シン達とリビオ一行は帝国兵が見えなくなるまで真っ直ぐ走った。
「もういいか・・・」
リビオは後ろから追ってきた帝国兵たちの様子を見て走るのを止める。それに続いてシン達も走るのを止める。周りの風景は人通りが少ないとは言え人は通っていたさっきの様子と比べ更に人通りが少ない場所に来ていた。
と言うよりももはや人らしき人など見当たらない場所にシン達は来ていたのだ。おまけに人通りの道幅が狭くなっている。周りの家の中は不気味な程に暗く静かだ。
「リビオ、ここは?」
「・・・取敢えず言えるのは町はずれの一画です」
「『町はずれ』?」
言えないのか、言わないのか詳しい事は話さなかったリビオ。しかし、シンにはアカツキという心強い味方がいる。その心強い味方が通信機を通して伝える。
「正確にはさっきの場所から直線で指せば236m。ボスたちが通ったルートで換算すると568m離れた寂れた場所だ。あと、そのまま7時の方角へ83m進むとスラム街らしき場所に出る」
(スラム街か・・・)
シンはアカツキが言った言葉に何となく見当がついた。
このままスラム街に出てそこから逃げるという算段なのだろう。スラム街というのは、都市部で極貧層が居住する過密化した地区のことであり、都市の他の地区が受けられる公共サービスが受けられないなど荒廃状態にある状況を指す街。
世界中のほとんどの大都市にスラムがある。中には様々な理由で社会からつまはじきにされた者達が集まる場合もある。その場所には犯罪組織や反社会勢力が集まり治安が悪く、一般人はおろか行政でもよっぽどの事が無い限りは迂闊には手が出せない場所だ。
城壁都市でのスラム街であれば何処か崩れた場所があってもおかしくはなかった。恐らくそこから脱出する算段だろう。
(どこの世界にもあるもんだな・・・)
シンは人通りが少なくなった事に納得がいく。都市部の住民は治安の悪さや衛生面の悪さ等を理由にスラム街の連中を毛嫌いする。すると自然と彼らに協力しない。彼らの生活環境が改善されず、常駐する。こういった形で負のスパイラルが形成し、なかなか改善されないのである。
ここらにある家は恐らく空き家だろう。中に人がいるような気配がない。
シンがそんなことを考えているとリビオは
「皆さん、ここから先はこれまでとは違った危険があります。決して離れないでください」
と言った。
「この先って何ですか?」
とニックが尋ねる。するとシンにとっては予測通りというべきか当然なのか、決まった答えがリビオの口から出る。
「・・・スラム街です」
シンは誰にも気が付かない様に溜息を吐いた。
(やはり、この先にあるスラム街を通り抜けなければならないのか)
シンが心の中でそう呟く。
(スラム街、か・・・)
今まで見てきた事を頭の中で整理し推測する。
(・・・・・)
後に付いて行くシンは小声でリビオにそっと尋ねる。
「・・・もしかして魔眼族は迫害されているのか?」
単刀直入で核心を突くような言葉でリビオに訊ねた。
「・・・本当に何もご存知ないのですね」
シンは静かに頷く。
「聞きづらい事を聞いてすまない。俺がこの町で見たものらから考えるとやっぱり・・・」
リビオは神妙で悲しそうな顔つきで語った。
「・・・シンさんの言う通り私達魔眼族は人間から迫害されています」
何だかんだで50話まできました。暇なときさえあればササッと書いては投稿するだけの暇つぶしのつもりで書いてきました。そのため勢い任せの行き当たりばったりな小説になり、何処か矛盾点や変な文章が出てくる始末の物語・・・。それなのに気づけばいつの間にかこんなにも読者の方々が楽しんで読んで下さるとは思っても見ませんでした。
今まで「アンノウン ~その者、大いなる旅人~」を読んで下さり本当にありがとうございます。物語はまだまだ続きますのでお楽しみください。少し長くなりましたがここまで読んで下さりありがとうございました。