46.豹変の真相
実は投稿しようかどうか迷った話です。
遡る事1日前。町は真っ赤に染まり今の時刻が夕方だと分かる頃。やや急ぎ足気味でギルドに着いたニニラ。浮かない顔で入り口のドアを開け中に入る。受付まで向かい受付嬢にグルフの事を報告する。
「すみません」
「ご用件は何でしょうか?」
丁寧に対応する受付嬢に対してニニラは未だに浮かない顔で話す。
「今回のグルフ討伐の件で報告があるんですけど」
「それでしたら、グルフ討伐の件で参加された方でしたら、2階のギルド長室で報告してください」
受付嬢が言った「ギルド長室」という単語に反応するニニラ。そんなニニラに対し受付嬢は丁寧な対応と笑顔は崩さなかった。
「ギルド長室で?」
「はい」
ニニラはグルフで自分とリース以外全滅の上、人の行き来が多い街道までグルフを連れてきた事に対するお咎め、或いはペナルティがあると思いハァとため息をついた。
しかし、依頼そのものは失敗したのだが、九死に一生を得たのは事実だ。その事を考えればこれからの起きようとする事と比べれば遥かに小さい。
静かに覚悟を決めたニニラ。
「・・・分かりました。2階ですね」
受付嬢は「ハイ」と返事し、ニニラは重い足取りで2階のギルド長室へ向かう。
ギルド長室の前まで来たニニラは軽く深呼吸し
コンコン…
ドアをノックする。
「冒険者のニニラです。グルフの件で報告しに来ました」
「入れ」
中から中年の男の声がした。恐らくギルド長だろう。ギルド長らしき男の返事を聞いたニニラは
「失礼します」
と言って中へ入る。手前には応接ができるように飴色に仕上がったテーブルとソファがあった。その奥には同じく飴色のテーブルとクローゼットがあった。テーブルには書類が数枚と白と金で彩られた豪奢な香炉の様な物置いてありその書類に何か書こうと羽根ペンを持った男がいた。
その男は白髪交じりの50代、温和そうに細い目、所謂糸目の男だった。
このギルド取りまとめるギルド長のアウグレントだ。
アウグレントはそっと持っていた羽根ペンを机に置きニニラの話を聞く。
「急にここで報告させて済まないね。早速だが報告をしてくれるかね?」
にこやかに対応するアウグレント。
「は、はい。アタシを含めてグルフ討伐隊は依頼の通りに目撃情報のあった森の奥へと行きグルフの群れがいました。ですが数の多さでアタシとリースという兵士だけしか生き残っていませんでした」
少し緊張しながらも報告するニニラ。アウグレントはニニラの言葉を静かに耳を傾ける。
「ふむ、君は・・・いや君達は命辛々グルフから逃げ延びたわけだね?」
まるで「にこやかに穏やかに」を心がけているのかの様に対応するアウグレント。それに対しニニラは静かに
「はい・・・」
と静かに答える。
「じゃあ、どうやってグルフから逃げ延びた上にグルフどもを討伐できたのかな?」
「・・・それはアタシにもよく分かりませんが、街道で偶々通りかかった方がアタシ達を助けた上にグルフの群れを討伐してくださいました」
アウグレントの問いに淡々と只管答えるニニラ。
「そうか、偶々通りかかった人がね・・・」
「はい」
「・・・・・」
アウグレントは腕を組み
「その人の名前は分かるかね?」
とニニラに尋ねる。
「はい。名前はシンという変わった帽子を被った黒髪の男です」
迷いも無く答えるニニラ。
「ふむ、ではグルフの死に方はどんな感じだったかな?」
「何かで刺したような傷があり体中が、こう・・・・・・・ブヨブヨとしていました」
何と言って良いのか分からず必死に報告するニニラ。
「ブヨブヨ・・・・・・ではどうやったのかは分からないのだね?」
「はい・・・」
「ふむ・・・」
アウグレントは腕を組み少し考え込む。
「・・・・・」
ニニラはある事に気が付いた。
「あ、あの・・・」
「何かな?」
アウグレントは腕を組みながらニニラの方へ向ける。ニニラはギルド長のアウグレントに恐る恐る
「いつグルフの群れを全滅した事を知ったのですか?」
と訊ねた。
するとアウグレントは温和な細い目が見開くように大きくなる。
そして、その目は笑っていなかった。
「・・・・・」
ギルドで依頼された依頼は飽く迄、一頭のグルフ討伐の依頼だ。一頭のグルフでも相当凶暴で複数人の武装した人間でやっと討伐ができるのだ。
しかし今回は偶然出会ったグルフの群れを全滅した事を含めた結果をニニラはギルドへ報告しに来たのだ。
それなのにも関わらずアウグレントは「グルフどもを討伐できた」と言ったのだ。
では、いつギルド長はグルフを討伐が完了できた事を知ったのか?
その事に気が付いたのかアウグレントは手を顔に当て大きな溜息をつく。
「・・・そうか、私とした事が」
「ギルド長?」
答えになっていない事を呟いたアウグレント。ニニラは様子が急に変わったアウグレントに不安に感じながらも尋ねる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・取敢えず、君は合格だよ」
「・・・は?」
「君はあの過酷ともいえるグルフの群れを討伐に向かい街道沿いの所まで引き寄せて生き残ったんだね?」
何が言いたいのかが分からない。ただ、アウグレントがさっき言った事実には決して間違いはないので戸惑いながらも
「は、はい・・・」
と答えるニニラ。するとアウグレントはジロリとニニラを見て
「ならば十分だよ・・・」
そう言って立ち上がり机の上にあった香炉の様な物に
「フレイムバースト」
そう言うと香炉の様な物から
ボッ!
と火が付く。すると、怪しげな薄紫の煙がモワモワと経ち、独特の甘い香りが部屋中に充満するのはあっと言う間だった。
「あの・・・ギ、ギルド・・・長・・・な・・・にを・・・」
ニニラがアウグレントの謎の言動に問おうとしようとしたが頭がクラクラして視界がぼやけてくる。
「・・・・・」
徐々にニニラの生き生きとした目の光が失わられ、暗く澱んだ虚ろな目になってくる。
その様子を見たアウグレントは
「ゲヘンバッシュ」
と呟くように何かの魔法を唱える。するとニニラは俯いてそのまま固まる様に動かなくなった。アウグレントはその様子を確認したら今度は静かに語る様に
「ニニラよ、君は帝国に選ばれたのだよ」
とニニラに囁く様に言った。
「・・・選ばれた?」
「選ばれた」という単語にオウム返しに聞くニニラ。だが、その声には前の様に活発ではなく、力無い声だった。
「そうだ、君は誇り高き帝国民として選ばれたのだよ」
そんな様子のニニラにお構いなしに囁くアウグレント。
「て、い・・・こく・・・みん?」
「そう帝国民だよ、ニニラ」
温和そうな細い糸目からギラギラした獰猛で厭らしい目になったアウグレント。
「誇り高き帝国民として選ばれその上聖戦士として戦う事が許されたのだ」
「ほん・・・とですか!?」
ニニラの声が徐々に恍惚が含まれた嬉々とした声に変わって返答する。
「本当だとも。どうだね?」
「うれしいかぎりです!ぜひともあたしに!」
何の疑いもなく無垢な子供の様に答えるニニラ。しかし、その目は虚ろな目で表情は恍惚としていた。
「では・・・」
アウグレントは奥のクローゼットの引き出しから兵士の制服と装備を出す。それは帝国の物だった。
「これに着替えたまえ」
それはこの場で着替えろという事だった。
「はいっ!」
何の疑いもなく返事をし、その場で着替えるニニラ。アウグレントは厭らしい笑みを浮かべながらニニラの着替えを舐め回す様に眺めていた。今まで着ていた冒険者らしい服をその場で脱ぎ捨て帝国兵士の服に着替える。
「どうですか?似合っていますか?」
まるで友人かボーイフレンドに聞くような口調でアウグレントに聞く。
「ああ、似合っているとも。どこから見ても誇り高き帝国兵士だよ・・・」
いつもの様ににこやかで穏やかな笑顔で答えるアウグレント。
「・・・!」
それに応えるかのようにニニラはパァァと満面の笑顔で答える。
もうそこには冒険者ニニラではなく帝国兵のニニラだった。
「では早速で悪いのだが君の言っていた「シン」という男を「帝国の素晴らしさ」を説いてきてもらえるかな?」
それは「シン」という男をここギルドまで連れてこいと言う意味だった。
「はいっ!」
ニニラは何の迷いも無くそう言って、張り切っているかのように足早にその場を後にした。
アウグレントは右手の人指し指と親指で目頭を押さえて
「ふ~・・・。これで何人目だったかな?」
机の引き出しから多数の人間の名前が書かれた書類を1枚取り出した。
「ああ、そうかこれで15人目か・・・」
それはリストだった。リストに書かれていた人間の名前の欄の横にはチェックマークが付けられていた。どうやらさっきの様に洗脳が完了したらチェックしているようだ。そのリストにはニニラの名前があった。アウグレントは机の上に置かれていた羽ペンを持ち直し、リストにあったニニラの欄の横にチェックマークを付けていった。
「なかなか、疲れるものだな」
リストと羽ペンを机の上に置き、徐に席を外し窓際まで行く。笑みを浮かべ窓から赤く染まった外を見て
「さて、明日は何人出来るかねぇ?」
そう呟いた。
机の上に置かれたリストにはまだチェックの入っていない「シン」という名前があった。
最初は「おお、いい話思いついた」と勢いで打ち込んだのですが、上手く表現できない部分や、ただ何となく投稿していいのかと思った作品です。
もし、この話で何か気になる事や変な箇所がございましたらご一報ください。