45.確認
前回同様思い付きです。おかしな所があるかもしれません。
正午過ぎ「旅烏」へ戻りニニラの姉妹であるネネラを見つけ様子を見ていた。
「・・・・・」
現状から見れば「旅烏」の店員として問題なく客に接していた。宿に初めて入った時と一緒だった。
シンは話しても問題はないと判断しネネラを宿泊していた部屋の手前の廊下で先程のニニラの様子と軍に入る相談の有無を尋ねてみた。
「・・・信じらんない、昨日の夜から見かけないと思っていたら・・・」
「昨日の夜?」
「うん・・・昨日の夜「旅烏」の食堂で一緒に夕食でもと、待ち合わせる約束だったんだけど・・・」
「来なかった、と?」
ネネラは頭を縦に振る。
「仕事終わってすぐに探しに行ったんだけど、どこにもいなくて・・・」
(ああ、成程・・・。昨夜見かけないと思ったらそういう事だったのか)
よく考えてみれば昨夜の賑やかな食堂の事思えばネネラがいないのは少し変だった。例えシンがニニラとの関係が知っても知らなかったとしても、ネネラがあの場にいなかったのはおかしな事だ。
昨夜の「旅烏」は大勢の客で賑やかだった。あれだけ賑やかであればそれだけ客からお金が多く落としてくれるため人手がいる。しかも大きな稼ぎ時だ。何かあったと考えるのが自然だろう。
「私の相談無しに勝手に入って・・・。っていうか・・・あの子が、ニニラがそんな理由で軍に入るなんて!」
ネネラがニニラの事を何も知らない事にシンは
「やはりか・・・」
と思わず呟く。するとシンのその呟きにネネラは反応する。
「やはりってどういう事?」
「俺達がこの町に着くまでニニラと一緒にいた事は知ってるよな?」
「うん・・・」
己の焦燥感を抑えながら冷静にシンの言葉に耳を傾けるネネラ。
「ニニラはグルフの一件でギルドへ報告しに行く事になって俺達と分かれたんだ」
「・・・何が言いたいの?」
ネネラは眉間に皺を寄せシンに問う。
するとシンは一拍空けるように少し深く息を吸って
「・・・俺達はギルドでニニラが洗脳されたと考えているんだ」
断言した。
「そんなのあり得ない・・・」
小さくも低くドスの効いた声でボソリと呟くネネラ。
「現に俺達はニニラの口からギルドって聞いた」
シンは洗脳されたであろうニニラから聞いた言葉を証言する。しかしそれでもネネラは信じられないでいた。
「あり得ない!だってギルドは中立した大きな組織だよ!?そんなのって・・・」
「全くあり得ない話ではない」
荒げた声で異を唱えようとするネネラの言葉を遮る様に冷静に鋭い言葉で答えるシン。
「ギルド全体ではなく帝国内だけのギルドであったら?」
シンはギルド全体が帝国側に回ったのではなく、帝国内のギルドのみと考えていた。
ギルドというのは独立機関であり、国の指揮下にあるものではない。一種の国際的機関なのだ。つまり、戦争が起こるからといっても冒険者達を戦力として招集する権限は存在していない。だが、だからといってモンスターとの戦いで鍛え上げられてきた戦力をそのまま放っておくのは非常に惜しい。冒険者にしても基本的には自分の住んでいる街や国に対する愛着はあるので、それらを守る為に戦争へと参加を希望する者も決して少なくはない。そしてギルドにとっても、いくら独立機関だとしても国が他国に占領されてしまえばギルドとしての活動に多少なりとも支障が出るのは確実である。
そんな国、冒険者、ギルドの第三者の思惑が複雑に絡み合った結果、国が冒険者を傭兵として雇う為に依頼を出すという流れになるのはある種当然だった。
もちろん、有力な冒険者や高い戦闘能力を持っている冒険者は指名依頼という形になる事も珍しくはない。
だからと言って戦争に全ての冒険者を派遣するような事になれば街の防衛力が落ち、同時にモンスターに対処出来る存在も少なくなる。
その為、戦争に関する依頼についてはギルドの方である程度参加する者を調整されていた。
ネネラはこの事からギルドは中立であり、独立した国際機関として信頼していた。ネネラが、ギルドが帝国側についている事に信じられないでいた理由はこれが大きかった。
しかし、今回の場合は前代未聞と言って良い程の稀なケースが起きている。本来なら食堂や酒場で「そんな戦争に関わる依頼も近いうちに依頼ボードに張り出されるだろう」、或いは「戦争が起きるだろう」という噂が出始める頃、更に身体を鍛えるべく戦闘訓練に励む者も少しずつ出て来る。もちろん現在訓練を始めている者の全てが戦争を目当てにしている訳では無いが多くなるのは間違いない。
だが今回の場合は、他の冒険者のそんな様子も素振りもなかった。ましてや戦争に関する噂等一切取っていいほどなかった。それなのにも変わらず他所の冒険者が突然帝国兵になっていく。
これらの事を考えればギルドは冒険者を洗脳し帝国兵に変える不気味な存在である可能性も決して否定はできない。
「・・・・・」
そこまでの考えに及んだのかネネラは俯き黙る。
「例えばの話だが帝国の息がかかり洗脳できる魔法を持った人間がギルドのそこそこ高い地位に就き次々と帝国軍人に変えて行ったとしたら?」
シンは付け足すように更に意見を述べる。
「でも証拠がない!」
ネネラはそう反論する。シンはギラッと目をネネラへ向ける。ネネラは思わず身が竦む。しかし、ネネラの言う通り確証が無い。今ある判断材料ではギルドが黒とは言い切れなかった。そこでシンはある提案をする。
「ああ、そうだ。ネネラの言う通り証拠がない。そこで俺達とお前で確かめてみないか?」
「・・・え?」
「つまり、ギルドへ行って事実かどうかを確かめるという事?」
ナーモが答える。
「そうだ」
シンは肯定の返事をする。
「俺達は何食わぬ顔でギルド帝国支部に入りナーモ達が冒険者として登録する」
「え、俺達が!?」
ナーモは自分の方に指差し驚く。
「ああ、見た目的にも年齢的にも怪しまれないからな」
「・・・・・」
不安そうな顔をするナーモ。
「大丈夫だ。何かあったらフォローに入る」
シンがそう言うと幾分か不安が消えていた。それを確認すると視線をネネラの方へ戻し話の続きをする。
「その間俺とネネラで注意深く観察する。どうだ?何もしないよりかはだいぶ良いと思うが?」
「・・・・・・・・・」
ネネラの返事を待つ。
ネネラは覚悟を決めた力強い目でシンを見て
「分かったよ。私も行く」
と返答する。
「じゃあ早速・・・」
とエリーが意見を述べようとした時
キュー…
エリーの方からだった。
「・・・・・」
エリーの顔が徐々に赤くなっていきシンは何となく音の正体が分かった
「そういえば、昼食がまだだったな・・・」
とシンがポツリと呟く。
ゲシッ!
顔が赤くなったエリーの右足の蹴りがシンの弁慶の泣き所へ炸裂する。
「・・・・・」
シンの足は「BBP」となっているため痛みが無いがエリーをダシにした事への反省の無言が漂っていた。
「・・・とりあえず何か食べてく?」
やや呆れながらネネラが「旅烏」食堂への催促を掛ける。
「うん!」
と無邪気に一番早く返事をするクク。パタパタと足音を立てながら階段を下りて食堂へと向かい残ったシン達も後に続いて行った。
昼食を終えネネラの案内の下に後ろから付いて行く。今は昼の1時か2時の時間帯なのだろうか町の通りは人で埋め尽くされていたのが、地面が見える位にまで減っていた。そのためなのか賑やかな雑音はやや抑えられていたように感じる。
「ここの曲がり角を曲がったとこにギルドが・・・」
ギルドの案内で最後の所であろう説明をしようとした時だった。
「ああ、こちらに居ましたか」
聞き覚えのある声だった。その声がする方へと後ろを振り向くシン一行。
「皆さん」
グルフの一件でニニラと共に生き残った帝国の騎士のリースだった。
「ああ、また会ったな」
気楽にあいさつするシンに対してネネラはリースの事を知らなかったのか警戒した態度で接した。
「シン、この人は?」
この様子を見ればどうやらここで初めて顔を合わせるようだ。
「リース。グルフの一件で・・・」
シンが名前と事の内容のさわりだけを話すと
「ああ、この人が・・・」
目の前にいる騎士の正体を知りネネラは納得し警戒を解いた。
「シンさん、そちらの方は?」
「ニニラの姉妹だよ」
「ああ、そうでしたか、道理で。・・・ところでニニラさんはどちらに?」
どうやらニニラを探していたようだった。だがシンは疑問に思った事を口にする。
「ニニラは最近帝国の兵士として入ったぞ?」
騎士と兵士。同じ軍属であるから普通は知っているはずだ。だが
「え、そうなのですか!?」
どうやらリースは知らなかったようなのか目を大きくし、声もそれに見合う位に大きく叫んだ。
「・・・ニニラを探していたのは?」
とネネラが疑惑の目で尋ねる。リースは皆の姿を見渡すような形で見て
「・・・丁度ここに居る皆さんにもお伝えしたい事がります。実はついさっき帝国からお触れが出てこの町から出る時に金貨1枚必要となったのです」
「「「!?」」」
「それどういう事?」
皆が驚き真っ先に言葉にして尋ねるネネラ。
「実は私にもよく分かりません。ニニラさんにもその事を伝えようとしていたのですが、本部へ戻って確認します。何か分かりましたら折り返し連絡しに参ります。では失礼します」
リースは何か急いでいるのか早口でそう言ってシン達と別れた。明らかに何か慌てているリースの様子を見てここにいる皆が動揺していた。そんな中シンは呟くように
「もしかしたら、この町にいる他所から来た人間を兵士に変えるために態と金貨1枚という額にしたのかもしれないな」
言った。するとシンの言葉を聞き驚くようにして
「どういう事?」
と真っ先にネネラはシンに尋ねる。
「一般人が金貨一枚という大金を払ってこの町から出られると思えるか?」
ネネラは考えるまでもなく
「ちょっときついよね・・・」
と即答した。
「つまり、金貨一枚というのはそう簡単に外へは出さず、一時的でも良いからここへ来た傭兵や冒険者を留まらせる為だろう」
「なるほどね。その間に洗脳って事・・・」
シンは頭を縦に振る。入国が定価で出国が金貨1枚と言うのはあまりにも不自然だ。シンの考えでは出国税の件により、より多くの金を稼ぐためにギルドへ赴き、仕事の依頼を探す。その時に何者かによって優秀な冒険者を兵士に変えているのであろう。そうなればさほど不自然さもない上、不審に思った仲間の冒険者は必ずギルドへ赴く。そしてその仲間も洗脳するといった具合に帝国兵に変える。これにより帝国の軍事力が上がる、といった事だろう。
「シンが言いたい事は大体わかったわ・・・。ところで・・・」
「?」
ネネラの目付きが鋭くなり、トーンが低い声でシンに訊ねる。
「リースの事をどう思う?」
ネネラはリースがあちら側の人間、或いは洗脳されているのではと考えシンに意見を述べた。シンは数秒程考え込むため黙り
「・・・多分洗脳されていない」
と答えを出す。それを聞いた態度が変わらないネネラは
「根拠は?」
と聞く。
「リースの様子から察するに最近のニニラの事を全く知らない様だし、俺達に金貨の件を伝えに来ないはず。そもそも、帝国の素晴らしさとやらを説いてこない所を見て多分洗脳や帝国の息がかかった人間ではない、というのが俺の見立てだ」
シンが「ニニラが最近帝国兵になった事」を言った時のリースの様子から考えれば、ニニラがリースに対しても帝国の兵士になる事を相談していない事になる。シンは少なくとも洗脳疑惑の件に関して、リースは無関係だと判断した。
「成程ね・・・」
ネネラは少し考え込む。
「分かった、シンの見立てに乗るよ」
「そうか・・・。だが、正直な所、帝国側の人間である事には変わりないから警戒は怠らないでほしい」
「うん・・・」
「「「・・・・・・・・」」」
ネネラがそう言うのに対しエリー以外のナーモ達は複雑な顔をする。エリー自身は相手がどこの組織に入って、どういう立場でいるのかをよく理解しているようだ。
「俺達の事を護ってくれて・・・」
「責任感強そうなのに」
ニックとシーナがそう呟くのに対しエリーは
「・・・それでも帝国側の人間である事には変わりない」
毅然とした態度で2人に言う。
「エリーの言う通りだ。リースがどんなに良い人間でも立場は帝国側の人間だ」
「「「・・・・・・・・」」」
お通夜の様な雰囲気になる皆。「あんないい人」が警戒対象として見なければならないのが精神的に大きくはなかったがショックはあった。
「・・・・・・・・」
そんな皆の様子を見たシンは
「・・・飽く迄もリース自身の本心がどうなのかが大切だからな。もし、敵側でないなら信用してももいいだろう」
今の皆の士気を挙げる為なのか、見ていられないという心境でなのかそう付け足すように皆に言った。
「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」
シンの言う通り飽く迄もリース自身の本心がどうなのか分からないから警戒を怠らない欲しいだけであって、敵ではない判断材料がそろえば警戒せず前の様に気楽に話しても問題は無い。
まだ分からない。
だから敵と決まったわけでは無い。
皆は何となくではあるがシンの言葉をそう理解し皆の顔はある程度ホッとしたのか少し明るくなり普段に近いに顔になった。
「なら、ギルドへ向かおうか」
シンは皆の様子を確認し、改めて皆に尋ねる。
「うん」
「はい」
「はい!」
「「「うん!」」」
ニック、シーナ、ナーモ、ククとココは肯定の返事が返ってくる。エリーは返事こそはしなかったが頭は縦に振り、この場に居る全員はギルドへ赴いた。