44.豹変
久々に思い付きで書きましたので何かおかしな所があるかと思います。
「いやーあんな服は初めて見ました」
青空の下でニコニコと満足そうな顔をした商人らしき男がシンに語り掛けてくる。シン達がやってきたのは服屋兼防具屋の店だった。つまりこの男はこの店の店主だ。シン以外の皆の服、寒色系のジャージを譲る代わりにこの店で手に入る服と装備品を割引、或いは無料で戴く事になっていた。
因みに馬車から手に入った本や杖は武器屋や魔法屋にて売るつもりだ。
つまり現時点では武器は以前のボロボロの物のままだ。
「そうか、その服売れるといいんだが」
それを聞いた店主は明るい声で答える。
「売れますよ。何せ見た事ない生地の上に気心地が良いものですので。ただ、大きさが小さいですし数が少ないですのでご子息持ちの貴族相手じゃないとねぇ・・・」
シンはこの世界の貴族の姿を想像した。煌びやかな中世ヨーロッパ風の貴族の少年、少女から急に寒色系のジャージ姿になった所まで。
(ダメだ、急に貧相になる・・・)
煌びやかな格好から急に貧相な格好になったイメージが出来てしまい少し呆れてしまうシン。そんな様子のシンに店主は声を掛けた。
「どうかなさいましたか?」
「いや別に・・・」
店の主人とそんなやり取りをしていると
「シン兄」
と後ろの方で声がした。声の主は後ろを振り返るまでも無い良く知った人物。エリーだった。シンは声がする方へ向く。
「着心地の方はどうだ?」
と皆に聞く。
「・・・大丈夫だよ」
「ああ、悪くない」
シンの瞳に映る皆の姿は以前のような寒色系のジャージ姿ではなくRPG等で出てきそうな冒険者や魔術師の格好だった。
先に声を掛けてきたエリーは良く言えばシンプルな悪く言えば素気ない群青色のローブに、以前履いていたスポーツサンダルだった。片手に以前から使っていた杖を持っていたため様になってはいた。
片方の手にSFに登場するレーザーの様な剣を出現させる武器とローブが淡い茶色であれば間違いなく某SF映画に登場する英雄たちを思い浮かべるだろう。
可愛さのかけらもない素気ない格好にシンは取敢えず自分が考えている魔術師としてのイメージを参考に
「俺はこの世界の魔術師の事は知らないが様になっていると思う」
と言った。すると
「でしょ・・・?」
エリーにしては珍しくドヤ顔する。どうやら魔術師としてのイメージを持ってこの服を選んだようだ。可愛さはあまりないが。
「だが服はそれじゃないとダメなのか?」
「うん、付与があるのはこれしか無いから」
「あ~そうか・・・」
詳しく聞けばエリーのローブには体力をカバーするための魔法が付与されていたようだ。確かに皆と比べて運動する時間よりも魔法を学ぶ方に時間をかけたエリーにとっては必要な物だ。選択は良い方だ。
次に声を掛けてきたナーモは髪と同じような赤いシャツの上にはベストの様な皮の鎧を着ていた。群青色のズボンと高さが脛の真ん中までの皮のブーツを履いていた。
皮鎧は良いとしてもシャツやズボンの色は流石に派手ではと思ったシンは
「少し派手じゃないか?」
と言った。ナーモは
「そうかな?」
と呟くように言って自分の格好をもう一度確認するかのように下や後ろを見まわしていた。すると
「シン兄、どう?」
と声を掛けてきたのはシーナだった。
シーナは薄いシャツを着ており、鎧はナーモと同じくベストの様な皮の鎧を上から着ていた。ズボンは白く、太腿まで長い皮のブーツを履いていた。
「シーナも少し派手な方だが、機能性は良さそうだな」
ナーモ同様シャツとズボンの色が明るいため冒険者装備としては少し問題があると思った。
「あ~、やっぱりまだ派手だったかな・・・?」
シーナ自身は一応気を付けてはいたがシンに指摘され、ナーモと同様、自分の格好をもう一度確認するかのように下や後ろを見まわしていた。そんな様子のシーナにニックが
「やっぱりシーナ姉の方が派手じゃんか」
と服を買う前に言った事を蒸し返す様に言った。
「だってこれしかなかったんだもん」
シーナは少しむくれて、ニックは「ああ、やはり」と言わんばかりに呆れていた。
ニックは深緑のシャツにポケットが多い皮の鎧を上から着て、茶色に近いズボンに動きやすい様にブーツではなく靴を履いていた。冒険者の仕事の討伐の舞台となる場所の多くは森だ。周りに溶け込む様な色を選択をしポケットが多い皮の鎧を装備していた事にシンは
「ニックは良い選択だと思うぞ」
と短い批評の言葉を贈った。するとニックは嬉しそうにニカッと笑った。
「シン兄~」
「見て見て!」
「ほぅ?」
ククとココは3人の様にベストの様な皮の鎧こそ無かったが、森の中と想定してなのかニックと同じように深緑色のシャツに動きやすいかなり暗めの群青色のズボンと足首までのブーツを履いていた。
「いいセンスだな」
ちゃんと考えてなのかそれとも2人のセンスなのかは分からないが素直にシンは2人の服選びの事を褒めた。すると2人は
「「へへへ~」」
ニヘラァ、と笑っていた。
今までの貧相な寒色系のジャージからこの世界では最もらしい格好になった皆は満足そうだった。そんな皆の様子を見たシンは店主に
「これらをまとめて買う」
皆の服を買う事を切り出した。店主は当然
「毎度~!」
とにこやかな顔でお買い上げの返事をシン達に送った。
皆の服の値段はタダだった。何故ならこの世界では知らない素材でできた服を手に入れたため店主は皆の服を無料という事になった。しかし、元の値段は皆が来ている服と比べると遥かに安いものだ。
(あんな服でタダ、か・・・。貴族にでも売りつけても服の色合いで敬遠されないか?)
シンはあんな暗い色合いと貧相なイメージよって売れるのかどうか心配しつつ服屋を後にした。
シン達は武器と魔法に関する道具を探すために市場を歩いていた。シンを先頭に歩き後ろの方ではナーモ達が喋りながら歩いていた。ナーモとニックが一番後ろに居て、前2人にはシーナとエリーが、更にその前にはククとココが歩いていた。
こういった形で歩いていたのは、はぐれない様にナーモとシーナが考えた方法だった。その為なのか好奇心旺盛な時期を迎えているククとココのキョロキョロと目移りが多いものの、はぐれると言った事にはならなかった。
そう言う余裕があったのかこれから買う物についての事を皆で話していた。
「俺は取敢えず長剣にするけど・・・シーナは?」
シーナは2秒ほど「ん~」と考え込み
「私は・・・取敢えず店で見てから考えようかな、と・・・」
と答えた。
「ふ~ん・・・まぁ、見てからでも遅くはないよな。ニックとエリ-は?」
ナーモは何気なく聞いただけだったのでどうこう言うつもりもなく当たり障りのない返答して、今度はニックとエリーに聞いてみた。
「俺は断然弓矢とナイフ!」
「私も断然、杖・・・!」
漫画で例えれば2人の背景に「バーン」と言う単語がでかでかと表示される位の堂々とした態度で言い切った。そんな2人の雰囲気に押されたのかややたじろぐナーモ。
「そ、そうか・・・。2人・・・ククとココは?」
「「見て決める!」」
ニックとエリーの影響なのか、真似をしているのかこの2人の背景に「バーン」と言う単語がでかでかと表示される位の堂々とした態度で言い切った。
「そ、そうか・・・。良いのがあるといいな・・・」
先程の様にそんな2人の雰囲気に押されたのか、「またもや」と言うのか、更にたじろぐナーモ。
そんなワイワイとこれから買うものを話している皆。そんな中ニックが気になっていた事をシンに聞いてみた。
「そう言えばシン兄って、何の武器を買うの?」
「俺の?」
「そう」
シンには「BBP」と「銃器」がある。しかし、このどちらも活用すれば相当目立つ。なるべくなら普通の人間のふりでいきたい。つまり原始的に近い「近接武器」が必要だ。手に入れるにしてもいつでも使える「ショップ」がある。それを活用すればいい。だが、今の今まで「BBP」と「銃器」に頼っていた。また格闘術や武術を高める事だけにしか考えていなかった。どんな近接武器を買えばいいのかさっぱり分からなかった。
「・・・・・・・・・」
シンは皆を見る。
「俺も・・・」
クルっと身体ごとを皆の方へ振り向き
「見てから決めるよ・・・」
静かに呟くように言った。
「そ、そう?」
シンのそんな様子にナーモはどう反応したらいいのか分からない様子だった。
(取敢えず今は皆の武器をどうするかについてから考えよう)
シンはそう思い、取敢えず近接武器に関しては後回しにしたのだ。すると昨日ぶりの声がした。
「あ、また会ったねぇ、アンタ達」
そう声を掛けて来たのはリースと同じくグリフに襲われていたニニラだった。シン達は声がする方へ見た。
「「「・・・・・」」」
シン達は驚いていた。それもそのはず着ていた格好はあの時の格好のように如何にも冒険者と言った格好ではなく、帝国軍の兵士の格好だった。シーナはニニラの服について聞いた。
「ニニラさん、帝国の・・・」
「ん?ああそうだよ。良いでしょ、これ」
今着ている兵士の格好をシン達に一回転クルリと回って見せびらかす。
「・・・何でまた帝国の軍人に?」
シンはここに居る皆が一番に思っている疑問をニニラへ投げかけた。
「帝国の素晴らしさが分かったからだよ!」
「・・・・・・・・・・・え?」
数秒置いてからシンはニニラに聞き返した。
「だからさ、帝国の素晴らしさが分かったんだって!」
「「「・・・・・」」」
皆は絶句しシンは淡々と尋ねる。
「・・・どう、言う風に分かったんだ?」
ニニラは恍惚とした表情に澱んだ目でイキイキとした口調で話し続ける。
「帝国は選ばれた人だけが帝国民になれるんだ。そうすれば明るい未来が待っているんだ!」
「「「・・・・・」」」
「アタシは帝国の人間として選ばれたんだよ。帝国で生まれてなくても兵士として戦えばこの国の人間とし
て認めてもらえる!」
皆は訳が分からなかった。つい昨日まではグリフの件のお礼とは言え皆に解体方法と技術を親切且つ丁寧に教えてくれた目の前にいるニニラがとても同一人物の様には見えなかった。しかも、
「そのためには帝国以外の劣等民族どもを潰してアタシ達帝国人が統べるようにしなきゃいけない。ねぇ、アンタ達も帝国で働いてみないかい?特にシン、アンタは特別待遇されそうな位の実力を持ってんだからさ」
と勧誘してきた。シンは冷静に
「・・・誘いは嬉しいが、俺達にはやりたい事がある。ところでちょっと聞きたい事がるんだが」
ニニラは勧誘を断れたことに対してなのか顔が歪むが
「・・・何?」
と一応は聞いてやると言ったやや傍若無人ぶりな態度で返答する。
「帝国の素晴らしさとやらが分かったのはいつ?」
ニニラはシンが帝国の良さがより深く知ろうしていると勝手に思い、手の平を反すように意気揚々に
「ああ、ついさっきギルドでだよ」
と答えた。
「・・・ギルドで?」
「うん」
そう一言答えただけだったがそれ以上深く聞こうとはせず
「そうか、教えてくれてありがとう。俺達は買い物の続きをしなければいけないからここで」
「・・・そう、まぁ仕様がないね。じゃあまたね」
「ああ」
買い物を優先にしてはいるが帝国の素晴らしさを知ろうとしているのだろうと判断したニニラは明るい返事をして足取りが軽いような歩きで人混みの中へと消えて行った・・・。
ニニラが見えなくなった所で
「シン兄、あれ・・・何・・・?」
ニニラのあまりの変貌ぶりにニックが声を震わせながらシンに尋ねる。
「・・・もしかしたら洗脳されてるかもしれないな」
「洗脳?」
「ああ」
シンは「ブレンドウォーズ」の「ストーリーモード」の内で出てきた話の中で洗脳された人々の場面を思い出しこれではないかと推察する。
「でもそうだとしたら何で・・・?」
「分からないが、俺達は何かとんでもない事に巻き込まれてるかもしれないな・・・」
シンはそう答える。エリーが
「・・・とんでもない事って?」
と不安げに聞く。
「それは分からない。ただ取敢えず戻った方が良さそうだ」
「え?」
「ネネラなら何か知ってるかもしれない。それに・・・」
「それに?」
自分達に身の危険が迫っている、と言えば皆の不安を矢鱈煽るだけ。今はそれを口にはせず
「・・・・・・・・・・・・・・・いや何でもない。戻ろう」
そう言って皆を連れて「旅烏」へと戻っていった。